Re:ゼロから始める異世界生活-Story of Zi-O- 作:きゃぷてん
レムは目を覚ました時、見知っている天井が目に入った。
「ここは……屋敷……」
自分は屋敷にいるのだと一瞬で理解する。少し気怠い身体を頑張って起こした。
「……姉様」
側で、ラムが椅子に座って寝ているのをレムは見た。
いつから居てくれたのだろうか。自身が寝た後からか、そうでないのか。何にせよ、自分が姉の手を煩わせたのは間違いなかった。
その時、扉が開く音がする。
「レム! 起きたのか!」
入ってきたのは、ナツキ・スバル。安堵したような笑顔をレムに向けている。それと同時に、座っているラムも起きた。
「……バルス、もう少し静かに入れないの? おかげで最悪の目覚めをしてしまったわ」
「ワリィワリィ。レムが目覚めてるってわかってテンション上がちまったんだ」
頭を掻きながら苦笑いするスバルにそう言われ、ラムの視線がレムへ向く。
「レム……具合はどう?」
「……今のところは大丈夫です、姉様。……すいません、お手を煩わせてしまい」
「いいのよ、そんなこと。気にしなくて大丈夫。貴方が無事なら、それでいいわ」
薄く微笑む。気にしなくていいと言われたが、そう簡単に受け入れるような性格をレムはしていない。
「……ラムは充分寝たから、仕事に戻るわ。バルス、レムに昨日のことについての説明は頼むわよ」
「おう、任せろ」
それからラムは扉から出て行き、業務へ戻った。スバルはレムに向き直り、側の椅子に座る。
「まあ、そう言うわけだから……昨日、レムが寝た後に何があったか説明するな」
「……はい」
◇
「————レムっ!」
身体が地面に倒れ込みそうになったレムを、ラムがどうにか受け止める。
レムの様子を見るが、気を失ってるだけと知り、安堵するラム。
「レム!」
「大丈夫、気を失ってるだけよ」
「ああ、そうか……」
スバルもレムが倒れかけたことに慌てかけるが、ラムの言葉を受けて彼も安堵した。
「戦いはどうにか終わったけど……村が無事か見に行かなきゃ!」
「そうだね」
「それでしたら、心配には及びませんよ、エミリア様」
エミリアの言葉にジオウが同意した時、上から声が聞こえた。一同が視線をあげてみると、そこにいたのは
「ロズワール!」
「その声は……ソウゴくんでいいのかーぁな? 何やらゴテゴテとした鎧を着けているようだけどーぉも」
それはロズワール・L・メイザースだった。地面へと降下し、一同の前に立つ。
「それで、心配に及ばないってどういうこと? ロズワール?」
「先程アーラム村の方を見に行きましたが、建築物の破損はあれど、村の死傷者はいなかったのです。住人達は、謎の戦士が守ってくれたと証言していましたよ」
「謎の戦士? ……もしかして、さっきいた鬼の人達?」
「そうだろうね。色んなところに別れて戦ってくれてたんだと思う」
エミリアに尋ねられたジオウがそう答える。
「彼らに感謝の言葉を言いたいところだけど、どこに行ってしまったのかーぁな?」
「…………帰った!」
「おやおや、随分と早いお帰りだねぇー。ま、帰っちゃったのならしょうがないかぁー」
ジオウからの勢いのいい回答に特に気にした様子のないロズワール。
「とりあえず、屋敷に戻るとしよう。皆、お疲れだろうしねーぇ」
◇
「……って感じで、ロズワールと一緒に屋敷に戻ってきたんだ。村で破損した建築物はソウゴが直してくれたって感じだな。それと村の人達には、謎の魔獣は全部駆逐したって説明したぜ」
「……そうですか」
一通り、スバルの説明を聞き終えたレム。
「……スバルくんは、ウルガルムに沢山噛みつかれてましたよね? 呪いは、もう大丈夫なんですか?」
「一応、大丈夫らしい。噛み付いた奴らは全員死んだみたいだ」
「……そうですか」
そう呟くレムの表情は沈んでるように見えた。そのまま、スバルに向き直り
「ごめんなさい、スバルくん」
「へ?」
「魔法で治癒ができても、怪我によって出来た傷跡まではどうにもできない。レムが、あの時に駆けつけれなかったせいで」
「そんな……レムのせいじゃねぇよ。それに傷跡とかも大丈夫だ。傷跡は男の勲章っていうし?」
おどけるようにそう言って、レムを励まそうとするスバル。しかし、レムの顔から影は消えない。
「……姉様なら、もっと上手くやれました。姉様なら、失敗なんてしない。姉様なら、負けたりなんてしない。姉様なら、完璧にできた。姉様なら、間違わないんです」
神格化してるのかと言わんばかりに、姉であればとレムは語り続ける。
「レムは、結局姉様の代替品です。姉様よりもずっと劣ってる、出来損ないなんです。今回だって、レムは何の役にも立てなかった」
今回も、スバルが大量のウルガルムに噛まれることを許してしまい、その挙句自分も昏睡状態に陥り、何もできないままに助けられるのを待つしかなかった。
目覚めた後も、魔化魍達の足止めをしようとしたものの、まともなダメージさえ与えることもできなかった。
今も、自分がここにいるのは気絶してラム達の手を煩わせてしまったが故であるのだ。
