お久しぶりです。前回投稿からちょうど3ヶ月ぶりの投稿となりました。前話投稿後、日常の方でかなり忙しくなってしまい、少しずつ執筆は進めていたのですが、完成までにかなり時間を要してしまいました。
ありがたくもこの小説を楽しみにしてもらっている方には大変ご迷惑をおかけしました。
これからも執筆は続けていきますので、今後とも『緋の軌跡』をよろしくお願いいたします。
レイドたちは混乱していた。
何の説明もなく連れてこられた旧校舎らしい建物の中で自分たちは今年から新たに設立されたクラスだと告げられ、かと思えばいきなり落とし穴で地下に落とされ、しまいには《特別オリエンテーリング》をやれと言われた。
驚くべきは、入学式が終わってから地下に落とされる今に至るまでにまだ30分も経っていないということである。
「まったく、相変わらずメチャクチャだなあの人は……」
ほんの僅かの間にここまでのことをやってくれやがったサラに呆れを通り越して感心すらして、レイドたちはひとまずは旧校舎の1階に出られるというダンジョンの入り口を囲うようにして集まることにした。
「フン……」
誰もが困惑と警戒心を露わにしてダンジョンに入ろうとしない中、ユーシスが付き合ってられないとばかりに鼻を鳴らして歩き出す。それをすかさずマキアスが「待て!」と呼び止めた。
「一人で勝手に行くつもりか?」
「馴れ合うつもりはない。それとも、“貴族風情”と連れ立って歩きたいのか?」
ユーシスの挑発にマキアスはあからさまに表情を歪める。そんな彼に追い討ちとばかりに、ユーシスは続けた。
「まあ、魔獣が怖いのであれば同行を認めなくもないがな。それなりに剣は使えるつもりだし、“
その言葉が決定打となり、我慢の限界を迎えたマキアスは射殺さんばかりに目をカッと見開いた。
「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか! もう良い、僕は先に行かせてもらう! 旧態依然とした貴族などより上であることを証明してやる!」
そう言い残してマキアスは大股でダンジョンに入っていき、その背を見送ったユーシスも再度鼻を鳴らして続いていった。そして、残された8人の間には何とも気まずい沈黙が流れる。
「入学したばかりだっていうのに大変だな、あの2人」
「うむ……とにかく、いつまでもここに立ち尽くしている訳にもいくまい。我々も動くとしよう」
そうして空気を切り替えたラウラは数人のチームに分かれて行動しようと提案し、女子のメンバーを誘うために金髪の少女と眼鏡の少女の2人の元に向かった。レイドも男子チームと合流しようと動こうとした時、ツンツンと腰のあたりを突かれた。
「レイド、わたしは先に行くね」
「は?」
と、聞き返した頃には既にフィーの姿はなく、ダンジョンの曲がり角に消えていく彼女の小さな背中が見えただけだった。彼女の実力を知っているから特に心配はしていないものの、だからと言って一人で行かなくても良いだろうに、とレイドは溜息を吐く。まあ、それは先行したマキアスとユーシスにも言えることだが。
「む、フィーはもう行ってしまったのか?」
すると、女子組に声をかけ終えたラウラがフィーも誘おうとしていないことに気づいた。ちなみに、なぜラウラが既にフィーの名前を知っているのかというと、講堂からこの旧校舎に向かう際の道中でお互い自己紹介をしたらしい。あの無口なフィーから名前を引き出すとは、さすがはアルゼイドである。武門の娘としての胆力と貴族の娘としての社交性がしっかりと備わっている。
「ああ、悪いな。あいつは自分から進んで馴れ合いをするような奴じゃなくてな。だけど、見かけによらず戦闘力はある方だから、一人でもなんとかなると思う」
ラウラの問いかけにレイドはそう答える。どれだけ見た目が幼くともフィーは多くの戦場を渡り歩いた猟兵。単独で敵地への潜入任務も行ったこともあると聞いたし、ダンジョン探索と言えどたかが学生のオリエンテーリングで遅れを取ることはないだろう。
「ふむ、彼女の知り合いであるレイドがそう言うのならばそうなのだろうが、一応、こちらからも見かけたら声をかけてみようと思う」
