遊戯王SATELLITE   作:江西

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前略、日曜日のイベントと

 問1、現在、確認されているカードでもっとも多い属性はなにか。

 

「簡単ね、風属性よ」

 

「うん、違うね」

 

「どうして言いきれるのよ、結には日々増えゆくカードの全てが把握できてるとでも言うの?」

 

「違うけど、闇属性と風属性には、ちょっとやそっとでは覆せない差があるんだよ」

 

「ほら、最近はあたしもカードになったから差も縮まったんじゃない?」

 

「ならイオとリゲル、他のカードも増えたから結果は変わらないね」

 

「残念。風属性……格好良いのに、なんで少ないのかしら」

 

「格好良いかな?」

 

「格好良いじゃない。風属性代表として良さをもっと広めないと」

 

「うん?うーん、私は『SATELLITE』……衛星を名乗っているのに名前がテラなのも、テラなのに風属性なのも若干納得がいってないよ」

 

「いやねぇ、属性なんて自己申告制なんだから、好きにするわよ。で、実際風属性はどのくらいの位置なの?2番目?」

 

「下から数えた方が早いよ」

 

「世知辛いわねぇ」

 

「そうだね」

 

 日曜日。寮の自室。

 課題のプリントと向かい合う私、その後ろで私の髪をとかすテラ。

 

「それにしても……ここ何日か触ってるけど、なかなか手ごわいくせ毛ね……」

 

 ぐぬぬぬぬ…………唸りながら、腰のあたりまで伸ばした私の髪と戦うテラ。

  

 『SATELLITE』と名乗る宇宙人たち……もといデュエルモンスターズの精霊たちと、奇妙な同居を始めてちょうど1週間。

 

 毎朝、占いの撮影をするテラの大きくてよく通る声で起きて。 

 午前中はアカデミアで座学を受け、午後は実戦。1日だいたい2試合、アカデミア側からピックされた相手と戦う。

 夜は星をみたり、テラたちの機械いじりに付きあったり、寮のロビーでデュエルをしたり。

 

 少し前では考えられないくらい、誰かと関わっている。

 多分、悪くない。良いことだと思う。

 

「いつもありがとね」

 

「ん?いや、なんだか新鮮な気分で楽しいわよ。結のゆるふわウェーブにも苦労があったのね……オシャレは難しいわね、分かるわ」

 

 うんうん、と頷くテラ。

 ゆるふわ……かな?オシャレ、とは少し違うんだよね。

 

「オシャレっていうか、昔から少しクセが強くてね。お母さんが伸ばした方が楽って言うし、妹も伸ばせって言うから流されてきただけだよ。真っ直ぐなら楽だろうな、って思う」

 

「あら、悩みだったの?なら縮毛矯正できる機械でも作ろうかしら」

 

「それじゃあ、手が空いた時にでもお願いするよ」

 

 『SATELLITE』のみんなは機械いじり……なんて言えばいいのかな、暇があれば何かの部品を分解したり、組み立てたり、付け替えたり。

 リゲルはともかく、テラやイオも得意なのは意外、かも。

 

 おかげで私の部屋は個室というより、工房かなんかにしか見えないけど。

 

 

 問2、現在、確認されているカードでもっとも少ない属性はなにか。

 

「簡単ね、水属性よ」

 

「違うよ。…………うん?水属性、嫌いなの?」

 

「水属性に嫌いな奴がいるの、たとえ自己申告だとしてもね」

 

「そっか、でもほらそろそろ、あまり手伝ってもらうと悪いよ。私の課題だし」

 

「遠慮しないで大丈夫よ、自分の精霊と協力するのはむしろ推奨されてるらしいし。それに課題が増えた原因はあたしたちにもある……のかしら」

 

「ううん、何度か言ったけど、私が勝手に倒れただけだからテラたちは関係ないよ」

 