「どうして、レムに角が残ってしまったんでしょうか。なんで、姉様に角が残らなかったんでしょうか。なんで姉様は、角を一本しか持ってなかったんでしょうか。どうして、双子になったんでしょうか」
自分の存在意義を求めるように、言葉を溢し続ける。その言葉にスバルは黙り込む。
「……ごめんなさい、おかしなことを言ってしまいました。忘れてください」
「なあ、レム」
発言を取り消そうとしたレムの名をスバルは呼んだ。
「聞いてる限り……お前、馬鹿だよ」
「え?」
「過ぎたことでうだうだ言ったってしょうがねーだろ? 今ここに元気な俺がいれば、それでいいじゃねーか。終わりよければ全て良し、とも言うしな」
親指と人差し指で丸をつくり、レムに向けてウィンクするスバル。
「そんでだけどよ、レム……姉様だったらってラムをよいしょして持ち上げまくってるけど、別にレムじゃなくてラムがいたってどうにかならなかったと思うぜ?」
「違うんです。姉様に角さえあれば、本当の姉様からそんな評価は」
「でも、ラムにその角はねぇ。たらればのラムを俺は知らん。それに、そうやって角のあるなし気にしたってしゃーねぇと思うぜ? 相手と自分を比較したって気分ダダ下がりになるだけだろ」
「…………」
「ラムにはないものがレムにはある。それを認めていけばいいんだ。だろ? それにだ、今回の事件でMVP……最功労者は実はお前だったりするぜ?」
「え?」
スバルの言葉に疑問が上がるレム。何せ、自分が今回の件で役に立てたことは一つもないと思っているからだ。
「お前、ソウゴにライドウォッチっての渡しただろ?」
「らいど……うぉっち?」
「ほら、紫色のやつ」
「……あれですか。あれがどうしたんですか?」
ソウゴ達が屋敷に来る前に拾ったアレ。それの名称がライドウォッチだということはレムは初めて知った。渡した直前、ソウゴがそれの名前を呼んでいたこともついでに思い出した。
「なんでも、アレがなかったら今回の事件の大元を倒せなくて更にやばいことになってたかもしれないらしい。だから、それを届けてくれたレムは最功労者ってことだよ」
「…………」
どうやらかなり重要なアイテムだったらしいことを悟るレム。アレがなければ、昨日の戦いで全滅して完全敗北していたということだ。
「ソウゴも言ってたよ、レムのおかげだってさ」
「ソウゴくんが……」
「これは姉様がいたとしてもどうにもならない問題だろうな。お前がいたからどうにかなったんだ。ありがとう、レム」
「——————ッ!」
レムはスバルの言葉に、ひきつらせるような呻きを漏らす。それから顔を背け
「レムは、姉様の代替品だと、ずっと」
「んな寂しい自己定義はやめとけよ。それよりこう思った方がいいんじゃいねぇか? 角がないラムの角の代わりを、レムがやればいいんだよ。二人で一人って感じで、仲良く鬼をやればいいんじゃねーか?」
「————ぁぅ」
「それにさ、代替品とか言ってるけど、それこそラムにはレムの代わりはいないと思うぜ?」
「でも」
それでもなお、レムはスバルの言葉に頷こうとしない。
「分かったよ、じゃあこうしよう。レムはレムの中の理想のラムと自分を比べて、にっちもさっちもいかねぇと。なら、その偶像の理想のラムは消しちまえ」
「そんなこと、簡単には出来ません。レムはずっと姉様と……」
「だから、評価欲しかったら俺に聞けよ。その理想のラムよりずっと、俺が現実に即した評価を下してやるよ。言っとくけど、俺は率直に言っちまうぜ?」
悪い笑みを浮かべながらレムに告げたスバル。
「俺の故郷じゃな、"明日の話をすると鬼が笑う"って言うんだよ。だからさ、笑えよ、レム。しけた面でいるより、笑え。笑いながら、明日の話をしよう」
「明日の、話」
「そうだ、なんでもいいぞ? 明日の朝食は和食か洋食かとか、靴下は右から履くか左から履くか。こんなくだらないものでもいい。つまらない話でも、明日があるからできる明日の話だよ。どうだ?」
手を広げて答えを求めるスバル。レムは、しばらく返事を躊躇い、眉を下げる。
「レムは、弱いです。だから、寄りかかるかもしれません」
「いいんじゃねぇか? 俺も結構他力本願で生きてるからさ。お互い、寄りかかって進めばいいと思うぞ」
一人で抱えるより、二人で分け合う方が、気楽なものだ。
「笑いながら肩組んで、明日のことを話そうぜ。おれ、鬼と笑いながら明日の話をするの、夢だったんだよ。こういうの、鬼がかってるだろ?」
「鬼、がかってる?」
「神がかるの鬼版ってとこだ。俺、神より鬼の方が好きだからさ」
「……そう、ですか。……鬼がかって、ますね」
「だろ?」
片目を瞑り、口の端を歪めるとレムもつられて小さく笑う。笑い出し、その瞳の端からふいに涙が流れ出す。
どれだけ涙が流れようと、レムは笑い続けた。泣き笑いをし続けて、嗚咽と笑い声を抑えるように布団に顔を押し付けて、それでもレムの泣き笑い声は部屋の中で静かに響く。
スバルは、そんなレムの頭を優しく撫でた。
「明日なる夢……か」
部屋の外の、扉の前にいた常磐ソウゴは、響鬼ライドウォッチを手にしながら、そう呟いて何処かへ歩き出す。
少女にとっての、新しい一歩。それはきっと、新たな旅立ち。窓から見えるのは青い大空。この晴れている日に、大きく胸を張って。