また、しばらくデュエルより、それ以外の描写が多いです。
この次の前後編で18000字ほどになってしまいました。次回からもっと簡潔な文を目指します。
それでも良ければ、スリップストリームでついてきて貰えれば嬉しいです。
何か変わるだろうか。
シンプルな疑問。それが母の言葉に対して私が抱いた感想だった。
まだ太陽の光も弱々しく、朝と夜の真ん中のような空。母は何も答えない私にもう一度言葉かける。
「都会、全寮制、良い響きね、きっと良いことあるわよ!」
「……そうかな、わかんないや」
声が小さくて聞こえてないと思ったのか、少し大きめの声。
いつからか忘れてしまったけど、会話は苦手。昔はもう少しうまく話せてたとおもうんだけど。
「ふんふ〜ん♪」
母の陽気な鼻歌が聞こえる、それを聞きながら今日……というかこれからのことを考える。
私は今日、この田舎をでて都会へ行く。
全寮制のデュエルアカデミア。いつからかデュエルはやめたのに、なんの因果かデュエルを学ぶ学園に入ることになるなんて。
「流されて生きてきたツケ、かな」
おかしいとは思った。入試ででた問題はデュエルに関する問題ばかり、似ている名前の学園と間違えたのだ、普通科とデュエル科を。
自信満々な母に、願書の取り寄せをそのまま頼んでしまった私が悪い。大した確認をしなかった事も含めて。
まぁ、いいや。私は私の人生にそれほど興味はない。
『ーー座のあなた!今日のあなたの運命はとっても微妙!なんとも言えないですねぇ〜』
テレビから流れてくる無責任な言葉に意識を向ける。いつの間にか私の星座の番になっていた。
私はこの占いをきっと信じてる。
いつからか、分からないなら、分からないなりに何かを基準に生きようと。
的中率は半分半分、だとしても。
ローカルな番組だし、向こうでは見れないかも。
あまり期待はできないけど、いい言葉が聞けたら嬉しい……んだと思う。
『今日が人生の分岐点かも?困っている人を助けるのが吉。良いことがある……かも!あなたの大切なものはきっと誰かを助けてくれる!……かも!大丈夫、きっと良いことあるわよ!』
無責任で大きな声の占いが終わって、ニュースが流れだす。心の中でさよならとありがとうを。
「大切なもの……」
真新しい制服のポケットからカードを取り出す。
今や博物館にしかないような紙のカードと違い、薄くて柔らかいプラスチックのような感触。
よくしなるのに、異常に固くて折れない割れない傷つかない。
それでいて薄くてかさばらない、なんとも都合が良い。
これなら例え海に放り込まれてもダメにならないし、拳銃の撃鉄に挟まれても大丈夫。
私にとってカードは産まれた時からこれだけど、紙だった時代は苦労したと思う。
『星海飛行』……綺麗なカードだと思う。
……いや、思った事がある。昔は確かにこのカードを綺麗だと思っていた。今はなんだかよくわからない。
星の海を泳ぐように、飛ぶようにうつる白い龍。今は何度見ても、このイラストに昔ほどの感情の高ぶりを感じられない。
だとしてもこれは私の大事なものなんだと思う。うん、分かってるよ。
「嬉しいわ、結がまたデュエルを初めてくれて」
カード眺める私の隣に母の顔が、気がつけば無意識に朝食を食べ終えてたみたい。
「うん、就職しやすいからね」
また手間をかけさせないように、今度は早めに返答。
間違いで。よりもわかりやすい理由を言うようにしている。
「えぇ、それでも嬉しいわ」
昔の……もっと感情豊かだった私に戻れば、と思っているのだろうか。何かが変わるとはやっぱり思えないけど。
そしておそらく母は私たちの間違いに気づいてない。
「そろそろ行くよ、ごちそうさまでした」
都会に行くのは初めてだし、早めに出て間違いはないだろう。最悪、明日の朝までにつけばいいし。
『星海飛行』をカードケースにしまう、これで40枚。
カードもケースも少し古いけど、問題ない。
今つけても大きめなベルトにケースをつけて、真新しい制服の腰あたりに上から巻きつける。
昨日のうちに準備しておいたカバンに肩にかけて、足早に玄関へ。
「いってらっしゃい、結。きっと良いことあるわよ!」
玄関に向かうまでも、制服やらを褒めてくれたけどうまく返せなかった。
褒め言葉にも、良いことあるにも、やっぱりうまく答えられないけど、これなら──
「うん、いってきます」
今日の夜はきっと星空がよく見える。
見上げた空は、私の心とは裏腹にそう感じさせる澄んだ空だった。
「……早く着きすぎた」
おおよそ私の知っている駅を超え、都会とよべる場所についてからは早かった。
田舎者にも分かりやすく、目的地までの行き方を教えてくれる電子デバイス。案内通りに操作すれば最短のルートを教えてくれた。
そこからの道のりは、その駅につくまでの時間よりも短く。
息つく暇もなくアカデミアまでたどり着けた。
肩から力が抜ける。どうやら、私が思っていたよりも交通機関は進化していたみたい。
早朝とよべる時間に家を出たのもあるけど、それでも昼を少し過ぎた頃に着くなんて。
「それならそれで荷解きでもすればいいよね」
私は独り言が多い。自覚があるくらいには呟いている。
昔の名残だろうか?