 私は自分の意思で眠るのが得意じゃない。この時間に眠れと言われたら眠れるんだけど。

 徹夜が得意なテラたちに付き合っていたら、4日目で身体の方が勝手に電源を切ってしまっただけ。

 

 

「結はもう少し、自分の意思で動くべきね。それで次の問題はなに?」

 

「うん、頑張るよ。えっと……次の問題の前に私から問題」

 

「お、なになに。あたし詳しいわよ」

 

 髪をとかす手を止めないまま、食いついてくる。

 会話しながらでも問題は解けるけど、午後からは用事がある。こんなプリント1枚はさっさと終わらせるべきだと思う。

 

 さて、テラはデュエルが好きだけど、ルールを知る機会がなかったせいか、知識が足りなかったり、抜けてたりするんだよね。

 どうしようかな……簡単な、基礎的な……

 

 

「問題、相手のターンに自身の効果で攻撃力が上がった『ジャンク・ウォリアー』を対象に『月の書』を発動して裏側守備表示に変更しました」

 

「ふむ……『月の書』ね」

 

「その次の自分のターン、表側攻撃表示に変更された『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力はいくつでしょう?」

 

「簡単ね!簡単…………簡単ね……」

 

 手を止め、唸り始めたテラを確認して、私は私で問題を解いていく。やっぱり1年目なだけあって難しい問題はでてこないね。

 

 

『ジャンク・ウォリアー』

 

シンクロ・効果モンスター

星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

①:このカードがS召喚に成功した場合に発動する。

このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする。

 

『月の書』

 

速攻魔法

①:フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを裏側守備表示にする。

 

 

「分かったわ!確か裏側になったカードはいくつかの情報?がリセットされるのよ、ね?変わっていたステータスもここに含まれる……はず!だから攻撃力はもとの数値、2300に戻るでファイナルアンサーよ」

 

「うん、正解」

 

「簡単簡単!さ、次は?」

 

 …………これは正解する限り問題を出させる気だね。

 

 ちょっと困ったな、少し集中すればこんな課題はすぐに終わるんだけど……

 

「うーーーん、じゃあ……」

 

 ちょっといじわるな問題をだそうかな。

 いじわるというか、ややこしめの。

 

「さっきの応用。S召喚されたモンスターが『月の書』で裏側守備表示になって」

 

「ふむふむ」

 

「そのカードを次のターン、改めて表側攻撃表示に変更しました」

 

「したわね」

 

「さて問題です。このモンスターに対して『シンクロキャンセル』は発動できるでしょうか?また、発動できる場合はどこまで処理を行い、できない場合はなぜ発動できないのでしょう?」

 

「なるほどなるほど……えっ……えっ?なんて?」

 

 

『シンクロキャンセル』

 

通常魔法

①:フィールドのSモンスター1体を対象として発動できる。

そのSモンスターを持ち主のEXデッキに戻す。

その後、EXデッキに戻したそのモンスターのS召喚に使用した

S素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、

その一組を自分フィールドに特殊召喚できる。

 

 

 

 ………………よし、終わり。

 今回の課題が裁定じゃなくて、歴史の問題で助かったよ。

 

 あれ、そういえば……

 

「テラ?」

 

「待って、もう少しだから……」

 

 ……あ、さっきだした問題をまだ考えてたんだ。

 

「えぇ……正直に白状するわ、難しかった……本当に難しかったわ……」

 

「う、うん」

 

「でも大丈夫。イオもリゲルも昨日から宇宙船に行ってるから、1人で頑張ったのよ、褒めて」

 

 ……この場合はなんて言えばいいんだろう、なんでもいいかな。人を褒めるのとか苦手だし。

 そういえば姿の見えない2人は宇宙船にいるのか……宇宙船?やっぱり宇宙人なんだね。

 

「これはね……発動できないのよ。なぜなら裏側表示になったときにリセットされる情報には、S召喚された。というのも含まれているのよ。つまり……『シンクロキャンセル』で、裏側表示を経たカードはえらべないのよ!」 