「ああ、そうしてくれるとありがたい。それで、ラウラはそこの2人とか」
首を少し傾けてラウラの後ろに控える2人の少女を見やる。相変わらず不機嫌そうな表情の金髪の少女と、そんな彼女を見て苦笑いを浮かべている眼鏡をかけた三つ編みの少女。2人の手にはそれぞれ武器が握られている。
弓と杖。杖の方は
一方、金髪の少女が持つ弓である。最初はなんとも古風なといった印象を持ったが、よく見てみるとハンドル(弓の中央)部分に導力機構のようなものが備わっている。詳しくは分からないが、あれがただの弓でないことは間違いないだろう。
そしてラウラは言わずもがなだ。帝国の二大剣術である《アルゼイド流》の娘らしく武器は剣。ただし普通の剣ではなく、彼女の身の丈ほどもあろう大きさの両手剣だ。これから察するに、手数で勝負というよりは長大な両手剣による一撃必殺が主となる戦闘スタイルなのだろう。
「前衛1人に後衛2人。急拵えのパーティにしてはなかなかバランスは良さそうだな」
後衛組は戦闘経験が無さそうだが、ラウラという存在がそうした戦力的な穴も上手く補っているように思う。遊撃士としては、それでも魔獣の徘徊するダンジョンを民間人──それも女子だけで行かせるのは抵抗があるが、それを言うならマキアスとユーシス(あとついでにフィー)が先行した時点でついて行くべきだったし、そもそもこれが“オリエンテーリング”と銘打ってある以上、流石に命に関わるほどの危険をサラが用意しているとも思わない。
多少の心配があるのは確かだったが、マキアスとユーシス以外の男子組も気掛かりだったレイドは、ここは素直にラウラに任せることにした。
「それじゃあ、
「うん、では先に行く。男子ゆえ心配無用だろうが、そなたたちも気を付けるが良い」
そう言ってラウラは残る2人を伴ってダンジョンに入っていった。残されたのはレイドを含めた男子4人。先ほど金髪の少女に見事な平手を貰った黒髪の少年と紅毛の少年、そして腕に刺青を入れた褐色肌の長身の少年だった。
「さてと、じゃあ俺たちも行くとするか……と言いたいところだが、まずはお互い軽く自己紹介しよう」
レイドがそう提案すると他の3人も異論なしと頷いて、まず最初に黒髪の少年が口火を切った。
「俺はリィン・シュバルツァーだ」
「エリオット・クレイグだよ」
「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」
「レイド・ルクソード。こちらこそよろしくな」
そうして軽く紹介を済ませた後、今度はお互いの手の内を知っておくためにそれぞれが持つ武器を取り出した。
ガイウスの武器は十字槍。留学生である彼が故郷で使っていた得物だという。
エリオットは眼鏡の少女も持っていた魔導杖。入学時に適性があると言われたため選択したらしい。
そして、リィンの武器は《太刀》と呼ばれる東方由来の片刃の剣だった。
「うわ〜、皆の武器って凄そうだなあ……!
それでレイドは……」
と、リィンとガイウスの見慣れない武器に感嘆していたエリオットは、今度はレイドの武器に視線を落とす。彼につられて、リィンとガイウスもレイドの武器に視線を向けた。
「それが、レイドの得物か?」
「ああ、そうだ」
そう言ってレイドは一振りの剣を抜いてみせた。その刀身を見て、リィンたちは思わず驚嘆の声を漏らす。
「うわぁ……」
「“緋色”の剣……」
「凄い迫力だな」
リィンたちが真っ先に注目したのは、刀身の色。刃を除いて根元から切っ先までがくすみの無い“緋色”だった。この剣が《緋剣》と言わしめる理由の“一つ”である。
「う~ん、考えてみればレイドって実は謎だよねぇ。サラ教官とも知り合いみたいだし」
「そのことについては後々な。とりあえず今は……」
と、エリオットの問いに軽く返して、レイドは歩き出し、
「俺たちも行こうか」
剣を肩に掛けてレイドは子供じみた笑みをリィンたちに向け、4人は薄暗いダンジョンへと足を踏み入れた。
◇
「なあリィン、お前のその剣さばき……もしかして《八葉一刀流》か?」
地下のダンジョンを進むレイド、リィン、ガイウス、エリオットの4人。お互いの戦い方を把握しながら徘徊する魔獣を倒していく道中、リィンの太刀筋を見たレイドが彼に訊ねた。