寮には先んじて送っておいた荷物がある、ダンボール2つだけど。
寮の確認、アカデミアの確認、やることはいくらでもある。
「……卑怯者!!!」
「……?」
案内の看板に従って寮に向かおうする私は、卑怯者という聞き慣れない言葉に足が止まる。
実に平均的な視力の眼をこらす。女の子と女生徒3人が言い争っているみたい。
どうしようかな……
「困っている人がいたら助けるのが吉、か」
普段なら面倒事に関わる気はないけど、今日は仕方ない。
女の子の方へ向かうことにした。
「うん、私は行動にうつすまでが遅い」
私がついたころには女生徒達は立ち去っており、女の子が1人いるだけ。
走った方が良かったかも、次からはそうしてみよう。
「なにかあったのかな?」
とりあえず声をかけることにした、もう遅いけど。
「……あなたには関係ない」
それはたしかに、私もそう思う。
ただ決めた通りに動いてるだけ。だから、あと1度断られたら放っておくことにしよう。
ふむ、しかし中等部……いや、小等部なんかあっただろうか。
同じ制服を着ているけど、同じ学年には見えないから年下だよね。
私の入学は明日だからそのくらいの年齢だと思うんだけど。
沈黙が流れてしばらく、女の子はゆっくり口を開いた
「……デッキを盗まれた」
「デッキを?」
普通に犯罪、だよね?
いや、都会ではそれくらいの戯れはあり……?そんなわけもないか。
「……あなたも知ってるでしょ。ここも他のアカデミアと同じでデュエルの強さはステータス。あいつ等は今日の私の対戦相手と取り巻き」
制服が同じせいか、在校生だと思われてるのかな。
これまで普通の学校に通ってた身からすれば、あまりに非日常だけど。
盗みまでやるなんて、普通じゃないと思う。でも、今のカードゲームの普及率、影響力を考えたらありえない話でもないか。こうゆうデュエルを学ぶ学園もわんさかある。
私もここに入ったからには、そこそこの成績を残して、いい会社に入るための努力はするつもりだし。
「……このままだと不戦敗になる。実力で勝てないからって本当に卑怯」
歯を食いしばる音が聞こえる気がする。本人口数は少ないけど、強い怒りが伝わってくる。
「大切なもの、か」
女の子に後ろを向くように指示しながらベルトを外す。
「そして誰かを助けてくれる、ね」
いつからか、精霊の声は聞こえない。
普段の町中でとか、誰かに憑いてるのは見えるけど、聞こえるけど。
私のカードの声は、もう随分聞こえてない。なら
人助けになるし、このまま私に無気力なまま使われるのもカードがかわいそう……かな?分かんないや。
「……え、ちょ!な……ん?」
ベルトを女の子に巻きつける。私がつけても大きかったけど、小さな女の子がつけるからさらに大きく感じる。
もちろん、カードの入ったケースをつけたまま。
「ちょっと古いけどさ、悪くないカードだよ」
今から構築済みのデッキを使うよりはいくらかマシだと思う。
これまでのことから判断するなら、私はあの女生徒たちよりこの女の子が勝つほうが正しいと思う。
さて、人助けもしたし寮に向かおうかな。
連星 結 私の名前。
寮の受付で書類に名前を書いて鍵をもらう。
前日からでも、入れて助かった。
暖かくなってきたとはいえ、野宿きっと身体によくない。
「れんせい……ゆい?ちゃん?」
「うん?……あ、つらほし むすび です」
忘れていた。あまり人と関わらなかったから忘れていた。
自分の名前が非常に読みづらいことを、名字も名前も初見で正しく読まれたことは少ない。
「結ちゃんね、珍しい名前。ようこそ、歓迎するわ」
フレンドリーな管理人さんと少し話す。食事の時間、お風呂や消灯の時間。
「結ちゃんはどんなカードをつかうのかしら?」
「今から買いにいくところです」
「?」
うん、私も逆の立場だったら同じ反応をすると思う。
「う〜〜〜〜ん!新入生とみた!」
寮の隣の購買。元気な声が響く。
「反応うっすい!」
「……あ、ごめん。ちょっと反応に困ってて」
単純にあっけにとられて言葉がでなかった。
