Re:ゼロから始める異世界生活-Story of Zi-O-   作:きゃぷてん

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この回で改めて二章終了です


2019:スペシャルズ

 レムとスバルが会話を交わして、少々の時間が経った後。

 

 一同は食堂に集っていた。ご飯の時間である。

 

「さてさてさて、皆仲良く食事の時間……と行きたいところだけど、まず一つ、お話があーるよぉ」

 

 席に座っていたロズワールがエミリア、ソウゴ、スバルに向けて告げる。彼の後ろにはレムとラムが控えていた。

 

「ナツキ・スバルくん、トキワ・ソウゴくん。此度は私が不在の間、我が使用人のレムが、エミリア様の恩人でもある君達に無礼を働いたこと、心から謝罪しよう」

 

 ロズワールは普段のような間延びした口調ではなく、それを言った後にスバルとソウゴに向かって頭を下げる。

 

 スバル的には、普段はおどけているような彼がこうも真面目にしている様を見て、ちゃんと貴族なんだなとちょっと見直した。

 

「レム」

 

「はい」

 

 呼ばれたレムは前に出て、スバルとソウゴを見る。

 

「…………改めて、スバルくん、ソウゴくん」

 

 レムはスバルとソウゴ、二人の前にいた。

 

「あの日、二人を襲ってしまったこと……今ここで、謝罪します。……本当に、ごめんなさい」

 

 腰を約90度曲げた後、レムは二人に謝罪の言葉を告げた。それは言わされているとかそのようなものではなく、心からのものに思えた。

 

「それでだが、私はこの件に関するレムの処遇は、君たちの意思を聞いてから決めようと考えている。君たち2人は、レムを許すかな?」

 

 問いかけられる2人。彼らは顔を見合わせると

 

「許す!」

 

「俺も」

 

 スバルが腕を組みながらそう告げ、ソウゴも同意した。そばにいたエミリアはその答えを聞いて表情を柔らげている。

 

「……ふふ、そうかい」

 

 微笑んだ後、ロズワールはラムの方に首を傾け

 

「ラム、今日を持ってレムへの監視は終了とする。いいね?」

 

「はい、ロズワール様」

 

 ラムは短くそう応える。

 

「レム…………ちゃんと、約束を守ってくれたのね、ありがとう。2人のこと、信じてくれたのね」

 

 エミリアは以前にレムとした約束を思い出す。もしもレムが2人を信じれたなら、襲ったことを謝るという約束だ。

 

「……はい」

 

 レムは小さく笑いながらエミリアの言葉を肯定する。

 

「約束って何の話……?」

 

「後で聞いてみたら?」

 

聞いてたスバルが小声でソウゴに尋ねて、そう返された。

 

「さて、と。堅苦しい話もここまでにして、ご飯の時間としようじゃあなーぁいの」

 

 それからそれぞれにご飯が配膳され、改めて食事の時間になった。

 

 

レムにとっては、姉と比べられていた日々は苦痛だった。

 

鬼族は亜人族の中でも、高い膂力とマナを持っている。肉体の強靭さ、扱うマナの質、比類なき戦闘能力は亜人族をして最強と名高い。

 

 弱点があるとすれば、種としての絶対数の少なさ。鬼族は多くの命を産むことは出来ず、山奥での暮らしを余儀なくされた。

 

 それ故に、厳しい掟も存在する。

 

 例えば、鬼族にとって双子は忌み子である、とか。

 

 元来鬼族は2本の角を持って生まれる。角は普段頭蓋に隠れてるが、それを顕現させた際には、周囲のマナを喰らい、戦闘能力を高める。鬼にとって誇りの証。

 

 しかし双子は2本の角を分け合って生まれる。鬼族では角のない者は"ツノナシ"と呼ばれ、種族としての立場を失くす。その角を、一本でも欠けて生まれるのだから、忌々しいものなのである。

 

 双子は出産の直後に処分をされる。

 

 とある双子も、本来は死ぬはずだった。

 

 片割れが、大きな力を見出されていなかったら。

 

 

 姉はラムで、妹はレムとされた。

 

 彼女らの生活は、決して順風満帆だったとはいえない。

 

命を救われたとはいえ、双子だもいう事実は拭い去れない。レッテルを張られた二人は冷遇されて育った。

 

