ミュラーは焦っていた。
勇者であり、完全無欠としか言いようのない姉の異変。それはすなわち世界の存亡に係わる問題であった。彼女にもしものことがあれば、妹である自分は間違いなく責められる。それはいい。自分でも納得できる。だが、彼女がいなくなればこれまでのことが全て無駄になってしまう。それだけは嫌だった。
「お姉さま、大丈夫かな」
ぽつり、とミュラーは不安から呟く。視線の先にある窓からは、彼女の心の中とは正反対な清々しい朝日が入り込んでいる。いつもは温かく、心地よく感じる光。しかし彼女は自分が色褪せるような気がして、日の当たる場所から出た。落ち着かず、全てのことを悪く考えてしまう。心境は最悪だった。
自分で考えても何も分からず、ミュラーはドアの近くで立ったままのリーアを見る。先程から何かを考えているように沈黙を決め込んでいた彼女は、呟きからたっぷりの間を空けて答えた。
「……多分、問題ないはずよ。けど、そうね……」
まだ結論を出していないのか、その返答は歯切れが悪かった。じれったい気持ちで続きを待つと、リーアは一言。
「私達の知るルーフルはもういないわ」
あまりにもあっさりと言われたため、ミュラーは耳を疑った。勇者であり、家族であるルーフルがいなくなった。そう言われて信じられる筈がない。現にルーフルはこの先の部屋で賢者と話しているのだ。今はなにかのせいでおかしなことを言っているが、じきに治る筈。
「それは……嘘、だよね?」
「本当よ」
が、彼女はそんなミュラーの希望もきっぱりと否定する。彼女は背を向けたままで、どんな顔をしているか分からない。だが、声は落ち着き払っていた。
嘘を言っている様子はない。リーアとは長年の付き合いであるミュラーには分かった。そして同時に、確証もあるのだと理解した。否定の言葉が喉まで出かかっているが、口にすることはできない。彼女もどこか感じていたのだ。今のルーフルが、かつてのルーフルではないことを。
「記憶喪失。多分そんなことを言ってくると思うわ」
立ち尽くすミュラーへ追い打ちをかけるように続ける。
『嘘』。そう口にしかけミュラーは口を閉じる。その直後、前でドアが開いたのを目にし、彼女は出てきた人物へ真っ先に問いかけた。
○
「お姉さま、どうでしたか?」
賢者との話を終えて部屋から出ると、ミュラーさんが私へと近づいてきました。彼女は私の妹という話。私を心配するのは当然のこと……なのですが、何故だか物凄い違和感があります。ミュラーさんは私が部屋に入るまで、比較的のんびりしていました。それがたった数分でこうなるものなのでしょうか。
私は戸惑いながら、すがるような目をする彼女を前に考えます。
賢者さんは私にいくつかのアドバイスをしてくれました。一つ目は絶対にルーフルが自害したことを明かさないこと。二つ目は私の正体を明かさないこと。そして三つ目は記憶喪失だと言い張り余計なことは口にしないこと。それなりに難易度は高いですが、ただ単に私が余計なことを言わなければいいだけ。できなくはありません。
アドバイスに従うならばここは……。
「記憶喪失、という話でした。原因は分からないらしいのですが」
問題ない完璧な回答。なのですが、私が答えた瞬間その場の空気が固まりました。それは誰かの触れてはいけない話題を思い切り踏んづけたときの感覚に似ています。やってしまった。直感的に私は感じ、無意識にダメージを減らそうと笑顔を浮かべます。何故そんな空気になったか理由を考える余裕はまったくありませんでした。
「そう。それなら納得ね。目立った傷はないし、記憶喪失なら医者の私は判断できないもの」
暗い表情をしてしまうミュラーさんの代わりに返事をしてくれたのは、彼女の隣に立つリーアさんでした。冷静な口調で賢者さんの診断結果に頷いてくれます。
「それで、これからどうするかは予言してもらった?」
「いえ、まったく」
