あえる ヤれる アイドル『TRK26』   作:添牙いろは

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萩名里美

 萩名(はぎな)嬢、少々お時間をよろしいでしょうか。

「はい。ですが……わたくしのことは、お気軽に、里美(さとみ)、と呼び捨てていただいても……」

 それは……他の方々とのバランスを考えて……すいません。それに、萩名様はクライアントでもありますので、区別する意味でも……。

「やはり、わたくしはお父様の……うぅ……っ」

 いえ、こればかりは、たまたま重要クライアントと苗字が同じだっただけ、と捉えていただいて構いません。実際、もし萩名嬢が萩名様と無関係に応募されても、私は貴女を採用したでしょう。

「本当……ですか……?」

 なにせ、我々のステージは何かと特殊ですので……。たとえ萩名様のご息女だとしても、適正のない方をメンバーとして迎え入れることはできません。

「ならば……何故、わたくしを出演候補から外されたのですか……っ!?」

 それは、今度の撮影の件ですね。

「はい。あのタイトルは、令嬢を拉致監禁するテーマだとお伺いしておりました。わたくしであれば、きっとリアリティのある演技ができると思いましたのに……!

 いえ、リアリティがあれば良いというものではないのはわかっておりますが……はっ、まさか、それがわたくしの落選の理由……?」

 でしたら、丘薙(おかなぎ)さんや園内(そのうち)さんを選出したりしません。

「ならば、何故……っ!?」

 私から声をおかけしたのもその件でして、大変申し訳ないのですが……さすがに、萩名レーベルの作品に、最高責任者のご子女が出演されては、現場も萎縮してしまいますので……。

「そんな……っ、またしても、お父様の所為でわたくしは……っ!」

 この件については……否定の余地がありませんね。重ね重ね、申し訳ありません。

「わたくしはこれまで、ずっとそうでした。中学校でも、厭らしい家の娘だと距離を置かれ……」

 それでも、直接中傷されないところは、さすがです。

「いえ、あの学校は皆様名のある家柄の方ですので、生徒同士であっても揉め事を起こすようなことはいたしませんよ」

 は、はぁ……そういうものなのですね。

「ですがッ!」

 !?

「どのような家柄であろうとも、生まれるためにはセックスをせねばなりません!」

 はい、そうですね。

「その営みを多彩なシチュエーションにて創作する……わたくしは、家業に対して後ろめたい感情は一切ございませんでした」

 それは、ご立派なことだと思います。

「だからこそ……わたくしも努力してまいりましたのに……」

 と、いいますと?

「中学校を卒業してから、わたくしは進学せず、お部屋で様々な先生に師事することになりました」

 いわゆる、英才教育と呼ばれるものですね。

「かもしれません。ですが……おかしいとは思っていたのです」

 何か、あったのですか? まさか、いくら性産業の家系とはいえ……

「一向に、お股を開くような教育は受けられませんでしたっ!」

 そうでしょうね。むしろ、そのようなことをやらかしては、講師の身の上も危うくなるでしょうし。

「ですがわたくし、萩名グループの娘ですよ!? お兄様たちは……男性なので、仕方がないかもしれません。ゲイモノは取り扱っておりませんので」

 は、はぁ……。

「しかし、わたくしは女です! ならば、自らが進んで作品を引っ張っていくものと思っておりましたのに……ッ!」

 あ、あの……すいません。

「何でしょう?」

 おそらく、萩名様が期待しておられたのは、萩名嬢自身が作品に出演することではなく、作品を統括する立場なのかと。

「ですが、現場を知らねば、統括することも叶いませんでしょう!?」

 それはそうかもしれませんが……萩名嬢には、撮影してみたい作品等はございませんでしょうか。

「わたくし、緊縛モノなど得意なのですよ? 殿方がつきあっていただけませんので、自縛も慣れたものでして」

 いえ、ご自身による出演ではなく……

「ですが、先ずは自分で演じてみなくては、女優に演技指導することもできませんでしょう!?」

 う、うーむ……つまり、その第一歩で躓いてしまっている、ということですね。

「はい……わたくし、自社の作品はほとんど目を通しておりますので、どのようなシチュエーションにも応じられる気構えはできているのですけれど……」

 なるほど。萩名様が萩名嬢に役職をお任せにならなかったのは、それゆえかもしれませんね……。

「! やはり、お父様が圧力を……っ!」

 もし許可をいただけたとしても、やはり、現場が萎縮してしまうことには違いありませんので……。

「では、他社様からなら……」

 それも勘弁して差し上げてください。同業他社の重鎮の関係者を出演させるのは、さすがに……

「うぅ……わたくしはお父様の手の内から逃れられないのでしょうか……」

 ……わかりました。では……本格的なアダルトビデオへの出演は難しいかもしれませんが、成人指定の映画でしたら、まだ可能性はあるかもしれません。

「あ、ありがとうございます! そ、そうです、お胸は見せてもよろしいでしょうか!?」

 それは、えーと……見せたいのでしょうか……?

「はいっ! 様々な同年代の方と比較して、わたくしのバストは売りになるのでは、と……! いわゆる巨乳モノにも参加できるサイズのはず……例えば、爆乳令嬢緊縛調教など……

 ハッ、糸織さまや晴恵さまのように、わたしのような肩書きの者は小さい方がよろしいのでしょうか……!?」

 い、いえ、お待ち下さい! さ、さすがにそのようなハードな題材に出演していただくわけには……

「で、では……どのような作品になりますでしょう……?」

 た、たとえば……そうですね、不倫モノなど需要がありそうですが。

「……それは、濡れ場はございますのでしょうね?」

 標準的なベッドシーンであれば。

「ベッド……わたくしにとって、拘束具は標準装備なのですけれど。それこそ、張り付け台など……」

 ……そういえば、萩名レーベルはハード系からマニアック系を主に扱っておられましたね。しかし、今回は、本当に普通の秘め事を……

「普通にセックスするだけで、視聴者の皆様に喜んでいただけるのでしょうか……?」

 はい、それはもう。

「ですが……困りましたね。わたくし、普通のセックスについてはあまり詳しくなくて……」

 た、たしかに……。

「むしろ、セックスといえば、人前で行うことであり、秘め事という印象があまりなくて」

 それについては、なんだか申し訳ありません。

「なので、その……レッスン、させていただけませんでしょうか」

 そ、それはつまり……!?

「いっ、いえいえっ! レッスンにかこつけてプロデューサーさまを求めるのは好ましくない、とわたくしも理解しておりますので!

 けれど……さすがに、普通を知らないまま現場に出るわけにもまいりませんし……。

 なので、あくまで予習、という意味で」

 実演はなし、ということでしたら、お付き合いいたしますよ。

「ありがとうございます! わたくしも……はい、一線は超えないつもりで臨みますので、プロデューサーさまも……そのように、お願いできれば、と、思います……」

 

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