血が繋がっているにも拘わらず、余所余所しい態度の両親。嫌悪と侮蔑を隠さない同族。それは二人にとって、最低なものだった。

 

もっとも、そんな悪環境での生活がどれほど続いたかといえば、それは彼女らが物心つくまで。正確には、双子の姉が自意識を確立するまでであった。

 

幼児期のラムを表現する上で、もっとも適切なものは『神童』であろう。

 

歴代鬼族の中でもずば抜けた才能。年少にしてラムの扱うマナの保有量は凄まじいものだった。

 

己の才に、力に溺れず、額に宿した角そのもののように真っ直ぐに自身を示す姿に、同族の誰もが頭を垂れた。

 

まだ十に満たない少女に対して、それは別格の扱いであった。

 

余所余所しかった両親も、嘲弄を隠さなかった同族も、生誕直後に姉妹を殺めようとした族長ですら、ラムの威光の前には言葉もない。

 

亜人族の中でも選ばれし鬼族、その鬼族の頂点となるべく生まれた存在。

 

強大な個を尊ぶが故に、強人である存在に対して礼を尽くすことを欠かさない。

 

そんな鬼族だからこそ、ラムへの献身に一切の打算は存在しない。

 

そんな姉の栄光の道をついてくのがレムの日常だった。

 

飛び抜けた才能は何もない。扱えるマナの量は平凡で、鬼としての力も角一本の身としての平均。いつも姉の背に隠れて小さくなり振舞う。

 

それこそが幼いレムの処世術であり、心を守る手段だった。

 

姉が妬ましかったわけではない。姉を尊敬し、敬愛していた。

 

両親が憎かったわけではない。二人はレムのことも愛してくれていた。

 

同族が疎ましかったわけではない。期待されて当然だ。姉の妹なのだから。

 

誰よりも優しい姉。期待をかける両親。姉のようになれと応援する同族の皆。その全てが、レムにとっては身を切り刻まれるような苦行だった。

 

見た目が姉と瓜二つだったことも少なからず影響したのだろう。身長や顔立ち、容姿全てが似通っているのに、『鬼』としての資質だけが大きく違う。

 

無論、レムもその状況を変えようと努力をした。

 

レムはあらゆる手段を試して姉に一歩でも近づこうと、姉に勝ろうと努力したのだ。

 

しかし、全てにおいて姉はレムの上をいっていた。

 

何をしても届かない域があることを。それが誰よりも身近で、誰よりも愛おしい存在であることを、レムは幼き時から悟らされてしまった。

 

姉に並ぶことはできない。

 

自分は、姉の後ろに隠れることしかできない。

 

そんな諦めを抱えた日々が、どれほど続いたことだろうか。

 

ある夜、レムは暑さによる寝苦しさを感じて目を覚ました。

 

寝台に横たわり、汗だくの体から布団を引き剥がす。周囲を見回してレムはふと、隣で寝ているはずの姉の姿がないことに気付く。

 

すぐに、姉を探しにいかなくてはならないと思った。姉が目覚めているのなら、その後ろに付き従わなくてはならない。それが一時の目覚めであっても。

 

部屋の外に出てそう考えたとき、レムは遅まきに気付く。

 

暑さの原因、それは我が家が炎に包まれているからだと。

 

ドアノブの熱さに手を離し、レムはその事実に思い至る。嗅覚が焦げ臭さを感じ取り、額をむず痒さが走ると角が顕現した。

 

即時、強化された肉体で扉を破り、業火に覆われる家屋を駆け抜ける。理由はわからない。しかし、本能の命ずるままに外へ。

 

脆くなった壁を破壊し、レムは家の外へ飛び出した。この瞬間においてもレムを支配していたのは、『姉の指示を仰がなくては』という狂信めいた思考だった。

 

その思考が、家の外で目の当たりにした光景を前に一瞬で塗り替えられる。

 

集落の中央、そこにうず高く積まれた黒焦げの死体の山。

 

燃え盛る家々、焼かれる木々、見慣れた世界が一晩で地獄絵図へ。

 

死体の中に親しんだ顔が並んでいるのが見えて、レムは思考を放棄し、その場に崩れ落ちた。

 