 

「うん、ちが…………あー、うん、惜しいね」

 

 少しだけ言葉を選んでみた。なんでだろう。

 

「惜しいの?」

 

「うん、裏側守備表示になっても、S召喚されたモンスターっていう情報は変わらないんだよ。分からなくなるのはどこから召喚されたモンスターなのか、ってことかな」

 

「なるほ…………うん?なら墓地から特殊召喚する、までが処理できないから発動できない。が正解なわけ?」

 

「うん、違うよ」

 

 そっか……思い出した。

 昔、妹にいろいろ聞かれたときと同じなんだ。

 

「問題なく発動できるんだよ、このカードは。ついでに特殊召喚もできる」

 

「…………なんでよ、だってどこからでてきたか分からなくなるんでしょ?」

 

「うん、でもS召喚されたってことは変わらないからね。そもそもEXデッキに戻すのは効果だからもちろん、素材が墓地に揃っていれば特殊召喚にも問題はないよ」

 

「ふーん……高度なことやってたのね、あたしたち……流石としか言いようがないわね」

 

「うん?うん、そうだね」

 

「そして決めたわ、そのカードはデッキに入れない。ややこしいから」

 

 感心するように頷くテラ。

 自分たちに関係のある問題だし、満足してくれたかな。同じような事になったら、しばらくこの系統の問題をだそうかな。

 

「よし!髪、終わったわよ。今日も可愛いわ」

 

「うん、ありがとう」

 

「ちょっとは照れなさいよ、からかいがいのない」

 

「うん?好意は受け取るものだって言われてきたからね」

 

「それもそうね…………ん?誰かきたわね」

 

 扉からノックの音が響く。

 時計を見る、約束の時間から少し過ぎた時間。どうやら約束した相手は時間に厳しいタイプではないらしい。

 

 待ち合わせ場所を聞いてなかったけど、自分の部屋で待っていたのは正解だった。

 さて、待たせるのは良くないね。椅子から立ち上がり扉を開けにいく。

 

 

「おはよー!むすび、グッドモーニングだよー!」

 

「おはよう、のどか。もうお昼だよ」

 

 私のほぼ唯一の友達。のどかが今日も朗らかな笑顔と共にやってきた。

 日曜日にやりたい事があるから一緒に行こうと、誘われたから待っていた。誘いがなくてもあまり部屋からでないけどね。

 

「食堂で待ってたんだよ!いつまでたっても食べに来ないから部屋に来ちゃったよ!」

 

「あれ、食堂に集合だっけ?」

 

「言ってなかったっけ?」

 

「私の記憶にはないね」

 

「うーーーん、ごめん。でも朝もいなかったから、食堂で待ってれば来ると思ってたんだよぉ……」

 

「別に気にしてないから大丈夫だよ」

 

「…………あれ?むすび、ご飯食べた?」

 

「うん、食べたよ」

 

 昨日の夜にね、のどかもいたのに忘れちゃったのかな。

 

「ホントに?なんか食堂でむすびを見るのが少ない気がする」

 

「うん?気のせ「そーーーなのよ!!!」

 

「!!……テラ、ちょっとうるさいよ」

 

「結はちょっと黙ってなさい!」

 

「え、なんで」

 

「なんででもよ!」

 

 うん、理不尽。

 

「この娘はホントーーっに!ホントーに!なんて言うか……なんて言うか!」

 

「テラ、落ち着いて。なにも伝わらないよ」

 

 さっきまで静かだったのに、急に人が変わったようにテラは叫びだす。

 いや……思い返せば最初からこんなだったね。

 

 あの夜以降ものどかは私の友達だし、アカデミアまでどこからか持ってきた制服を着て、ついてくるテラとも仲よくしてくれてる。

 

 …………今更だけど、なんでテラがついてくるんだろ。制服ももらったとしか言わないし、誰にでも見える精霊だから目立つんだよね。

 

