良家出身の0さん   作:wanaza

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コメディに振りきってみた


テケテケ

カンカンカンカンカンカンと、踏み切りの警報音が鳴り響く。

辺りはすっかり暗くなっていた。この冬は寒さが厳しく、どれ程服を着込んでいても冷気が身体に伝わってくる。けれど、女はその寒さ以外の理由でぶるりと震えた。

 

「やっぱりここ、気味が悪いのよね……」

 

この踏み切りは、いわゆるホラースポットでもあるのだ。何でも、ここの踏み切りで亡くなった女の霊が夜な夜な歩き回っている、らしい。

 

「それが、本当なんて思わないけど……」

 

かさりと音がした。

思わず振り返る。そこにあったのは、ビニール袋だった。ほっと息をつく。良かった。それにしても、

 

「なんで街灯のひとつもないのかしら」

 

厳密には、あるのだがそれは寿命間近なものでずっとちかちかしているし、光源としては心もとない。

カンカンカンカンカンカンと、警告音はまだ鳴り響く。タイミングが悪く、反対方向からも電車が来るようだ。

この不気味な踏み切りに、もっと立ち止まらなければならないのか。赤い指示器の光さえも不気味に感じられる。

 

「あー、もうやめやめ!霊なんているわけないでしょ!」

 

大きな声を出して恐怖を払拭しようとする。タイミングよく、遮断機が上がった。女はさっさっとここを立ち去ろうと思い、電車が通過したことで見渡せるようになった向かい側に目を向け、

 

「ひっ」

 

声をあげた。

頼りない光源しかないこの場所なのに、髪の長い女性が一人うつ伏せに倒れているのが見えた。

 

「きゅ、救急車呼ばなきゃ」

 

鞄を探りつつ、駆け寄ろうとして異変に気づいた。

 

「あ……れ…………?」

 

さっき見たものがなくなっている。

到底動ける状態とは思えなかった女性のそれが、消えたのだ。

 

「な、なんで…………」

 

一体どう言うことだ。さっきのは幻覚だったのだろうか。

女は混乱した。だから、気づけなかった。

背後から、迫るそれに。

なにかが。

足に。

触れた。

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!」

 

必死で振り払う。同時に足元を目で見たので、それをしたのが先ほどの女の死体だとわかった。上半身だけのそれは顔を上げて、にたり、と笑う。

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

女はたまらずその場から駆け出した。悪夢なら今すぐ覚めたかった。

必死で逃げる。

けれど、距離が離れない。

てけり、てけり。

こんな時でなければ間抜けに思える音がする。

 

「こないで!」

 

声をあげる。足がとまる。

てけりてけり。

再度掴まれた。今度は振りほどけない。

 

ぶつりと絶望的な音がする。

女は、もう声をあげなかった。

 

「って言う話があるんだよ」

「そうか。遺言はそれでいいってことだな」

 

陽務楽郎は、不届きものを罰することに決めた。しょうもない話をしやがった罪だ。

 

「それは俺を殺すって意味か!?物騒すぎるだろ!」

「うっせえ。俺の貴重な睡眠時間を奪ったんだから当たり前だろうが」

 

昼休みとはすなわち睡眠時間である。人間における睡眠はすなわち生死に直結する重要な行為であるので、その時間を奪うことは生を阻害する行為に他ならないのだ。

 

「いや、その理屈はおかしい」

「ふむ、発言を認めよう」

「お前、昨日ゲームで徹夜したって言ってなかったか?」

「記憶にない、証拠がない、はい論破。つーことで、ピアス穴拡張な」

 

関係ない福耳が処された。

 

「ちょっと待てや!なんで俺を巻き込むんだよ!」

「くっ、俺のために犠牲になるなんて……雑ピ君の勇気は忘れない!」

「まてや!」

 

ギャーギャーやかましい愛の伝道師(笑)を無視して、問いかける。

 

「んで、なんで俺に訳の分からんホラー?の話をしたんだ?」

「あー、ホラーつうか都市伝説な」

「どっちも一緒だろ」

「まあ確かに。因みに名前はテケテケだぞ」

「へー、テケテケ……」

 

そういえば、数年前にやったクソゲーに出てきた気がしなくもない。

 

「おう、この話いろんなバリエーションあるんだけどよ」

「そうなのか」

「名前を呼んだやつのもとに、やってくるんだとよ」

「はぁ」

「つー訳で、最近なんでか斎賀さんと仲の良いお前は、せいぜい呪われろ!」

 

馬鹿なことを言ってる友人には、雑ピで頭突きしておいた。

 

 

それが、今日の昼だ。そして、今は放課後な訳だが、てけてけてけてけてけてけてけてけ!と間抜けな足音に追いかけられていた。

 

「あのくそやろう!明日覚えとけ!」

 

音の感じからして、昼間に聞いたテケテケで間違い無いだろう、多分。

陽はまだ沈んでいないので辺りは明るく、恐怖感というよりも笑いが込み上げてきそうだ。だが、執拗に楽郎の足を狙うそれは確実に捕まってはいけないことがわかる。

 

「えーと、対処法とかは……」

「ら、楽郎君まってください」

「うお!って、玲さん朝ぶりだね」

「そうですね」

 

隣を女友達の斎賀玲が並走してきた。

それなりに楽郎は本気で走っているのだが、彼女は頬が上気しているが息ひとつきれていない。単に身体能力の差だろう。

 

「あ、あの!この後、ロックロールに、よる予定なのですが」

「ごめん玲さん、今追いかけられてるから!」

 

テケテケ音は徐々に近づいてきている。楽郎の速度が落ちているのだ。

 

「す、すいません!」

「俺の方こそごめんね!」

「い、いえ!悪いのは」

 

彼女は、くるりと方向をかえた。そのまま上半身だけでこちらに向かってくる女の方に走り、とんっととんだ。

 

「これですから」

 

見事なかかと落とし。それが頭に突き刺さり、パンッと軽い音を立てて爆ぜた。それを確認して、彼女は残心をといた。

 

「良家すげえや…………」

 

楽郎は幾度も使った言葉を今日も吐いた。

そろそろ自分も習うべきな気がしてきた。

見上げた空は、ようやく暗くなりつつある。遠くで踏み切りの警告音が聞こえた気がした。

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