また、説明部分も結構穴だらけだと思いますので、なんでも許せる方以外はブラウザバックお願いします。
鬼は外、福は内。
かつては、実家で家族と豆まきをしたものだなと、男は昔を懐かしむ。
今はまだぎりぎり二月三日だ。社会人となり、独身の男にとっては、悲しいかな普通の平日とは何ら変わりもなく、仕事終わりに駆け込んだスーパーで恵方巻きが半額になっていたことで、ようやく気づいた次第だ。
気分だけでもとおもい、今晩の夕食は恵方巻きと炒り豆にすることにした。
「まだ明るいな」
普段は、自宅の方向的に横断歩道を渡らなければならないというだけの理由で素通りする神社であるが、今日はどうやら豆の奉納をするためか篝火がたかれている。
「…………お詣りしていくか」
意味はあるのかは分からないが、多分厄よけとかしてくれるだろう。知らないが。
深夜であるために信号機はとうに点滅を繰り返している。念のために左右を確認して、道路を横断しようとしたその時。
『ぶるるるっ──!』
「は?」
自動車ではない、音がした。
例えて言うなら、生き物の鳴き声のような。
男は思わず音が聞こえてきた方向に振り向き、
「ひっ!」
短く声をあげた。
電灯のわずかな光の下に見えたのは、四足の怪物。
一瞬馬のように思ったが違う。尋常の生き物に当然あるべき、首が、ない。
化け物がいななく。
近づいてくる。
「く、来るなぁぁぁぁ!」
男がそう叫んだときには、もう遅かった。
『次のニュースです。今朝、神社の境内で倒れている男性を発見したとの通報がありました。男性は複数箇所を骨折しており、警察は何者かに暴行をうけたとみて捜査の継続を──』
◆
「逢魔が刻って普通もうちょい暗くなった頃じゃねえのかよ!」
「か、彼らにであったときが、逢魔が刻ですから……」
午後十二時半。太陽は一日で最も高い位置から、こうこうと地面を照らしている。
陽務楽郎の思わずといった叫びに、同級生の斎賀玲は律儀にも答えてくれた。
全力で走る二人の背後から、首のない馬の化け物が追いすがる。
そういった類いに詳しいことがここ最近判明した良家出身の彼女によれば、あれは夜光さんという妖怪らしい。
「問答無用に、人を蹴りつけてきて、何がしたいんだこの馬」
「よ、妖怪なので……」
明確な理由は不明らしい。
今日は、学生にとって最も厳しい日こと、テスト二日目だった。なんとか、三科目を終わらせて、偶然教室の前で遭遇した彼女と下校していたところ、突然街中で聞こえるべきではない馬の嘶きのような音が聞こえたのだった。
そして、次の瞬間には楽郎の目の前に首のない馬がいて、
「破ァ!」
彼女が楽郎を蹴りつけようとした脚をつかみ、ぶん投げてくれたお陰で事なきを得たのだ。流石良家出身。
しかし、普通なら(普通ではない)そこで大体終わるのだが、夜光さんは無傷で立ち上がり、
「ら、楽郎君逃げましょう!」
「はい」
そう言うことになった。
「何か良い方法はないの?」
「えっと、確か夜光さんは……脱いだ草履を頭にのせてひれ伏したら、こちらに気づけなくなるという、特性があった……はずです」
「スニーカーでもいけるかな!?」
「多、多分……」
楽郎はスニーカーを、玲はローファーを頭にのっけた。非常にシュールな光景だし、第一今の今まで地面に触れていた部分を頭につけたくはないのだが、背に腹は変えられない。
果たして、夜光さんは。
『……………………』
二人を見失ったようで、ふいっと向きを変えた。
「た、助かった」
今の楽郎なら、真に迫った『怪物に襲われて、間一髪生還できた』ロールを披露できるだろう。もはや、ロールプレイではないが。
しかし、安堵しきっている楽郎とは裏腹に、彼女の顔は険しいままだった。
「どうしたの?」
「い、いえ、その夜光さんの逸話を思い出しまして」
いやな予感がする。
「…………オッケー、続けて」
「その、夜光さんが出現するのは、節分の夜か大晦日、庚申の日、あるいは百鬼夜行の日なのですが」
「今日って節分だっけ……?」
「残念ながら、庚申の日でもないです……」
変化はすぐだった。
まず、太陽が陰った。辺りが、月のない夜のように暗くなる。気温が大きく下がる。
ひたりひたり。
べたりべたり。
ずるずる。
からんからん。
多種多様な足音。共通するのは、現代では聞くことがないであろう音ばかりということだろうか。
楽郎は、咄嗟に彼女の手を引いて、近くの公園の木の陰に隠れた。
ひとつあしの傘が。
一つ目の小僧が。
幕末でよく見かける大八車が。
牛車が。
顔のある大きな車輪が。
どこか明るく愉快に列をなす。
声を出してはいけない。楽郎はそう思った。
現にこういうことに詳しい彼女は、目をつぶってピクリとも動かない。なんなら呼吸している気配もない。
(流石だなぁ)
楽郎もそれを見倣うことにした。
しかし、不運は起こるもので、
『NYAAAA』
「うおっ!」
「はっ!」
木の上にずっといたのか、黒猫が突然降ってきた。楽郎は驚愕で、彼女はまるでたった今意識が戻ったような、声を出してしまった。
(まずい!)
一切途切れることのなかった足音のマーチが、ピタリとやんだ。気づかれた。
(ど、どうすれば)
せめて、彼女だけでも、逃がさなければ。
すると、さっき空から降ってきて、状況が分かっていないのか彼女の足にじゃれついていた黒猫が。
『NA~n』
一声鳴いて。
光った。それはもうメラメラと。
そして、それが百鬼夜行へと突っ込んでいき。
『NAm』
パアンッと爆ぜた。猫(?)の周りの異形どもが。そして、本猫は何事もなかったかのように爆心地でクシクシと顔を洗っていた。
「は?」
お猫様すげえ。
「こ、これは!」
「知っているのか玲さん!」
「い、いえ。この子がニャンラクちゃんということしか」
「うん?」
なんかどっかで聞いたことのある名前だな。
翌日。
テストは無事に終わった。今日は待ち合わせをして、昨日の黒猫(多分)へのお礼のにゃおきゅーるを買いに行っていたのだ。
命の恩猫(推定)は、大変満足そうであらせられた。
「結局、あの黒猫はなんだったの?」
「す、推測なら」
楽郎は続きを促した。
「その、なんらかの化身ではないかと……」
「えっと?」
「あの、あくまでも推測なのですが。猫は古来より太陽と関わりが深いものとされます。そして、昨日のあの百鬼夜行は陰の気が、あの子は陽の気が非常に強かったんです。あれ程陽の気が強いのは、その生物の範疇を飛び出してしまうので、ひょっとすると仏様の生まれ変わりとかだったりするのではないかと……」
なるほど。
数多のクソゲーのお陰で、多少整合性がとれていない話であっても理解できるようになっていたので、取りあえずは納得した。
とにかく、すごい猫だったのだ。
そういえば、彼女はあの猫をニャンラクと読んでいた気がする。
「玲さん」
「は、はい?」
「にゃあ」
「 み。」