「受け身というかなんと言うか、言わなきゃご飯もろくに食べないのよ!?食べないし!寝ないし!動かないし!あたしたちは最悪なにもしなくても死なないけど……結は死ぬわよ!どうなの人間!!!」

 

「どうなの、と言われても……」

 

「え!?でもむすび、誘ったら一緒に食べてるよね?」

 

「言われりゃ食うのよ!」

 

「お腹空かないの……?」

 

「聞いたって無駄よ、そんなの聞いても『うん、あんまり』としか言わないわよ」

 

「テラ、私に詳しいね」

 

「嫌でも詳しくなるわよ!」

 

 ちょっとうるさい。テラものどかも元の声量が大きいから挟まれると困る。

 私にも問題があるので黙っておくけど。

 

「空っぽなのが少し改善されたと思ったらコレなんだから……」

 

「空っぽ?」

 

「気にすることないよ、のどか。そういえば用事はなんなの?」

 

「あ、そうだった!コレだよ コ レ !」

 

 わめくテラを横目に、のどかの用事を進めることにする。

 取り出したのはポスター。公式のものではなく、安っぽい手作り感満載のポスター。

 

「うん、上手だね。のどかが描いたの?」

 

「へ?違うよ、イラストなんかどーでもいいんだよ!」

 

 相変わらず、人の意図を汲み取るのは難しい。

 イラストが無関係だとすれば、内容が大事な事なんだね。

 

「1年生限定……交流デュエル大会……」

 

「そう!むすび、一緒にでよ!今から!」

 

「うん?なんで私?」

 

「え、あーー、うーん……ほら!むすび友達いないし!」

 

「やめなさい、本当の事でも泣くわよ、結が」

 

「うん、泣かないよ、慣れてるからね」

 

 ふむ……時間は今から大体1時間後……

 勝ち負けよりも本当に交流をメインにした、生徒主催のイベント、なのかな?

 隅っこの方に、カラフルなペンで書かれた『あの上級生とデュエルするチャンス!?』の文字が安っぽさを強調させている。

 

 さてどうしようか……いや、答えは決まってるんだけどね。

 

「遠慮しておくよ」

 

「「なんでよ!!!」」

 

「耳が痛いから静かにね」

 

「結が悪いわ、理由もなく断るなんて良くないわ」

 

「理由ならあるよ、3つほど」

 

 揺らさないで、揺らさないで。掴まれた肩がとれそうだよ。

 

「言ってみなさいな、却下するから」

 

 あ、却下するんだ。

 

「まず1つ……デュエルディスクがね、大分古いからあまり使いたくない」

 

「あーー……むすびのすっっっごく古いもんね。ホント、いつのやつ?みたいな」

 

「あれね、初めて見た時は『最初期!?』って思わず叫んだわ。でもきっとあのデュエルディスクには結のかけがえのない思い出があるからあたしも深く……「いや、別に思い出はないんだけどね」

 

「「ないの!?」」

 

「うん、特にないよ」

 

 ただ古いだけ。重いし使いづらいし、カードを除外する領域がないからポケットにしまうしかないし。

 テラに借りたデュエルディスク……使いやすかったなぁ。

 

 テラはあんぐりと開けた口をしめ、やっと開放された私の肩をまた揺すり始める。

 

「ならとっとと分解させなさいよ!あんなのほぼジャンクよ!ジャンク!新しいの作ってあげるから!」

 

「むすび、理由もなしにあんなの使ってたんだ……でも古いなら価値とかあるんじゃないの?」

 

「ないわよ、古いだけ。本当に最初期のなら値段なんかつけらんないけど、中途半端な時期に作られた中途半端なレプリカよ」

 

 いらないこと言っちゃったかも、不便だけど新しいものをわざわざ作ってもらうほど切羽詰ってもないんだけどな。

 さて、次の言い訳、もとい理由は。

 

