「あ、プロデューサーさん、どうしたんです?」
実は……どうやら、沖道さんのファンクラブの加入希望者に、同じ学校の生徒さんと思われる方が含まれておられるようでして……。
「それなら大丈夫です。もうすでに何人も入ってますよ」
! これは失礼しました! しかし……言っていただければこちらで対応もできたのですけれど。
「いえ、その、何というか……」
?
「クラスの男子たち、私たちが、そのー……ビデオに出演するようになってから、とても優しくしてくれるようになりまして」
『たち』といいますと……
「私と一緒にデビューした、ミカちゃんとナミエちゃん。最初は普通のアイドルのつもりだったから、ふたりともみんなに宣伝して回ってましたし」
まあ、いまどきAVも普通のバイトと扱いも変わりませんし、それで学校側から処分されるようなことはないと思いますが。
「やっぱり、恥ずかしいですけど」
ですよね。
「ただ、男子たちが異様に協力的なんです。お仕事があるときは率先して当番変わってくれたり、撮影で出れなかった授業のノートをまとめてくれてたり……あ、ファンレターもいっぱいもらってしまいまして」
それは、ファンレターなのでしょうか……?
「……ええ、お察しのとおり、どっちかというとラブレターかな、という内容のもたくさん……。けど、私、アイドルですから、一応」
このユニットに恋愛禁止の規則はありませんので、そこは気にされなくても大丈夫ですよ。
「ありがとうございます。けど、つき合い始めたら舞台やめろ、って言われても困りますし。
それに、私には、その――」
あ、ともあれ、これで合点がいきましたよ。どうして沖道さんのファンクラブ会員が若年層に偏っておられたのか。
「……はい。うちのクラスの男子、ほとんど加入してたみたいですし、同じ学年や、下級生のコもちらほらと」
だ、大人気ですね……。
「他のメンバーたちはどうなんでしょう?」
「ふふ、
ですから、乙比野さんのクラブ会員やファンイベントの参加者には細心の注意を払っております。なので、沖道さんも仰っていただければ、いまからでも自重していただくことは可能ですが……。
「いえ、それは構いません。だってもう……クラスの男子たちと、もう何人も……シちゃってますし。
あっ、プライベートではなく、まな板ショーのステージで、ってことですよ!? ちゃんとした抽選で当たったのだから、ちゃんとしてあげなきゃいけないな、って」
沖道さんのそのような誠意が、人気につながっているのでしょうね。
「それにしても、男のコにとって女のコと……するって、そんなに重要なんですか?」
個人差はあるでしょうけれど……やはり、受け止めてくれる女性の姿が魅力的に見えることは確かです。
「やっぱりそうなんですか。うーん……それで、ミカちゃんたちも困ってるみたいで」
あぁ……彼女たちは沖道さんとは異なり、生粋の女優ですからね。
「はい、私みたいに劇場に出ないのか、って男子たちからせっつかれてるんです。
先日一応、『校内乱交』っていう企画も立ち上がりはしたんですが」
クラスの男子を集めて撮影しようとしたのですね。
「けど、さすがに自分たちの姿まで録画されてしまうことには抵抗があるらしく、人が足りなくて流れちゃいました」
沖道さんたちのお仕事を思うと、同じ男性として、誠に身勝手なことだとは思うのですが……。
「いえいえ。そこに男女差があるからこそ、私のお仕事も成り立ってるわけですし。
ただ……ミカちゃんたちは女優だから、クラスのみんなが一緒に参加することはできないですけど、私たちは、その、会える、だけでなく……」
はい、そのようなコンセプトでプロデュースさせていただいております。
「だからこそ、男子たちも本気で……。みんな一生懸命アルバイトして、会費を捻出してくれてるみたいです」
学生として如何なものかとも思いますが……それもまた自己責任、が現代の風潮ですからね。それに、学生のうちの就労経験は決して悪いものではありませんし。
「大学に通いながらお仕事されてるプロデューサーさんが言うと、説得力ありますね」
実を申しますと、私も父からそのように言われて色々と任されたのですが。
「そうなんですね。とはいえ、普通の学生バイトで賄うには額も額ですから……まな板ショーに当選すると、会員やめちゃう人がほとんどなんです。それも、私が誰ともお付き合いしない理由のひとつですけど」
そちらについては、沖道さんだけの傾向ではありませんよ。
「けど……シた後も継続してくれる男子もいてくれていて……私がステージに立っている限り、何度でも抽選に挑戦してくれる、と」
劇場としても、ありがたい限りです。
「そこまで推してもらえると、逆に恐縮しちゃうんですが……。けど、男子たちって撮影さえなければ、そのー……出しちゃうこと自体は、平気なんでしょうか。私は、まー……仕事だって割り切れてますし、さすがに慣れましたけど。ただ、男のコたちは……はい、観客席には当然、同じクラスの人もいるわけなんですが……」
こちらについても個人差はあるとは思います。とはいえ、一般的に女性ほど気にすることはないかと。
「そうなんですね……。さすがに、始める前に拭いてあげてる最中に我慢しきれなくなったコは、すごく恥ずかしそうでしたけど」
別段珍しいケースではないですが、知り合いに見られる、というのは少々気不味いかもしれませんね。
「男のコたちって、早いことを良くないことのように言いますけど……やっぱり、長く楽しみたいってことですか?」
それもありますが……女性を満足させたい、ということもあるのでしょう。
「はぁ……でしたら、こちらに合わせてもらえるのが一番助かるんですけどね」
男性側も善処しているとは思うのですが。なかなか難しいものがありまして。
「ふふ、うまくあわせられなかったときの男のコの申し訳なさそうなところ、嫌いじゃないですよ。
それに、プロデューサーさんは合わせてくれるのがとてもお上手で……。男の人は、そういうところで演技はできないはずなのに」
恐縮です。とはいえ、演技でしたら沖道さんはいつもお褒めの言葉を頂いておりますよ。女優を始めて、まだ日が浅いとは思えません。お芝居は元より得意でしたのでしょうか。
「いえ、むしろ……うぅ……怖い男の人は苦手で……」
そ、それはすいませんでしたッ! だというのに、次はよりにもよって『集団痴漢』で……ッ!
「あ、あ……そんなに深刻ではなく……ッ! 大丈夫! 大丈夫ですから……っ!」
沖道さんの作品の中では、いわゆる……強要される題材の人気が高く、オファーも多いため、ついそのような仕事を選んでしまいまして……申し訳ありませんでした。
「いえ、いえっ! 私も……その……苦手、ではあるんですけれど……同じくらい、頑張って、挑戦したいな、って思いもあって」
そう……なのですか……?
「はい。それは、監督さんや皆さんが、何より、プロデューサーさんが褒めてくれるから……怖い人に囲まれても頑張ろうって思えるんです」
……沖道さんの演技は、ただの演技ではなかった、ということですね。誠に、恐縮です。
「でも、次は……何人もの怖い人に、囲まれちゃうんですよね……」
そのような作品だと聞いております。が、難しそうでしたらいつでも仰ってください。
「いえ、頑張ります! 頑張らせてください! けど……やっぱり、ちょっと不安なところもあって」
沖道さん……。
「なので、ちょっとだけ甘えても、いいですか? 撮影中に、プロデューサーさんのことを思い出せるように……」