インフィニット・ストラトス~もしも彼が男性IS操縦者になったら~   作:カイナ

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篠ノ之家だよ。全員集合!

 IS学園入学初日。混沌極まる自己紹介やイギリス代表候補生セシリア・オルコットと一夏のクラス代表の座を賭けた決闘が決まる等様々な事件が起きながら時間は過ぎ、ようやく放課後へと時間が移る。

 

「うう……」

 

 一夏は机の上でぐったりしていた。セシリアとの決闘というモチベーションアップの理由が出来たとはいえ、勉強が出来ていなかったという事に変わりはなく、結局ちんぷんかんぷんのままだったのだ。

 

「一夏君。日々のたゆまぬ修練こそが基本にして奥義、それは剣の道も学びの道も変わりはしない」

 

「はい……」

 

 柳韻の言葉に一夏は頷く。間違えて捨てた参考書は後で再発行されるとのこと、そして一週間で終わらせろという無茶振りが来ており、一夏はそれだけでややげんなりしていた。

 

(でも、柳韻先生の前で弱音なんて吐いてられないよな)

 

 同じく基礎知識なし(とはいえ事前学習用の参考書は読破しているらしく授業にはついていけていた)、さらにまさしく自分の娘と同じ年代の子供に混じって生徒として勉強する事となった柳韻だって大変なのに、六年ほど前に別れてから何も変わらない様子でいる柳韻がいるのに自分だけ弱音を吐いていられないと一夏は気合を入れ直して箒の方を向いた。

 

「箒、情けない事を言うけど。勉強を教えてくれ」

 

「えっ!?」

 

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。そして一夏の交友関係内においてISについて事前学習をしていると確信できるのは箒だけである。流石に今日初めて話したセシリアに勉強教えてくれと泣きつくほど一夏は恥知らず以前に失礼ではないようだった。

 しかしそれを突然言われた箒はびくりと身体を震わせ、チラチラと柳韻を見る。実は彼女も政府の意向でIS学園に半ば強制的に進路を決められた身。もちろん事前学習は済ませているものの、どちらかといえば剣道の方に向いていたためそこまで熱心に勉強していたわけではなかった。

 

(そ、そんな事お父さんに知られたら恥ずかしい……だ、だがせっかく一夏と一緒に勉強できるんだし……)

 

 むむむと考える箒。だがしかし考えてみれば柳韻が一緒に勉強に参加するわけでもなし、問題ないかと頷く。

 

「分かった。大船に乗ったつもりで任せておけ」

 

「おぉ、ありがとな箒! お礼に晩飯奢るからさ、頼んだぜ!」

 

 少なからず経験者から学ぶ事が出来ると無邪気に喜ぶ一夏と、実は若干自信がないのだがそれを表に出さないように努めてうむうむと満足そうに頷く箒。柳韻も己の実の娘とかつての剣の弟子たる少年を見て僅かに頬を緩めていた。

 

「織斑、柳韻せ……篠ノ之さん」

 

「あ、千冬姉ぇ。何か用……あでっ」

 

 そこに突然教室に入ってきた千冬が声をかけ、一夏が千冬姉ぇといつもの呼び方で返すと小さく悲鳴を上げる。一夏の頭を千冬がパーでは叩いたのだ。

 

「二人とも、今日から学生寮に入ってもらう。それを伝えに来た」

 

「え? 俺は一週間は自宅から通学するって話になってるって聞いたんだけどあだっ」

 

「教師には敬語を使え」

 

 再び頭をはたかれる一夏。ついでにアイコンタクトで「私だってここでは私が教師、柳韻先生が生徒ということで、けじめをつけて先生に必要以上に敬語を使わないよう気を遣っているんだ。お前もけじめをつけろ」と言い聞かせる。

 なお篠ノ之“さん”と呼び方はさん付けなのは同じ篠ノ之姓の箒と紛らわしいから呼び捨て()さん付け(柳韻)で区別するためだそうだ。

 

「お前達は事情が事情だからな。部屋割りを特別に変更した」

 