「酔うんだよね、ソリッドヴィジョン」

 

「「慣れろ!!!」」

 

 そろそろ耳が……下手な言葉は鼓膜が危ない。

 

「田舎者だからかな、少し苦手なんだよ」

 

「あんたちょいちょいそれ言うけど、どこに住んでたのよ」

 

「電波は届いてたよ」

 

「曖昧ね」

 

「1日に何試合かなら大丈夫だけど、もっとすることになるよね。吐いちゃうかも」

 

「吐いたら片付けてあげるわよ」

 

「わたしも!」

 

 多分、この年になって2人から嘔吐の介護をしてもらうのは問題がある。

 

 …………そろそろ観念するかな。

 

「……本当はね、まだ分からないんだよ。人とどう接したらいいかって。空っぽじゃなくなっても、分からない事だらけで、むしろ空っぽじゃないから。多分、これは怖いだと思う。何にかはよく分からないけど」

 

 騒がしかった部屋が静まりかえる、こうなるから言いたくなかった。

 

「さっきも聞いたけど……むすび、空っぽって?」

 

 のどかの真っ直ぐな眼が……多分、怖い。少し怖い。

 多分、おそらく、もしかして。友達がいなくなるかも……それが怖い、と思う、分からない。

 

 またこれだ、分からないが増えてくる。自分で考えると、言葉にしようとすると……こうなる。

 

 

「…………空っぽだったらしいんだよ、私の心。あの夜、のどかを助けたくて、テラに心を感情を分けてもらうまで。だから正直、今も人の気持ちも自分の気持ちもよく分からないんだよ」

 

 そんな自分が、誰かと無意味に関わっていいのか分からないんだよ。

 

「そっか……」

 

 少しだけ……後悔。言うにしてもタイミングがあった。

 そっか……次の言葉はなんだろう。『なら、いいや』かな。大丈夫、人に諦められるのは慣れてる。

 

「でもむすびは助けてくれたよね」

 

「成り行きでね」

 

「正直、わたしもあの夜の事をあんまり覚えてないからさ。後回しにしてたけど」

 

 のどかに手を取られる。温かい。

 この温かさは知っている。テラにもらった心の温かさだ。

 

「ありがとう。助けてくれて、心がなかったとしても助けたいと思ってくれて、ありがとう」

 

「……なんだろ、分かんない」

 

「なーーーにが、分かんない、よ」

 

 テラに頭をはたかれる。痛くない、温かい。

 

「無意味な関わりなんてないのよ、証拠がここにあるわ」

 

 ドン、と胸に拳が当てられる。今度は少し痛かった。

 でもその痛みが心のありかを示してくれてるみたいで……悪くない。

 

「ま!ぶっちゃけわたし以外を倒してほしいだけだからね!打算打算!優勝……というかどうしても1番勝ちたいんだよーー!」

 

「うん?賞品でもあるの?」

 

「違うよ、噂があるんだよ!もしかしたら星海遊羽がくるかもしれないって!」

 

「うん……?誰だっけ?」

 

「もー!なんで忘れちゃうのかなー!むすびがデッキあげちゃった人だよー!」

 

「え、なによそれ」

 

「あー……なるほど」

 

「なによそれ!」

 

 のどかファンだったよね。

 なるほど、私に頼みたいのは露払いか。

 

「うん、じゃあ行こうかな」

 

「ホント!むすび大好き!」

 

「うん、ありがとう」

 

 はしゃぐのどかを先に行かせて、軽く準備を。

 

「ねぇ、結」

 

「なに?」

 

 デュエルディスク……ある。デッキ、ないな……

 

「さっきの話、どういうこと」

 

「うん?どれ?」

 

 あ、昨日テラがイジってたよね。てことは……あった。

 

「あげちゃったって話よ。結が最初カードを持ってなかったのって……」

 

 2人がうるさいし、なにか食べ物でも持っていこうかな……なんもないから、いいや。

 