あまり田舎者をイジメないでほしい。
「わたしも明日からだよー。ねーねー、なにしてんの?デッキの改造?熱心だねー!」
「うん、いろいろあってね。カードが1枚もなくてさ」
随分と元気な声だ、それに話すのが早い。
でも悪い子じゃないのかな、私はちょっと前の出来事を掻い摘んで話す。
「えー!それであげちゃったの!?全部!?うわー……ちょっと異常だよそれ……」
「異常、かな、やっぱり」
いつからか、なんだか自分の中のいろんなものがあやふやになっている。普通とか異常がよくわからない。
やっぱり私は人と関わるのに向いていないと思う。
「ま、いいや。それよりデュエルしよ!暇で暇で仕方ないんだよ!ダイジョーブ!カード貸すよ!」
「……うん、やろうか」
つまらない考えはとんでいった。なるほどね、勉強になる。
「楽しかったぁー!結構強いね、えっと……」
しばらくの間、デュエルディスクを使わない、テーブルでのデュエルをした私たち。
大きな声の彼女は言いよどんでいる。
「そういえば名前聞いてなかったかも……」
「そうだね」
会話慣れしてないせいか、当たり前の事をよく忘れるのは悪い癖だね。
「わたし、静間 のどか 趣味は……やっぱりデュエルかな!よく名前とあってないって言われる、なんでだろ?」
しずま のどか……うん、なんとも言えない、言わない。
「連星 結だよ。えっと、趣味は……天体観測、かな?よろしくね」
「むすび、よろしくね!」
私にはない笑顔がなんとも眩しい。
「ねー、むすび。こんな噂知ってる?」
「どんな噂?」
「決闘者に取り憑く黒い煙」
両手をぐわっと上げるのどか、その黒い霧をイメージしてるのかな。
「それに取り憑かれると人格まで黒くなるとかなんとか……」
「聞いたことないなぁ。私、今日田舎の方からでてきたし」
都市伝説かなにかだろうか、楽しそうに噂話を続けるのどか。相槌を打ちながら話を聞く。
「───でさ!それにとりつかれたって人が……ん?」
「どうかした?」
夕飯の時間まで2人でふらふら。寮の広間からなにやら盛り上がりを感じる。
デュエルだ。
「わぁ!ランキング戦だよ!しまった!今日だった!」
ランキング戦……ほとんどのデュエルアカデミアで導入されている制度……だったかな。
1日の授業やアカデミア主催のイベント、座学など。それらを総合した成績をもつ100人はアカデミアでも特別扱いされ、就職にも有利。
でも生徒数の多さから100以内に入るのは簡単じゃない。
そこでランキング戦。
定期的にアカデミア側から全生徒に、自分が挑戦できる範囲のリストが送られる。
負けた場合の減点こそ多いけど、勝てば大幅に順位を上げることもできる。
これで100位以内の人と戦う場合は中継される。勝敗によって、100位以内が入れ替わる可能性があるのがランキング戦。
……以上、パンフレットより。
のどかは今日の試合を見たかったのだろうか、モニターを食い入るように見ている。
左上にある2位の文字。随分と大きな試合。
……あれ、あのカード。
「あ、昼にデッキあげた子だ」
「え!?星海 遊羽だよ!ホントに!?それスゴイ!」
ほしうみ……ゆうう?言いづらい。
「むすび知らないの?この学園ではいつもランキングで3位以内のチョー強い決闘者だよ!わたし大ファンでさー!」
あの小さい女の子が?人は見かけによらない。
「ホントだ、いつもと全然違うデッキ使ってる!あれがむすびの使ってたデッキ?」
「うん、そうだと思う」
画面が見えないから揺らさないでほしい。
見ればモンスターも魔法も私のカードだ。……いや私のだったカードだ。
『……手札から魔法発動。『星海飛行』この効果で───』
眩い光と見慣れた光景。
そこから数分、デュエルは星海遊羽の勝利で終わった。
「星海遊羽を見てくるよー!」
夕飯の後も興奮が収まりきらないのか、のどかはどこかに駆け出す。消灯までに帰ってくるといいんだけど。
「悪くない空だね」
都会の星空も悪くない。私は、ほぼ唯一の荷物である望遠鏡を覗き込む。
やっぱり星がよく見える、悪くない。