そんなレムを取り囲む黒いローブの人影。深々とフードをかぶった影の顔は間近にくるまで見えず、見えた顔にも見覚えがない。しかし、そこに友好的な物は一切感じ取れず、レムの頬は似合わない微笑みを浮かべていた。

 

それは幼い少女が作るには達観しすぎた、諦めを何度も噛み殺した顔。その痛ましささえ伴う表情に、影は微塵も取り合わない。

 

手を振り上げ、その掌の中に輝く銀色の刃を少女へ向けて振り下ろそうとした直後、影の首が一斉に吹き飛ぶ。それを姉の仕業だとレムは確信する。

 

それを見取った瞬間、レムはその場に立ち上がる。姉がどこかにいるのならば、その背中について行かなければ。

 

視線をめぐらせる必要もなく、すぐに姉の姿は見つかった。

 

自分と瓜二つの顔を歪めて、姉は妹に駆け寄ると抱きしめる。腕の中のレムの体に傷がないのを確かめ、安堵したように弛緩する体。

 

その体を抱きしめ返しながら、レムはこれ以上ない幸福と哀切を噛みしめていた。

 

その後のことは、よく覚えていない。全てを姉に任せていたのだとは思う。

 

それが最善で、何より正しい。姉のすることはいつだってもっとも尊ばれるものであるのだから。なのに、気付いたときには周囲を取り囲まれていた。

 

人影の数は視界を覆い尽くすほどで、それらをぼんやりと眺めながら、レムはそれでも姉が何とかしてくれると信じ切っていた。

 

目の前の背中が、懸命に何かを叫んでいる。

涙を流し、必死で何かを訴えかけている。

 

地に伏せられると、レムが困る。姉を見下ろすことなど、レムの生き方においてあってはならないことだ。

 

姉の後ろで、姉より身を小さくして、そうすることが存在意義。姉が叫ぶ。立ち上がり、自分の前に両手を広げている。

 

マナがほとばしる。姉の常軌を逸した力が展開され、周囲ことごとくを切り刻む見えない刃が世界を蹂躙する。

 

だが、それが走る前に、姉は振り返ってレムを抱きしめて、衝撃。

 

そして、レムは見た。その白い輝きが赤い空を舞うのを。

 

折られた角が回転する。根本から折れた角、噴き出す鮮血、そして甲高い誰かの絶叫。

 

それを目にして何を思ったのか、今でも鮮明に覚えている。

 

自分を庇って、暴行を受けて、角を折られた敬愛する姉の悲鳴を聞きながら、羨望し続けた美しい白い角が宙を舞うのを見ながら、

 

ああ、やっと折れてくれた。

 

と、そう思ったのだ。

 

 

その後の詳しいことは、何が起きたのかレムにもわからない。

 

いつの間にか失っていた意識が戻ったとき、レムは住み慣れた故郷を離れて大きな屋敷に匿われており、そこには『角』をなくした姉の存在もあった。

 

先に意識の戻っていた姉は、レムが目覚めたことを大いに喜んでくれたが、レムの心を支配していたのは、角を失って常人以下にまで能力を落とした姉のことばかりだった。

 

振舞いこそこれまでと変わりないが、あらゆる物事に発揮された才気は見る影もない。姉が些細なことに苦心するのを、レムが手助けする機会が何度も訪れた。

 

そうしてかつての輝きを失い、自分より劣った姉を前に、レムの胸中に優越感が芽生えたかといえば、それは間違いだった。

 

このときより、レムの心身に根付いたのはかつての劣等感を上回る強迫観念。

 

即ち、世界に愛された姉という存在を貶めたことへの罪悪感であった。

 

レムが姉を強く敬愛していたことも、この罪悪感に拍車をかけた。レムの内心が優秀な姉に対する嫉妬心だけで満たされていたなら、そんなことにはならなかっただろう。

 

だが、レムは姉を愛していた。そして、その姉の角が折れた瞬間に自分が何を思っていたのか。そのことを忘れて生きられるほど、器用ではいられなかった。

 

「お姉ちゃん……姉様のできたはずのことを、全て代わりにやれるようにしなくては」

 

姉の呼び方を変えて、その背に隠れていた日々を置き去りに、レムの奮闘は始まる。

 