「テラたちと会う前に少しね。大丈夫、大した問題じゃないよ」

 

「……そう」

 

 なんだか寂しそうな顔をしたテラは、1人先に行ってしまう。

 私もあとを追うことにした。1人で歩く廊下はいつもより静かだった。

 

 

 

 

 結

 LP 3500→1500

 

「ちょっとマズイかもね……」

 

 交流大会、8試合目。

 

「この展開は予想外、かな」

 

 運良く7連勝したのはいいけど。

 まさか8試合目でこんな不思議なデッキに当たるなんて。

 

「『地獄の扉越し銃』……久しぶりにみたよ」

 

 

 自分が受ける効果ダメージを相手に移すカード。

 発動のタイミングが限られるし、使い所の難しいカードなんだけど。

 あの奇妙な鉄柱のようなモンスターを破壊したら、これがとんできた。

 

「テラ……?」

 

 さっきまでの7試合。いつもの調子でデュエルを楽しんでいたテラが、このデュエルが始まってから妙に静か。

 

「結……あんたはあのモンスターを見てなにも思わないの……」

 

「あのモンスター……?たしか……あ、アシ……えっと……」

 

 グンッ!とこちらを向き、崩れ去った鉄柱を指差して。

 

「『アショカ・ピラー』よ!『アショカ・ピラー』!!!あんな素晴らしいものをあたしに破壊させるなんて、覚えてなさいよ!」

 

 …………うん?『アショカ・ピラー』?

 私の表情から察したのか、テラは勢いよくまくしたてる。

 

「あんた知らないの!?今も実在する錆びない鉄柱よ!?大昔から今に至るまで!錆びないのよ!こんなのオーパーツじゃない!」

 

「オーパーツ……?」

 

「発見された場所や時代ではありえない物品のことよ!まさに地球のロマンね!感動したわ!」

 

「あ、うん」

 

 オーパーツの意味を聞きたかったんじゃないんだけどなぁ。

 そもそもテラは宇宙人なのに詳しいね。いや、宇宙人だから……?それとも名前がテラだからかな。

 

 

「分かってるねぇ……お前さん、いい精霊をつれてるんだなぁ!」

 

「……どうも」

 

 対戦相手とテラは二人して頷く。どうしようかな、置いてかれてる。

 

「ターンエンド」

 

 どうでもいいかな、それよりも状況整理だ。

 

 私のLPは1500。手札は3枚、フィールドには『SATELLITEアーチャー テラ』のみ。

 

「よし、俺のターンだな、ドロー!」

 

 相手のLPは1700。フィールドにカードは『見世物ゴブリン』、伏せカード。手札は4枚。

 他に使ってきたカードは…………

 

 『岩投げエリア』『岩投げアタック』『黒板消しの罠』『地獄の扉越し銃』、かな。

 そしてあの不思議なカードたち……

 『水晶ドクロ』『カブレラストーン』『ピリ・レイスの地図』そして『アショカ・ピラー』…………

 

 

『水晶ドクロ』

 

効果モンスター

星1/水属性/岩石族/攻 0/守 0

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、

自分は1000ポイントのダメージを受ける。

 

『アショカ・ピラー』

 

効果モンスター

星3/地属性/岩石族/攻0/守2200

このカードが破壊された場合、自分は2000ポイントダメージを受ける。

 

『カブレラストーン』

 

効果モンスター

星1/地属性/岩石族/攻 0/守 0

このカードが表側守備表示でフィールド上に存在する場合、このカードを破壊する。

このカードがが破壊された場合、自分は2000ポイントのダメージを受ける。

 

『ピリ・レイスの地図』

 

通常魔法

自分のデッキから攻撃力0のモンスター1体を選択し手札に加える。

この効果で手札に加えたモンスターを召喚した場合、自分のライフポイントは半分になる。

 

 

