インフィニット・ストラトス~もしも彼が男性IS操縦者になったら~   作:カイナ

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英国淑女と日本武士

「ちょっと、よろしくて?」

 

 二時間目の休み時間。必読の参考書を電話帳と間違えて捨てた一夏が授業についていけず難儀していたり、対して柳韻はしっかり予習していたのか問題なく授業についていけていたりしていた事で一夏が余計に落ち込んだりする一幕があった後のこと。

 突然そんな声をかけてくる女性がおり、声をかけられた一夏は「ん?」と顔を上げた。声の主は煌めくように美しい金色の髪を縦ロールに巻いた、いかにもお嬢様な感じの女子だった。

 

「訊いてます? お返事は?」

 

「あ、ああ。訊いてるけど……なんの用件だ?」

 

 その相手がまなじりを吊り上げながら問い直し、一夏が呆けた声で頷いて用件を促す。すると彼女のまなじりがさらに吊り上がった。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

「そ、そりゃすまん。自己紹介はしてたんだろうけど……こっちも色々いっぱいいっぱいでさ……」

 

 そう言って視線を向けるのは、基本遠巻きにされているが興味の方が勝ったのか、だぼっとした制服の女子に変に懐かれてる柳韻と、その隣でおろおろしている箒の姿。

 無論柳韻の方が「いっぱいいっぱい」という理由である事は想像に難くなく、それは理解できるのか少女も曖昧な表情で頷いた。

 

「そ、そうですわね。まさか同い年の男どころか、あんなに年を取った人まで入ってくるとは……」

 

「加えて俺の幼馴染の父親なんだ……で、その幼馴染は隣の子」

 

「……心中お察しいたしますわ」

 

 妙に空気が重くなる。が、気を取り直すように少女がオホンオホンと咳払いを行った。

 

「ま、まあ、ならば仕方がないという事にしておいてあげましょう。私はセシリア・オルコット。イギリス代表候補生にして、今年度の入学首席ですわ」

 

「へー」

 

 入学首席、つまりトップ合格ということだろう。それは理解できて「すげーなー」くらいの感想を考える。だが一つ分からない事があり、一夏は右手を挙げた。発言前の挙手は基本である。

 

「あ、質問いいか?」

 

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何?」

 

 一夏の言葉に聞き耳を立てているクラス女子数名がずっこける。

 そこからセシリアが割と本気で怒ったように一夏に食って掛かったり、入試で唯一教官を倒したと自慢したら一夏も教官を倒したと言ってまた食って掛かったりが起きたりしていたらチャイムが鳴り始める。

 

「っ……また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 根が真面目なのか千冬が怖いのか、さっきまで怒っていたのが嘘のように逃げないようにと言い残して足早に席に戻るセシリア。

 

「……」

 

 その姿を柳韻は微動だにせず視線だけで見守っていた。

 

「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 授業開始のチャイムが鳴ると同時に教壇に千冬が立つ。余程重要な事なのだろう。真耶もノート片手に真剣な様子を見せていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないな」

 

 だがふと思い出したようにそう続けた。クラス代表者、まあ一言で言えば学級委員長のようなもの。先ほど言ったクラス対抗戦への出場の他、会議や委員会への出席などの雑務を行うと千冬は説明した。

 

「自薦他薦は問わん。立候補、推薦はないか?」

 

「はいっ! 織斑くんを推薦します!」

 

「えっ!?」

 

 千冬がそう促すと同時にクラスの女子の一人が一夏を推薦する。

 

「私もそれが良いと思います!」

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」

 

「お、俺!?」

 

 他の女子の賛同に千冬は候補として名前を挙げる。それに一夏は声を上げて立ち上がった。

 思い切り矢面に立たされた。その理由は「せっかくの男子だから」とか「彼ならきっとなんとかしてくれる」的な無責任や勝手な期待の表れといえるだろう。

 だがそれでも柳韻にそれは向かない。それは彼が期待されていないというわけではなく、単純に「お父さんくらいの年の人にそういうのお願いするの気が引けるし……」という遠慮が表れている結果である。

