「負け先でいーよ」
のどかは少し虚ろな目のまま、手をひらひらと振る。
そして驚くほど普通に、つい数時間前の続きの様に、デュエルは始まった。
本当はカードの効果をゆっくり読みたかったから、後攻がほしかったけど仕方ない。
「うん、それじゃあ先行はもらうよ、私のターン」
先行は最初のドローフェイズでカードが引けないから、枚数面での不利がつく。
それでも相手に先んじて展開を行い、有利な盤面をつくれるのは、大きなアドバンテージだよね。
「さて、どんなカードが…………なにしてるの?」
5枚の手札を確認しようとした時、唸るような声に振り返る。
『SATELLITE』なる怪しげな組織に属する3人は、私に向かって腕をゆらゆらと揺らしながら唸っている。
…………呪ってる?私を。
「念を送ってるのよ、あたしたちが手札にきますよ〜〜に!って」
「テラちゃん……わたし、すっごく恥ずかしいんだけど……」
「黙って念じろ、イオ。結が負けたら我々もお陀仏だ」
……いろいろ言いたいことはあるけど、お陀仏とか久しぶりに聞いたなぁ。
それにしても、メンバーの3分の2が念で手札が良くなると思ってるなんて、ちょっと驚き。
「うん……?もしかしてこのデッキってシンクロ召喚を使うデッキ?」
シンクロ召喚……いや、最近はS召喚って略すんだよね。
チューナーとよばれる特殊なステータスをもったモンスターと、それ以外のモンスターをフィールドから墓地に送り、その2体のレベルの合計と同じレベルをもつSモンスターをEXデッキから呼び出す召喚方法。
なんだか手と手を取り合って、大きな力に──そんなイメージを気に入り、昔の私が好んでいた召喚。
「やっぱり現役の決闘者は違うわね」
腕を組み、うんうん、と頷くテラ。
そりゃ分かるよ、だって手札にきてるもん。3人とも。
「そっか、3人ともチューナーなんだね」
「3人ともって……あら、結ってすっごく運がいいのね、こりゃ勝ったわね!」
「うん、うん……?うん……」
楽しそうにしてるところ悪いんだけど、困ったなぁ。
基本的にチューナーだけじゃS召喚はできないんだよね。
「でも、みんな強いしなんとかなるかな」
軽く読んだ感じ、みんな強い。
私の前のデッキと少し似てる気がするし……うん、なんとかなるよね。
「私は手札からSATELLITEキャ……「ちょっと待て」
「うん?」
とりあえず、チューナー以外のモンスターがいないと話にならない。
まずはデッキに触れるカードを出して、カードの確認。あわよくばそのままS召喚に繋げる為。
その動きができるカードを出そうとした時、制止が入る。カードに描かれた本人から。
「結。分かってない、分かってないなお前は」
私が召喚しようと思っていた『SATELLITEキャプテン リゲル』。かかれたイラストと同じ偉そうな雰囲気で、何に対してか分からないけど、私の無知を指摘する。
「最初に私という真打がでたらダメだろ」
「ダメですか」
「あぁ、ダメだ。盛り上がりにかける」
「……了解だよ、リゲル」
「キャプテンと呼べ」
小さな背丈で、これでもかと胸を張りながら、おそらくとんでもなくしょうもない理由で、私のプランは崩壊した。
「結、大丈夫?リゲルは変「キャプテンな」
「……キャプテンは変にプライド高いから、面倒かけるわね」
「うん、大丈夫だよ。別の方法を考えるから」
手札は5枚。その中の1枚は本人から使用不可を言い渡されてる。となると……
「うーん、イオ、さん?お願い、できます?」
「あのぉ……どうしてわたしにだけそんな距離をとった話し方を……?」
おずおずと前にでて、私に問いかけるイオ、さん。
……実は敬語が苦手だったりする、私は。
「年上だ……すっごく年上だから……かな?」
「ヒドい!」
悲しそうな顔をして涙ぐむイオ、さん。
私も悪いんだけど、さっきからまるでターンが進まない。
「わ、わたしもみんなと同じようにお願いします!」
私としてもありがたい申し出を受けて、次の動きを考える。
そろそろターンを進めないと、対戦相手ののどかに悪い。
