田中くんはDクラス   作:白銀狐

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第4話 初めての食堂とハプニング

◆ 食堂

 

 昼休みに入った事で、田中と太田は腹の虫を鳴り止ませる為に食堂を訪れていた。

 

「すごい人だね」

 

そう言う田中と同感な太田は入り口付近で詰まらない為にと綺麗に列を成して並ぶ生徒達の数を見て驚く。この学校の食堂は食券制である為に列に並んで券を買ってからの注文になる。恐らく今日は初日という事もあって一年生が多いのだろう。見たところ制服がピカピカな者達が多い。

 

「取り敢えず並ぼうか。このままじゃ昼休みが先に終わっちゃいそうだ」

 

田中と太田は少なそうな列に並び、奥に見えるメニューで何にするかを話し合った。列は意外にもスムーズに進み、5分もしないうちに二人の番になった。ある程度どれにしようかと絞れていた2人は結構あるメニューの中から目当てのものを選択した。

 

「これにしよう」

「これかな」

 

券売機から出てきた食券を取って食堂のおばちゃんが居る場所に渡す。するとものの数分で二人の頼んだメニューがやって来た。流石国の運営する学校だ。授業以外でも実に充実している。

 

「取り敢えず席に座ろうか。…あそこが空いてるみたいだぞ」

 

そうして太田と田中は無事に席を確保できた。互いに向き合う形となってしまったが、座れた事は幸いだ。一息ついた太田は周囲を見回せば、オープンテラスもあってそちらの方が空いているようだった。やはり学食と言えども国一番となればお洒落な場所もあると言うことか。

 

そんな事を考えていると、互いのメニューが視界に入った。太田の目の前には綺麗な形のふっくらオムレツと小さなトマトスープが付いてある洋食が並び、対する田中の前にはご飯と味噌汁、そして様々な山菜を炒めたであろう定食という和食があった。

 

太田はふっくらとしたオムレツを見て食欲が湧き上がるのを感じる。

 

「美味しそうだな。これが五百円もしないだなんて驚きだ」

 

目の前にあるオムレツは普通の食事と変わらない量である筈なのに驚きの値段価格。一口食べれば卵のふわふわ食感が口全体に広がり、更には中に敷き詰められた玉葱などの野菜が程よい甘みとなって噛むたびに味が深まる。

 

「これは…旨いな!」

 

 たかが学生食堂だとあなどる事なかれ。と言われている様な気分になる。まさに完璧な配合のオムレツだった。続け様にトマトスープを味わう。一口、その瞬間に猛烈なトマトのイメージが弾けた。トマト農家さんが笑顔でこちらに手をふる情景が脳裏に過る。そして後から来るコンソメとクルトンの甘み。ゴロッとしたじゃがいもは旨味が染み込んでいるのか、噛むたびに湧き出る。

 

「た、田中!これは物凄く旨いぞ」

 

少し興奮気味にそう言った太田は目の前に居る田中へ視線を向けた。どうやら田中も自身の定食を食べている所らしい。

 

「これは…確かに。…美味しい…ね」

 

田中は山盛りにされた山菜を口全体で味わっているようで、もぐもぐと口が動いていた。田中の舌にもあったようで、思わぬ美味にテンションが上がる。

 

「田中のは何が入ってるんだ?」

 

「俺あんま山菜とか興味ないしわかんない」

 

そう言って田中が食べたのは春の山菜代表とも言えるふきだ。一口食べれば分かる、おそらく一品一品を非常に丁寧に、そして素早く作り終えている。田中の山菜など一つ一つ大きさも切り方もしっかり均一になっていてその丁寧さが出ていた。

 

「それにしても、改めてこれが五百円もしないなんて本当に驚きだ」

 

太田は口に運ぶ度にそう思う。普通なら千円以上は絶対するレベルの美味しさだ。

 

「ほんとにね。俺のこれも0円なんて考えられないよ」

 

「何!?、0円だと?一体どういう事だ」

 

田中の発言に驚く太田。思わずブロッコリーを皿の上に落としてしまう

 

「メニューを決めてる時にふと目に入ってさ。沢山ある中で無料で食べられるご飯ってどんなのか気になって。つい怖いもの見たさで選んでみたの」

 

得意げに胸を張る田中を見て、太田は過去度重なる田中の謎行動、謎思考を思い出していた。時に雨に打たれ、時に虫歯を拒み…

そんな田中を見ていた太田は今回の田中の行動理念は何なのかを聞いてみる事にした。

 

「前から思っていた事なんだが、お前のそういう行動理念はどこから湧いてくるんだ?気だるげに命を賭けている割にはアグレッシブというか、チャレンジ精神盛んというか…」

 

太田の疑問に答えるべく、腕組みをして考え始めた田中。その様子から自分でもよく分かっていないらしい。

 

「俺はね太田、気だるげという目標を成す為には過程ではなく結果だと思うんだよ」

 

そう言って気だるげとは何かを語りだす。

 

