Re:ゼロから始める異世界生活-Story of Zi-O- 作:きゃぷてん
響く、響く、音。
響き渡る、清き音。
森の中で、紫の鎧を纏っている者が赤い棒を丸いものへ叩きつけている。
一定の間隔が叩き、それは音楽としてこの場に存在する。
最後に、締めと言わんばかりに一叩きする。
鎧の者は振り返る。
その顔は、今度は太陽に邪魔されず見ることができた。
その面貌は、正に異形。紫の顔には目と口と思える部分はなく、六本の赤い紋様だけが走っている。
しかし頭部には、二本の銀色の角がその存在感を放っていた。
「然るべき者に、力を渡せ」
その人物は、それだけ告げた。
◇
アナザーウィザードが倒されてしばらく。
とある家屋の寝室に眠っているレムがいる。
彼女の閉じられている瞼が揺れ、徐々にその瞳孔を覗かせ始めた。
「…………ここは…………」
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回すレム。自分にとって知らない場所だ。
「スバルくんや……ソウゴくんは……」
自分と共に森の中へ行っていた筈の2人のことが頭に浮かび上がる。その時、扉が開く音がした。
「…………レム?」
そこにいたのはエミリアであった。彼女は驚いたように目を見開く。
「レム! 良かった、目が覚めたのね! ということは、ソウゴがアナザーライダーを……!」
エミリアが歓喜の顔を浮かべながらレムに駆け寄る。
「ソウゴくんが……? ッ、ソウゴくん達は今、どちらの方に?」
「え? えっと、森の方に……」
エミリアの答えを聞いたレムは、しばらく黙り込む。
夢で見た紫の鬼。それによく似た、昨晩あいまみたあの紫色の異形。
そして、あの言葉。
『然るべき者に、力を渡せ』
力。その言葉に、とある物が結びついた。
それから、レムは一気に駆け出した。
「ちょっ、レム!?」
後ろではエミリアが驚いている声が聞こえるが、聞いている暇はない。
"アレ"を取りに行くために、まずは屋敷に一刻も早く戻らなくては。
◇
「はああああっ!」
アナザー響鬼の火球を横っ飛びで避けながら、炎の光線を打ち出すジオウ。
金棒を突き出してそれを正面から受け止めるアナザー響鬼。
しかし後ろから衝撃がして、ふらついた身体に光線が命中して倒れ込む。
その側で、ジオウの下にジオウが合流していた。分身体と本体である。分身体の方は消えていった。
「ソウゴ! ここに来たってことは、アイツを倒したのか!?」
「ああ。倒してきたよ。これで、レムも目覚めるはずだ」
「よし……! やったな、ラム!」
「…………!」
喜ぶスバルの側で、冷静を装いながらも、内心非常に安堵しているラム。
「あとは……こいつだけだ」
アナザー響鬼に向き直るジオウ。
「でも、倒すプランが今の所ないんだよね」
「え? 何でだ?」
「……アナザーライダーは対応したライダーの力で倒さなきゃいけないってのは説明したよね? ……今、響鬼の力を俺は持ってない」
「……つーことは、倒せねえってことか……!」
「まあ、それでもやるだけやらせてもらうよ」
構えるジオウ。
アナザー響鬼は吠えながら駆け出し、金棒を振るいまくり、ジオウはそれを受け流し続ける。
その頃、屋敷の方では。
レムが自室に着いていた。棚の引き出しを開けて、あるものを取り出す。
「………………」
しばらくそれを見つめ続けた後、意を決した顔で再び駆け出した。
「ふっ!」
「!」
ジオウとアナザー響鬼の拳がぶつかり合う。
お互い拳を連続で打ち続け、ぶつかり、弾ける。
ジカンギレードを構えるジオウと、アナザー音叉剣を持つアナザー響鬼。刀身がぶつかり、甲高く響き合う。
しばらくの間剣戟が続き、ジオウがジカンギレードを逆手に持ち替え、アナザー響鬼の手をめがけて下から振るう。
目論見は成功し、剣は空に打ち上げられ、丸腰になったアナザー響鬼は斬られ、それに繋げるように思いっきり拳が振るわれた。