「魔法発動!『ブーギートラップ』!手札を2枚捨て、墓地の『地獄の扉越し銃』をセット!罠発動!『戦線復帰』!『アショカ・ピラー』を守備表示で召喚!」

 

 良くない……これで私の攻撃は実質封じられた。

 

「さすがオーパーツね!」

 

「今の流れにオーパーツ要素あったかな?」

 

「まだだ!『カード・アドバンス』!デッキを5枚見て……クソっ!ねぇ!」

 

 まただ……上級モンスターが見えてないのに『カード・アドバンス』?それに『見世物ゴブリン』…………なにを探してるんだろうか。

 

「エンドフェイズ……『見世物ゴブリン』の効果発動!デッキの1番下のカード…………来たな」

 

 ニヤリと、テラやのどかもやるあの表情。

 あれが……目当てのカード。

 

 

『トライアングル─O』

 

通常魔法

自分フィールド上に「水晶ドクロ」「アショカ・ピラー」「カブレラ・ストーン」が

表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

このターン自分がカードの効果によってダメージを受ける場合、

代わりに相手がその効果ダメージを受ける。

 

 

「このカードをデッキの1番上に置くぜ」

 

 『トライアングル─O』なんて……なんて……回りくどいカード……

 分からない、なんでそんなカードに拘るのか、それこそ効果ダメージの反射に特化させた方がいいに決まってるのに。

 

「結」

 

「……どうしたのテラ」

 

「分からない?」

 

「……分からないよ、なんであんなデッキつかうのか」

 

「あんなデッキとか言っちゃダメよ。あれがアイツの大事なもの、ってことでしょ。あのカードで勝ちたいのよ」

 

「…………」

 

「言いたいこと、分かる?」

 

「分からないよ、負けてあげればいいの?」

 

「違うわ」

 

 テラと目が合う。違う、私がそらしてただけだ。

 

「手加減なんかしたら、あたしが許さないわ」

 

「……分ったよ、勝つよ」

 

 ドロー。引いたカードは……よし、これで動ける。

 

「『SATELLITE─ギア ビッグブレード』を召喚。バトルフェイズ、『SATELLITEアーチャー テラ』で『アショカ・ピラー』に攻撃」

 

「煽っておいてなんなんだけど、大丈夫なわけ?また撃たれるのは嫌よ?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「はぁ……正直、気が乗らないわ。ごめんなさい、『アショカ・ピラー』……」

 

 やる気なく弓を引くテラ。問題なく破壊は行われる。

 

「『アショカ・ピラー』の効果発動!俺に2000のダメージを与える!」

 

「そうはさせないよ、手札から『SATELLITE─ギア フライングスケアクロウ』の効果発動」

 

 

 

『SATELLITE─ギア フライングスケアクロウ』

 

効果モンスター

星1/地属性/機械族/攻 0/守 0

 

①:ダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果が発動した時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、その効果ダメージを無効にする。

この効果で特殊召喚したこのカードの守備力は、無効にした数値と同じになる。

 

 今現在、私のデッキに確認できる残り4枚のモンスターカードの1枚。

 不気味な笑い声の様な駆動音を鳴らしながら、いびつなカカシは効果ダメージを打ち消す。

 これでフィールドはがら空き。あとは……

 

「『ビッグブレード』でダイレクトアタック」

 

 自分のコンボを決めるためにリソースを費やしたデッキには、この攻撃を防ぎ力は残っていなかった。

 

 

「結、あんたには対戦相手がどんな感情を抱いてるか分かる?」

 

「……楽しそう、かな」

 

「そうね、楽しそうだわ」

 

 対戦相手の人は、負けたけど楽しそうにしている。

 反応から察するに、見えてないんだろうけど。デッキに入っていたオーパーツたちが寄り添っている。

 生物味はあまりにもないけど、そんなモンスターに好かれているのは、きっと良いことなんだと思う。

 

「さ、結。1言かけてきなさい」

 

「……うん」

 