「うん、それじゃあイオ。お願いできる?」
「はい!任せて、結ちゃん!」
……ちゃん付けは少しむず痒い。これも入れてもらった心のせいだろうか。
「私は『SATELLITEサポーター イオ』を召喚」
『SATELLITEサポーター イオ』
チューナー・効果モンスター
星2/炎属性/戦士族/攻 300/守 100
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードの召喚に成功した時、発動できる。
自分の墓地から『SATELLITE─コア』モンスター1体を手札に加える。
②:自分フィールドにSモンスターが存在する場合、発動できる。
このカードを手札から特殊召喚できる。
その後、自分フィールドのSモンスター1体のレベルを1つ上げる、または1つ下げる。
手札からイオのカードを、展開したデュエルディスクにセットする。……スゴイ使いやすいね、このデュエルディスク。
私がディスクにカードをセットするのと同時に、イオが前に出る。
本人がいるからソリッドヴィジョンいらずだね。
「なんでイオなのよ!あたしを呼びなさいよ!」
本来なら、イオの召喚でカードを手札に加えられるんだけど、今は該当するカードが墓地にないから効果は不発。
テラを召喚しようとも思ったけど、もう少しデッキのカードを見てからだね。少なくともチューナー以外のモンスターを1枚でもみてから。
「カードを1枚セット」
手札から罠カードを1枚伏せる。
驚くほどスムーズにカードをセットできる。私のデュエルディスクはセットしずらい上に、1番左が反応しなかったからね。
「手札から魔法発動。『SATELLITE MISSION─リフレッシュディ!』」
『SATELLITE MISSION─リフレッシュデイ!』
通常魔法
①自分フィールドに『SATELLITE』カードが存在する場合、S召喚を行っていないメインフェイズ1にのみ発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
その後、このターンのエンドフェイズになる。
「カードに2枚引いて、ターンエンド。ごめんね、待たせちゃって」
動けないなら動けないなりに。最低限、次のターンに繋がる動きを。
見た感じ、『SATELLITE〜〜〜』ってカードはテラたちチューナー。
イオのテキストに書いてある、『SATELLITE─コア』ってカードはチューナー以外のモンスターかな?
そして『SATELLITE MISSION』と名のつく魔法カード。これは緩いけど条件付きの『SATELLITE』のサポートカードかな、早くデッキ全部を把握しなきゃ。
結 4000 手札4枚
[○] [伏] [○] [○] [○]
[○] [イ] [○] [○] [○]
[○] [○] [○] [○] [○]
[○] [○] [○] [○] [○]
のどか 4000 手札5枚
「全くだよー、遅延行為は許されないよー」
少しムッとした表情でドロー。
そのままスタンバイフェイズを終えて、メインフェイズに入る。
「ん……あんまり手札良くない。魔法発動『墓穴の道連れ』。むすび、手札見して」
……『墓穴の道連れ』?そんなカードのどかは使ってたかな、もしかしたら別人……の可能性もまだ捨てなくていいかも。
「んー、じゃ、これ」
「あ゛あ゛ーー!!!あたしがぁーー!!!」
「テラ、ちょっとうるさい」
『墓穴の道連れ』の効果で私の手札からテラが捨てられる。私ものどかの手札を見る。……残念、別人ではなさそう。
確かにあまり良くない手札から、展開効果を持つモンスターを墓地に捨ててもらう。
その後、お互いに1枚ドローする。
まだチューナー以外のモンスターは引けない。
「『絆獣 ハーテンウルフ』を召喚」
絆獣 ハーテンウルフ
効果モンスター
星4/炎属性/獣族/攻 1500/守 500
①:自分フィールドのモンスターの攻撃力は、フィールドの『絆獣』モンスター×100ポイントアップする。