「うん?あれ……」
流れ星……?にしてはやけに垂直に落ちてくる……いや、もう落ちた。
なんだろう、そんなに大きな音がしなかったし、大したものじゃないんだろうけど……少し気になる。
まだ消灯まで時間もあるので、落下地点に向かうことにした。
「この!ふっざけんじゃないわよ!このポンコツ!」
…………どうにも都会というのはよくわからない。
流れ星?が落ちたさきで、SFチックな服に身をつつんだ女の子が、黒い球体を一心不乱に踏み続けていた。
「はぁぁ!?あたしのせいだっていうの!?あったまきた!今日こそスクラップにしてやる!!!」
ピカピカと点滅する球体、それに対して怒りをぶつけ続ける女の子。
…………寮に帰ろうか。さわらぬ神になんとやら、だね。
「むすび」
「うん?のど……か?」
いつの間にか、本当に気づかないうちにのどかが後ろに立っていた。
もう星海遊羽には会えたのかな?
「どう?あの子には会え……」
……いや、おかしい。ここはデュエルが行われてたステージとは反対だし。それに
「誰?」
まだ出会って半日もたってないけど、こんな静かな娘じゃない。
「ふふふっ、ねぇ、むすび。デュエルしよ」
「悪いけど、デッキがないんだよ。また今度で」
ジリジリと距離を縮めてくるのどかの偽物。
嫌な予感がする、経験則で。
「あああぁぁーーー!いたぁーーー!!!」
「!……びっくりした」
本能的に人間は大声に弱い。
感情の起伏の無さとは別に、心臓のあたりがドクリと動く。
「あれぇ?お客さんかなぁ」
「さぁ、どうだろうね」
「ま、いいや。むすび、始めましょ」
……言葉は通じるけど、会話にはならなそう。
ここの人はみんなデュエル好きなんだろうけど、ちょっと今ののどかは普通じゃない。
「悪いけど本当にデッキがなくてね。相手はできないよ」
「ダメ」
「ディスクも寮なんだよ。私の型が古くて持ち歩くには不便だからね」
「ダメ」
「明日じゃダメ?それか寮に帰ってからでも」
「ダメ。できないならむすびの負け」
ダメ、か。それに負け……?
うん、よくわからない。なら、まぁ、いっか。
「うん、負け……「ちょーーっーーと!まったぁ!!!」
負けでもいいよ、好きにして。
そんな私の、いつもどおり周りに流される言葉はかき消される。
一等星みたいなまばゆい光と一緒に。
「ほーら!ほーら!あたしの言ったとおーり!やっぱりいたでしょ!」
……降ってきた。さっきの危ない女の子が。
「やった!やった!これでリゲルもあたしを認めてくれるし、イオも褒めてくれるし!カペラのバカは見返せる!!!」
楽しそう……女の子はさっきまで踏みつけていた、黒い球体を放り投げて喜んでいる。
よくわからないけど、この子はのどかを探していたのかな。
「あ!そこの人!あたしが来たからにはもう大丈夫よ!ここは任せて逃げなさい!」
グッと親指を立てて、「くぅ〜〜!言ってみたかったのよねぇ!」感極まる女の子。
「うん、ありがと」
じゃあ帰ろうかな。明日の入学式に寝坊はよくない。
「はい、とゆうわけで、ポチッとな!」
「……バカに用はないんだけどなぁ」
「あれぇ!?なんで!なんできかないの!」
2人に背を向けて寮に向かう。
女の子の大きな声と、のどからしくない冷たい声が聞こえる。
……らしくない?私はいつから、人にらしさを強要するようになったんだ。よくないね、それこそらしくない。
「どうにもなんないよぉ〜!……しょうがない、みんなに助けてもら……あぁ!エネルギー切れぇ!!」
まだ……声が聞こえる。
足がゆっくりと止まる、なんでだろ。よくわからない。
「……わかんないな」
わからないわからないわからない。
今思えば、なんであの状態ののどかと話してみたのか、なんで今、足が止まってるのか、なんでこんな事考えてるのか。
「わからないよ」
なんで振り返ったのかわからない、なんでまた歩きだしたのかわからない、なんであの女の子のもとに戻ってきたのかわからない。
「なにか、できる事……ある?」
わからない。
……だけど、立ち止まった時、振り返った時、歩きだした時、そして今。