 

「ま、待ってくれ! 俺はそんなのやらない!」

 

「織斑、席に付け。邪魔だ。自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ……さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

 

 一夏はクラス代表、要は学級委員長的な面倒そうな役職を押し付けられてなるものかと拒否しようとするが千冬はそれを一蹴、他に立候補者や推薦者はいないかとクラスに問う。

 完全に一夏の意志を無視しており、一夏もおろおろしていた。なおそれでも自分の知り合いである箒や柳韻を巻き込もうとしない辺りに彼の良い人っぷりが表れていた。

 

「お待ちください!」

 

 その空気を切るような発言が教室内に響く。

 

「そのような選出など納得できません! 大体、男がクラス代表などいい恥さらしです! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 男が代表など恥さらし、という発言には多少むかっとくる一夏だが、上手くいけばこのまま自分がクラス代表になるのはうやむやに出来るかもしれないしと沈黙。

 

「クラス代表とは実力トップがなるのが必然。ならば代表候補生であり専用機持ちの実績もある私がクラス代表となるべきです! それを物珍しいなど、私はサーカスに極東の猿を見に来るためにここに来たわけではありませんのよ!」

 

 びくぅっと一夏が震える。「極東の猿」、それが自分を、さらに言えば男、捉えようによっては日本人を婉曲的に意味している事はいくら自分でも察せられる。

 だがそれはつまり()()()()()()()()という意味にも取れ、一夏は慌てて箒と千冬を交互に見る。

 

「「…………」」

 

 二人も真顔で硬直していた。セシリアはここまで一気にまくし立てて息が上がったのか、呼吸のため言葉は一旦止まっている。だがまだ興奮冷めやらぬ様子はうかがえ、このままではさらにまずい事になると一夏は判断。

 

(こ、こうなったらこっちから喧嘩売ってでもオルコットさんを止めなきゃ……)

 

 完全にセシリアと敵対する事になるが柳韻をこれ以上侮辱されるよりはマシだと判断した一夏は、上手い具合に自分にだけ矛先を向ける言葉選びを頭の中で検索開始。

 

「発言、よろしいだろうか?」

 

 そこに低く、重い声が入る。その声の主は篠ノ之柳韻。すぅ、と挙げた右手はそれだけでまるで天に向けて伸びる樹のような印象を与え、そこに合わせた声がヒートアップしたセシリアの言葉によって生まれた異様な緊張感に静けさを与えた。

 

「りゅ、柳韻先生――」

「織斑先生……発言をよろしいだろうか?」

「――は、はい」

 

 千冬もその静かな瞳で射抜かれれば何も言えず肯定するしか出来ず、了承を得たという柳韻は「では」と立ち上がってセシリアを見た。

 

「な、なんですの? 私は間違った事は――」

「オルコット嬢。その言い方はいけません、誤解を招きます」

「――……はぁ?

 

「え、柳韻先生?」

 

 柳韻の言葉にセシリアが呆けた声を上げ、一夏も困惑気味に彼を見る。と、柳韻は今度は一夏を見た。

 

「一夏君。上段の構えは知っているだろう?」

 

「は、はい!」

 

「あれは扱いがとても難しい。しかしただ格好が良いからと実力も伴わず、それを使っている。そんな目立つだけの者が剣道の団体戦で選ばれる。それでは常日頃真面目に剣道の修練をしている者は納得できまい」

 

「は、はい……」

 

 何故いきなりそんな話になるんだろうと困惑しつつも一夏は首肯。

 

「今の君はその上段の構えを使っている素人だ。無論、君にそのつもりはなかったのだとしてもだが」

 

「ん……まあ、そういう事になるのか……?」

 

 上段の構え。剣道では超攻撃的な構えというイメージとして知られるが、イメージ図を考えれば分かる通り面以外ががら空きになる上に上段特有の片手打ちは打突が難しく、また足さばきも一工夫いるようになる。

