田中くんはDクラス   作:白銀狐

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一学期
第0話 プロローグははじめまして


朝のバスは混むものだ。席に座る事が出来なければ、春の暖かな気温とバスが奏でる心地の良いリズムに誘われてしまい、強烈な眠気と戦わなければならなくなる。当然ながら席に座る者は睡魔との戦に負けても良い、言うなれば勇者なのだ。

 

いや、本当の勇者は違う。本当の勇者とはバスに乗り込んだ当初から誰よりも真っ先に睡魔との戦いを放棄した彼の事を指すのだろう。みながうつらうつらと睡魔に抗う中で、唯一彼だけが心地よさげに眠っている。

 

その勇者の名は田中(たなか)。これまで義務教育期間である小学校、中学校を自身のポリシーである『けだるげ』に捧げた、正にけだるげの王様なのである。しかし、残念ながらけだるげとは一人で成し得ない事もある。田中がこれまでの学校生活を無事生き延びれた理由は彼の隣に座る大柄の男の子のお陰である。

 

金髪のロングヘアであり、異様にデカく顔は怖い。初対面の子供に泣かれる確率実に脅威の99.9%(友人のTさんの供述)という経歴の猛者である。誰もが彼を恐れ、泣き叫ぶ。とても怖い人…

 

「お婆さん、良かったらこの席をどうぞ」

 

…というのは大きな間違いである。風船が飛んで泣いてる子供は取ってあげるし、重そうな荷物を持つお婆さんが入れば必ず助けに入る。世間では彼をギャップがあるとでも言うのだろう。現に今も辛そうに立っていたお婆さんを見つければ直ぐに自身の席を譲った。

…スーツを着た女性が何か言いかけたが、まぁ彼が席を譲る事で流されてしまった様だ。

 

 

彼のギャップは他にもある。趣味は掃除や料理で中でも甘いスイーツが大好物。そんな見た目ヤンキーの内面ママである彼の名は太田(おおた)。2人は小学校からの親友であった。

 

太田は常に田中と行動を共にしており、周囲からは田中専属のオカンや田中の命綱とさえ呼ばれる。

 

更に友人Tはこう述べた。

 

『俺の身体は…イロンナコチガダルスギテ…太田無しでは生きていられない』

 

…何を隠そう田中がこれまで『けだるげ』として生きる事が出来たのは友人であり保護者でもある太田という存在が大きいのだった。

 

━━━━━━

 

「よし、無事に着けたようだな」

 

田中を肩に担ぎながらバスを降りた太田は眼の前に見える立派な門を前にそう呟く。実は元々乗る予定であったバスを田中の寝坊というハプニングで乗り過ごしてしまっていたのだ。そんなわけで内心では間に合うのかとドキドキであった太田。

 

やれやれ…まだ始まってすらいないというのにコレだ。先が思いやられる。

 

内心で自虐しつつも、後ろが詰まらない様に道を開けた。良くも悪くも太田は目立ってしまう。九割田中を担いでいる所為でもあるが…

そんな事を考えていると不意に声がした。

 

「あの、ちょっといいかな?」

 

声がした方向を向くが、周囲には誰も見当たらなかった。暫く辺りをキョロキョロしていると再び声がする。

 

「あ、あの!下です!」

 

声の通りに下を向いた太田の前には見知らぬ、淡いブランドヘアの小さな少女が居た。少女は見るもの全てを癒す天使の様な笑顔で太田をジッと見つめる。少し頬がピンク色に染まっていて全世界の男が虜になると言っても過言では無い程に可愛い容姿をしていた。

 

「あ、あぁ…すまない。気が付かなかった」

 

「あ〜よかった。てっきりこのまま気が付かれないかと焦っちゃったよ」

 

テヘッと舌を出した少女に太田の心は打ち抜かれた。それもその筈である。太田はその怖い容姿からこれまで初対面の女の子とまともな会話が出来た試しが無かった。しかしこの子はどうだ。初対面というのに笑顔でこちらに話しかけて来る。経験のない太田にはそれを防ぐ装備は持っていなかった。

 

「私櫛田桔梗(くしだききょう)って言います。同じ1年生だよね?」

 

「あぁ。同じ1年であっているぞ。俺は太田だ、よろしく櫛田」

 

軽く自己紹介を済ませた太田達は早速本題に入った。

 

「さっきバスで席を譲ってたでしょ、あれ凄い事だなって思ってね。勇気のいる事だと思う」

 

「なに、困っている人が居れば助けるのは当たり前だ」

 

そう言って大きく胸を張ろうとする太田だったが、現状田中を担いでいる為に大きく動くとバランスが崩れてしまう。なので出来るだけ最小限で胸を張った。

 

「それを言える事が凄いよ〜。ところでさっきから気になってたんだけど、その肩の人は…?」

 

「あぁ。こいつは田中。同じ中学の同級生でな。所構わず寝てしまう癖があるんだ」

 

そう言う太田に櫛田は受け答えに困ったのか、若干気まずそうな顔をしながら頬を引きつらせて笑った。その様子から田中と太田は櫛田の常識では図れない先に居たみたいだった。それを何となく察したのか太田も櫛田も少しの間沈黙を得て会話を終わらす。

 

「…それじゃ、そろそろ私行くね。同じクラスになれるといいね太田君」

 

「そうだな」

 

そうして太田との会話を切り上げた櫛田はまるで風のようにその場から消え去った。その様子を見て暫く動けないでいた太田もそれに続く様に田中を肩に担いだまま門に入った。

 

 

 

高度育成高等学校とは日本政府が管理、運営をする未来の日本を支える為の人材を育成する全国屈指の名門校である。その中でも最も有名なのが希望する進学、就職先にほぼ100%応えるという異例過ぎる特徴。

 

その代わりに3年間外部との接触が断たれてしまうが、敷地内は60万米坪を超える土地で出来ており、校舎以外にもデパートやその他多種多様な施設が存在している為に生活で困る事はほぼ無い。

 

 

 

 

そんな特殊な学校にやって来た二人の男子生徒、田中と太田は早速と言うべきか非常に目立っていた。

 

何故なら正門からここ、1年Dクラスまで来るのに太田が眠っている田中を担いで来たからだ。いくら初対面であっても行き交う人々の中に人を担いでいる者が居たら誰もが振り返って見てしまうだろう。しかし本人達はそれらに一切気が付かない。それは過去の中学校生活で慣れてしまっているからなのだろうか。

 

そんな訳で入学早々、初っ端から目立ちまくる二人は平穏に学校生活を遅れるのだろうかと疑問に思うが、田中くんのけだるげな様子を見る限り…なんとかなりそうではある。

取り敢えず、アンケートします

  • のんびり行くべき
  • シリアス多めで行くべき
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