こいしと死にたいお兄さん 作:鴇と戯れるこいしちゃん
前話を読んでいないと初っ端から話が分からないです。あと短いです。さらに言えば読まなくてもいいです。読まない方がいいかもしれないにゃあ。
最後の食事を済ませて、遺書を書いている途中でこいしに落書きをされた。俺の似顔絵だというが、そこに描かれているのは一匹の小鳥だった。こいし曰く、『巣から落ちた小鳥』なのだと。幸せを掴めずに終わった俺の人生と似ているということだろうか。その隣にこいしは『自分の似顔絵』を描いた。そこに描かれていたのは──
──微笑みを浮かべた人間の女の子だった。
「山はとっても怖いところ。小鳥が巣から落ちてしまったら、そのまま死ぬか、狼に食べられてしまう」
こいしは悪戯っぽく笑う。
「でもね、ごくまれに、そこに優しい誰かさんが通りかかるの。その優しい誰かさんは、小鳥を拾い上げて、巣に戻すか、自分の家に持って帰って、飛べるようになるまで世話をする。飼い殺しにするかもしれないけどね。……その優しい誰かさんは、加減をよく知らなくて小鳥を殺してしまうかもしれないの」
ねぇ、とこいしは俺に緑の双眸を向ける。その目には、優しさと、嗜虐心が含まれているように見えた。
「お兄さんは、どの結末がいい?」
それは選択だったのだろう。俺には最後の最後まで、自己決定権があったのだ。惨めで、職も無い、生きる価値も無いような、こんな俺にも。
そして、俺は幻想郷の様々な場所をこいしと共に見て回った。夜を明かして、神社の巫女と話をして。元居た世界に一人で帰るか、と聞かれたが、お断りしておいた。既に、俺の選択は決まっているのだから。
「ユウト、覚悟は決まった?」
こいしの実家、こいしの部屋で、俺にそう問いかけるのもまたこいしだ。彼女の目から窺えるのは、食欲というより──
「俺は──」
俺がどんな行動を取るかだった。
「──死にたくない」
俺がそう答えると、こいしは目をそっと閉じた。笑っているようだ。そして、手をぱち、ぱちと叩き始める。
「……正解よ、ユウト。貴方は、家畜なんかじゃなかった」
後日、人里に一人の外来人が定住した。その者の家に、数回ほど影の薄い少女が出入りするのが見つかっている。
今は昔。ある一人の外来人は、人里で、豊かな心を持った人と暮らす内に、一人の妖怪少女と触れ合っていく内に。その目に光を取り戻しました。心に希望を持つことを許されました。ある程度の自由も得ました。
しかし、外来人には一つ、足りていないものがありました。
それは『恐怖』です。彼から恐怖という感情は失われていました。自分を食い殺そうとする妖怪を見ても、冷静に対処をするだけで、怖がることはありませんでした。
その態度は、妖怪を恐怖させたのです。
賢者は危惧しました。いくら一人とはいえ、人里の人間がもしも、自分たち恐怖を覚えなければ妖怪がいずれ消滅する、と気づいてしまったら、妖怪の存在は無くなってしまいます。人里の指導者の一部は、そうならないように、徹底的に妖怪の恐怖を人間に叩き込むよう立ち回ります。
しかし、革命とはいつの時代も起きるものです。このままでは、いずれ人間が気付きかねない。そうなる前に、その外来人を排除しなければ、という結論に、幻想郷の賢者達は至りました。
そうして、誰にも見られない内に、外来人は静かに死にました。賢者達の温情で、苦しまずに、寿命が尽きたように死ぬよう仕向けたのです。
この外来人と仲の良かった人妖は悲しみました。緑髪の妖怪少女もその一人です。彼女は姉を通して賢者達に抗議をしました。
ですが、彼女は言いくるめられてしまいました。どうしようもない摂理なのです。無意識だろうと、故意だろうと、幻想郷の敵となる存在は排除しなければならなかった。彼女も妖怪である以上は納得せざるを得ませんでした。
それから、緑髪の少女は、居なくなりました。しかし、そこに居ました。彼女は覆らない理不尽に気づき、脆く、砕け散りそうになったその心を自分の無意識のさらに向こう側へと押し込んでしまったのです。
彼女は、最早無意識ですらない、天上の星の様な、『どこかに在る』ということしか分からない存在となったのです。彼女の姉以外は皆彼女の存在を忘れてしまいました。覚えていた人間は全員死に、妖怪は別れに慣れているからか、すぐに忘れてしまいました。
彼女はあてもなく彷徨います。いつしか彼女は次元の壁を越え、気が付いた時には、いつか見たような部屋と、人間を見ました。その人間は、外来人ととてもよく似ていたどころか、全くの同じ人物でした。
彼女は決めました。外来人が、理不尽に遭わないために。自分自身が理不尽に遭わないために。
人間を、自分の腹に納めることにしました。
こいしちゃんはきっと、自己防衛(物理)の出来る女の子。だけど、メンタルは見た目相応。そんな気がします。