その戦いをスバル達は傍で見守る。
「スバル!」
鈴のような声がして、慌てて後ろを見た。そこにはエミリアが。
「エミリアたん! どうしてここに!?」
「ッ、レムはここに来てない!?」
「えっ? 来て、ねぇけど……」
「レムに何かあったんですか?」
ラムがエミリアに迫るように問う。
「レムが目覚めたんだけど、スバル達が森の方にいるって言ったら走り出して……だからここまで来たんだけど……」
「では、レムは一体……」
「! おい、アイツの様子が……!」
スバルがアナザー響鬼を指差す。アナザー響鬼は身体を丸めていた。その身がボコボコと蠢くと、アナザー響鬼は四つん這いになり、巨大化していく。
その見た目は正に2本角が生えた赤い狼とでも言うべきだった。日本に古くから伝わる災禍を生み出す怪物"禍"のようにも見える。
その名も、アナザー響鬼紅。
「私も……!」
「エミリアたん!」
スバルは止めようとするが、エミリアは駆け出していった。
口から炎弾を吐き出すアナザー響鬼紅。それを避けていくジオウ。
『フィニッシュタイム!』
ジカンギレードにダブルライドウォッチをセット。
『ダブル! スレスレシューティング!』
複数の黄色い光弾が照射。アナザー響鬼紅は炎弾を放ち、相殺させる。
その時、アナザー響鬼紅の足が氷漬けに。戸惑っていると、顔に氷柱がぶつけられた。
「ソウゴ!」
「エミリア! なんで……」
「説明は後! 私も戦うわ!」
「……分かった! 行くよ!」
ジオウとエミリアの2人は構える。その間にアナザー響鬼紅は足元の氷を溶かしていた。
地面を踏み込み、アナザー響鬼紅は高く跳躍。空から地上に向けて火炎弾を複数発射。
ジオウは弾が地面に降ってくる前にエミリアをお姫様抱っこで抱える。
「飛ぶよ!」
「うん!」
エミリアの返事を聞いてジオウは風を纏い飛行。
「やっべえ! 逃げんぞラム!」
「分かってるわ!」
降ってくる火炎弾を見てラムに逃げることを呼びかけるスバル。2人が走った後、後ろでは着弾し、爆発音が響いた。
「!」
飛んできているジオウに気づくアナザー響鬼紅。前足2本で金棒を持っておく。
ジオウとエミリアはアナザー響鬼紅より高い所まで飛行。それから風を解き、アナザー響鬼紅に向けて降下を始めた。
ジオウの腕の中から離れたエミリアは氷柱を放つ。金棒に炎を纏わせそれを払っていくアナザー響鬼紅にジオウが迫る。
振るわれた剣を受け止め、身体に炎を纏って回転することよってジオウを払うアナザー響鬼紅。しかし、自分の身体に影が重なる。
上を見れば、大きい氷柱が。アナザー響鬼紅は大きく金棒を振るう。大きな炎弾と衝撃波が同時に放たれ、氷柱を砕いた。
砕いた先に、氷柱の雨。
『ジオウ! ギリギリスラッシュ!』
横からそんな音声。
アナザー響鬼紅は地面へ急激に墜落。木を薙ぎ直しながら地面を転がるが、その内に体勢を直し立ち上がる。
金棒を構え、未だ滞空中のジオウとエミリアに火炎弾を飛ばす。2人は水のシールドを展開したり、氷塊を飛ばすことで相殺するなどで対応。
「!」
アナザー響鬼紅は金棒を炎の剣に変化させていた。ジオウもウィザードウォッチをジカンギレードにセットして、刀身が伸びた炎の剣を作る。
再び跳躍してきたアナザー響鬼紅の炎の剣とジオウの炎の剣がぶつかり、空中で衝撃波。
降下していく最中、剣戟。
『ウィザード! ギリギリスラッシュ!』
その音声が鳴る瞬間、両者の剣の炎が更に迸り、業火となり激突。
もっと大きな衝撃波が生まれ、互いに吹き飛ぶ。
そのタイミングで、アナザー響鬼紅に氷柱がぶつかった。しかし飛ばしたのはエミリアではなかった。彼女がいる所と別の場所から撃たれたからだ。
ジオウとエミリアは撃たれたところに視線を向けた。
「レム!」
それはレムであった。ジオウとエミリアは頷き合い、彼女の下へ行く。
「レム! 何処に行っていたの!? 私心配で……!」
「……申し訳ありません、エミリア様。…‥実は、これを取りに行っていたのです」