②:自分フィールドに『絆獣』カードが4枚以上存在する場合、このカードをリリースして発動できる。
フィールドの『絆獣』モンスターを2体選び、そのレベルはターン終了時まで8になる。
『絆獣』……ボンドビースト。
フィールドのカードが多ければ発動する効果が強力。のどかの使ってるカードだ。
「そのままバトルフェイズ、『SATELLITEサポーター イオ』を攻撃」
攻撃宣言が行われ、戦闘が始まる。
攻撃表示のモンスター同士の戦闘では、攻撃力の低い方が破壊され、その差分のダメージを受ける。
「ダメでした〜〜!!」
イオが吹き飛び、ライフポイントが1300削れ、衝撃が走る。
……随分と技術が進歩したもんだね、まるで本当に破壊が起きたかのような。
「……なるほどね」
ソリッドヴィジョンじゃ、ない。
私の後ろの木々は本当に破壊されている。その惨状に心臓の動きが早くなる。
「ありがとう。イオが守ってくれなかったら、私死んでたかも」
自分の生き死にそれほど興味はないけど、どうせ死ぬなら痛くない方がいい。
私はイオを助け起こして、反撃を始める。
「罠発動『SATELLITE─バックボム』」
『SATELLITE─バックボム』
通常罠
①:自分フィールドの『SATELLITE』モンスターが戦闘で破壊された時、発動できる。
そのモンスターのレベル×100のダメージを相手に与える。
その後、手札1枚を墓地に送る事でデッキから1枚引く。
「よぉーし、投げろ投げろ!」
「了解、キャプテン!」
リゲルの号令の元、テラが何かを投げる。
派手な爆発と共に、200ポイントのダメージを与えて、私は手札交換。
……まだチューナー以外のモンスターは引けない。
「『火の粉』みたいなダメージだね、つまんないのー。わたしはカードを2枚伏せてターン終了」
結 2700 手札4枚
[○] [○] [○] [○] [○]
[○] [○] [○] [○] [○]
[○] [ハ] [○] [○] [○]
[伏] [伏] [○] [○] [○]
のどか 3800 手札2枚
……ちょっと、マズイかな。
心臓がまた動きを早めて、喉の乾きを感じる。
「よっし!こっから逆転よ!……結?なにしてるの、あなたのターンよ?」
「う、うん……私のターン、ドロー」
なんてことないと言わんばかりのテラ。負けた時の事をちゃんと考えてるのかな。
ドロー、引いたカードは……モンスターじゃない。
モンスターじゃないけど、そこそこ良いカードは引けた。これでなんとかするしかない。
「リゲル、行ける?」
「キャプテンだ。ん、まぁ、仕方ない。どうやら手札にモンスターは私だけみたいだしな」
やれやれと、肩をすくめながら前に出る。
良かった、これで断られてたら負けが決まってた。
「手札から『SATELLITEキャプテン リゲル』を召喚。そのまま効果発動、デッキからモンスターを特殊召喚するよ」
『SATELLITEキャプテン リゲル』
チューナー・効果モンスター
星1/地属性/戦士族/攻 100/守 500
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードの召喚に成功した時発動できる。
デッキからレベル3の機械族『SATELLITE』モンスターを特殊召喚する。
②:このカードの特殊召喚に成功した時発動できる。デッキから『SATELLITE MISSION』1枚を手札に加える。
さすがキャプテンと言わんばかりの効果。本当は最初のターンに出したかったけど、本人にやる気がなかったから仕方ない。
さてと、ようやくデッキの確認ができる。手早く目的のカードを探さなきゃ。
「……どうして白紙のカードがあるんだろ」
白紙のカード、それも1枚や2枚じゃない。デッキの3分の1程は白紙。他のカードはほとんど3枚投入されていて、デッキとしてのバリエーションがない。
「あー……カードね……はいはい、えー、リソース不足でカード化出来ませんでした。当然、引いても反応しません、はい」