「どんなに困難な道筋であっても、結果的に安らかで安定した空間が得られるなら頑張ろうと思えるでしょ?気だるげも一緒だと思うんだ。なんなら過程で得た過酷というスパイスはこの山菜みたいに最高の一品になり得ると思うんだ」

 

「うむ…言わんとしてることは何となく分かるんだが、それは地味に気だるげていると言わないような気もするぞ…」

 

というのも田中にとって気だるげとは人生の目標…またそれ以上の最終地点であるらしい。だがそれまでの道筋が過酷でとても気だるげとは言えない様なモノであるならば、果たして人生という長いスパンで見たときの気だるげは気だるげと言えるのだろうか。

 

気だるげとはやる気のないという意味もある。ならば気だるげの為にやる気を出す事はもやは本末転倒ではないのか。

 

太田の思考はどんどんと深く深く、落ちていく。そんな時、ふと大きな音がした。慌てて思考を戻して音の発生源を見ると、驚く事に田中が顔面を机に強打しているではないか。

 

「た、たなかぁ!大丈夫か!?」

 

周囲の生徒も驚きと困惑が混じった顔でこちらの様子を伺っている。力なく倒れた田中の肩を揺らす太田だが、残念ながら田中からの応答は無い。先程まで元気に会話していたのに、まさかこんな事態になるなんて…と驚く太田。その時ふと脳裏に原因が浮かぶ

 

「もしかして何かアレルギー的なモノが!?」

 

普段田中の食生活を管理しているのは田中妹(莉乃)だ。田中本人が知らないアレルギーや苦手なものがあるのかもしれない。

 

「もしそうだとすれば一大事だ…急いで救急車…いや、この場合は先生か。くそ、どうしてこんな事…に」

 

慌てふためく太田だったが、ふと視線が田中の口元を映した。そこにはツーンと垂れる一筋の涎…更に田中から小さく聞こえる スピィー スピィー という聞いたことのある音。

 

「た、なか…?」

 

辺りが騒然としている中、太田は察した。これまでと同じ田中の突発的な居眠りだと。段々と騒がしくなる周囲と反比例する様に、気持ちよさそうに涎を垂らしながら寝息を立てる友人を前にした太田はただ固まる事しか出来なかった。

 

 

◇ 放課後

 

 本日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、放課後となった。同級生達は初めての授業という事もあって緊張していたのか、午前中は静まり返る空気だったのに対して、午後からはその緊張も消えて少し談笑している声も聞こえた。

 

放課後になれば早速仲良くなった友人達と遊びの約束をしている者達が居る。それらを横目に帰りの支度をしていた太田だったが、太田の元にも何人かクラスメイトがやって来た。

 

「太田…だっけ?聞いたぜ、昼は色々あったみたいじゃん。何があったのさ」

 

そう言ったのはクラス一のお調子者だと噂される池だった。池は自己紹介の時から明るい性格を見せており、楽しそうな事があれば即座に話に入っている印象がある。真面目では無いが、とても面白い奴である。

 

「池か。いつの間に見てたんだ?残念ながらお前が好む様な話は無いぞ?ただ田中が体調不良で倒れただけだ」

 

本当は田中に必要な栄養素が不足している所に、栄養満点の山菜定食が胃に入り、それらを吸収しようと血液が胃に集中した結果、田中は猛烈な睡魔に襲われたというだけの事だった。

 

しかし全てを話すのも面倒だし、今日はこの後にスーパーのタイムセールが始まるのだ。田中を回収してお一人様一品までを手に入れなくてはならない。なのですまないな池…

 

とそんな事を池と話しているとその様子を見ていた櫛田もやって来た。

 

「私も見たよー、太田君が田中君を担いで保健室に入っていく所。最初は驚きすぎて見間違えかと思ったけど、他に人を担いでいる生徒が思い浮かばなくて…でも確認しようにも中々出てこないから後で聞こうと思ってたの」

 

なんと櫛田にも見られていたらしい。実を言えば保健室でも色々あったのだ。

 

田中を担いで保健室に入ると、そこには星乃宮(ほしのみや)先生という一年Bクラスの担任が居た。どうやら先生は保険の先生であるらしく、軽く事情と推測を交えて話した。すると田中が起きるまでベットを使って良いと言って貰えたのだ。

そうして田中を寝かせる事が出来た事までは良かった。

 

しかしその後に星乃宮先生からの質問攻めにあってしまい、結果的に昼休みギリギリまで話すという事態になったのだ。しかも何故か内容は恋愛ばかりで…そういった話に疎い太田はそれはもう大変だったのだ。

 

「と言う事があってな。良い人なんだが、俺は少し苦手かもしれない」

 

「へぇ…星乃宮先生って可愛いいって印象だったけど、そんな一面もあんのか」

 

「それは意外だねぇ」

 

