インフィニット・ストラトス~もしも彼が男性IS操縦者になったら~   作:カイナ

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クラス代表決定戦

 第三アリーナにて「白」が煌めく。それはまるで空を駆ける流星の如く。

 しかしそれに負けじと「青」が征く。それから放たれる閃光が白い流星を捉え――ようとしたのが突然広がった薄桃色の光の膜に遮られた。

 

「くっ」

 

 とはいえ直撃が避けられただけでその閃光の勢いに押されたのか白い流星――白式はたまらず動きを止めていた。

 

「流石だな……先生の時とは全然違うぜ」

 

「当然ですわ。これこそが私とブルー・ティアーズの真骨頂ですので」

 

「白」の機体――白式を駆る一夏のぼやきに「青」の機体――ブルー・ティアーズを駆るセシリアはふふっと笑って答え、すっと腕を振るうと彼女の周囲に三つの青いビットが集合・停止する。

 あれがブルー・ティアーズに搭載された自律機動兵器BT(ブルー・ティアーズ)。柳韻とのエキシビジョンマッチでは使用武器の制限があったため使えなかったが、一夏との試合は互いに「今出来る全力でぶつかりたい」という強い希望によってハンデは無しの真っ向勝負だ。

 とはいえ流石に来たばかりの機体に乗ってぶっつけ本番での戦闘開始というわけにはいかず、そんな内情を知るセシリアが「私は篠ノ之さんとのエキシビジョンマッチで多少動いておりますし、織斑さんにもウォーミングアップの時間を差し上げてこそ公平な勝負になりますわ」と、上手い具合に周りを丸め込んで一夏の白式試運転や軽い流しをしてからの試合になったわけなのだが。

 

「しかし、織斑さんの方こそ初めてにしては良い動きですわ。ウォーミングアップの時から思っていたのですが、本当にISに乗った経験はないんですの?」

 

「ああ。今を除けば試験会場でなんやかんややったのが最初で最後、ここに来てからは借りる暇もなかったからさ」

 

「それが本当なら一時間にも満たないはず。それでここまで動けるのは素晴らしいです、才能ありますわよ」

 

「その道の先輩にそう言ってもらえると嬉しいよ。サンキュ」

 

 戦いの中の小休止で言葉を掛け合う。互いにその顔には笑みが浮かんでおり、今回の戦いを怒りや恨みのぶつけ合いではなく、互いに楽しんでいるものだと周りに直観させていた。

 

「ですが。上には上がいるという事を、まずは教えて差し上げます」

 

「こっちだって。日本には下にいる者が上にいる者を倒す下剋上って文化があるのを教えてやるぜ」

 

 小休止は終了、というようにセシリアが左腕を振るうと共にBT兵器が再び空を走る。同時に白式も剣を掲げスラスターを噴かせて空を駆けた。

 狙うは大将首(セシリア)と突っ込もうとする一夏だがそれはセシリアも分かっている事。彼女が腕を振るうとその指揮に合わせるようにビットが飛翔、一夏を頭上から狙い撃つが一夏はそれを予測していたように身を捻って回避、逆に地面を蹴ったようにいきなり軌道を変えてそのビットへと斬りかかると停止していたビットを一気に一刀両断にした。

 

「お見事! ですが隙だらけですわ!」

 

 ビット一機落とされた。違う、これは誘い込んだのだ。剣を振るった反動で動けない一瞬の隙、それを見逃さないセシリアのロングレーザーライフル――スターライトmkⅢが狙い撃つ。一夏がそちらに機体を向けた時、彼の前方に薄桃色の光の膜が展開しようとするも、その膜が形成されるよりも早くレーザーが突き抜いて一夏の左肩の装甲だけではなく、その衝撃が白式を変な軌道で吹き飛ばした。

 

「ふふ。展開の速さはまだまだですわね」

 

「つってもこれ、どうやって出てるのかまだ掴みきれてないんだよなぁ……」

 

 セシリアの言葉に一夏がぼやく。

 薄桃色の光の膜――エネルギーシールドは白式に取り付けられた追加武装らしく、武器が剣一本で接近戦をするしかない彼にとっては防御の生命線。しかしエネルギーがシールドとして出現する感覚をうまく掴みきれていない一夏はそれを瞬時に展開する事はまだ出来ずにいた。

 ちなみに同じく武器が剣一本しかない柳韻にこの装備が取り付けられていない事を知ったクロエが後々束にそれを聞いた時、

 