 それもそうだろう。なにせ「世界初の男性IS操縦者」、その身柄を欲しがる者は世界中にいるだろう。

 ならばそういった存在からの保護という役割もある学生寮に入れておく方が防犯的にも理に適っていた。

 

「言っておくが織斑と篠ノ之さんが同室だ」

 

「柳韻先生と!?」

 

「嫌なら女子と同室になるが、それでもいいか? ああ、そうなると篠ノ之さんは篠ノ之と同室だな。家族だし」

 

「柳韻先生! よろしくお願いします!!」

 

 実質選択肢がないに等しい選択肢を提示された一夏はすぐさま柳韻に向き合って最敬礼。

 剣の師であり父親的存在である柳韻と一緒に生活というのは緊張するものがあるが、それでも異性の他人――それもまだ気兼ねのない方の相手である箒という逃げ道は潰された――と一緒に生活させられる羽目になるよりはマシだろう。それは箒もなんとなく理解でき、苦笑しながらうんうんと頷いていた。

 

(……あれ? でもこれってつまり部屋で一夏と勉強する時には自然とお父さんも一緒にいる事に?)

 

 一夏と勉強するにあたって父親に自分の不出来さを隠せると思っていたのに、その計画がいきなり一部潰れた箒は顔を青くし、一夏との第一回勉強会より前に誤魔化せるくらいには自主勉強をしておかなければと強く決意したのだった。

 

「あ、でも荷物はどうすれ……どうしたらいいんですか?」

 

「一応最低限の着替えと携帯の充電器程度なら家から配送している。個人的に必要なものはその内外出許可が出るだろうからその時にでも取りに行け」

 

「あっはい」

 

 なおそんな箒の横でそんな事を織斑姉弟が話していたのは全くの余談である。

 さてそんな連絡事項と一夏と柳韻の部屋である1025号室の鍵を貰い、一夏、柳韻、箒は学生寮へと向かう。そして学生寮の玄関に入った時だった。

 

「「ん?」」

 

 フンフンと一夏と箒が鼻を鳴らす。なにやら甘い匂いが漂っている。どこか懐かしさを感じるその匂いは玄関から近くにある食堂の方から漂っており、二人は食堂の方に向かう。柳韻も後に続いた。

 

「あら、お帰りなさい。柳韻さん、箒ちゃん、一夏君」

 

「帰ったぞ」

「あ、ただいま戻りました」

「た、ただいま?」

 

 そこには割烹着を身に着けた女性が立っており、三人は彼女の言葉に三者三様の反応を見せる。食堂のテーブルには甘い匂いの元なのだろう大量のおはぎが100均で売っていそうなパックに一つずつ詰められて置かれていた。

 

「今、入学と入寮のお祝いにおはぎを配ってるの。ここで食べていくならお茶も淹れていくわよ?」

 

「では、ここでいただこう。いいかな?」

「「あ、はい」」

 

 なんか話についていけていない二人を導くように柳韻が促し、二人はすとんと食堂の席につく。それぞれ自分の分のおはぎを取って待機していると、ほかほかと湯気の立つ厚手のコップ――流石に湯のみはなかったらしい――を三つ、盆に乗せて件の女性が運んでくる。その中には淹れたてなのが分かる日本茶が注がれていた。

 

「はい、どうぞ」

 

「うむ」

「いただきます」

「なんだか懐かしいなぁ」

 

 女性に促されてお茶を取り、おはぎを食べる。優しくて甘い味が口の中に広がり、お茶を飲むと程よい苦味と混じり合ってなんとも言えない感動を覚え、一夏と箒は一緒にコップを置いてふうと穏やかな息を吐く。

 

「「じゃなくて!!!」」

 

 そして落ち着いたことでようやく事態を呑み込めた二人のツッコミが炸裂するのだった。

 

「お母さん!? こんなところで何をしているんですか!?」

「か、鏡おばさんお久しぶりです! でもなんでここに!?」

 

 箒と一夏の言葉に女性はうふふと穏やかに笑う。彼女は篠ノ之鏡、箒の言う通り箒の母、そして柳韻の妻である女性だ。

 