と、レムは懐から何かを取り出す。それは、
「響鬼ライドウォッチ!」
ジオウがそれの名前を呼んだ。
「……これはソウゴくんの所有物、ですよね。ソウゴくん達が屋敷に来る少し前、庭にこれが降ってきたのです」
「……もしかして、あの時のラインハルトの技の勢いでウォッチが飛んでいってたのか?」
レムの話を聞いて、ジオウは貧民街での戦いを思いだす。ラインハルトがバールクスに対して盗品蔵が壊れるほどの大技を放っていた。その余波でライドウォッチが飛んでいったことをジオウは考察する。
「……ソウゴくん、これを貴方に返します。必要な物、ですよね?」
「……ああ。ありがとう」
ジオウは響鬼ライドウォッチを受け取る。後ろから足音がした。振り返ってみれば、アナザー響鬼紅が。
『響鬼!』
ライドウォッチのスイッチを押し、起動。
ウィザードライドウォッチを取り外し、響鬼ライドウォッチをセット。
ベルトの天面のボタンを押し、ロックを解除。そのままベルトを回転した。
『ライダー! ターァイム! 仮面ライダァー! ジ・オーウ! アーマーターァイム!』
瞬間、響き渡る音色。ジクウドライバーから仮面ライダー響鬼を模したアーマーが出現し、それをジオウは蹴った。
『響鬼ィー!』
蹴られたアーマーはジオウに装着。仮面ライダージオウ・響鬼アーマーに変身完了した。
変身した直後、ジオウは音撃棒・烈火Zを2本持ちアナザー響鬼紅を見据える。
地面を踏み込み、ヒビが入るほどの勢いをつけアナザー響鬼紅に向け跳躍。
常人を遥かに上回るスピードで迫り、音撃棒を振る。
受け止められる。予想通り。ジオウはマスクから火を噴き出す。かつて響鬼も使っていた"鬼火"だ。
直に顔に受け、悶えるアナザー響鬼紅。更に腹に衝撃。レムのモーニングスターとエミリアの氷塊であった。
ジオウも地面に降りて、そのまま腹にハイキック。その一撃により仰け反ったアナザー響鬼紅に音撃棒からの火炎弾の追撃。
今までのウィザードアーマーによる攻撃よりも効いているように見えた。響鬼アーマーによる特攻が働いているのだろう。
後ずさったアナザー響鬼紅はジオウを睨む。その時、雄叫びを上げた。
するとアナザー響鬼紅の下にウルガルム達が集まる。そのウルガルム達を————アナザー響鬼紅は喰らい始めた。
手でウルガルムを掴み、そのまま踊り食い。本来踊り食いは魚を食べるときに使う言葉だが。
その光景に思わず戸惑うジオウ達だが、しばらく捕食を続けていたアナザー響鬼紅に変化が起こった。
身体が再び巨大化し、さらには鎧のようなものまで顕現する。巨大化を終えたアナザー響鬼紅は、歪な赤い剣をその手に持っていた。
その名も————アナザー
その姿を目にした3人は構えるが、アナザー
「————————!」
大きな鳴き声を上げると、それが波動となって辺りの空気に伝わり、響く。
鳴き終わったが、特に何か異変が起こる様子はない……かに、思われた。
また鳴き声が聞こえた。アナザー
周りを見る。辺りからは地面を踏み鳴らす足音が聞こえる。
ジオウ達の横を、大きな蜘蛛や、大きな蟹が素通りした。更に、上空を何かが通過。
「今のは……!」
「……エミリア、レム。さっきのを追って。俺はこいつを相手する!」
「うん! 分かったわ! レム、行きましょう!」
「はい!」
エミリアとレムは蜘蛛と蟹が走ったあとを追う。ジオウとアナザー
見合う両者。お互いの獲物を構え、駆け出した。
◇
「フオォォォォォォ! 待て待て待て待て待て待て待て! こんなんがいるとか聞いてねえぞお!」
「うるさいわよバルス! 口より足を動かしなさい!」
「今すんげえ動かしてるよ! それでもこの感情が抑えきれねえんだよ!」
現在、ナツキ・スバルとラムは、大蜘蛛と大蟹に追いかけられていた。
大蜘蛛。その名はツチグモ。
大蟹。その名もバケガニ。
彼らはかつて響鬼が対峙してきた怪物"魔化魍"であった。