あらゆる物事と役割に、『姉ならばこうしたはず』という意識で臨む。

 

もとより後ろでずっと姉の行いを見てきた。判断に迷いはなかった。

 

そのはずなのに、結果は求めていたものを常に下回る。当然だ、姉はもっとすごい。

 

欠けた姉と足りていない自分、二人を足してもかつての姉にはまるで届かない。

 

本来ならば姉が歩き、姉が作り、姉が導いてくれたはずの道のりを、レムは手探りで姉の手を引きながら進まなくてはならなかった。

 

そこにはもはや、レムという一人の少女の人生は存在していない。

 

レムにとって、レムの全ては『本来あったはずの姉の人生』をなぞるだけのものでしかない。それすら満足にできない自分に、信じられる価値などあるはずもなかった。

 

月日が経った。焼き払われた故郷から二人を引き取ってくれた屋敷で、日に日に理想と意離していく自分たちにレムは摩耗していった。

 

使用人としての役割が不本意なのではない。二人を引き取った主人は善良であったし、何より姉は心身を捧げても構わないと断言するほどに心酔していた。

 

順風満帆に思える日々に問題があるとすれば、全てはレムに責任のあることだ。

 

よくやってくれる、と主人は褒めてくれる。そんな言葉は故郷で何度ももらった。

 

無理をしないで、と姉はレムを心配する。無理を絞り出しても、まるで足りない。

 

どうしてそんなに頑張るのか、と誰かが無責任にレムへと問いかける。

 

そんなことは、決まっている。

 

何もかもが足りていないからだ。全てを絞り尽くして、魂を削り切って、この身を燃やし尽くしてもなお、本当ならあったはずのものに届かないからだ。

 

何のために生きるのか。

 

全ては、あの炎の夜に思ってしまった自分の愚かしさへの贖罪のために。

 

何をすれば贖罪になるのか。

 

レムが奪ってしまった、姉が歩くはずだった道を身命を賭して切り開くことで。

 

自分の全ては、姉の劣化品なのだから。代替品に、過ぎないのだから。

 

 

強迫観念にさらされたまま、摩耗する日々をレムが過ごして七年近い年月が過ぎた。

 

レムにとっては満足のゆかない結果しか出ない日々でも、懸命に努力する彼女の姿を周りは評価する。ロズワール邸でもっとも有能という評価を得て、王選を控えた大事な時期にロズワールの側仕えを命じられたのも、その一環だ。

 

身に余る評価だと答える傍ら、レムの胸中には薄れることのない焦燥感が満ちていた。

 

月日を重ねても消えないどころか、よりいっそうに彼女の心を厳しく締めつける罪の意識。それはなおも、彼女に自分の人生を姉に捧げ続けさせていた。

 

「俺は常磐ソウゴ、よろしくね」

 

「俺の名前はナツキ・スバル! 万夫不当の職歴なし! どうぞよろしく!」

 

ロズワール邸に異物が紛れ込んだのは、姉とエミリアが王都から戻った日のことだ。

 

エミリアの恩人という理由で、少年が屋敷に運ばれ、もう1人の男も来た。

 

1人の少年は目覚めるとロズワールと交渉し、あれよという間に使用人見習いという立場を勝ち取り、もう1人は食客として扱われることに。

 

素性のうかがい知れない2人に、レムが強い不信感を抱くのは当然のことだった。

 

ましてや2人からは、レムにとって耐え難い記憶を刺激する臭いが漂っていた。

 

魔女の残り香。極稀に、その清気を身にまとっている存在がこの世界にはいる。

 

故郷が火の海に呑まれた夜以来、レムの鼻はそのかすかな瘴気を嗅ぎ取ることができるようになっていた。理由はわからない。ただ、その気が忌まわしい記憶を呼び起こし、良からぬことを企む輩から漂うものであることは七年の月日が証明していた。

 

自然、瘴気を漂わせる2人を見るレムの視線は、厳しくならざるを得ない。

 

ロズワールやエミリアの手前、反感を表に出すことはできないでいたが、代わりに2人の内側を暴こうと眺めることや、揺さぶりをかけたりもしてみた。

 