「はぁ? 何言ってんのさクーちゃん。パパがそんな攻撃受けるはずげっほげっほあんなジジイの身を守るような装備を準備するなんて面倒くさかっただけだよーだ!」

 

 というコメントを顔を赤くしてぷいっと顔を逸らしながら残していた事を追記しておこう。

 

(あの武器は俺の死角を狙ってくる。さらにあれを動かしている間はオルコットさんは動けない。それは分かってるんだが……攻めにくいな)

 

 セシリアの一挙一動見逃すまいと睨みながら一夏は心中でぼやく。

 今までの戦いの中でビットの動きの癖、そしてその間のセシリアの動きから推測したブルー・ティアーズの欠点はなんとなく把握し、それが合っているのか確かめるために一機、そして先ほどもう一機落とす事に成功した。

 しかしレーザー攻撃を掻い潜って攻撃を仕掛けてもセシリアはすぐさま距離を取って常に自分の有利な立ち位置を維持してくるし、さっき無理に攻撃を仕掛けたせいでミサイルをかまされ、大慌てで斬り払ったのもいい思い出だ。

 

(オルコットさんが俺を初心者だと舐めててくれれば、その油断につけ込むって手もあったのかもしれないけどなぁ……)

 

 そんな希望的観測は捨てるべきだろう。セシリアは一夏が初心者であると分かっていて、その上で彼の前に立ちはだかる壁として誇り高く戦っている事はよく分かる。

 さらに一夏は「そんなの面白くないよな」と、誇り高いセシリアが自分を舐めて油断しながら戦うなんて姿を想像したくないと頭を横に振ってその考えを振り払った。

 

(第一、オルコットさんが本当に本気なら、俺なんて今頃蜂の巣だろうしな……)

 

 さらにそんな自嘲も出る。セシリアは中距離からの射撃が本領、さらにイギリスの最新兵器だという武装も使っている。彼女の性格を考えればこれを使いこなすための訓練もしていて当然と考えるべき。

 さっきは才能があると褒められたとはいえ色々未熟な自分なんて本当に最初から沈める気で戦っていれば避ける隙や迎撃の隙なんて与えるまでもなく、剣が届かない間合いから集中砲火で落としていてもおかしくはない。

 なら何故それをしないのか。舐めてて甚振っている?違う、これは例えるなら姉弟子が弟弟子に対して指南をしているようなものだ。

 自分はこう撃つ、なら貴方はどう回避する?回避した上で攻撃を仕掛ける?それとも体勢を立て直す?もし攻撃を受けてしまったら追撃を受けないようにどう動く?その判断力を鍛える訓練を、姉弟弟子でもなんでもない自分に対して、そんな事する必要のないこの試合の時間を使って指導してくれているのだ。

 アリーナの使用には制限がある、この時間を逃せば次はいつアリーナを使って実際にISに乗っての訓練が出来るか分からないからこそ、出来る時に出来る限りの事をしてくれている。

 

(なら、情けなく落とされるわけにはいかないよな)

 

 そんなセシリアの心遣いに応えるべく、一夏は剣を構え直す。

 自分に指導してくれている相手への恩返し。それはその相手を打倒し、自分はしっかり戦えるのだと証明する事だ。

 

「オルコットさん! そろそろ本気で行くぞ!」

 

「……ええ」

 

 一夏の力強い宣言に合わせ、セシリアの腰部にある二つの砲門が展開、二発のミサイルが放たれるとセシリアの制御によって多角的な軌道を描いて一夏に迫る。さらに二つのビットもおまけに飛んできた。

 すぐにミサイルから逃げるように動く一夏だがミサイルの速度自体速い上にビットの一つが彼の動きを制限するように射撃を行ってくる。

 

(さっきみたいにミサイルを斬り払って……いや、そんな事したらその隙を突いてまたライフルで撃たれるだけだな……)

 

 ミサイルを斬り払ったところへの追撃をカバーする余裕はないし、セシリアは自分は動けずともビットの軌道を調節して上手い具合に、一夏が常に自分と牽制用のビットとは別に待機させているもう一つのビットの間に挟まれるように位置取らせている。

 正面はビームシールドで防御できるが、ミサイルを斬り払ったところでセシリアに背を向けていればセシリアのレーザーライフルが、ビットに背を向けていればビットのレーザーが間髪入れずに攻撃を仕掛けてくるだろう。