「テラ、それは最初に言ってほしかったよ」
ごめんね!舌をだして形だけの謝罪をするテラ。
……また、心臓の動きが早まる。まだ夜は寒いのに、汗もでてくる。なんだろ、これ。
「っ、私は『SATELLITE─ギア ビッグブレード』を特殊召喚!」
『SATELLITE─ギア ビッグブレード』
効果モンスター
星3/地属性/機械族/攻 1700/守 500
①:自分フィールドに『SATELLITE』チューナーが存在する場合、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
②:このカードは1ターンに1度破壊されない。
らしくない、語気が強くなる。分からない分からないなんだろ分からない。
シンプルなデザインの剣を携えた、人型の機械が現れる。
ロボットというより、機械の方がしっくりとくる。つまり、あまり人間味はない。
「大丈夫、これでS召喚が……「できないぞ」
「…………どうして」
「いなからな、レベル4のSモンスターが」
「……ならレベル5の」
「それもいない」
「っ!」
EXデッキを確認する。白紙のカードが12枚。
残りの6枚も種類にすれば2種類だけ、レベル6と7。それぞれ素材にイオとリゲルを必要とするカード。
「結、今、「テラのカードはないんだ……」って思ったわね、違うのよ、このポンコツがあたしと同調しないせいで……」
「うん?テラは他の機械とも同調できんだろ」
「まぁまぁ、それがすべてじゃありませんから」
「全く、テラの後輩は優秀なのにな……」
「ちょっと!あのバカより下と思われるのは納得いかないわ!」
……………………
「状況、分かってる?」
なんだろ、分からない。分かってる?って聞いておいて分からない。なんだろこの気持ち、分からない。
私は何が言いたいんだ、分からない分からない分からない。
「分かってるわよ、ピンチでしょ」
分かってないよ、分かってるならそんな当たり前に笑えない。
「なんとかするしかない、なんとかするしか……バトルフェイズ!」
また語気が強まる、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だよ。
「『SATELLITE─ギア ビッグブレード』で攻撃!フィールドにチューナーが存在するから、攻撃力は2100!」
人型の機械は攻撃力の上昇を示す為か、腰にさげたパーツを剣に取り付けて、攻撃にうつる。
また戦闘が行われ、先程と同じような衝撃が今度はのどかを襲う。
「ふふっ、ちょっと楽しくなってきたかも」
「……リゲルで攻撃」
「うん?私もか」
ポケットから何が小さな部品を取り出し、投げる。
100ポイント相当の攻撃だった。
「永続魔法『SATELLITE─プラクティスルーム』を発動」
『SATELLITE─プラクティスルーム』
永続魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分が『SATELLITE』モンスターのS召喚に成功した時、発動する。
デッキから1枚ドローする。
②:自分フィールド上のSモンスターが破壊される代わりに、フィールドのこのカードを破壊する事ができる。
まだ効果を使えない永続魔法を発動する。
効果を使うのは目的じゃない、本命は今から伏せるカード。どうせS召喚ができないなら、本命の罠を通すための的なってくれればいい。
「カードを3枚伏せてターン終「そのまえに」
3枚のカードを魔法&罠ゾーンに伏せ、ターンを終えようとした時、のどかがなにかを宣言する。
「速攻魔法『サイクロン』」
……良くない、このタイミングの『サイクロン』に対処できるカードは手元にない。
「どーれーにーしーよーうーかーなー……じゃー、最初に伏せたやつ」
このターンに引いたカード『強制脱出装置』が破壊される。
発動タイミングを選ばない優秀なカード、のどかのエースモンスターに対する回答でもあったのに……!