そんなことできるんですか、賢者さん。ただの物知りなおじさん程度にしか思っていなかったんですけど、聞いてくればよかったです。
「そう……」
首を横に振る私を見て、リーアさんが意外そうな顔をします。なにか予想していたようです。彼女は顎に手を当て考えこみました。暫しそうした後に彼女は口を開きます。
「じゃあ今まで通りというわけね」
今まで通り? これまでのルーフルがやっていたことを私がする、ということでしょうか。もしそうなら一人で戦いに挑むことになりますが……。
「今まで通りとは一体?」
それはできるだけ避けたい。勇者としての力が『あるかもしれない』という、大変頼りない現在の状況で単独行動は自殺行為です。慎重に答えなくては。
身構える私。リーアさんはそれを見てクスッと微笑みました。
「今まで通り、困った人を助けていくってこと。それが勇者の仕事なのよ」
あ、思ったよりまともです。自殺するレベルだから、もっと過酷なことを想像していましたが、割と楽そうじゃないですか。私はホッと安堵して構えを崩しました。
「とりあえず今は大きな問題はないし……冒険者ギルドに行きましょ。そこに行けば何かしら課題は見つかるわ」
ふむ。そこでお仕事を見つけるんですね。まっとうです。真っ当過ぎて逆に心配になります。主に自殺したルーフルのそこまでに至る経緯が。
「ギルドはすぐ近くだから変装して、ちゃっちゃと向かいましょう」
「はい。――あ」
早速そのギルドに向かおうと足を動かす彼女。私はそれについていこうとし――動こうとしないミュラーさんに気付きました。彼女は暗い表情をしたまま俯いています。危ないところでした。あのまま歩いていたら彼女は何十分もここにいたかもしれません。
「ミュラーさん。ギルドに向かうそうですよ」
「えっ?」
ハッとした様子で顔を上げるミュラーさん。彼女は私の顔を見て一瞬安心したような顔をし、すぐにまたどんよりとしてしまいます。意味が分かりませんでした。
「うん、分かった。ありがとう、お姉さま」
彼女は会ったときのように私を姉と呼びます。それに私は頷いて応じるのですが……どことなく、彼女の言葉がぎこちなく思えました。
○
ギルドという場所は城を出て、少し通りを進んだ場所にありました。お城で服を着替え、変装を終えた私は現在、沢山の人がいるその建物の前に立っているのですが……。
「バレないんですね……本当に」
変装の効果に感嘆せざるを得ません。
私は確かに変装しました。真っ赤に汚れた服を脱ぎ、シャツとスカート、ブーツを身に付けその上にマントを羽織り……いかにも冒険者然としたファッションで身を固めました。しかしそれだけです。服を変えただけでここまで気付かれないものなのでしょうか。
「どうしたの?」
不可解な現象に私が考え込んでいると、隣にいたミュラーさんが声をかけてきます。歩いているうちに彼女の様子は改善し、今では笑顔を浮かべておりました。私はそれに感謝をしつつ、異常な変装効果について語りました。すると彼女は説明するよりも先に私の頭を指差しました。
「そこの髪飾り。それに変装の魔法がかかってるんだよ」
「はー、なるほど。変装するとはそのことですか」
魔力がある人にはすぐにバレるんだけどね、と感心する私へ彼女は微笑みます。つまりは万能ではないと。しかしすごい効果ですね……。親切に解説してくれた彼女からギルドへと視線を向けて、私は改めてその効果の高さを実感します。
冒険者ギルド、とリーアさんが呼んでいた場所は一目でそうなのだと分かる風景をしておりました。石造りの建物が並ぶ中で、このギルドは木造。ですが決して古臭くは見えず、二階建ての大きな建物はむしろ城に近い威厳らしきものを有していました。
扉はよく西部劇で見るようなウエスタンドア。人が絶えず行き来するその向こうには、若い男女の冒険者らしき方々の姿が見えます。何かいい匂いもします。お酒……それと、お肉が焼けているような食欲を刺激される匂いです。