 それが分かっていて下手に行動に移すわけにはいかない。だが何もしなければミサイルに追いつかれてしまうだけだ。

 

(それなら――)

 

 なら第三の選択肢だ。と一夏はニヤリと笑うとミサイルから距離を取るように加速する。ただしその視線の先にはセシリアを捉えていた。

 

「これならどうだ!?」

 

 BT兵器の制御のためにセシリアはそれらを使っている時は動けない。だが逆に言えばセシリアに何か別の行動を取らせればBT兵器も封じられる。

 そう考えた一夏はビームシールドを展開しながら一気にセシリア目掛けて突っ込む。同時にセシリアもふっと微笑を浮かべてレーザーライフルを構え、同時にミサイルも制御を失ったのか変な方向に飛んで行って爆散。ビットも沈黙する。

 

「いい度胸ですね!」

 

「接近戦ならこっちのもんだ!」

 

 だが頭で分かっていても銃を持つ相手目掛けてミサイルを放って突っ込むなんて正気の沙汰ではない。

 セシリアがそう言いながら放つレーザーを一夏はエネルギーシールドで防ぎながら突撃。剣を振り上げた。

 

「(ええ。貴方はそうするしかない……ですが、詰めが甘いですわ…)…インターセプター!」

 

 左手にスターライトMkⅢを持ち変え、右手に奔流する光から生み出されるレイピア。

 

(前方に張られたエネルギーシールド。これが邪魔になるから剣を触れない。故に間合いに入ると同時にエネルギーシールドを解除しなければならない、ですがシールドの解除と剣を振るう二つの動作を同時に行える程貴方はISの操縦には慣れていない。エネルギーシールドを解除する一瞬の隙を突いて、私の勝ちです!)

 

 まさか中距離戦を主体とする自分が試合の決めに近接戦を狙うとは思わなかったとセシリアは心の中で苦笑する。

 だが先ほどの戦いで全力で剣を振るった。その感覚が残っている今なら、射撃武器と比べれば不慣れなこの剣でも一瞬の隙を突ける。セシリアはその確信を持って突きを行うべく溜めに入った。

 

(く、シールドが邪魔で剣が振れない、けどオルコットさんならシールドを解除する一瞬の隙をついてくる……)

 

 対する一夏も直観的にセシリアの狙いを看破していた。しかしもう止まるわけにはいかない。南無三、イチかバチか、そんな気合いを込めた時、一夏の脳内で何かが走る。

 いける、一夏がそう思った時、雪片の刀身が分解。その内部からエネルギーが奔流し、白い光の刃となって展開された。

 

「いっ……けえええぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「なっ――」

 

 一夏が声を上げ、エネルギーシールドの展開を解除せぬまま光の剣となった雪片を振り下ろす。

 ありえない、とセシリアがフリーズ。二人の間を阻む壁となっているエネルギーシールドへと雪片が接触、障壁となっているシールドに阻まれ、雪片の刃は弾かれる……はずだった。

 

「な、エネルギーシールドが解除され……いや、これは、消滅――」

 

 光の刃に触れたエネルギーシールドがまるで最初から何もなかったとでもいうように消滅していく。そのあり得ざる光景に驚いて動きを止めてしまったセシリアは、直後それに気づくがもう遅い。

 

「う……あぁぁっ……」

 

 ズバアアァァァッ!!!という擬音が聞こえそうな勢いで袈裟懸けに振り下ろされた光の刃がセシリアを捉える。

 

『試合終了。勝者――織斑一夏』

 

 その一太刀の後、試合終了を示すブザーと、今回の試合の勝者を示すアナウンスがアリーナへと響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

「ありがとう、オルコットさん。いい経験になったよ」

 

「力になれて幸いですわ」

 

 試合終了後、Aピットに集合した――というかセシリアがやってきたという方が近い――一夏とセシリアは固い握手をして健闘を称え合う。

 

「っていうか、力を示す決闘だって言ったのに。前半ほとんど俺への指導だったよな?」

 

「あら、お気づきでした?」

 

「気づかない訳ないだろ? あの間にビット二つ落としてなかったら手数で押し切られてたかもだし、そもそも白式動かすのに慣れる前にやられてたよ」

 

 くすくすと悪戯っぽく笑うセシリアに一夏はげんなりした様子で答える。

 

「だからまあ、本気のオルコットさんに勝てたとは思わないよ。今度は最初から本気を出したオルコットさんに勝てるようにする」

 

「……ええ。お待ちしておりますわ」

 