「あれ、当たり引いちゃった?むすび、顔にでてるよ」
「さて、どうだろうね」
顔にでてる。か、ここ何年か言われた記憶がない。
あぁ、分からない。なんだこのモヤモヤは、心が入ってから分からない事が増えた。
「ねぇ、結」
「……なに、テラ」
袖をひかれる、今度はなんだろう。
「どうしてあの娘は結のエンドフェイズに『サイクロン』を発動したの?自分のターンじゃだめなわけ?」
「……単純にその方が確実に1枚除去できるからだよ。もしのどかのターンに『サイクロン』を発動してたら、今破壊されたカードはそれにチェーンして効果を発動できたからね」
基本的に、ターンのエンドフェイズに発動された『サイクロン』に対して、そのターン伏せたカードは無力だから。
仮に発動タイミングを限られない、優秀なカードでも仕事をさせずに破壊できる。
「それが絶対正しいわけじゃないし、『サイクロン』に限った話でもないけどね」
「へぇー!なるほど、勉強になるわね!」
ふむふむと、メモを取りながらテラは何度も頷く。
「……楽しそうだね」
「???そりゃ、楽しいわよ。結は楽しくないの?」
「分からないよ」
結 2700 手札0枚
[○] [伏] [伏] [永] [○]
[○] [ビ] [リ] [○] [○]
[○] [○] [○] [○] [○]
[○] [伏] [○] [○] [○]
のどか 3200 手札2枚
「お、やっと引いた」
のどかのドローフェイズ、ニヤリと口元が歪む。
大丈夫大丈夫、のどかのフィールドにはモンスターはいない。モンスターが2体いなければあのモンスターは出てこない。
「手札から永続魔法、発動」
永続魔法……おそらく『獣の宴』。手札から『絆獣』を特殊召喚する効果とドロー効果を持つカード。
昼に何度も見たあのカードだ。
「『獣の宴─ココウノウタ』」
……ココウノウタ?知らない、聞いたことのないカード。
いや、のどかの手札にあるのは『獣の宴』だ。
「のどか、カード名を間違ってるよ」
「いいや、間違ってないよ。これからそうなる」
黒いもやがカードに集まる。そして書き換わる。
「……どうゆうこ「効果発動、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから『絆獣』を特殊召喚する」
私の言葉をかき消して、私の知らない、書き換わったカードの効果が発動する。
「『絆獣 ハーテンウルフ』を特殊召喚。『絆獣 ファストイーグル』を通常召喚」
『絆獣 ファストイーグル』
効果モンスター
星4/風属性/獣族/攻 1500/守 500
①:このカードが戦闘ダメージを与えた時、自分フィールドに『絆獣』カードが3枚以上存在する場合発動できる。
手札から『絆獣』モンスター1体を特殊召喚する。
②:自分フィールドに『絆獣』カードが4枚以上存在する場合、このカードをリリースして発動できる。
フィールドの『絆獣』モンスターを2体選び、そのレベルはターン終了時まで8になる。
……モンスターが……並ぶ。同じレベルのモンスターが。
「それじゃ、バトルフェイズにはいろっかな」
使うまでもないってことかな。それならそれで、つけ入る隙がある。
「まずは『絆獣 ファストイーグル』でリゲルに攻撃」
淡々と、行われる攻撃宣言。
……どうするべきだろう、この攻撃に対応できるカードはある……だけどこれを使ったらもう、他の攻撃に対処できな……
「っ!くぅっ!」
衝撃と、−1600ポイントの表示。
また、分からない……
「効果発動、手札からもう1体『絆獣 ファストイーグル』を特殊召喚。これで全員攻撃力1800。1度破壊されないくらいじゃ止まらないよ!」
それから2度、攻撃が行われる。私のフィールドにモンスターはいないけど、なんとか生き残った。
「なーんだ、ブラフか。思ったよりつまんなかったなぁ」
つまんなかった?まるでもう勝ったみたいじゃないか。
「そう、でもまだ負けたわけじゃ……」
「罠発動」
このタイミングで罠カード……?のどかのデッキに、私の残り900のLPを削りきるカードはみてないけど……
「『ワンダー・エクシーズ』このカードでバトルフェイズ中のエクシーズ召喚を行う」
「ここでエクシーズ召喚、ね」
切り札をここでだしてくる。のどかのエースモンスター。