「ああ、そうだが……よく分かったな?」
「俺がこの前まで世話になってた人の中に《八葉一刀流》の使い手がいてな。その人と型がよく似てたからもしかして、と思って」
レイドがつい先日まで所属していたクロスベル支部のA級遊撃士アリオス・マクレインは、《八葉一刀流》の二の型「疾風」の免許皆伝の修得者であり、更には大陸に4人しかいないというS級遊撃士の一人だった《剣聖》カシウス・ブライトも、その流派を体得していると聞いたことがある。
「あはは……確かに俺は《八葉一刀流》の教えを受けたが、きっとその人ほど凄いものじゃないさ」
リィンは気まずそうに微笑し、それ以上話題を広げることはしなかった。いささか気になる物言いではあったが、彼にも事情があるのだろうと判断し、レイドもそれ以上訊かないことにした。
「はあぁ~……つ、疲れた……」
しばらく進んだ所で襲い掛かってきた魔獣の群れを倒した直後、エリオットが膝をついて大きく息を溢した。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと緊張が途切れただけだから……でもは皆凄いなぁ。全然平気そうだもん」
「まあ、慣れの違いだろう」
ガイウスが答え、それにレイドとリィンも頷く。
「大丈夫か? 手、貸そうか?」
「ううん、大丈夫。一人で立てるよ」
と、エリオットが腰を上げた時だった。
「──っ!? エリオット危ない!」
「え──」
何かに気付いて視線を上に向けたレイドが叫んだ。その視線を追ってエリオットが顔を上げると、一匹の魔獣がエリオットを目掛けて飛びかかって来た。
「う、うわぁっ!!?」
「チィッ!!」
レイドがすぐさまエリオットを庇って前に出る。剣を構え、迎撃の体勢に入ろうとした時、ズドンッ、という乾いた音と共に飛びかかってきた魔獣が吹き飛んだ。その魔獣をリィンが追撃し、トドメを刺す。
「良かった、間に合ったみたいだな!」
そんな声が聞こえたので目を向けると、そこにはショットガンを構えたマキアスの姿があった。
「さっきは身勝手な真似をしてすまなかった。いくら相手が傲慢な貴族とはいえ、冷静さを失うべきじゃなかった」
マキアスは近くまで歩み寄ると、そう言って頭を深く下げた。危機を救ってもらっておきながら先ほどの件を責め立てるほどこちらも非常識ではないので、気にしていない旨を伝え、助けてもらった礼を述べる。それを受けてマキアスは安心したように息を吐いた。
今の柔和で穏やかな表情のマキアスを見ていると、頑なで険悪だった先ほどとは別人なのではないかと錯覚してしまいそうなほど正反対で、レイドたちは思わず顔を見合わせる。
しかし、マキアスは再び表情を神妙なものに変えた。
「そういえば……君たちの身分を聞いても構わないか?」
「身分?」
「その……含むところがあるわけじゃないんだが、相手が貴族かどうかは念のため知っておきたくてね」
《革新派》の代表を父に持つマキアスにとって貴族は不倶戴天の敵。それは、ユーシスとのやり取りを見れば理解できる。だからこそ彼がこの質問をした意図は分かるが、それにしたって初対面の人間にいきなり身分を聞くのはいささか過剰反応な気がするのは、レイドが2年間クロスベルにいたせいか、それとも別の理由か。
「えっと……ウチは平民出身だけど」
「同じく。そもそも故郷に身分の違いは存在しないからな」
「俺も平民だな」
ともあれ、マキアスの問いに対しては何ら支障は無いのでレイドたちは順番に身分を言っていく。そして最後にリィンが何やら考え込むように少々間を取った後、言いづらそうに答えた。
「……少なくとも、高貴な血は流れていない。そういう意味では皆と同じと言えるかな」
貴族か平民か、その2択のどちらかで済む中での言葉。貴族であるとも平民であるともどちらとも聞き取れるようなその答えにレイドもエリオットも、ガイウスさえも首を傾げる。しかし、この場合は幸いというべきか、マキアスは気づかなかったようで、リィンの答えを疑うことなく安堵のため息を溢した。
「そうか……安心したよ。見たところ女子もいないし、先を急いだ方が良さそうだ」