 一夏は真正面からセシリアの顔を見て己の目標を宣言し、その姿にセシリアは柔和な笑みを浮かべた。

 

「頑張ってくださいね。一年一組クラス代表さん」

 

「うぐ……」

 

 すっかり忘れてたと唸る一夏。期待に応えるとは言ったものの、考えてみれば自分に指導を行う余裕さえあったセシリアの方がやっぱり代表に相応しいのではないかと思った一夏はそれを口にしようとするも、セシリアがしっと人差し指を己の唇に当てて口を開かないとジェスチャーを行った。

 

「心配いりません。貴方ならきっと立派に代表を務める事が出来ます。私が保障いたしますわ。それに、もし何か困ったことがありましたらフォローいたしますから。まずはチャレンジしてみては?」

 

「い、いや、でも……」

 

「それとも……」

 

 セシリアの説得に食い下がろうとする一夏に、セシリアは上目遣いになって彼を見上げる。

 

「今回の決闘は勝った方がクラス代表になるというものだったはず。勝者の貴方がそれを放棄するなんて、敗者である私にクラス代表を譲られたなどという屈辱を一年間味わえと……? うう、日本では確かこういうのをドエスとかいうのでしたか? ですがその屈辱に耐えるのも敗者の義務――」

「人聞きの悪い事言わないでくれ! 分かった! やるよ! クラス代表やらせていただきます!!」

 

 最初は上目遣いでの訴えの後、顔を逸らし伏せた目からは涙が浮かぶ。口を手で覆ってよよよ、という擬音が聞こえそうな様子の彼女が口走る言葉は聞き捨てならないというか変な風評被害が発生しそうで、一夏は慌ててクラス代表をやると宣言する。その時セシリアの口元に笑みが浮かぶが手で隠されていて一夏には見えていない。

 

「そう言っていただけて嬉しいです、頑張ってくださいね。もし何か悩みがありましたがご相談を」

 

 一夏の宣言を聞いた途端、さっきまで涙目になって泣きかけていたとは思えない笑顔で手を振り、ピットを去っていくセシリア。

 やられた、と気づいた一夏ががくんと膝をつく後ろで真耶が苦笑、千冬が腕組みして呆れたようにため息をつき、箒もあんな手に引っかかるなんて情けないと言いたげなジト目で彼を見ているのだった。

 

「……」

 

 その頃、ピットから出たセシリアは何か考え事をしているような様子で廊下を歩いていた。

 

「オルコット嬢」

 

「篠ノ之さん……」

 

 そんな彼女に柳韻が声をかけ、セシリアも彼に言葉を返すも何か話そうか迷っているように沈黙。それを見た柳韻が彼女の肩にポンと手を置いた。

 

「今夜、月見酒をしようと思っています」

 

「……はい」

 

 その言葉の意味はセシリアには理解でき、柳韻は一度会釈をしてAピットの方に去っていく。セシリアもその後ろ姿に一礼した後、その場を去っていくのだった。




《後書き》
 やっと書けましたというかなんというかな、今回はIS二次小説でお馴染みな最初の山場、クラス代表決定戦。
 一夏の白式は基本的には原作通りですが、前方にエネルギーシールドを展開できるというオリジナル武装を追加しました。普段は剣と干渉しあって攻撃出来なくなるけど、零落白夜を使えばエネルギーシールドを解除しなくても勝手に消滅するのでギリギリまでシールドで守りながら零落白夜で一刀両断という荒業も使用可能です。

 そしてセシリアは一夏に対して指導をしながら戦っていたという設定です。だって、本作のセシリアは男だからと見下す事はやめたんだから手を抜くことはない。けど最初からガチでやらせたら一夏瞬殺されるでしょ?
 というところから考えて、最終的にセシリアは一夏に指導をしながら戦っていたという設定に落ち着きました。これなら一夏の零落白夜が予想外だったから負けたとしても、一夏も「オルコットさんは俺に指導してくれていた。本気で戦ってたらあっという間に落とされてた」と認識、セシリアの株は落ちなくなるはずです。

 そしてホントマジで申し訳ありません!一夏VSセシリアが思ったより長くなったってのもあるけど、この作品のオチをつける最後の場面がどうしても思いつかなくて、せっかくキリのいいとこまで書けたんだからここまでで一回投稿します!
 次回!次回こそ本当に本作の最終話です!流石に次回で風呂敷畳んで終わるくらいにしなきゃこれ以上はマジでネタがない!

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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