古代におけるゲームは、人間や王の未来を予言し世界の運命を決める、神々による儀式であった。
それらは「闇のゲーム」と呼ばれた。
いつしか儀式は神々の遊戯へと姿を変えて闇のゲームは受け継がれた。
人はこの世界を『遊戯盤』と呼ぶ。
※呼びません
この冒険者ギルドには今日も成人を迎えた男女たちが、冒険者になる事を夢見て各地から人が集まってくる。先程も都の『賢者の学院』を卒業したという魔法使いが冒険者登録を終えて、今は依頼が貼り出された掲示板を眺めている。
「えっと……もう一度、ご職業についてお聞かせ願いますか?」
それまで書いていたペンを止めて質問する。文字が読めないとのことで、私が代筆している
「
聞き間違いではなかったらしい。
……そう、問題はこの男が名乗る職業なのだ。冒険記録用紙において設定されている職業とは、主に「戦士」や「斥候」、「魔術師」「神官」といった、冒険者として働く上での得意分野、及びその者が
もちろん高名な冒険者の持つ通り名といった物も存在するが、それはあくまでその冒険者の為人を現す仇名であって、職業ではない。
ギルドにおいては、信頼が何より重要視されている。書類には正確に書く必要があるのだ、と理由を述べて、職業についてもう少し詳しく話してほしい、もしくは何か習得している技能はないか、と尋ねた。そうすると男は困惑した表情を浮かべながら答えた。
「剣を振るったことも、魔術に習熟しているわけでもない」
……一体何しに来たんですかこの人は⁉︎
どういう……ことだ……?
気づけば道の真ん中で立ち止まっていた。
右も左も田畑が拡がっている。牛や家畜を飼っている小屋も見えるが、今時どれも木製で、『大嵐』などくればひとたまりもないように思えた。正に農村、いや田舎と評するのが適していた。少なくとも俺の家はこんな辺境にあったわけではない。
突如として現れた目の前の光景があまり衝撃的すぎる。誰かに現在地を訪ねたところで『地球ん中』と返してくれるかどうか。
混乱しつつも、偶然出会った第一村人の女性に近くの街を尋ねたところ、道なりに進めばいずれ辿り着く、と快く教えてくれたのでその方向に向かった。ありがとう酪農家さん、その真っピンクな髪に内心ビビってたけど普通に良い人だったよ。田舎って案外進んでるんだな……。
歩く道すがら、服装の変化に気がついた。着ていたはずのジャケットはフード付きの赤い外套に変わり、いつのまにか首からゴーグルを下げていた。極めつけはつい最近、リサイクルショップで買ったばかりのデュエルディスクが左腕に装着されていた事だろう。赤い
俺決闘者に、俺決闘者だった……?
街が見えてきた。門の前に行くと一人の兵士と思わしき人が、大きな金属製の鎧を着て、見張っている。腰には立派な剣を差しており強そうだ。
はえーすっごいリアル。そうだよ、コスプレといえばこういうもんだよ。誰かは知らんがこのクソダサマントを用意した奴はこの兵士さんを見習ってもらいたい。
それよりもその鎧と武器本物ですか?写真撮らせてもらってもって、デュエルディスクはあるのにスマホは無いのかよ。
しゃーないわ。写真は今度撮らせてもらおう。ほな、また……とそのまま街に入ろうとしたらそのレイヤーさんこと番兵氏に職務質問された。こうみえて軍人らしい。
え、職務中にコスプレしてるのかこの人(困惑)いやその格好で公務員は無理でしょ。何?俺?財布も身分証も持っていない、住所不定無職の決闘者ですが何か問題でも?
同情したような目つきで小銭を握らされた。
なんだ、番兵っていいやつじゃん!(手のひらクルー)
番兵の人によると『ギルド』とやらにに向かって、『冒険者』になる事を勧められた。そこで依頼を受けて、日銭を稼げと。いや別に俺職探しに来たわけじゃないんですけど。そう思ったが他に行くところも知らないし、行くしかないのか。
それにしても服装の変化に加えて、鎧を着た軍人の登場、それに渡されたのは見たことのない硬貨と来たもんだ。オマケにギルドと冒険者か……。俺の予想が正しければこれは───
───これは……夢じゃな?
最初の酪農家さんの派手な髪の色といい、街の中世風な建物といい、現代日本で見ることのない物が多すぎる。街に入れば番兵さんのような格好の人もちらほら見かけた。こんな田舎の街一つ使ってコスプレ会場しているなんて聞いた事もない。
そもそも
デュエルモンスターズの世界。その中でもGXに出てきた精霊界……にいる夢だとすれば全てが繋がる。髪の色もむしろおとなしいくらいだろう。何せ歴代主人公達を始めとする
話を戻すが、番兵もこのデュエルディスクを見て俺が(町内)大会でベスト8を誇る歴戦()の決闘者であることを察したのだろう。貰った小銭も、つまりは将来への投資。そういうことだ。
かー!辛ぇわー。異世界チート強すぎて辛ぇわー。
せっかく面白そうな夢なんだから決闘者ロールで進めていこう。ここまでお膳立てされているのだ。
俺が、俺たちが、決闘者だ!!