こうして、マキアスを加えたレイドたちはダンジョンをさらに奥へと進む。迷宮のような道を右へ左へと進んで行くと、やがて分かれ道に差し掛かり、どちらに行こうか決めあぐねていると、片方の通路からラウラたちが現れた。
「おお、ラウラ」
「む……レイドか?」
レイドの姿を認めたラウラが歩み寄ると、そんな彼女に続いて後ろに控えていた2人の少女も小走りで駆け寄った。
「ふむ、そちらの彼も少しは頭が冷えたようだな?」
「……おかげさまでね」
決まりが悪そうに呟くマキアスにラウラは柔らかく微笑み、その流れのまま自己紹介を済ませる。
「ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。以後よろしく頼む」
凛とした佇まいで名乗るラウラに対し、案の定「アルゼイド」という名を聞いたマキアスが噛み付いた。
「アルゼイド!? 確かレグラムを治める子爵家の名前じゃないか!」
場に緊張が走る。ここにいる者は全員、マキアスとユーシスの諍いを目の当たりにしている。マキアスにとって貴族は敵。現に今も、手に持ってショットガンの銃口を向けかねないほど敵意の込もった視線をラウラに向けている。ラウラがユーシスのように売られた喧嘩を素直に買うとは思えないとは言え、どんな危険が潜んでいるか分からないダンジョンの只中で味方同士で争うのは得策ではない。
「ふむ……確かに私の父はその子爵家の当主だが、何か問題があるか?」
レイドがマキアスを諌めようと口を出す前に、ラウラがキッパリと言い放った。マキアスが貴族に対してどんな感情を抱いているかを知った上で、ユーシスのように皮肉を言ったのでも、挑発したのでもなく、純粋な疑問として堂々と。
「そなたの考え方はともかく、私も、おそらく私の父も、今まで女神に恥じるような生き方をしたつもりはない」
「そ、それは………」
マキアスの敵意にも動じず、真っ直ぐに見つめてくるラウラの目に、そして何より、貴族として以上に武人然とした威容に圧倒されて、マキアスは二の句が継げなくなってしまった。貴族とあらば四大名門だろうと噛み付く豪胆さは尊敬するが、今回ばかりは相手が悪かったということだろう。
「す、すまない。他意があったわけじゃないんだ」
流石にマキアスもこれ以上は無意味だと冷静に判断したのか、ラウラに噛み付くのを止めて謝罪をし、軌道修正のためにラウラの右隣に控えていた眼鏡の少女に目を向けた。話の矛先を向けられた少女は、レイドたちに丁寧にお辞儀をした後、穏やかな笑みを浮かべながら自己紹介をした。
「エマです。エマ・ミルスティン。私も辺境出身で、奨学金頼りで入学しました。よろしくお願いします」
地下に落とされる前にサラがチラリと言っていたが、この少女、名門であるトールズ士官学院に主席で入学を果たした才女であった。ここでもマキアスは表情を歪めたが、これに関しては貴族云々ではなく、単純に自分よりも成績優秀な人間がいたこと──しかもそれが女子だったことに対する悔しさのようだった。成績に関して指摘を受けた当のエマは「たまたまですよ」と謙遜していたが、そんな姿勢もまたマキアスには余裕の現れに見えたのか、「むむっ…」と口を真一文字に結んだ。
「………………」
エマの自己紹介が終わり、女子組はあと一人となったわけだが、その彼女は合流してから今の今までずっと“ある人物”を睨みつけたまま微動だにしていない。その鋭さたるや、ユーシスと相対していた時のマキアスにも匹敵するほどである。そして、ずっと睨まれ続けているリィンはというと、事案が事案だけに安易に触れればせっかく腫れの引いた頬に再び紅葉を作ることになりかねないため、謝りたくとも謝れず、彼女からの射殺さんばかりの視線を甘んじて受け入れるしかなかった。
「どうした? そなたも自己紹介くらいした方が良いのではないか?」
「…………そうね」
ラウラに言われてようやく少女は視線をリィンから外し、無言の圧から解放されたリィンは安堵のため息を溢した。マキアスの時といい先程からラウラのファインプレーが輝いている。そして、ラウラに急かされた金髪の少女は不本意といった表情を隠しもせず自己紹介を始めた。