「ふむ……」
私がこのようにドアの前で観察をしていても、出たり入ったりする冒険者の人は全く私に気が付きません。……いや、割とこっちを見てくる人もいますね。魔力持ってる人は思ったより多そうです。
「すぐバレそうな感じが」
「大丈夫よ。わざわざ騒ごうっていう人間自体少ないんだから」
尻込みを始めた私の背中を、リーアさんがついにしびれを切らせて押しました。騒ごうとする人間がすくない……とても納得できない話でした。もしそうなら、私が街に来たときのバカみたいな騒ぎはどう説明がつくのでしょうか。
「あんたが街に帰ったときは変装してなかったから、馬鹿が騒いだだけよ。それを身に付けておけば大体の人間は察するわよ」
「な、なるほど」
納得します。確かにこんな便利な魔法があるのに使わず堂々と街に入れば、目立ちたがってると思われてもしかたないですよね。その逆も然りで、私が変装の魔法を使っているならば目立ちたくないと思っている、ということ。常識を持つ人間ならばそこは察してくれるでしょう。
しっかりギルドに突入しないよう踏ん張りながら、私は考えます。小柄な彼女の力では抵抗する私を押すことはできないようで、リーアさんがどんなに呻き声を上げても、その位置から進むことはありませんでした。
「うーんっ……そ、それにっ、見つけようと意識、しなきゃ――っ! 見つからないわよ……はぁ、はぁ。ほら、行くわよ」
すっかりくたびれです。肩で息をする彼女は私の背中から手を離しギルドの中へと入っていきました。
「……まぁ、そういうことだから、心配する必要はないんじゃないかな」
諦めて先に行ってしまったリーアさんを見送り、ミュラーさんが苦笑します。
「そうですね。行ってみます」
ここまで来てバレなかったんですし大丈夫でしょう。前向きに考えて、私は扉を押して通り抜けます。冒険者ギルドの中は外から眺めた通り、様々な人がいて一際活気に溢れていました。どうやらこのギルド、仕事の仲介の他に、レストラン、酒場の役割を持っているようです。人が大勢いるのも納得でした。
中心部分には幾つものテーブル。その奥にスーツのような制服らしきものを身に付けた女性のいるカウンター。隣の区切られたスペースでは白いコックさんの服と帽子をかぶった男性が、調理器具の並ぶ中でなにやら料理のようなものを作っております。
割とカオスでした。ゲームセンターに負けず劣らずな喧しさです。
「なんですかここ」
「あーすごいよね……私も最初は驚いたよ」
どうやら私のリアクションはこの世界の住人の方々も一度はするらしいです。
「確かここのオーナーが馬鹿なのよ。仕事の仲介しながらご飯食べて酒呑みたいとか言って」
リーアさんがうんざりした顔で言います。仕事をしながら食事ですか……気持ちは分からなくはないですが、私はどちらかと言えば一方を集中して行いたい派ですから、賛同はできませんね。
「失礼な。効率を優先しているだけだよ」
会話が聞こえていたのか、どこからか反論の声が上がります。見てみると、階段の上から男性が降りてきていました。身体が細く長身なお兄さんです。真ん中で分けた茶色の髪はさらさらでボリュームもあり、それなりに若くは見えます。髭が生えていたりとしますが、健康的な体格と顔立ち、しゃきっとしたスーツ姿のお陰で気になりません。年齢は20後半くらいでしょうか。それなりに女性受けがよさそうな顔をしております。
「誰ですか?」
「おや……? この方は……勇者様か」
男性にストレートな問いをぶつける。するとさっそくバレました。目立つことをするからでしょうね。
「私の顔を忘れたのかね? いいでしょう、今度こそ覚えてくれたまえ。私の名は――」
「デニーさん、ルーフル記憶失くしたのよ」
「ああ、そうか。それなら覚えていなくとも――」
デニーと呼ばれた男性が固まりました。口を閉じ、彼はかけていた眼鏡の位置を直します。微妙な間を空けて、デニーさんは大きく後ろにのけ反りました。
