Re:ゼロから始める異世界生活-Story of Zi-O- 作:きゃぷてん
目を開ければ、そこは森。一面が緑の世界。
見知らぬ森だ、ここは何処であろうか。
耳を澄ませば、川のせせらぎが。
耳を澄ませば、葉が揺れる音が。
耳を澄ませば、鳥のさえずりが。
耳を澄ませばーーーー
森の奥から、響く音が。
気付けば、その音がする方へ、歩を進めていた。
歩を進めて行く。止まらずに進んでゆく。
歩いていると比例するように、響く音も大きくなってゆく。
空を見上げる。
空は青い。が、雲の流れる速さが凄まじい。風が強いのだろうか。
まあ、そんなことは気にすることではない。音のする方へ進もう。
再び、歩き続けた。
そして遂に、響く音の下へ辿り着いた。
そこには、一人の鎧を纏いし者が居た。
紫色の鎧を纏う者は、両手に何か赤い棒を持ち、その先端をを何かに叩きつけている。
楽器か何かなのだろうか。棒が叩きつけられる度に響く音は低いが、それでいて壮大で、勇ましいものだった。
2本の赤い棒を交差して打ち付け合い、音が響く。直後、先ほどに比べ叩く速さが増した。まるで演奏の終盤に入った時のように。
最後に大きく棒を叩きつける音が響き、演奏は締めくくられた。
その演奏に聞き入ってた自分は、思わず拍手を送る。
鎧の人物は、自身の方に振り返る。
その人物の顔は、太陽の光が邪魔をして見えなかった。
だが、一つだけ顔のとある部分が見えた。
それは、
ーーーー頭に生える、2本の銀色の角。
『ーーーーーーーー。』
声が聞こえたと同時に、意識は途切れた。
「!!」
青髪の少女は目覚める。
しばらく呆然としながら天井を見つめ、その後にゆっくりと起き上がった。
「……また、あの夢……」
彼女にとって3度目の夢。
誰かに言ったわけでもないその呟きは、未だ隣で寝ている姉にも聞こえず、ただ虚しく部屋の中で響くだけであった。
「あ"ぁ"〜、疲"れ"だ"ぁ"〜」
二日目の夜、濁音混じりの声と共に部屋のベットへと倒れ沈み込むスバル。昨日と同じく、働き詰めだったスバルは体に疲労が蓄積されていた。
「随分お疲れのようだけど、そこの椅子に座りなさい、バルス」
入り口に立っているラムはベットに倒れ込むスバルへ椅子への着席を促す。
「朝に知らせた通り、今日は貴方に読み書きを教えるわ。早く座りなさい」
「あぁ……そうだったわ」
ナツキ・スバルは朝に言われた知らせを思い出し、気怠げな様子でベットから起き上がり、椅子へと向かい座る。
「後、貴方の頼み通り、トワキの所にはレムを向かわせたわ。今頃貴方と同じ様に読み書きを教わってると思うわよ」
「あー……してたな、そんな頼み」
「読み書きが出来ないなんて、二人揃って何処の村の蛮族なのかしら?」
「蛮族じゃねーし!」
「……という訳で、スバル君の頼みで貴方に読み書きを教えに来ました」
ソウゴの居る部屋の扉の前にはレムが立っており、来た用件を説明すると、部屋の中へと入っていく。それに続くように、ソウゴは椅子に向かい、引いて座る。その隣にはレムが椅子に座り、前にある机に赤い背表紙の本とノート、羽ペンのセットを置いた。
「まずは基本のイ文字から。ロ文字とハ文字はイ文字が完璧になってから。イ文字を把握してからこの本の童話に入りましょう。冥時の一時まで頑張りますよ」
「うへぇ、大変そー」
「ですが、読み書きが出来なければ碌に買い物や本を読むことも出来ませんので」
「まぁ、そうだよね」
レムがノートを開いて羽ペンを持ち、サラサラと真っ白のページに文字を書いていく。彼女は速筆の上、達筆でもあった。
レムが文字を一通り書き終えた後、書いた文字の読み方を教え、ソウゴに羽ペンを渡す。