木を薙ぎ倒し2人を捕食せんと森を駆ける。
「くそ、どこまで追って……なんか増えてるー!」
バケガニとツチグモの他にも追いかけてくる怪物はいた。
頭に草を生やした泥を纏っている人型の魔化魍"ドロタボウ"。虫のような外見の魔化魍"ウワン"。これらが追加で追跡してきた。
「……一か八かの時間稼ぎ、やるしかねえ!」
「バルス!?」
「シャマク!」
叫ばれた瞬間、大きな黒い煙が発生。
しばらくして、その中からスバルとラムが。
「これであいつらの目潰しにはなっただろ!」
魔化魍に目潰しになったスバルが唯一使える陰魔法"シャマク"。
「ぺっ。助かったぜ、ガキども!」
スバルは地面にボッコの実の皮を吐き捨てる。ボッコの実とは、食べると体の中のマナが活性化し力を取り戻させるドーピングアイテム。
本来ならシャマクによってマナを大きく消費し、倒れるはずのスバルはこれで切り抜けたのだ。
「とにかくこのまま……」
と、後ろから木が薙ぎ倒される音がした。
「切り抜けるのはえーよ! もうちょっと足止めされろよ!」
再びツチグモとバケガニが追いかけてきた。スバルが文句を飛ばしたその時、二体は氷漬けになった。
「! この氷は……」
「スバル! ラム!」
スバルとラムの下にエミリアとレムが合流する。
「エミリアたん! レム! やっぱ目覚めてたんだな!」
「レム……良かった……本当に……」
「姉様……」
ラムがレムの腕に触れ、俯く。その声色は本当に安堵しているように思えた。
しかしそれも束の間。氷にヒビがいく音が。
一同がそれを見たときには、バケガニとツチグモは氷の拘束を解いていた。
「ッ、アル・ヒューマ!」
レムが氷柱を飛ばす。それを食らったときは怯むものの、ダメージを受けている様子がない魔化魍達。
「くそ、こいつらタフすぎんだろ!」
「でもどうにかはしないと……!」
「! 待ってください! あそこ!」
横を見ていたレムがスバル達を呼びかけて指差す。そこには様々な魔化魍達が何処かを目掛けて走っていた。
「あんなに……!? というかおい、まさかあいつら……!」
「村に行くつもり!? 不味いわ……!」
魔化魍達がアーラム村に行けばどうなるか。それは想像に容易い悲劇が起きるに違いだろう。
「あっちも行かなきゃだけどこっちにも怪物が……! くそッ、どうすりゃ……!」
スバルが眉を顰め、歯を食いしばる。
「……レムが足止めします! エミリア様はあちらの方へ!」
「レム!? でも……」
「エミリア様には大精霊様の力があります! 行くならば貴方の方が戦力になる! ここはレムに任せてください!」
「ッ……!」
「エミリア様、レムに任せましょう」
「ラム……!」
「レム、ここは頼んだわよ。それと……必ず生きて帰って」
「……はい!」
ラムの言葉に頷くレム。レムはモーニングスターを回して勢いをつけはじめる。
「エミリア様、行きましょう」
「…………ッ」
「置いていきたくないお気持ちはお察しします。ですがそれではレムの意思が無駄になってしまいます」
「……分かったわ。行きましょう!」
そうして3人は走り出す。
レムはその姿を一瞥し、再び敵を見据えた。
(…………そうです。これでいいんです)
少なくとも村を防衛することは優先事項。自身の姉もそう思っているはずだ。
"生きて帰って。"そう姉は言ってくれた。だが、この命を使い潰してでも、姉の役に立たなければならない。
「はあああああああっ!」
叫び、立ち向かう。白い角が青髪を掻き分けて顕現する。
黒い鉄球が、バケガニ達に向けて振るわれた。
◇
駆ける。駆ける。駆ける。
村へと迫る魑魅魍魎の百鬼夜行。それを止めんとする痴れ者達が駆け行く。
「絶対行かせないんだから……!」
エミリアが先頭になって走る。
もう少しで追いつけるか、と思ったその時、高速で何かがこちらに迫った。
「!」
それは火だと分かった。エミリアは咄嗟に氷柱を飛ばす。
火はその氷柱を避け、または破壊しながらエミリアに迫った。