ほんの少しだけ、なにかが変わる気がした。
「さっきの娘ぉ!ありがとう!ホントにありがとう〜〜!」
……涙と鼻水でスゴイことになってる。
「むすび」
「うん、ちょっと待っててね」
こちらに近づくのどかに時間をもらう。なんだ、会話もできるんだね。
「とりあえずなにが起きてるか、手短に教えてほしいな」
「あ、う〜ん……どっから話そうかしら……えと、あたしたちは『SATELLITE』!この星を廻りながらいろんな問題に首を……あ、いや!解決!解決してる!」
「うん」
「ここ最近は、カードの精霊に取り付く黒いもやを回収してるの、大きな反応があったから降りてきたんだけど……」
「回収……?あれはなんなの?」
「もやの正体は不明、ただいま解析中。回収してる理由はエネルギーになるから、あたしたちの機械は、人の感情に反応して動くのよ!」
「……うん」
聞いといてなんだけど、やっぱりよくわからない。
「私は何をすればいいの?」
来たことを喜んでくれたなら、私にもできる事はあるはず。
「簡単簡単!このポンコツに触れてくれるだけでOK!自分の感情じゃあ、うごかないのよ」
「うん、それじゃあ失礼して」
女の子は黒い球体を私に差し出す、私もそれに手を差し出す。
踏みつけられたり、放り投げられたり、忙しいね。
黒い球体は鈍い光を何度か発した後、また反応をなくしまった。
「……エネルギーなし?そんなわけないでしょ!」
地面に叩きつけられる黒い球体。鈍い音が響く。
「……あれ?本当に……ない」
球体に対する怒りを隠そうともせず、2度3度追加で踏みつけた後、女の子は私の胸のあたりに手を当てて、なにかに驚く。
「あなた、感情がない……の?」
「ないわけじゃないよ、ちょっと薄いだけ」
人から言われるのは久しぶりかも、感情がない人間なんているわけがない。
だから私は少し、鈍くて反応が薄いだけ。
「ううん、これは薄いとかそんなもんじゃない。まるで抜き取られたみたい、絞りカスみたいなものしか残ってない」
絞りカス、か。言われてみたらそんな気もする、あまり興味もない。
「でも、ならなんで戻ってきてくれたの?」
当然の疑問かもしれない。もし仮に私に感情がないとして、だったらなんで戻ってきたのか。
「わかんない、でも……多分、のどかがあのままじゃ嫌、なんだと思う」
つまらなそうに小石をけるのどかの方を向く。目は合わない。
「……なるほどね」
私の答えに満足したのか、女の子はニヤリと笑う。
「なら十分!完全にないなら無理だけど、友達を思えるなら大丈夫!」
「友達……」
私とのどかは友達なんだろうか、分からない。
「感情がないならあたしのを分けてあげる、それで仲間を呼んで事件は解決ね!」
うんうん!と1人納得している女の子に素朴な疑問。
「感情を分けるって、大丈夫なの?人格的に」
「大丈夫大丈夫!分けるって言ってもちょっとよ、ちょっと」
それに、と前置いて
「誰かに分けたって、また誰かと結ばれていたら心なんて、感情なんて心なんて、すぐに満たされるものなんだから!」
胸に当てられる手が温かい。
光と一緒に、血が、命が流れ込んでいくような感覚。
「さ、もう一度手を当てて」
言われるままに球体に手を当てる。
また鈍い光が現れ、今度は空に放たれる。文字はおそらくSOS。
「おーい!リゲルー!イオ!こっちよ!こっち!」
瞬間、光があたりを包み。誰かと何かが現れる。
さっきも聞いた名前、おそらくこの子の仲間だろう。
「テラちゃん、1人で勝手にいっちゃダメよ?」
「ごめんなさい、イオ、でも半分くらいはこのポンコツが悪いの」
「キャプテンだ、キャプテンと呼べ。いつも言ってるだろう」
「あいあいキャプテン」
イオと呼ばれた長身でふわふわとした雰囲気の女性。
キャプテンと呼ばれた小さな子。この子がおそらくリゲル……かな?消去法で。
随分と雰囲気の違う3人だね、まとまりがない。
「おい、テラ。何度も言ってるだろ、回収できるのは精霊に取り付いてるのだけだ。決闘者に取り付いてるのは、我々ではどうにもできん」