「文字を覚えるには反復練習です。きっちり覚えれるまで何度も書きましょう」
「大変そうだけど、それしかないよね」
羽ペンを受け取ってレムの言葉に頷いてノートに文字を書き始めるソウゴ。
静寂に包まれた部屋の中で、ペン先と紙が擦れ合う音が微かに鳴り続ける。
「ねえレム、昨日からスバルがここで働き始めたけどさ、どんな感じ?」
ふと、ソウゴが字の書き取りをしている時、レムに何気ない質問を飛ばす。
「……正直に言って、スバル君の仕事ぶりは全然ダメです。料理も、掃除も、洗濯も何もかも全然出来ないから碌に任せられませんよ。かなり教養に欠けてますね」
「ふふ、そっか。大変そうだね」
レムの愚痴にも近いようなダメ出しにソウゴは微笑んで返す。そうしてソウゴはまた字を書く作業に戻った。
字を書いて、しばらく経った時、
「ソウゴ君」
レムが呼びかけて、ソウゴは彼女の方に顔を向ける。
「ん?何、レム」
「ソウゴ君は」
レムはじっ、とソウゴの目を見つめて
「魔女教、についてどう思いますか?」
その質問をされて、ソウゴはきょとんとした顔になる。
「魔女教……?え、何それ?」
ソウゴは笑ってレムに問い返す。
「…………いえ、何でもないです。忘れてください」
「え?……あ、うん……」
「……もう、時間ですね」
「あ、もう終わり?やっとかー、手が疲れたよ」
ソウゴはそう言いながら手を前に伸ばす。
「明日、またこの時間帯に姉様かレムが来るので、よろしくお願いします」
「ん、分かった」
レムは予定を伝えて、童話集の本を持って、部屋から出て行った。
「魔女教、か……」
部屋に一人残ったソウゴはぽつりと、レムが言った言葉を呟く。
それから彼はしばらく何かを考えるような顔をした後、椅子から立ち上がりベッドに入って就寝した。
翌日。
廊下で歩いているラムは買い出しに行く為、荷物持ちとして来てもらう為にスバルの元へ行っている途中であった。
「ラム」
後ろから名前を呼ばれ、振り返るラム。そこには、ソウゴが。
「どうしたの、トワキ」
「ちょっとラムに聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
ラムに問い返され、ソウゴはうんと返事をした後、
「レムってさ、魔女教と何か……」
「トワキ」
聞こうとした瞬間、ラムに声のトーンを落とした状態で、名を呼ばれた。
「ーーーーラムは今、忙しいの。質問に答えてる暇なんか無いわ」
そう言って、彼女はスタスタと歩いて廊下の向こうへと去っていく。
「ちょっ……」
ソウゴは思わず手を伸ばすが、それはすぐに下へと降ろされた。
まるで彼女は聞かれたくないことを聞かれてしまった時のように、言葉を遮って去っていった。
「……………………」
しばらくラムが歩いていく姿をソウゴは見た。その後、そのまま何処かへ歩き出した。
「……当たり前のように扉渡りを破って禁書庫に入るのはやめろかしら」
不機嫌そうな声でソウゴに文句を言って鋭い視線を向けるのはベアトリス。
「ごめん、行ける気がするって感じの扉を選んだら一回で当たった」
「どんな扉なのよそれは」
呆れ気味な声と表情で返事をする。そして、彼女はため息を吐いた後、「それで」と前置きを入れ、
「ベティーに何の用があって来たのかしら」
「うん、聞かせてほしいんだけどさ、魔女教って何?」
単刀直入に聞くソウゴ。その質問を受けたベアトリスは一瞬、丸くする。
「魔女を知らなかったお前からその言葉が出てくるとは意外かしら」
「まあ、ちょっとね。それで魔女教って?」
「魔女教とは、その名の通り魔女を信仰している宗教なのよ。嫉妬の魔女、サテラを」