「はあっ!」
分厚めの氷の障壁を作りその火を受け止めるエミリア。
その火は回転しているのか、氷を削ろうとしてきたがエミリアは弾く。
弾かれたそれは人型へ。その正体は狐の顔をした人型の魔化魍"カシャ"のようだ。
「貴方を相手にしてる暇はないの!」
そう言ってエミリアは氷柱を打ち始める。それを火炎放射をすることによって対抗するカシャ。
「! 何か周りにいる!」
「え!?」
ラムが周囲を警戒。すると茂みの中から人型の怪物達。
彼らはかつて戦国時代に存在した"魔化魍忍群"。血狂魔党に属していた人型の魔化魍で、名の通り忍のように鎌を使ったり、集団戦で戦う。
「くっ!」
「! 2人とも!」
エミリアはカシャに目眩しの氷柱をぶつけ、スバルとラムの下へ駆け寄る。
襲い掛かろうとした忍群を後ろから蹴り、手刀を喰らわせることによって払う。
「このままじゃ……!」
カシャと魔化魍忍群の相手をしている間にも、先程村に行っている魔化魍達は進軍している。
「どうしたら……!」
魔化魍忍群に関してはエミリアから見ても弱い敵だ。短時間でどうにかはなるだろう。しかし、カシャに関してはそうもいかない。
どうにか、この場を覆せることが————。
「はあああああっ!」
ジオウとアナザー響鬼は再び炎の剣をぶつけ合っている。横では魔化魍が走る音が度々聞こえる。
「……まずい気がする、かな……」
流石のジオウも次々と魔化魍の援軍が投入されているのを見て危機を感じていた。
「……だからって、負けるつもりもない、けどね……!」
『それでも、1人だと限界もあるだろ』
誰かの声が聞こえた。どうにか周りを見るが、その声の主はいない。
『力を貸すよ。日々鍛えてる、鬼達の力を』
すると、響鬼ライドウォッチが紫の光を放った。
◇
「やあっ! えいっ!」
魔化魍忍群をエミリアは徒手空拳で相手する。スバルとラムを守りながらだ。
「! 危ない!」
2人のすぐそばまで近寄っていた忍に一本の氷柱を打つエミリア。だが、そんな彼女にもカシャの攻撃が迫る。
「エミリア! 後ろ!」
彼女が後ろを向いた時には既に————。
カシャは何者かによって斬られた。
「え?」
それどころか、魔化魍忍群達も斬られていく。
「大丈夫っすか?」
魔化魍を斬った者がエミリア達に声をかけた。
声からして男のその姿は、肉体は深緑に包まれており、その顔は銀色の紋様と一本角が特徴的だった。更にその方には楕円形の斧らしき武器を持っている。
彼の横には、同じく深緑の肉体を持ち、顔は銅色の紋様と一本角が特徴的な者がいた。彼もまた斧らしき武器を持っている。
「……あ、助けてくれて、ありがとうございます! それで、貴方達は……」
「俺たちは……」
一方、別の場所。
「うっ……」
レムが魔化魍達の前で膝をつく。その身体はボロボロに傷を負っていた。
(ここまで、ですか……!)
持てる限りの力で戦ったが、敵うことはなかった。
自分は無駄死にで終わってしまうのか。役に立たず、そのまま終わるのか。
(姉様、ごめんなさい。やはり、やはりレムは……)
姉ならば、こんな失態はしない。
結局どこまでも、自分は劣化品に過ぎなかった。姉の代替品に過ぎなかった。
今までの人生が頭の中で走る。これが話に聞く走馬灯というものだろうか。
——————ああ、やっと、
こういう時に限って、思い出すのはあの時のこと。
炎の世界で舞う白を見て、自分が嘲笑ってしまっていたことを。
「お姉ちゃん……」
最期は誰にも、姉にも看取られず、怪物に喰われその養分となり死ぬのか。
『今の生き方で楽しいの?』
今際の際になって、未練を感じている自分がいる。
自分が姉と同じくらい強ければ、別の未来を歩んでいたのではないかと思ってる自分がいる。
それでも、今までの人生が嫌だったか、と聞かれれば、それは否定できる。
姉のために生きることは、何の苦でも無かった。それが自分の生きる意味だと分かっていたから。
