桜の花言葉は「精神美」「純潔」などがあるらしい。
そんな言葉が似合う人間はそうそういるまい。
少なくとも俺の交友関係は俺自身も含めてそういう人間がほとんどいない。
まず、外道共は論外だし、親族をはじめとして趣味狂い――趣味を優先しすぎて様々な一閃を超えている人――が多いのでそういう人間も除外される。
そう考えると、俺の周囲で当てはまるのは一人だけかもしれない。
◇
今更過ぎて、語るほどのことでもないかもしれないのだが。
俺と紅音の年齢は二歳差である。
決して離れすぎているとは言えない差ではある。
それこそ、高校一年生と三年生と言われれば、まあよくあるカップルでしかないわけだ。
何が言いたいのかと言えば、俺と紅音はそんなごく普通のありふれたカップルに……
「入学おめでとう紅音」
「はい、楽郎さんこれからは学校でもよろしくお願いします!」
俺と紅音が付き合い始めたのは紅音が中三の時。
そして今日は、紅音の高校の入学式。
会場は、俺の高校である。
そう、よりにもよって紅音は俺のいる学校へと進学してきたのだ。
まさかと思ったが、よくよく考えたら彼女は瑠美の友達なんだから、瑠美と同じ高校に行くのはそこまで不自然ではない。
そして瑠美もまた俺と同様家からあまり遠いところに進学したくないということで俺と同じ高校を選ぶわけで。
まあそもそも紅音いわく「楽郎さんと同じところがいいです!」だそうだが。
あんなキラキラした目で言われるとどうにも気恥ずかしい。
いや、嬉しいけどな。
「まったく、もう、なんというか私をほっぽり出していちゃいちゃするとは」
「よう、瑠美」
「ようとは何さ、一応私の関係者としてお兄ちゃんは今日ここにいるんだけど?」
確かに、入学式の間は生徒は登校禁止。
入学したての紅音に会えるのは瑠美のおかげではある。
「ひとつ訊きたいんだけど、父さんと母さんは?」
「お父さんは隠岐さんご夫婦と釣りの話してて、お母さんは……多分虫を探してる」
「あの人国内はもう捕り尽くしてるだろ……」
何というか、相変わらずである。
俺もさっきまでクソゲーオブザイヤーの情報観てたからあんまり人のこと言えないけど。
「いやまあ、流石にいくら何でもどっちを優先するかと言われたら悩むまでもないからな」
「はいはいこのバカップルが」
「えへへ……」
「別に褒められてはないけどな……」
恥ずかしそうに笑う紅音の頭をなでる。
昔は気恥ずかしさがあったが、最近はあまりなくなってきている。
ちょっと紅音の光属性に引っ張られているのかもしれない。
今度クソゲニウムで中和しよう。
最近、また幕末のイベントが開催される予定らしいんだよね。
なんとか紅音にはばれないようにやらないとな。
流石にライトサイドの住人である紅音を地獄すらも生ぬるい幕末に放り込むのは流石にアカン。
「えへへへへ」
ぶんぶんと紅音が尻尾を振る幻覚が見える。
どうしよう、俺の彼女、めちゃくちゃかわいい。
「あ、散ってますね」
「今年はちょうどいい時期に咲いてくれたよなあ」
温暖化で桜が入学式まで散るなんてことも珍しくなかったが、今年は偶然にも寒さが続き、さくらが入学式まで持ちこたえてくれた。
……まさかとは思うけど、紅音が入学するからとかじゃないよな?
なんたるリアルラック、恐るべし。
次ゲーム関係のイベント抽選があったら紅音に申し込んでもらうとしよう。
「綺麗ですね……」
「そうだなあ」
ちらりと、落ちてきた花びらを手のひらで受け止めて嬉しそうにしている彼女を見て、「お前みたいだな」という言葉が喉の奥でつかえるのを感じた。
フレーム単位で台詞を合わせるギャルゲーだって完璧にやりこんだはずなのに、こうして彼女と一緒にいると時折気恥ずかしくて言うべきこと、口にしたい言葉を出せない時がある。
「いや、俺には似合わないでしょ」
「そうですかね?」
別に、自分の性格が嫌いなわけじゃない。
物心ついてから十年以上、ずっとこんな感じなわけで。
今更染みついてきた外道節や楽しみを優先するスタイルを変えようとも思わない。
ただ、今この瞬間は。
紅音と二人でいる、時間だけは。
「桜は、紅音みたいな綺麗な子が似合うと思うよ」
「~~っ!」
堪えきれなくなったのか、顔を真っ赤にして、紅音が抱きついてきた。
ああうん、悪くないな。
こうやって、少しだけ似合わないことをするのも悪くない。
「……あのさ、私がいるの、忘れてない?」
「「はっ」」