池と櫛田はそれぞれ楽しそうに会話している。時折池が櫛田に話を降って盛り上がるのを見るなどしている。その様子を見て、最初こそ避けられていると思っていた太田だが、改めて池や櫛田などクラスメイトと少しずつ関われる様になっていると思えば杞憂であったと感じるのだった。

 

何処か温かい気持ちになっている太田だったが、ふと時計を見れば既に終わってから30分以上経過している事に気付く。タイムセールまでのリミットが近い。

 

慌てて二人に別れを済ませた。太田の慌てようにまたもや疑問の表情をする二人だが、教室を出る時には手を振って太田を見送っている。太田が初めてクラスメイトと仲良くなれたと思える出来事だった。

 

 

 

 

 そうして少し満足気に教室から出た太田は既に夕日が廊下に差し込んでいるのを見て若干焦る。走らない程度のスピードで保健室まで向かった。しかし、保健室の前には予想外の人物が居た。

 

「…何をしているんですか、星乃宮先生」

 

保健室のドアに張り付く星乃宮先生を見て、驚く太田。まるでその様子は扉の奥に何かあって、それを覗き見ている…ような。

 

「!?…き、君は太田君。どうしたのかな?保健室に何か用でも?」

 

動揺しまくりの様子で扉から離れた先生を見て、太田は思考停止する。何故なら保健室の扉は少しだけ開いており、更に先生の手にはスマホが握られて居た。どうやら開いた隙間から何かを盗撮していたようだ。

 

「……」

 

無言で先生の右手を見る太田。そんな太田の視線に気が付いたのか先生も自身の右手に目をやる。するとみるみるうちに顔色が変わった。

 

「…い、いやだなぁ先生…盗撮なんてしてないよ?」

 

慌てて否定した為かスマホを持った状態でこちらに手を振る。するとそこにはバッチリと録画と表示された状態の画面で固まるスマホが握られていた。それに気がついた先生も言葉を失う。暫く互いに無言の時間が流れた。互いに気まずい空気が流れる。

 

「…先生、田中はまだ中に居ますか?」

 

太田は一旦先程の光景を見なかった事にし、田中の所在を聞く。既に太田は色々と考えるのを辞めていた。大事なのはタイムセールであり、盗撮など忘れるに限るのだ。田中では無いが、面倒事にはなるべく関わらない方が良い。

 

そう、ある意味先生にも気を使った太田のスルーだったが、星乃宮先生はそれに気付けないようで慌てて話を戻した。

 

「ち、違うんだよ!これは…そう、怪しい。怪しい人が居ないかと思って保健室の中を録画してただけで!」

 

慌てている為か更に墓穴を掘る星乃宮先生。そんな彼女にどう返事するべきかと悩む太田。そんな太田の無言は見る人によれば凄まじい圧であり、その圧を浴びた星乃宮先生は必死に話題を変えようと話を振る

 

「そ、そそうだ!確か太田君ってウチのクラスの宮野さんと仲いいよねー?前に彼女と話した時、君と田中君の話で盛り上がっちゃってねー?」

 

確かに宮野と星乃宮先生は気が合いそうだ。どちらも元気という点では引けを取らないレベル。しかし宮野は決して盗撮などしない。

 

「その時に田中君がケダルゲノシショウ?か何かだって聞いて、一度話を聞いてみたかったんだー!」

 

慌ててそう言う先生。しかし太田も詳しい訳ではないし、田中と宮野の師弟子関係も田中が破門している。残念だが先生の求めているものが何かは知らないが、太田には話せる事など何も無い。

 

その事を告げるも、何とかして誤解を解こうと慌てる。そんな無意味な抵抗で墓穴を掘る事しかしない先生を見て、太田はもはや口が開かなかった。見た目可愛いのに、とても残念だ。そう言いたくなるのも無理は無い。

 

しばらくそうして居ると、保健室の前で騒いでいたからか、職員室から茶柱先生がやって来た。茶柱先生は太田と星乃宮先生を見ると直ぐに状況を察したようだ。

 

「またか…」

 

そう言うと、溜息混じりに星乃宮先生の首根っこを掴んで連れさって行った。なんだか分からないが、星乃宮先生と茶柱先生は仲が良いという事が分かった太田。そうしてドナドナされる星乃宮先生を見ながら、太田は先程の事を忘れようと頭を振った。面倒な事にはなるべく関わらないのが一番なのだ。

 

そう結論付けて、保健室の扉を開く。中には誰も居ないようで田中の寝ている筈のベット周りだけカーテンが閉じていた。どうやらまだ田中は寝ているようだった。

 

先生は一体何を撮ったいたのか。と疑問が湧き出る太田だが、もう忘れる事にしたのだ。この疑問の霧が晴れる事は無いだろう。

 

「はぁ…田中、そろそろ帰るぞ」

 

色々な事があって疲れていた太田は溜息混じりにそう言って固く閉じられているカーテンを開いた。

 

「ひゃっ!?」

 

その瞬間、甲高い悲鳴にも似た声と共に驚く顔の見知った女子生徒が居たのだった。

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