その中で死んだとしても、別にいいって思ってた。
死んだ後に姉に何も出来ないという悔いはあっても、自分は結局劣化品だという現実を突きつけられるだけだから、死んでもそういう運命なんだって思うんだろうと考えた。
今だって、敵は倒せなくても、時間稼ぎくらいはできたから、姉のために死ぬようなものだ。
でも、でも。
(生き、たいなあ)
望む。生を。掲げる。願いを。今際の際際で、踊る夢。
ならば、ならば。立ち上がらねば。嗚呼、目眩がする。体の節々が痛む。
往生際の際際まで悪いと言われるだろう。みっともない足掻きと言われるだろう。
だがそれはこの場では許してもらいたい。今際の際なのだから。
極限の世界でこそ、本音は現れる。欲するものは浮く。レムもそれに過ぎなかったという話だ。
レムは魔化魍を目をかっ開き、見据える。息をゆっくりと口から漏らし、構える。
勝算はない。あるのは願いだけ。
魔化魍がレムにとどめを刺さんと動く。だが忘れるなかれ、勝利の女神が微笑むのは————。
「——————え」
諦めない者に対してだ。
「大丈夫ですか?」
黒い身体。顔に青い紋様。異形としかいえない姿の、声からして女性が、声をかけてきた。
側にももう1人、同じように黒い体と顔に青い紋様を持つ異形がいる。
「だ、れ」
「僕達は————」
エミリアがいる場所と、レムがいる場所。
そこにいた1人の銅の鬼と、青の鬼が言った言葉は、偶然にも一緒だった。
「「鬼だ」」
-アーラム村-
村に魔化魍達が迫る。当然ながら悲鳴は上がる。
村の人間達は逃げ惑うが、その中で1人の子供が転けてしまっていた。ペトラだった。
彼女に乱れ童子がゆっくりと迫る。ペトラはその顔を恐怖に歪めながら後ずさることしかできない。
「いや……いやぁ……」
乱れ童子はその様子を見て嗤う。彼女の不幸を楽しむように。
「助けて……!」
ペトラがそう言った瞬間、乱れ童子が持つ剣が彼女の身体を切り裂く————ことは、叶わなかった。むしろ、斬られたのは乱れ童子だ。
「え……?」
ペトラが手を下げ、顔を上げる。彼女の目の前は何者かがいた。
緑の肉体に、腰には赤い布をつけ、その顔には赤と緑の紋様が走り、頭には小さい緑の角と、大きな赤い角が。
その人物は、手に刀を持ち、乱れ童子を睨む。
「子供に、手を出すな……!」
静かに、しかし怒りを孕み、その言葉は告げられる。
彼の名は————仮面ライダー歌舞鬼。
「行くぞ、轟鬼!」
「行くぞ、あきら!」
「「はい!」」
エミリアとレムのところにいる二組の鬼達。
銅の鬼、仮面ライダー斬鬼。
銀の鬼、仮面ライダー轟鬼。
青の鬼、仮面ライダー威吹鬼。
同じく青の鬼、仮面ライダー天鬼。
彼らだけではない、集った鬼達は。
「やったんでー!」
「仏の声を聞いた、戦いの時だ!」
関西弁を用いながら駆ける黄色い鬼、仮面ライダー西鬼。
仏を信じる白き鬼、仮面ライダー凍鬼。
「帰ったら女房の飯が待ってるんだ、必ず戦いに勝つ!」
「敵は多いが、逃げたりはしない!」
翼を羽ばたかせ参戦した鬼、仮面ライダー羽撃鬼。
頭の鯱鉾が特徴的な鬼、仮面ライダー煌鬼。
かつて戦国時代に存在していた鬼達は集っていた。
当然ながら、集っているのは戦国時代の鬼だけではない。
弾鬼、裁鬼、鋭鬼、剛鬼、勝鬼、闘鬼、蛮鬼、朱鬼、吹雪鬼、山吹鬼、凱鬼。現代の鬼達。
佐鬼、鬼堂、弦鬼、暁鬼、江戸時代の鬼達。
導鬼、
「ふんっ!」
顔に紫の紋様を走らせる銀色の鬼が音撃棒を振るう。
「……響鬼さんの力を受け継いだんだ。負けは認めないからな!」
遠くで戦っているジオウに向けてそう言った銀色の鬼————京介変身体。
「感じる……他の仮面ライダー達が、集まってるのが……」
ジオウは他の鬼達の気配を察していた。響鬼ウォッチの力なのかは分からない。だが、少なくともこれだけは分かった。
「——————行ける気がする!」
響鬼の幻影がジオウに重なる。
戦鬼達の戦いの火蓋が斬られた。