「『絆獣 ファストイーグル』2体でオーバーレイ!」
「え!?なになに、おもしろそうじゃない!イオ、あと任せたわよ!」
「え!あ、うん!任されます!」
吹き飛ばされ、地面に半分ほど埋まってたリゲルを掘り起こすのを押し付けて、テラが走ってくる。
「なによ、あの黒いカード!まさかもやの影響でカードが黒く!?」
「うん、違うよ。あれはエクシーズ……Xモンスター」
でも、普通のデュエルならなんてことはないけど。なんだろう、この威圧感は。
「叫べ!孤高の丘で我の名を!エクシーズ召喚!『偽りの絆獣 イービルユニコーン』」
「っ!なにこのモンスター……」
フォールスファイ……ボンドビースト……?名前が違う、見た目もなにもかも。
やっぱりあのもやがカードを書き換えてるんだ。
『偽りの絆獣 イービルユニコーン』
ランク4/闇属性/獣族/攻2000/守2500
レベル4『絆獣』モンスター×2以上
このカード③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが破壊される時、代わりにこのカードのX素材1つを代わりに取り除く。
②:自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在せず、このカードにX素材がないなら、このカードの攻撃力は1000ポイントアップし、効果では破壊されない。
③:このカードのX素材を1つ取り除き、自分フィールドのカード1枚を破壊する。
その後、相手に500ポイントのダメージを与え、カードを1枚引く。
『獣の宴─ココウノウタ』
永続魔法
このカード②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに存在するモンスターが1体のみの場合、自分の『絆獣』Xモンスターは戦闘では破壊されない。
②:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから『絆獣』モンスター1体を特殊召喚する。
③:このカードはフィールドに表側表示で存在する場合、『絆獣』カードとして扱う。
「ねぇ、結。Xモンスターって?」
「……同じレベルのモンスターを素材に召喚されるモンスターだよ。素材のモンスターは墓地に行かず、そのモンスターの下に、オーバーレイユニットとして重ねられるのが特徴かな」
「へぇー!?そんなのもあるのね。でも残念、レベル4ならあの罠で破壊できたのに」
あの罠とは途中、墓地に送ったあのカードだろうか。
「それこそ残念だけどね、Xモンスターはレベルじゃなくて、星と同じランクを持つんだよ。つまりレベルを参照にするカードはつかえないよ」
「そうなの?ややこしいわね……」
全くだよ。
「それじゃあ、むすび。バイバイ」
テラに解説をしてる間に、のどかの準備は終わったようで。
「ダイレクトアタック」
「っ、罠発動!『炸裂装甲』!」
「X素材を取り除いて破壊は無効!残念だったね」
黒い、禍々しい角が私に迫る。あぁ、死ぬ……
「結!何してんのよ!まだ1枚あるでしょ!」
「え、あ!罠発動!『反撃の咆哮』!戦闘ダメージを0にして、このターン私のLP以上の攻撃力のモンスターは攻撃できない!」
諦めていた心に喝が入る。フィールドに残った伏せカードを使い、このターンを生き残る。
「生き残ったんだ、もうちょっと楽しめそうかな?『イービルユニコーン』の効果発動。『ハーテンウルフ』を破壊して500ダメージ、1枚ドロー」
「危ない!」
ふらふらと立っていた私を衝撃から守るように、テラが突き飛ばしてくれる。
「ふーー……危なかったわねぇ!さ、反撃といきましょ!」
「う、うん」
立ち上がり、カードを引く……引く……んだけど……
「どうしたの?結」
「……分からない、分からないよ」
手が……動かない。カードを引けない。
足が震える、視界が揺らいで心臓は破裂しそう。
「なんでだろ……分からない。なんでだろ……なんでだろ……」
「ん?なんでだろ……って、そりゃ、結。怖いからじゃないの?」
「怖い……?」
「そうよ、怖いから。ま、こんな命の危機みたいな状況じゃ無理もないわね」
テラはそう言ってケラケラと笑い出す。