「やっぱりか……それで、どんなことしてるの、魔女教は」
「奴らは各地に神出鬼没に出現し、犯罪行為を繰り返しているのよ。各国から危険視されていて、見つけたら即座に殺せと言われているのよ」
「うわ、そんなにヤバいんだ、魔女教って」
「他にも、幹部に魔女教大罪司教と呼ばれる者達が居て、組織の目的は嫉妬の魔女サテラを復活させるという話もあるのよ」
「へぇ……」
こくこくと頷きながら声を漏らした後、ソウゴはもう一つ質問を飛ばす。
「あと一つ。知ってたら教えてほしいんだけどさ、レムは魔女教と何かあったの? 何か昨日、俺に魔女教のことをどう思う、って聞いてきたんだけど」
昨晩のレムと、今日のラムの反応。ソウゴはそれを思い出しながら聞く。
「双子の妹か。あいつは魔女教に故郷を滅ぼされたらしいのよ」
「え!?」
余りにもあっさりと話される衝撃の事実。それに思わず素っ頓狂な声を上げるソウゴ。
「故郷が滅ぼされたって……どうして……」
「ベティーが知るかしら。福音書にそう書いてあったんじゃないのかしら」
「福音書?」
「魔女教徒が持つとされる書物。そこには、所有者の未来が記されており、それに従って活動してるらしいのよ」
「つまり、予言書なんだね」
ウォズが持っていた逢魔降臨暦がソウゴの脳裏を過ぎる。
「とりあえず、レムは魔女教に故郷を滅ぼされて恨んでるってことかな」
「恨む理由はそれだけでは無いかしら」
「?」
ベアトリスの呟きにソウゴは疑問の表情を浮かべる。
「まだ知りたいという顔をしてるかしら。でも、ベティーは少し喋り疲れたのよ」
ベアトリスは座っていた脚立から立ち上がり、本棚に歩み寄る。それで、本棚の上の方を指差し
「一番上の右から三番目。取るかしら」
「あっ、うん」
ソウゴは一番上の右から三番目の本を本棚から取る。
ソウゴは本をベアトリスに渡し、彼女もそれを受け取る。そして、脚立に戻って座り、本を開いて読み始める。
「それ読んだら、もう一回話してくれる?」
「さぁ、どうかしら」
ソウゴの問いに、ベアトリスは適当に流した。
屋敷の玄関を掃除しているレム。その最中、扉が開く音が。入って来たのは、スバルとラムだ。
「お帰りなさいませ、姉様」
「ただいま、レム」
レムが出迎えの言葉を掛け、それに返答するラム。
「おい、ラム。これ、どこに置いときゃいい?」
スバルがラムに尋ねる。スバルの手には大きな紙袋が二つほど抱えられている。
「厨房に持って行って頂戴」
「りょーかい」
そう言ってスバルは厨房に行く為に歩き出す。ラムもそれに続いて歩き出そうとした時、
「そういえばレム」
「何でしょう、姉様」
ラムは、レムの近くに寄り、
「昨日、トワキに何か変なことを聞かなかった?」
二人にしか聞こえない声で、レムに問いただした。
「えっ…………」
何故、姉がそれを知ってるのか。そう思いながら声を漏らし、驚愕の表情を浮かべるレム。
「その顔は、聞いたのね」
「………………」
思わず黙りこくるレム。
「……レム、疑う気持ちは分かるわ。けれど、変に揺さぶりを掛けるようなことをするのはやめなさい。万が一の時の為にも」
「おーいラム?どした?」
その時、スバルが中々来ないラムを見て呼びかけた。
「何でもないわ、バルス」
そして、歩き出そうとした時、
「今はまだ、動くべきではないわ。いいわね?」
レムの耳元で、そう言ったラム。
「……はい、姉様」
それにレムは、こくりと頷いた。その後、ラムはスバルと共に厨房へ向かった。二人が去った後、レムは持っていた箒の柄の部分を強く握りしめる。
「……姉様は、優しすぎます」
一瞬、レムの額が仄かに光った。