 それを付け焼刃でやっているだけの素人がただ物珍しくて目立つというだけで団体戦のレギュラーに選ばれるというのは、既に剣道から離れて久しい身である自分から見てもたしかに面白くはないだろう。と一夏はやや困惑気味ながら理解する。

 同じく剣道をしている箒や、剣道部員あるいは剣道に親しんでいるのだろう女子生徒も彼の言いたいことをなんとなく飲み込めているのかふむふむと頷いていた。

 

「オルコット嬢」

 

「は、はい?」

 

 次に柳韻はセシリアに話しかけた。

 

「私も長年剣の道を歩む身、日々の修練の重要性は分かっているつもりです。あいにくISに疎く、代表候補生という名の重みは掴みきれませんが。そこに至るまでにどれほどの努力を重ねたのか窺い知ることだけは出来るでしょう。その貴女がこの場で選ばれなかったという悔しさもお察しします」

 

「わ、分かっているようですね。そう、私は代表候補生として恥じない努力を重ねてきました。その証たる専用機もあります。それを物珍しいというだけで――」

「ですが。今の言い方ではいけません」

 

 柳韻が努力を認めてくれたとセシリアは得意気になって再び話し始めようとするが、柳韻はそれを静かに制する。

 

「貴女は己の実力に自信がある。ならばそれを堂々と発言すればよろしいのです、そこに()()()を侮辱する文言など必要はない」

 

「「あ……」」

 

 一夏とセシリアが同時に呟く。セシリアはヒートアップしていた中での己の失言に、一夏は上手い具合に「極東の猿」とは一夏個人を指しているのであって柳韻(男性)を、そして日本人を指しているわけではなかったのだという話に柳韻が持っていっているのだと気づいた。

 要するに「セシリアに失言を気づかせた上で、今回の言い争いは一夏とセシリアの二人だけの問題だ」と丸め込んだのだ。

 

「そうですわね。少々熱くなりすぎましたわ」

 

 セシリアもそう言い、深呼吸。ヒートアップしていた己の心を鎮め、一夏に向き直った。

 

「失礼いたしました、織斑一夏さん。淑女にあるまじき発言、お詫びいたします」

 

「いやいや。たしかに何も出来ないド素人が代表に選ばれるなんて、経験者からしたら面白くないよな。気にしないでくれ」

 

 セシリアが失言を謝罪し、一夏もそれを許す。これで今回の話は終わりだ。と二人は笑顔を見せ、柳韻も「では後は二人にお任せして」と発言を締め、着席する。

 

「では改めて。織斑一夏さん」

 

 するとセシリアが真っ直ぐに、そして真剣な表情で一夏を見た。

 

「貴方に決闘を申し込みます。イギリス代表候補生の名に懸け、その実力を以て私は、私がこのクラスの代表に相応しいのだと。貴方に、そしてこのクラスの皆様に証明いたします」

 

「その決闘、尋常に受けて立つ。話の流れとはいえこのクラスの代表に推薦された。今の俺の全力を以て、俺はその期待に応えてみせる」

 

 クラス代表の座を賭けての決闘という展開にクラス中が「おぉー」とざわめき、それを千冬がパンパンと手を打って鎮める。

 

「話はまとまったな。では一週間後の月曜日、放課後に第三アリーナで勝負を行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める!」

 

 決闘の日時もすぐさま決め、授業に入る。一夏も新たな目標が出来たと気合を入れて教科書を開くのだった。

 

 

 

 

 

 キュイーン、ガンガンガン、バチバチバチ。様々な音が研究所内に響く。

 様々な機械が動き、一つの機体が組み上がっていく。ハンガーにかけられた機体は「黒」、それも和風なイメージが先行し、まるで古い頃の日本で戦っていた鎧武者の纏っていた鎧をISに転用しているように思わせるものだった。

 

「あ、あの~……束様?」

 

「なにかなクーちゃん? 私今忙しくって……あ、コーヒーならそこに置いといてほしいな」

 