「そっか……怖いから、か。なら……それなら心なんていらなかったなぁ」
本当に、久しぶり。こんな気持ち、こんなにもどうしようもない気持ちはないほうがいい。
「ちょっと前の私に心が、感情がないなら。そのままの方が良かった。だって、怖いから」
「そんなこと言うもんじゃないわよ」
「……謝らなきゃいけないね」
そうだ、謝らなきゃいけない。私が友達を助けたいなんて願ったから、『SATELLITE』のみんなも巻き込んだ。
それを謝らなきゃ……
「そうね、謝らなきゃいけないわ……」
リゲルの発掘を終えたイオが近づく。うん、いっそ責められた方が気が楽だよ。
「つまり結ちゃんはこう言いたいのね、『炸裂装甲』なんてデッキに入れたやつが悪い……って」
「…………え?」
いや、全然ちが……
「やっぱり!そうだと思ったわ!『魔法の筒』の方が絶対良いわよね!キャプテンとかいう立場を利用して、みんなのデッキなのに、自分の意見を押し通したチビっ子が悪いわよね!」
「チビ……っ!テラ、お前減給だからな!それに『炸裂装甲』を舐めるなぁ!」
「なーにが減給よ!あたしが1番稼いでるんだからね!?てか『炸裂装甲』っていつのカードよ!せめて『万能地雷グレイモヤ』にしなさいよ!」
「その2つなら『炸裂装甲』の方が優秀だろう!?それに新しいし、比較するなら『聖なるバリア─ミラーフォース─』だろ!」
「あの〜わたしは『ドレイン・シールド』がいいと……」
わちゃわちゃと、3人は言い争い……というかじゃれ合いを続ける。
なんで……なんで……
「なんで……私を責めないの。巻き込まれたのも、負けるのも、私が悪いのに、なんで……」
分からない分からない分からない、なんでこんな時に、変わらず笑っているのか分からない。
客観的にみて、私が悪い。それ以外は考えつかない。
「え?だってまだ負けてないじゃない」
「負けだよ。フィールドに1枚だけ、手札にカードはない。私が最初にデッキを確認しなかったのが悪かった。最初のターン、言われるままに動いたのが悪かった、分かっていれば他にできた事もあったのに……!」
後悔しかない。胸が痛い、何かが刺さっているみたいだ。
「そりゃ、リゲルが悪いわね。なーにが真打よ」
「キャプテンだ。テラがデッキをセットしたまま渡したのが悪いな、あれがなければ……」
「あ、えーっと……わたしのステータスがもう少し高ければ……」
「「間違いない(わね)」」
「ヒドい!」
顔が……熱い。何年ぶりの涙だろうか、少量だけど確かに溢れてくる。
「結、なーに泣いてんのよ」
「……泣いてないよ」
「あははっ!何その意地!」
今度は明るく笑うテラ、人の笑顔にはこんなにも種類があるのか。
「ま、誰が悪いとかじゃないわよ。仲間を責めたって仕方ないでしょ」
ぽんぽんと、頭に撫でられる。暖かい。
「わたしたちは結ちゃんを信じて託した、大事なのはそれだけですよ」
両肩に手を当てられる。暖かい。
「信じて託した……」
「うむ、我々からすればそんな簡単な事を理解してない奴が多いことに驚く。人間とは不思議だ、なぜこんな単純なことが分からないのか」
仲間……友達……
「……れるかな」
「ん?」
「なれるかな、まだ、今からでもみんなの仲間に。のどかの友達になれるかな」
なれるなら……なりたい。きっとそれは私の本心だから。
「つまんないこと聞いてんじゃないわよ」
「結ちゃんはとっくにのどかちゃんの友達で」
「我々の仲間だろ、今更抜けるとか許されんぞ」
「いいのかな」
「いいもなにも。あたしが分けたとはいえ、結がそれを望んだから、今、ここにいるんでしょ」
「私が望んだから……」
「結、分からないの?あの娘はあなたに助けてもほしいから、あんなにも待ってくれてるんでしょ」
「のどか……」
私の……私の友達は今の静かに佇んでいる。
あぁ、そうだ。私はあの明るい笑顔がまた見たいから、ここにいるんだよ。
「みんな、ごめん……いや、ありがとう」
なんだか気分がいい、感情が、心が満たされる。
結 400 手札0枚
[○] [○] [○] [永] [○]
[○] [○] [○] [○] [○]
[○] [イ] [○] [○] [○]
[○] [永] [○] [○] [○]
のどか 3200 手札1枚
「私のターン!」
カードを引く。大丈夫、もう怖くない。