角をなくした姉にとって、心酔するロズワールとの関係はこれ以上を望むべくもない。姉の本来の居場所を奪ったレムにとって、姉が安堵できる場所を守り続けることは必然以上の何物でもなかった。故にこの環境に害をもたらすものに、レムは容赦しない。

 

見る限り、2人に決定的な不和をもたらす行いはない。だが、様子を見るという姉の意見を聞き入れながらも、レムは早々と彼らを屋敷から遠ざけるべきだと考えていた。

 

何かが起きてからでは遅いと、レムがそんな結論を出した。

 

 結果はまあ、失敗に終わった。まずは片方から潰そうとしたが、何故かそれを嗅ぎつけてきたもう片方に阻止された。

 

 その後は姉から事情聴取を受けた。

 

 どうして、襲ったのかと。

 

 そして、ありのままのことを説明した。魔女の残り香のこと、それがあったから襲ったこと。

 

 それを聞いた姉はそれ以上追求しなかった。ただ、これからは自身のそばに姉が監視としてつくことになった。

 

 それからエミリアと話して、約束をした。自身が2人を信じれたら、襲ったことに関し謝罪するというものだ。

 

 果たされることはないだろうと心の中で思っていた。魔女の匂いを漂わせる2人のことを、信じられるわけがないから。

 

 翌日のこと。

 

 買い物の際、普段は屋敷で食客として扱われてる彼がついてくると言い出した。

 

 姉がそれを許可した以上、自分もそれを了承した。

 

 村に着いた時、彼は話すことを求めた。どうやら自身のことについてらしい。

 

「今の生き方で楽しいの?」

 

 そんな資格、あるはずがない。人生を謳歌していいはずがない。代替えである自分に、罪を背負う自分に、それは許されていないこと。

 

 誰がどう言おうと、この生き方が破滅的だろうと、変えるつもりはない。

 

 

異変が起きた。村に火事が発生していたのだ。

 

現場に急行して見えた光景は、燃えゆく民家と逃げゆく村人。

 

 なんとなく、あの日の光景と重なった。

 

 現れた異形。人間なのか、魔獣なのかは分からない。だが少なくとも、倒す必要があることはわかる。

 

 その時、ソウゴが自分に愛用の武器を渡してくれた。森で探してきたという。なぜわざわざ、とは思ったが————それを考えてる暇はない。

 

 異形達は森の奥へ逃げ込み、更に村の子供らが行方不明になってるという情報も入った。

 

 異形を追う傍ら、子供達も探し、発見した。しかし後1人足りない。ならもう既に……。

 

「分かってるよ、でも……ダメだったとしてもちゃんと遺体は持ち帰りたい。それに、俺はペトラの意思を汲みたいんだ」

 

「俺も、最後の子も探すべきだと思うな」

 

 なぜ2人が関係性の薄い子供達のために必死になろうとするか分からなかった。特にスバルに至っては、完全に無力だというのに。

 

 それでもスバルは子供達と関係があると言ってた、だから助けようとする。ソウゴは……王様がどうとか言っていたけれど。

 

 彼らのその意思に、レムが何も思わなかったわけではない。心にあった敵対意識が少し削がれるのを感じた。

 

 それから森の奥へ————しかし、そこにあったのは罠。

 

 その戦いの中、スバルがウルガルムに狙われる。それを気にした隙を狙われて身体に火がぶつけられる。

 

『スリープ』

 

そんな音が聞こえた後、身体は光に包まれ————レムは意識を失った。

 

 

次に目が覚めた時、何処かの家屋に。

 

エミリアから話を聞いて、ソウゴやスバル達が森の方へいることが分かった。

 

 そして、紫色の鬼の夢。

 

まずは屋敷へ戻り、自分の部屋まで直行。

 

引き出しを開き、中に"ソレ"はあった。

 

「………………」

 

 ソレを手に取る。形状はソウゴが使う物にそっくりだった。

 

 エミリアが呟いた言葉から、自分達はソウゴらに助けられたのだろう。意識を失ったのは恐らく敵の攻撃で、それをした本人が撃破されたことで目が覚めたのかもしれない。

 

 ここまで来て、まだ彼らに敵対意識を抱けるか。否、抱かない。そんな恩知らずなことは出来ない。

 