「柳韻さんがIS学園に入学する事になったでしょう? その時に交換条件として私をIS学園に連れてくるって交渉したらしいの。今はこの寮の用務員として働いてるのよ」

 

 うふふと穏やかに笑う鏡の姿に一夏と箒は呆けた顔を見せていた。

 

「ところで柳韻さん。学校はどうでした?」

 

「うむ。やはり知らぬ事が多いのは苦労する」

 

 そんなフリーズしている二人を横に、柳韻と鏡はほのぼのと会話している。その姿を見た一夏が「あっ」と声を上げた。

 

「せ、先生! 鏡おばさんがいるんなら俺と同室なんて言ってる場合じゃないですよ! 俺から千冬姉ぇに二人を同室にするようお願いしますから……箒、悪いけど最悪俺と同室になること覚悟しといてくれ!」

 

「え!? あ、いや、むしろ望むところなんだが……

 

 一夏が慌てて席を立ち、寮を飛び出そうと構える。今から千冬の所に直談判しに行くつもりなのだろう。一夏と同室になれるかもと真っ赤な顔になった箒には目もくれていない。

 

「待ちなさい、一夏君」

 

 しかしそんな慌てている一夏を柳韻は一言で止めていた。

 

「君の気持ちはありがたく受け取ろう。しかし私はここでは一生徒という身、過ぎた厚遇は周りからの不満を生むだけにすぎない」

 

「で、でも……」

 

 一夏も箒達篠ノ之家の事情はなんとなく理解している。束がISを開発した事でその家族である篠ノ之家が危険に晒されないようにという建前で一家離散。証人保護プログラムという小難しい事はよく分からないが要するに家族なのに全く会う事が出来なくなったという状態、それがようやく再会できたのなら可能な限り一緒にいるべきではないだろうか。

 そんな一夏の想いを柳韻は過ぎた厚遇として断った後、優しい眼差しを見せた。

 

「なに。今までは会いたくとも会えなかった。しかし今は違う、妻は私のすぐ側にいる。姿を見る事が出来、触れる事が出来、声を聞くことが出来る。それだけで充分だ」

 

「あらあら。あなたからの口説き文句なんて久しぶりですね」

 

「……口説いたつもりなどないのだが?」

 

「昔から変わりませんねぇ」

 

 むぅと唸り声を上げる柳韻とくすくすと笑う鏡。そんな二人の姿を見た一夏と箒の顔にも自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 さて、数日程時間を戻してみよう。それは鏡が用務員としてIS学園に雇われ、学生寮の寮長である千冬に挨拶をしに来た時のことである。

 

「久しぶりねぇ、千冬ちゃん。こんなに立派になっておばさんも嬉しいわ」

 

「お、お久しぶりです。鏡さん……ははは……」

 

 うふふと笑顔で再会を喜ぶ鏡に対して千冬は引きつった笑みで答える。寮長室の入り口を閉ざすように立つ千冬の背後に見える寮長室は多少ベッドが乱れたりテーブルが傾いている事を除けば綺麗な部屋になっていた。

 

「わ、私の部屋など見ても面白くなどないでしょう? 私だってもういい大人なんです。片づけるくらいしていますよ……ははは……」

 

 寮長室を覗く鏡の視線をガードするように千冬は動きながら、部屋はちゃんと片付いていると言う。

 

「で、では早速鏡さんのお部屋に案内しましょう」

 

「……」

 

 さあさあ早く行こうと急かすように言う千冬。まるで寮長室から遠ざけようとする彼女の姿に鏡はフッと微笑を見せた。

 

「え?」

 

 鏡の姿が消えた。千冬の目にはそう映る。いや、違う。

 

「しまっ――」

 

 素早く背後に振り返る。人が入れないように通せんぼをしていたはずの寮長室、その中に鏡が入り込んでいる。相手に動く気配を感じさせずに動き、相手の視界の外に移動する。相手からすればいきなり敵が視界から消えたように錯覚するような技術、篠ノ之流の体術によるものと考えられるそれを鏡は千冬(世界最強)相手に行ったのだ。