テラ、この子の名前はテラでいいのかな。
ってそれよりも。
「そこをなんとかお願いできないかな」
ちょっと不穏な雰囲気を感じて会話に割り込む。
「む、誰だお前」
「キャプテン、じつはカクカクシカジカでして」
テラはさっきまでの事を掻い摘んで説明してくれる。ワタワタと動くジェスチャーは微笑ましい。
「ふむ、よし、協力しよう」
「いいの?」
ほんの少しだけ悩むような仕草をして。あっさり、二つ返事で協力してくれる事になった。
安堵する。きっと協力者が得られた事に安心している。
「いいんですよ、だって友達のためなんでしょう?」
イオ……さん?が隣で言う。
「もちろんだ、テラも世話になったみたいだしな。我々は友や仲間の為に戦う者の味方だ」
「うんうん!それが我ら『SATELLITE』!」
「ありがとう、なんか温かいよ」
胸のあたりが温かい。
ありえない話だけど分けてもらった心が温かい。
「なにすればいいかな、私は」
「つまんないこと聞かないで、決闘者絡みの問題なら解決方法ももちろんデュエルよ!」
「……なるほどね」
今までそういったこととは無縁だったけど、そういうことなら仕方ない。
なら、今日も流されてみようか。自分の意思で。
「でもさ、デッキもディスクも……」
「あるわよ」
テラがどこからかデュエルディスクを取り出す。
私のとは違う、コンパクトに畳める真新しいやつが。
「えと、私が決闘するの……?」
「別にあたしたちがやってもいいけど、めっっっちゃ弱いわよ?」
言いながら、テラは私の腕にデュエルディスクをつけ、展開する。
正直、ブランクがある。昼にのどかとデュエルした時は全敗だったし。
「これがどんなデッキか分からないし」
デュエルディスクにはもうデッキがささっている。おそらくテラの使っていたデッキが。
「うん?あたしたちのデッキよ?」
「あ、そうじゃなくてどんなモンスターがいるのとか……」
「だからあたしたちだって」
……うん?噛み合わないな。というか最初からなんかズレている。
「あのさ、今更なんだけど。皆さんは人間?」
「違うわ」
「……………………違うの?」
「違うわよ」
うん、やっぱり。最初からなんか違うと思ったよ。
今じゃそんなに珍しくもないけど、私は特にそういうのが見えやすい、感じやすいからちょっと忘れてた。
「あたしたちは『SATELLITE』!この星を守る正義の味方!デュエルモンスターズの精霊!ま、人間みたいなものだけどね」
すごくいい表情で名乗りを上げるテラ。後ろの2人も満足そう。
……もういいや、どうにでもなれ。
「ごめん、のどか。待たせたね」
「おそーい、待ちくたびれちゃったよ」
体育座りで土をイジっていたのどかに声をかける。
「随分と融通がきくね。もっと問答無用な感じだと思ったよ」
「う〜ん?ま、わたしはむすびと本気でデュエルがしたいだけだからさ」
なんで私なんだろ。わかんないや。
「だから、その邪魔をするやつはどうなってもいいや」
冷たい表情で言うのどか。
……あぁ、うん、わかったよ。
「今更だけどさ、力を貸してほしいよ。わかったんだ」
「ん、なにが?」
「どうやら私は、友達にいつもみたく笑ってほしいみたい。私にそうしてくれたように、みんなにそんな笑顔を向けてほしいんだと思う」
「良いことね」
テラは笑う、心から楽しそうに。
それにしても随分、テンションの浮き沈みの激しい娘だね。最初はあんなにうるさかったのに。
今は随分とクールな雰囲気。
「あたしはテラ。SATELLITEコネクターのテラ、よろしく。きっと良いことあるわよ!」
「うん、私は連星 結。よろしくね」
そういえば『SATELLITE』なのにテラって、なんかちぐはぐかも。
今、気にすることじゃないか。
デュエルディスクに手を当て、デッキがシャッフルされる。
私のディスクと違って軽く、シャッフルもスムーズ。
「じゃあ、いい加減始めようか。むすび」
「うん、始めよう。のどか」
「「決闘!!!」」
私の心が決めた戦いが始まった。