 だからソレを持ってソウゴ達がいる場所へ駆けた。

 

 ソレをソウゴに託し、自身はエミリア達と共に異形達の元へ。そこで姉とスバルと合流し、自身は異形達を足止めをすることにした。

 

 しかし、敗北。

 

 浮かぶ諦観。そして、湧き上がる生への衝動。

 

 やがて、集結した鬼達によって全ては終わった。

 

 そして、傷を負い意識を失い、次に目覚めたのは屋敷。

 

 そこで、スバルと対話をして————彼に救われた。

 

 

「なんだが嬉しそうじゃなーぁいの、レム」

 

「!」

 

「口元、ちょっと笑ってるよ?」

 

 ロズワールに指摘され、自分の口角が上がってることに気づいたレム。

 

「何かいい事でもあったのかーぁな?」

 

「…………はい。とても、良いことがありました」

 

「ふふ、そーぉかい。それは良かった」

 

 ロズワールの問いに、微笑みながら頷くレム。その視線をふと、スバルに向けた。

 

 彼を目に入れると、胸の内から湧き上がるものを感じる。この湧き上がるものが何なのか————それをレムは理解している。

 

「あ〜、色々あった後のレムの飯は最高だな! 身体に染み渡る!」

 

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいですっ」

 

 ただ、この瞬間を共に過ごせるだけでも、彼女にとっては充分だった。

 

 

「まずは不在中の労をねぎらおうじゃあないの。よくぞ、事態の収拾に努めてくれた」

 

「もったいないお言葉です」

 

ロズワールとラム。二人が話す場所は屋敷の最上階、ロズワールの執務室だ。

 

「それで、スバルくんのその後の経過はどんなもんかーぁな」

 

「体の方は問題なく治っています。ですが、バルスは短期間で二度、枯渇状態からゲートを無理やり活性化させていました。……ゲートをこじ開けて酷使しすぎた影響で、まともに機能するまでどれほどかかるか」

 

「大精霊様とベアトリスの見立てなのかな?」

 

「はい」

 

ゲートの損傷、それはマナを扱う魔法使いにとって致命的な障害だ。ロズワールには、今のスバルの状況の悪さが強く痛感できる。

 

「問題はゲートの損傷だけでなく、呪いの残滓のこともあります」

 

「発動の危機は去ったはずだね?」

 

「術者……この場合はウルガルムになりますが、それらの一掃によって術者は不在。呪いが発動することはありませんが…-術式はバルスの体の中に残されたままだそうです」

 

「複雑に絡んだ糸は、ベアトリスであっても外すのは困難か……いやはや、まさしく呪縛じゃあないの。時にラム……魔獣の話題ついでだーあけど、頼んでいたことの確認は取れたかな?」

 

珍しく神妙な顔つきのロズワールの問いに、ラムは迷いなく頷く。そうして返答を待つロズワールに、ラムは己の額に触れながら、

 

「死骸の確認ができた個体に限りますが、魔獣は全て"ツノナシ"にされていました」

 

額に触れた指先が、ヘッドドレスの下にある古傷をさする。かすかに疼く傷跡を意識しながら、ラムはロズワールにそう報告を上げた。

 

「ツノナシ……そうなると事情はただの害獣問題から大きく変わってきてしまうねーえ」

 

「角を折られた魔獣は折った相手に従う。屋敷を、あるいはロズワール様の領地を意図的に荒らそうとした愚か者がいることになります」

 

「まーあた王選絡みになっちゃうかーあな。ガーフィールのところへの誘い出しといい、よほど私たちが邪魔と見える」

 

「ガーフ……ガーフィールはなんと?」

 

「けんもほろろってやーあつ? もともと、彼らの手を借りれるかは微妙なところだし」

 

既知の名前が出たことに眉を上げるラムに、ロズワールは困った顔で肩をすくめる。飄々とした態度だが、内容が軽く流せるものでないのはラムも承知していた。

 

もとより勝算の薄い戦いだ。持てるカードは一枚でも多い方がいいに決まっている。

 

自らもそのカードの一枚である自覚があるラムは、そのロズワールの孤独の戦いを見ているしかできないことが歯がゆくて仕方がない。

 