「な、なんだってえええー!」
「うっさい!」
リーアさんのポーチが彼の腹を綺麗に殴打しました。
「騒いでみんなに知られたら大変なことになるじゃない」
「ごめんなさい……」
あの会話に反論して入ってきたということは、ここのオーナーなんですよね。子供に叩かれて膝をつくなんて、全然偉そうに見えないんですけど……。憐れみの視線を向ける私を見て、立ち上がったデニーさんはフッと目を細めました。
「では折角覚えさせた私の名前を忘れてしまったということか……悲しいものだ」
名前を……。きっと彼とルーフルの間には何か物語があったのでしょうね。たった三文字の名前くらい覚えろという話ですけど。
「最後まで覚えてなかったわよ。ディナーとか言ってたわ」
だから覚えろと。人が晩御飯になってます。
「まぁ、記憶喪失ならばいつか思い出すだろう。気楽にやることだ」
デニーさんの優しい言葉に、私の心はちくりと痛みました。決して思い出すことがない。それが分かっているからこそ、彼の期待や希望は私に重くのしかかります。
なんでしょうね。やれまできると言われた、不真面目な人間が感じるような……いや、あくまで例えで、私が不真面目なわけではありません。
「では今日は仕事の説明かね」
「はい、そうです」
ミュラーさんがしっかり敬語を使い、肯定します。礼儀正しい良い子です。
「そうかね。じゃあついてきたまえ」
話を聞いたときはどうかとも思いましたが、真面目に仕事をする方みたいです。彼は微笑み、ギルドの奥にあるカウンターへと向かっていきます。私達もそれについていきました。
「仕事が貰いたいときはここだ。ほら、頼むよファロくん」
カウンターの前に着くと、スーツ姿の女性へとデニーさんが声をかけました。くん付けで呼ばれたのに違和感を抱きましたが、単にデニーさんの癖みたいでした。どう見ても女性です。
白く短い髪、キリッとした中性的な顔立ち。背も高く、一見女性なのか男性なのか判断がつきにくいですが、黒のスーツの下からでも容易に大きいことが分かる胸で判別ができます。身体を見れば一瞬です。
「はい、了解しましたディナーさん」
この人も晩御飯になってました。
見た目の雰囲気に似合った落ち着いた声で言うと、彼女は小さく頭を下げて微笑を浮かべます。その綺麗さに私は思わず見とれてしまうのですが――ファロさんはすぐに表情を戻しました。営業スマイル。世の男性を勘違いさせる悪質サービスの一端を垣間見た気がします。
「数日前からここで働くことになりました、ファロ・フアールです。よろしくお願いします」
「新顔だ。まだ友達ができてないから――ま、まぁ、是非仲良くしてくれたまえ」
デニーさんがファロさんに思いっきりつねられてました。新人にもあんな対応されるんですね。
「よろしく。私はリーア。早速仕事をくれないかしら。この子勇者だから、できるだけ難しいのでいいわ」
受付のファロさん以上に事務的かもしれない短い挨拶で、リーアさんが本題をすっぱりと切り出します。さりげなく恐ろしいこと言ってますが……まぁ、私には力があるみたいですし、なんとかなるでしょう。きっと。
「勇者様――ですかっ?」
仕事の書類が挟んであるファイルをパラパラと捲っていたファロさんが、物凄い喰いつきを見せました。全てに興味なさげだった目が大きく見開かれ、若干興奮気味に私達三人を見ます。彼女はファイルを置くとカウンターを勢いよく飛び越えて――
「この方ですか! 流石勇者様! 見た目も麗しい!」
「あのー、ご、ごめんなさい違います」
ミュラーさんの手を握りました。
名乗ったリーアさんに行かないのは納得できます。しかし私との二択で迷わずミュラーさんを選ぶのはいかがなものでしょう。どう見ても彼女は勇者を護衛する騎士的な見た目なのに。
「ということは……」
申し訳なさそうに謝るミュラーさんから視線を外し、私を見るファロさん。彼女は私のことをしっかり下から上まで見ます。