受付の方が胡乱げな目つきでこちらを見つめている。一体何が問題だって言うんだ……?
ここが精霊界ならばデュエルモンスターズの精霊達が暮らしている筈。起きる争いも、カードの精霊によるリアルファイトか決闘での決着の二択と、割とオーソドックスな世界観だ。
そんな世界で決闘者を名乗ったのにその意味を聞き返される理由がわからない。
まさかデュエルモンスターズをご存知でない!?いやまさか、そんなはずはない。カードやデュエルディスクに対して無反応だったのに、決闘者の単語だけ意☆味☆不☆明なわけないじゃないか。
……何?称号と職業は別だって?
あっ、そっかぁ……。子供だろうが老人だろうがデッキを持てばその時点で決闘者なのは当たり前。その上で大会で成績を残し、スポンサーからの給料や賞金で生活費を稼ぐのが『プロ決闘者』。プロにならなければ、職業 : 決闘者と名乗ることは出来ないという訳か。やっぱり無職じゃないか。
「白磁の冒険者は確かに、巨大鼠狩りやドブさらいが主な仕事になりますが……武器も術もないとなると、あまりたいした収入を得ることは出来ないと思われます」
どうなさいますか?と訊かれるが言外に『お前向いてないから帰れ』と言われている気がする。まるで面接受けているみたいだ(直喩)……夢にしてはなかなか現実的な話するんだな。
リアルファイトに関してはからっきしなこの俺が、この世界で実力を示すにはどうすればいいのか。ここで引き下がるという選択肢はない。今の自分にはここ以外に行ける場所がわからないのだ。何とかして冒険者になる事を認めて貰わねば。そうなるとここは手段は一つだ。
やはり
腰のホルスターに手を伸ばし──
パン、と軽い音が鳴った。デッキをシャッフルする時にこぼれた一枚のカードが、カウンターの机に落ちてしまったのだ。チクショウ!台無しにしやがった。このカードは俺の人生そのものだ。誰もお前を愛さない……。
『クリクリ〜!』
反射的に視線を向けると、そこには『毛玉』の二文字で表現するにふさわしい、一等身の小さなモンスターが俺を見つめていた。
……『クリボー』!?
なぜクリボーがここに!?(デッキから)逃げたのか?自力で脱出を!?
「ああ!精霊術師さんだったんですね!確かに只人の精霊術師は珍しいですが、全くいないわけではありませんでしたね。なるほど、盲点でした」
えっ、アッハイ。
「それなら問題はありません。これが冒険者での身分証となります」
……精霊術師とは何だ?いつ発動する?
ドリアードの祈りと何か関係があるのか?……もしや精霊世界において、精霊を視認する能力持ちやサイコデュエリストをそう呼ぶのか?
分からないことが多すぎるが……
デュエルモンスターズのマスコット、クリボー。撫でるとその柔らかな毛並みが手に伝わることから、クリボーが俺の前に存在していることは確かだ。
これがリアルソリッドビジョンちゃんですか。流石に小さすぎてアクションデュエルで騎馬代わりには出来そうにない。撫でるのに満足して手を離すと、クリボーはふよふよと宙を浮いた後、俺の肩に乗った。
「──以上で登録は終わりです。今後の活躍をお祈りしています。それから……」
ヤベ、聞き逃した。話半分で白磁が最低等級ということは分かったが……聞き直すべきか?
「ギルド内で精霊を呼び出す際には注意して下さいね。召喚された精霊が何か問題を起こしましたら、呼び出した術者の責任となって罰則が発生しますから」
ち、違う!クリボーが勝手に!
『クリッ!?』
他に並んでいる人が居たのもあって、追い立てられるようにカウンターから離れてしまった。とはいえ、身分証を得ることが出来たのは確かだ。これで情報収集が捗るだろう。ギルドには人の集まる酒場も併設されている。教えてもらった通りにここに来たのはやはり正解だった。だが。
『クリ?』
目下の問題はこのクリボーだ。手の中のカードと肩にいるクリボーを見比べる。さも当然の表情で俺の肩に居座っているが、確か出掛ける時に掴んだデッキの中にお前は採用して───
「珍しい
とっさに声をかけられビビり、反射的にカードを仕舞う。振り向くと紅髪緑眼の少女が立っていた。何だ、受付さんかと思ったじゃないか。
自分と同じ、いや少し若いくらいの年齢に見える彼女は、三角帽を被り、杖を持っている。恐らくは魔法使い族かだろう。俺と同じ、白磁等級を示す証を首から下げている。いわば『見習い魔女』という奴だな。
いや待て。それよりも今、彼女は
「何だ、あんたも駆け出しじゃない。丁度よかったわ。人手が足りないの。一緒に来てくれないかしら」
彼女は掲示板の前につかつかと進んで行ってしまった。ちょっ、MA☆TTE!