「話を戻そうか。その魔獣の角を折った、『親』の目星はついてるかなーぁ?」

 

「……一応。ただ、足取りはすでに消えています。トワキが森から連れ帰ったはずの子どもが一人、翌日から姿が見えなくなっていると」

 

 ソウゴが連れ帰った『青髪のお下げの少女』について、村民は口を揃えて見知らぬ少女であったと答えた。子どもたちも、いつの間にか輪に加わっていたと証言している。

 

聞けば最初に村に魔獣の幼体を連れ込んだのも彼女で、子供達が森の奥にいたのは、彼女が皆を連れて結界を超えたからだという。十中八九、その少女が『親』だろう。

 

「王都では『腸狩り』、領地では『魔獣使い』と、おかしな面子に絡まれたものだよ」

 

「イロモノがどれほど集まろうと、それで挫けるロズワール様ではないのでしょう?」

 

「あらま、生意気言うようになっちゃって。おいで」

 

笑うロズワールがラムを手招きすると、ラムは彼の傍らヘ。ロズワールの伸ばした手がラムの小柄な体を抱き寄せ、膝の上に乗せる。そして、

 

「三晩、構ってあげられなかったかーぁらね。また辛い思いをしたんじゃないの?」

 

「ロズワール様のご多忙は承知しています。ラムのことなんて、後回しでも……」

 

「ラム、いつも言っているじゃーあないの」

 

目を伏せるラムの顎に指を這わせ、顔を上に傾けさせてロズワールは微笑みかける。

 

「君とレムは私の中で、指折りの大切な存在なんだよ? そう、仮に今回の件で君たちにもしものことがあれば、私は自分を押さえられたか自信がないほどに」

 

顎に指を添えられたまま、芝居がかった言葉を投げかけるロズワールにラムは陶然とした顔つきになる。熱に浮かされたような目で、ラムは至近のロズワールを見つめ、

 

「ラムとレムは、ロズワール様にとって大切」

 

「そう、君とレムは私にとって大切で、大事で、何より重要な……欠かすことのできない駒だとも」

 

堂々と、ロズワールはラムに対してそう告げる。

 

そこには一切の罪悪感もない、純粋に事実を羅列しているに過ぎない響きがあった。

そうして、己の存在をはっきりと駒だと言い切られたラムはそれを受けて、

 

「はい」

 

と、頬を染めてうっとりと頷いて返した。

従順とも心酔ともいえるラムの態度、ロズワールは膝の上の彼女をさらに引き寄せ、

 

「さーぁて、じゃあ始めようか。ラムもだいぶ無理をさせてしまったろう? 控えるように言っていたのに、かなりマナを消耗したね?」

 

「申し訳ありません……お願いします」

 

ロズワールの言葉を受けながら、ラムは桃色の髪を彩るヘッドドレスを外す。

その装飾の下、桃色の髪を掻き分けてロズワールの指が入ると、額の少し上のあたりにかすかな白い傷跡が存在している。

 

かつて、彼女を鬼族にして、神童と言わしめた時代の名残だ。

 

その傷跡に、ロズワールはまるで愛おしいものを愛でるように指を滑らせ、

 

「星々の加護あれ」

 

四色の輝きがロズワールの手に纏われ、その光は触れるラムの傷跡へと注がれる。

直接、他者へマナを移譲するのは、非常に高度な扱いが要求される術法だ。

 

各属性のマナの配分が完全に均一でない限り、マナは力へと変換されて対象の肉体を傷付けてしまう。四色のいずれのマナにも適合し、それらを高い領域で使いこなせるロズワールだからこそ可能な『治療行為』である。

 

鬼族にとって、額の角はマナを内外に通すためのラインを意味する。

 

ゲートの役割に近しい角は、より強固にそれを行うための器官であり、鬼族を強靭な種族たらしめる最大の理由でもある。

 

だが、ラムは外的要因によってその角を失い、マナを取り込む量も、排出する力も肉体を満足させられていない。ましてや、ラムの肉体のスペックは鬼族でも随一だ。

 

放置しておけば衰えていくだけの肉体……それを維持するために、こうしてロズワールとの夜の密会は日課として行われているのだ。

 