 そしてその彼女はきょろきょろと部屋の中を眺めまわすと迷うことなく部屋の最奥に置かれたクローゼットに向かい、心なしかドア部分が膨らんでいるそれに躊躇いなく手をかけた。

 

「か、鏡さん、待ってくださ――」

 

 まるで隠すように最奥に置いたのが裏目に出たか、入り口にいた千冬が駆けるが間に合わない。鏡がぐいっとクローゼットのドアを引いた。

 

どさどさどさっ

 

 クローゼットの中から雪崩のように落ちてくるのは皺だらけのスーツやワイシャツ、さらに缶ビールの空き缶もコンビニで買ったようなつまみの空き袋も同じくコンビニで買ったのか弁当の空き箱も一緒くたに入れられた分別のぶの字も出来ていないゴミ袋の山。

 千冬の身体が硬直、その顔は真っ青に染まっており、鏡はそんな千冬ににっこりと笑顔を向けた。

 

「片づけた?」

 

「あ、いや、これは、その……」

 

 にっこり笑顔の鏡と、あわわわわと声を震わせる千冬。完全にフリーズしている千冬を横に、鏡は妙に浮き上がっているベッドに歩み寄るとその下に手を突っ込んだ。

 手ごたえを感じ、掴んだそれを引きずり出す。クローゼットの中に隠しきれなかったゴミ袋をベッドの下に隠していたようだった。決定的な証拠を掴まれた千冬が観念したように膝をつき、鏡がその眼前に立つ。

 

「千冬ちゃん。“片づける”っていう言葉の意味から教えた方がいいのかしら?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい嘘ついてごめんなさい」

 

 笑顔と優しい声で告げる鏡と、自然と正座になってしゅーんと小さくなり謝罪の言葉を繰り返す千冬。

 世界最強をも越えるヒエラルキーがここに完成したのだった。

 

 

 

 

 

「おはぎ……ママのおはぎぃ……」

 

 篠ノ之束の研究所。相変わらず「黒」の機体の製作を続けている束は休憩中なのか研究所の床に突っ伏してじたばたしていた。その目からは涙が零れている。

 

「束様、お母様がIS学園の寮にいると知って大慌てでカメラ&ステルス機能付きドローンを飛ばしたのはもういいですけど……いい加減泣き止んでください」

 

「ママのおはぎが食べたいよぉ……」

 

 束は現行の装置では絶対に見つける事が出来ず、さらにISでもサーチに特化しなければ探し出せない最新鋭のステルス機能に望遠機能をつけたカメラを装備したドローンを母がいるというIS学園学生寮に飛ばしたのはいいが、そこで見たのは母が大量のおはぎ――IS学園入学生への祝いの品――を作っている光景。

 それによりすっかりホームシックを発症してしくしくめそめそと泣き続ける束にクロエは大きくため息をついたのだった。




《後書き》
 本作の束さんは超絶デレデレマザコンにもなっております。(挨拶)
 つまり原作からシスコン(箒)だし本作ではファザコンだしマザコンだし家族大好きですね……つまり、ファミコン(ファミリーコンプレックス)?

 それがなんで家族を捨てたか……IS関係で起きるドタバタに巻き込みたくなかったから敢えて家族に無関心なフリをしたとか?(訳:原作崩壊レベルの設定変更したのはいいけどそれによる影響や差異全然考えてません)

 それはさておき登場しました。篠ノ之家の母にして柳韻の妻、篠ノ之鏡さん。たしか箒の母親については名前すらも出てなかったはずなので、彼女に関しては名前も含めた全てが完全にオリジナルキャラになります。
 笑顔を絶やさない穏やかながら、時には千冬を圧倒、昔お世話になっていた恩があるとはいえ彼女ですら頭が上がらない女性をイメージしました。
 そんなこんなで(半分くらいオリジナルキャラだけど)篠ノ之家勢揃い(&束はドローンによる盗撮態勢)です。さてここからどう動かしていくか……。

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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