「この印象に残らない方が……勇者様ですか?」
会って数分で印象に残らないなんて言われたのは初めてです。おそらく変装魔法のせいなのでしょうが、髪飾りとってやりましょうか。
「勇者様! あの時は私の村を救っていただき、ありがとうございました!」
自暴自棄になりかける私の手を、ファロさんが握ります。両手でしっかりと包みこむようにして、彼女は満面の笑みを浮かべました。
「い、いえ……」
記憶を失っている。そう言うこともできずに私は首を縦に振りました。私がしたことなのだと、だから彼女に感謝されているのだと、優越感に浸ったりすることはできません。あるのは自分がこの場にいるべきではないという場違い感と、記憶を失くしたと知り、彼女が絶望するのではという恐怖に近い想いのみ。私は頷くふりをして俯きました。
「……ファロくん、仕事をしてくれ」
「あ、そうでした。すみません」
彼女の落ち着きを取り戻した声が聞こえます。顔を上げれば、ファロさんはカウンターを上り、元の位置に戻っていました。
「では……これはどうでしょうか」
ファイルの中から彼女は一枚の紙を取り出します。ぴらっと音を立ててカウンターの上に置かれたそれには、なにやら小さな文字で色々なことが書かれていました。日本語とは全然違う文字ですが、何故だか私はそれをすらすらと読むことができました。
「なになに……『依頼書。魔の使い討伐。風車の村近郊で魔王の使いと思われる魔の使いが出没しています。危険な仕事であることが予想されるため、ギルドの信用した人物のみに紹介するようお願いします』、と」
いかんにもやばそうな仕事です。音読した瞬間分かりました。
「本当に難しいの持ってきたわね……他の冒険者にこの仕事紹介した?」
リーアさんが溜息を吐きます。やっぱり難しい仕事みたいです。
「一組のパーティーに紹介しました。しかし、帰ってこないのを考えると……」
「おだぶつか手こずってるか、ということね。ますます難しそうね」
「お姉さまも本調子じゃないみたいですし、私達でなんとかなるでしょうか」
考え込む二人。正直私は避けたいです。魔王が絡む以上、危険なのは目に見えてますし……私がルーフルの力を使えるかはまだ分かっていません。ですが、
「いいんじゃないんですか? 魔王関連なら勇者が行くべきですよ」
私はきっぱりと言いました。
魔王と戦うのが勇者ならば、この依頼は私が向かうべきです。駄目そうなら諦めることもできるでしょう。試せるだけ試してみたいと思います。
「あんた分かってるの? もし戦えませんとかなったら大変なことになるわよ」
「そ、そうだよっ。やっぱり簡単な仕事にした方が――」
暢気な返事に、さっきまで考えていた二人が揃って心配そうな目を私へと向けます。ミュラーさんはともかく、自分から難しいのと言っていたリーアさんがそんな顔をするなんて、よっぽどのことなんでしょうね。
「私は勇者です。大丈夫ですよ。記憶を失っても力を失ったわけではありません。やってみせます」
でも止める気はありません。私は再度力強く言い放ちました。
「しょうがないわね……」
諦めそうにない私に、やがてリーアさんは深く溜息を吐きました。そしてカウンターのファロさんへ尋ねます。
「依頼者は誰? とりあえず話を聞かないと」
「やるの? リーアさん」
「駄目だったら退けばいいわ。それに腐っても勇者だし、あんたも文句はないでしょ?」
「……うん」
頷くミュラーさん。別に仕事を受けることを反対していたわけではないようです。多分、二人とも私の身を心配してくれていたんですね。ならば腐っても勇者発言は見逃しておきましょう。
「決まったみたいですね。依頼者は風車の村の村長です。仕事を受けたと言えば話は通るはずです」
「頑張ってくれたまえ、勇者諸君」
ファロさん、デニーさんへ頷いて応じます。勇者としての初仕事。それを果たして、私は――
「私は……」