「い、いえ、あの……」

 

 目を瞑っているクロエはクールな口元を引きつかせながら主たる束を呼ぶも、束はそっちを向くことなく言葉を並べる。

 その手は機械を操縦するためのコンソールを目にもとまらぬスピードで叩きまくり、その目は様々な数値や記号や図が現れては消えていく空中ウィンドウから一瞬たりとも視線を外すことはない。

 

「……白式は、いいんですか?」

 

 クロエはそう言い、整備室の隅に顔を向ける。つい先日まで束が鋭意開発中だった「白」の機体、機体名『白式』。それはここ数日整備室の隅に放置され、束はこの「黒」の機体の開発に集中していた。

 ちなみに柳韻がIS適性を持っているというニュースを初めて見た束が噴き出したコーヒーが白式にかかって黒い水玉模様が点々と出来た前衛的なデザインも放置されていたので、変な染みになる前にクロエが綺麗に拭き取る羽目になっていたのは余談である。

 

「何言ってるのさクーちゃん。いっくんの機体よりもパパの機体の方が優先に決まってるじゃん」

 

 束がさらりとクロエの質問に答える。そう、この「黒」の機体は柳韻に送る専用機。束は柳韻がIS適性を持っていて、IS学園に入学したのだと知った日から急ピッチでこの機体の製作に取り掛かっていたのだ。その姿にクロエはふぅと息を吐く。

 

「束様は、お父様の事がとても大好きなのですね」

 

「…………」

 

 クロエの言葉を聞いた束が硬直。同時に機械達の動きもピタリと止まり、研究所内に静寂が走る。

 

「はあああぁぁぁぁっ!!??」

 

 そして束は真っ赤になった顔をクロエに向け、彼女の口から素っ頓狂な悲鳴が響くのだった。

 

「な、ななな何言ってるのかなクーちゃんは!? 私が、あんな、剣の事しか考えてないような頑固ジジイをだ、だだだ大好きだってー!?」

 

「ですが、白式よりも優先して開発を進めているとなると、そっちの方を先にお届けするものかと……」

 

「ちーがーいーまーすー! これはあーれーでーすー! そのー、ほら、あのジジイが専用機持ってるけど持ってるだけで何も出来ないっていうー、えー、屈辱を味わわせたいだーけーでーすー!!」

 

 クールにツッコミを入れるクロエに束は顔を真っ赤に、目をぐるぐる渦巻きにしてまくし立てる。

 ぎゃんぎゃんわんわんにゃーにゃーと言い訳にならぬ言葉をまくし立てていく束にクロエはふぅとため息をつくのだった。




《後書き》
 本作の束さんは超絶ツンデレファザコンとなっております。(挨拶)

 なんとか続きを書きました。そして本作最大の鬼門セシリアの登場……日本侮辱したらもう取り返しつかない(日本武士イメージの柳韻さんがマジギレしそう)ので、そこに行くまでに発言キャンセルさせて大事になる前に大人の余裕で丸め込むという荒業で事なきを得る事にしました。
 IS世界の社会情勢的に男性侮辱発言だけならまだギリギリ、それ言われた本人にセシリアが謝罪して相手も矛を収めるなら事なきを得られなくもない……はず……。
 あ、ちなみに柳韻が一夏を治める中で剣道に例えてましたけど、作者は剣道について全く詳しくありません。上段の構えが本当に難しいのかとかその辺もさっぱりです。なんとなく「でも面以外はがら空きになるし難しいんじゃないかな?大体本当に強いならもっと皆やってるはずだし」とかなトーシロのイメージです。

 しかしまあクラス代表決定戦をさせないというのも寂しいので、互いに互いの祖国を侮辱されての売り言葉に買い言葉での決闘ではなく、互いに「己の実力を示す」ために決闘という流れになりました。

 そして束さんサイド、柳韻先生に送られる専用機。その詳細はまだ不明です、というか僕がまだ考えきれていません。どうしよう……?

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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