さて、今日の予定は……ああ、例の打ち合わせか。
……ん? こんな朝早くにレッスンルームに誰かいるみたいだけど……
「あ、おはようございますっ、オーナー!」
「ふたりきりのときは呼び捨てでもいいんだけど。その方が話しやすいでしょ?」
まあ、そうなんだけどね。他のメンバーも俺たちが同じ高校だったって知ってるし。で、こんな時間にどうしたんだ? しかも、部屋の中でそんな格好して。
「今日は一コマ目から講義入ってるから、朝トレしてから行こうかと思って。昨日、ちょっと面白い話聞いたから」
面白い話?
「うん、ルミノちゃんに――」
相手だけで、どんな話題かわかっちゃうな。
「もー、別にルミノだってエッチな話ばっかりしてるわけじゃないんだよ? ……今回は、エッチな話だけど」
それが、その雨合羽?
「うん、そだよー…………ちらっ♥」
おっと、中に何も着てないのか! ……何となくそんな気はしてたけど。
「ルミノちゃんの合羽はスケスケのだって言ってたけどね」
……またそういうことを……。あまり危険なことは勘弁してほしいんだけどなぁ。
「でも、そんな危険なことをせずにはいられないから、このユニットに入ったんだよね」
だからこそ、あのコのそんなところも認めてあげなきゃいけないんだけど。というか、そうやって危険なことをしているときが一番いい顔してるってのも……いやはや、プロデューサーとしては複雑なところだな。
「ふふ、オーナーって変なところ見る目あるよね。ここのユニット、イヤイヤ脱いでるコ、いないもん。まな板ショーの方もね」
ああ、変な客はご退場願ってるから。女のコを護ることが男の役目だよ。
「いつもありがとうね。おかげで楽しめてるよ」
だからこそ、こうやって自主トレもしてくれてるんだ。
「ん。ルミノちゃんが露出プレイに使うくらいだから、合羽はどうかなー、って思ったんだけど……」
やっぱりダメか。
「うん。もしかしたら、私もスケスケじゃないとダメなのかな……?」
仮に良くても、それじゃ意味がないだろ。服を着て歌えないか、って練習だったんだろ?
「そだねー、あははー。私は別に、裸を見せたいわけじゃなし」
ああ、服を着ていると歌えないってことだしな。
「確かに、肌の感触は服って感じはしないし、冷たくてちょっとエッチな感じだけど……やっぱり歌うにはダメみたい」
なかなか難しいみたいだな。
「うん、でも、いつかはもっと大きな舞台に立ってみたいし」
裸じゃ公共の舞台には出られないものな。
「私、オーナーのおかげでみんなに歌を聴いてもらえるようになったけど……」
ああ、そうだね。より多くの人に聴いてもらいたい、と考えるのは当然のことだし。俺も、蒼泉をもっと大舞台に……ああ、そうだ。
「ん?」
みんなに聴いてもらうのは難しいかもしれないけど……気分だけなら味わえるかもしれないな。ちょっと話を通してみるよ。ちょうどこの間誕生日だったし、それのお祝いってことで。
「もぅ、お祝いならもうみんなにしてもらったのに。けど、ありがと。でも、無理しないでね」
***
「わぁ……ここが……憧れの、ドームのステージ……!」
機材メンテナンスの名目でちょっと使わせてもらえることになったんだ。
「えーと、最前列におられる方々は……」
スタッフさんだね。さすがに、俺たちだけで勝手に使うわけにもいかないから。でも――
「うん、わかってる。……そういうステージじゃないし。でも……」
練習生だって説明してるから、その……全力で歌えなくても大丈夫だから。
「んー……ありがとね。それじゃ……あ、伴奏始まっちゃった」
目指している場所を体感するのは重要なことだよ。だから……胸を借りるつもりで、な。
「……うんっ」
「……♪」
やっぱり……衣装を着ているとこうなっちゃうんだな……。この歌はあまり((他人||ひと))には訊かせたくなかったかもしれない。けど……
「……~~♪」
あ、蒼泉……おい……こんなところで……っ。いや、一応劇場のことも話してるけど、男の人もいるのに……いや、この場合は女の人がいる方がマズイのか……?
けど――
「~~♪」
ああ、やっぱり歩は裸で歌っているときが一番幸せそうだ。幸い、劇場用の振り付けじゃないから引かれてもいないし。それに何より――
「~~♪」
このときの歩は、どこに出しても恥ずかしくない。いや、裸であることは恥ずかしいとは思うけど……この歌は、この踊りは、やっぱり――
「……ありがとうございましたーっ!」
ありがとうって……スタッフさんからもお礼を言われちゃってるし。まあ、そういう意味なのだろうけど。
「えへへ、オーナー……やっぱり、私……やっちゃったっ!」
ちょ、ちょっと……こんなところでこんなにくっついてると……っ。
「大丈夫。わかってる。ここで、これ以上はしないから……けど……」
蒼泉……?
「みんなの前でちゃんと歌えないのは悔しい、ってのはあったけど……やっぱり、裸で歌うのって気持ちいいな、って」
そうだろうな。そんな顔、してたよ。
「うんっ、だから……いつかメジャーに進出して、こんな舞台で歌うようになっても……ずっと、オーナーのところでも歌わせて欲しいって思ったんだ」
そう言ってくれるのなら、俺も劇場運営を頑張っている甲斐があるよ。
「きっと、あの劇場は、私の故郷なんだね。だから……」
うん、これからもよろしくな。