角の傷跡を通してマナを注がれ、肉体に活力が満ちていくのをラムは感じる。体の内側を温かなものが満たす甘美な感覚に身を髪ねながら、ラムはふと、

 

「忘れていました。ロズワール様にご報告しなくてはならないことが……」

 

「ん?なーぁにかな?」

 

「……レムが、バルスに懐きました」

 

「んん?」

 

「バルスの何かが、レムの弱いところに触れてしまったようです」

 

双子の妹のことだ。レムがどんな心理状態にあるのか、姉のラムにはよくわかってしまう。

 

「レムが、か。まーあ、不思議なことでもないのかな。あの子はラムと違って、忠誠心から私に仕えているわけじゃーあないしね」

 

レムへの評価に、ラムは反論せずに沈黙で応じる。それは無言の肯定だ。

無償の忠誠心でロズワールに仕えるラムと違い、レムのそれは自己防衛の変節だ。

 

レムにとってロズワールは、『姉であるラムを庇護してくれる存在』という側面が強い。姉の存在が自分の存在意義、とまで凝り固まったレムの依存心がもたらす考え方だ。

 

それだけにコミュニティを守るためのレムの行動は浅慮で早計なものになりがちだ。

目を離してしまえば、害になりそうな存在の勝手な始末などやりかねない。事実、今回もそれが起こった。

 

もちろん、そんな評価を下していながら、ラムにとってレムは世界一可愛い妹であり、その存在の優先順位はラム自身と比較してもなお高い場所にある。

 

ただし、一番であるかと問われれば、今は素直には頷けない。

 

「レムの心情がどうあれ、ラムは私の手の中に残り続ける。なーぁらば、必然的にレムもそうならざるを得ない。ほーぉら、これまでと同じでなーあんにも変わらないとも」

 

「そう、ですね。レムの大切なものが増えた結果、あの子が早とちりする可能性が広がっただけともいえますし」

 

「あ、それは前もって釘刺しておこう。これ、明日の重要な仕事だーあからね」

 

冗談めかして言うのと同時に、ロズワールの手から光が失われる。治療の終了だ。

活力に自分が満たされているのがわかり、ラムは名残情しげにロズワールの膝から床へ下りる。膝からラムを下ろしたロズワールも、椅子から立ち上がった。

 

「これからまた忙しくなる。苦労をかけるけど、ラムもレムもよろしく頼むよーぉ?」

 

「仰せのままに。この身はあの炎の夜からずっと、ロズワール様のものです」

 

スカートの裾を摘まみ、その場で膝を折って恭しく一礼するラム。

彼女の忠節を受けながら、ロズワールは後ろ手に手を組んで窓際へ歩み寄る。隣にラムが控えるのを横目に、カーテンを開いた。

空一丸々とした月影の浮かぶ空を見上げ、ロズワールは色違いの瞳を細めると、

 

「此度の王選、何としても勝ち抜かないといけない。私の、目的のために。龍を殺す、その日のために」

 

呟き、伸ばされる腕がラムの肩を抱き寄せた。

再びその長身の温もりを身近に感じて、ラムは静かに目をつむって俯く。

 

「その為にも……トキワ・ソウゴくん。彼を我らの陣営に完全に取り込まなければね」

 

「!」

 

「ラム、君も見ただろう? 彼の力を」

 

 ソウゴの持つ仮面ライダーの力。確かにそれはラムも目撃した。実はロズワールも、遠目から彼の戦いを目撃したのだ。

 

「実に興味深いよ、彼は。あのような力、そしてあの奇抜な鎧……それらを持っていながら何で今まで名が上がってなかったのか不思議だよねーぇ。エミリア様の話によれば、腸狩りともやり合えてたそうだし」

 

 ロズワールは、これまでソウゴのことを耳に入れるようなことすらなかった。彼がこの屋敷に来るまで。

 

「君はなんなんだろうね、本当に——————本当に、ね」

 

 ジョーカー、というカードがある。

 

 それはゲームの中で、持つ者の切り札となれば、時に持つ者の運命を狂わせるという二面性を持っている。

 

 ロズワールにとって、ソウゴはまさしくそれだった。なにせ、

 

「君のことは、一文字も書かれて無かったよ。トキワ・ソウゴくん」




SPECIALZはレムの曲やったのかもしれん(適当)
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