依頼書が貼られている掲示板の近くまで行くと、彼女の向かう先に二人の男女が居るのが分かる。彼女の所属している一党だろう。
「へぇ、精霊術師!俺初めて見たよ」
「ちょっと、やめなさいよ。彼も困ってるじゃないの。それに、私達が田舎者なのが丸わかりじゃないの」
いや全くわからなかったんですけど。ここより田舎がある事が衝撃的だ。まだ壁に覆われているこの街はまだマシというわけなのか。他にも聞きたいことはあるが、今はそれよりも呼ばれた理由の方が気になる。これから何をするんだ?決闘か?
何?……これが依頼書?すまないが異世界語はさっぱりなんだ。
「大した依頼じゃないわ」
「ちょっと待ってね、今彼があの神官の子を勧誘しに行ったから」
それを聞いて先程まで自分も居たカウンターに目を向けると、たった今手続きを終えたばかり、という風体の少女に話しかけに行っているのが見えた。彼にも話を聞くとしよう。
「急ぎと言いますと……?」
人手が足りないって?
「ああ!ゴブリン退治さ‼︎」
───戦士族の彼曰く、
「あ、あの……このまま入っても大丈夫でしょうか……?やっぱり、もう少し準備をしてから……」
件のゴブリンの巣穴は、この街から半日ほど歩いた場所にあった。村と巣穴の間には林があるだけで、ゴブリン達が村を襲うのに何の障害もないように思えた。
「は?ここまで来てなによ……」
「ん〜、そんなこと言っても薬買う金持ってないしさ。そのために君達に声かけたんだぜ?」
「
……薬?確かに受付さんから二種類ほど買っていたが、右から左へと聞き流して中身を知らなかった。『御隠居の猛毒薬』みたいに、片方はライフポイントの回復、もう一方は相手プレイヤーにバーンダメージに使えばいいのだろうか。
だが中々高価な買い物だったのは覚えている。貰った小銭が全部無くなったからな。この依頼の報酬金によっては大赤字だ。これはやらかしたか?
「作戦はこうだ!前から来るゴブリンを倒しながら進む!」
「なにそれ!作戦になってないわよ!……ま、でもそれしかないかもね」
脳筋かな?何でリアルファイトに持ち込む必要があるんですか。……何?俺たちで後衛三人を守る?え、そんなん関係ないっしょ。
確かに(猪突猛進的な意味で)『ロケット戦士』や『カラテマン』(女)のデュエルマッスルは中々だと思う。だけど俺も決闘者、ただ守られるだけじゃないぜ。相手がどの程度の実力を持っているのかは分からないが、海馬社長の声が流れるこのデュエルディスクと合わせて揃えた、
強靭!
無敵!
最強ォ!
の三拍子の揃った
ゴブリン!お前達がいる限り、この村に満足は訪れない!俺達の絆☆パワーで必ず倒してみせる!
「──もう……!あの二人も歩くの早すぎ……完全に置いて行かれちゃってるじゃない!早く追いつくわよ」
き、絆☆パワー……。
「あの……後ろから声が聞こえたような……」
ん?カードが落ちてる。
「……あのね、私達は入り口から一本道を真っ直ぐに進んできたのよ?後ろに誰が来てるっていうのよ!」
カードは拾った(様式美)
こいつは……
『はさみ撃ち』
通常罠
自分フィールド上に存在するモンスター2体と相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する。
何でこんな所に3:1交換とかいうディスアドバンテージの塊みたいなカードが落ちて……
「GGGAAAAGGGGGAAA!!!!!!!」
「……‼︎ ゴブリン⁉︎」
こいつらがゴブリンか!何匹居るのか知らねぇがサポートが潤沢に存在する青眼の相手じゃねぇぜ(慢心)
デュエルディスクを起動させ、デッキを差し込む。流石はプレミアムバンダイ。機能や音声だけでなく、
フハハハハ勝ったな風呂入ってくる。
勝負だ!『ゴブリン突撃部隊』!お前の敗因は初手カオスMAXの二倍貫通ダメージだ!デュ…
「GOOOOOBBBBBBB!!!!!!!」
「ひっい……!サッ、
デュエ……うるせえ!決闘前には挨拶が基本だろうが!飛びかかってくるんじゃねぇ!来んなって言ってんだろうが!オラ!離れろ!
『スケープ・ゴート』
『増殖』
『リミット・リバース』
『機雷化』
『クリボー』
………………ゑ?
四方世界にプレインズウォーカーがいるならデュエリストがいても……一人くらい、バレへんか!