 今日はずっと、テラが戦いたがった相手と戦った。

 そして心が知りたいなら話しかけてこいとも言われた、面倒だと思いながら従った。

 

 デッキやデュエルにかける想いは人それぞれで、それは温かいものだと分かった。

 ならそろそろ自分の意思で話すべきだ。

 

「えっと……対戦ありがとう面白いデッキだねひやっとしたよあ、あとオーパーツたちも喜んでると思うよそれじゃあ……」

 

「待てよ」

 

 …………やっぱり失礼だったかな。

 あの夜から、どうにもらしくない事をしようとすると上手くいかない。 口の中が乾いて、早口になってしまった。

 

「……なに?」

 

 振り返るのが……少し怖い。

 まだ感情の全ては分からないけど、あれだけの思いをした、怖いは分かる。

 

「またデュエルしようぜ!次は負けないからな!」

 

「……うん、約束するよ」

 

 それでもみんな、こんな言葉をかけてくれるから不思議だ。

 

 

 

 

「しかし危なかったわね、またあの効果ダメージを反射されたら負けてたわ。やっぱりアレよね、結も決闘者だし、言ったもん勝ちも身につけてるのね!」

 

「うん?言ったもん勝ち?」

 

「あの時よ、相手の罠よりも早く手札のカード効果を使ったじゃない。あれは先に宣言したから先に発動したんでしょ?」

 

「あぁ……うん、違うよ。先にあっちの効果が誘発したから、次のカードを優先的に発動する権利は私に移ったんだよ。私がそれを放棄しないと、『地獄の扉越し銃』は発動できないんだよ」

 

「…………難しいわね」

 

「今度説明してあげるよ」

 

 あのカードはいろんな意味で発動が難しいんだよね。

 まぁでも、考えた末にあのデッキに辿り着いたなら、私が口を出す事じゃない。

 

 もう昼と言うには遅い時間。

 ぼちぼち他の負け無し決闘者も見つからなくったので、さっきのデュエルを2人で振り返る。

 

 

 

「むすびぃーーーー!!!!」

 

 

 遠くでのどかの声が聞こえる。

 ひらひらと手を振り、待つことにした。

 

「勝率はどうだった?1番になれそう?」

 

「聞いて驚け!8連勝!」

 

「おぉ」

 

 …………うん?8連勝?

 

「いやぁー!今日は絶好調だね!むすびにばっかお願いしたら悪いしね、頑張っちゃった!むすびはどんな感じ?」

 

「あーー、うん、7勝くらい、かな?」

 

 今日は少し疲れた、正直に言うと面倒な事が……

 

「8連勝よ、つまり今、結とのどかの戦績は五分ね」

 

「なるほど……なるほどね!」

 

 のどかが笑う、楽しそうに。 そうでなくちゃ楽しくないとでも言いたげに。

 テラものどかをいつの間に名前で呼ぶようになったのか。

 

「そうでなくちゃ楽しくないよね!ならむすび!勝率1位をかけてわたしとデュエル!ま さ か、逃げないよね」

 

「もちろん。相手になるわ」

 

 勝手に話は進んでいく。デュエルの準備と一緒に。

 

「テラ……」

 

「あら、何かしら。改めて友達と向き合うのも悪くないんじゃない?」

 

 うん、そうだね。そうなんだね。

 

「テラ、ありがとう。今、ちょっと楽しいよ」

 

「良いことね。えぇ、良いことだわ。楽しいならきっと良いことあるわよ」

 

 

 楽しいも、少し分かってきた。

 面倒とか、怖いとか。ネガティブな感情だけじゃなくて。

 

「友達と競い合ったり、心を通わせるのは楽しい……」

 

「んー?むすびなんか言った?」

 

「なんでもないよ、始めよう」

 

「「決闘!!!」」

 

 悪くない、悪くないよ。

 勝ちとか負けじゃなくて、とりあえず今を楽しもう。

 

 私の心はそれを望んでいる。

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