「アリサ・R、ルーレ市の出身よ。宜しくしたくない人もいるけどまあ、それ以外はよろしく」
露骨。
明らかに“特定の誰か”に対して棘だらけの自己紹介に、その場にいた全員が苦笑い(リィンはあまり笑えていない)。ちなみに、ルーレ市は帝国北部ノルティア州の州都で大陸最大の重工業メーカーであるラインフォルト社がある大都市である。
「そ、そう言えば、アリサの弓は面白い造りをしてるな。導力式なのか?」
「その通りだけど、それがあなたと何の関係が?」
何とか謝罪のきっかけを作ろうとリィンがアリサの武器について触れるが、バッサリと一言で斬り捨てられて会話は終了。再び気まずい沈黙が場を支配した。
「この二人の関係は、思ったより前途多難だな」
「うむ……」
レイドの耳打ちに、こればかりはラウラのフォローも輝かず苦い表情で頷くことしかできなかった。
「そ、それより、これからどうしようか? せっかく合流したんだし、このまま一緒に行く?」
と、今回この空気を打破したのはエリオットだった。重苦しい沈黙に耐えきれなくなった彼が話題を転換し、マキアスもそれに賛同する。
「そ、そうだな! そちらは女子だけだし、安全のためにも──」
「いや、心配は無用だ」
マキアスの言葉を遮るようにラウラが言葉を被せ、身の丈ほどもある大きな剣を抜き放つ。
「剣には少々自信がある。残りの二人を見つけるためにも、二手に分かれた方が良いだろう」
「そうですね……あの銀髪の女の子もまだ見つかっていませんし」
残りの2人──ユーシスとフィーとは、このダンジョンに入ってからまだ合流できていない。ユーシスに関しては本人が「剣には自信がある」と言っていたから大丈夫だろうが、問題はフィーだ。彼女の正体というか本職を知っているレイドからすれば、ユーシス以上に心配する必要はないのだが、その他のメンバーにとってフィーは「ここにいるのがおかしいと思えるくらい幼い“ただ”の少女」なのだ。一応ラウラには「フィーは見かけ以上に強い」と事前に伝えてあるが、実際に見たわけではないし、心配の方が優っているだろう。
そんなわけで、絶賛単独行動中であろう2人を探しやすいよう、お互い別行動を取りながら出口を目指すということで意見がまとまり、ラウラ、エマ、アリサの女子組はレイドたちとは別の道を歩いて行った。その背を見送ってから、マキアスが呟く。
「……彼女たちは大丈夫と言っていたが、やっぱり女子3人だけというのは心配だな。誰か1人くらいは向こうについて行った方が良いかもしれない」
「いや、おそらく大丈夫だろう」
マキアスの言葉にエリオットやガイウスが頷きかけるが、そこにリィンが割って入る。
「レグラムの《アルゼイド流》は古くから帝国に伝わる騎士剣術の総本山だ。そして彼女の父親、アルゼイド子爵は武の世界では《光の剣匠》と呼ばれ、帝国最高の剣士として知られている。その娘であるラウラも、おそらく新入生の中では最強クラスだろう」
ラウラに関するリィンの評価を聞き、マキアスとエリオットが息を呑む。ガイウスは「帝国にはそんな流派もあるのだな」と鷹揚に構えていた。
レイドもリィンと同じ評価である。実際に彼女が戦った姿を見たわけではないが、剣の道に携わる者ならば所作や佇まいだけでその人物をある程度把握できる。レイドが見た限り、ラウラのそれはかなり洗練されていると言っていい。物心ついた時から剣に親しみ、文字通り血の滲む努力の末に磨かれた確固たる才能だ。
ただし、あくまでそれはラウラ個人の話。
「リィンの言うことは最もだが、ここは練武場とは違う。何が起こるか分からないダンジョンだ」
「それは……確かにそうだな」
レイドの言葉を受けて、リィンたちはこれまでの出来事を思い出す。このダンジョンに出現する魔獣は、一体一体は戦闘初心者のエリオットが
それは、奴らが群れを成して襲ってくることだ。
これがサラやアリオスクラスの猛者ならば有象無象が群れを成したところで何の問題もなく対処できるだろう。その2人に師事したレイドも群れの相手をしたことは何度もあるため、別段大変なことだとは思っていない。しかし、それは守る者が“いなかった”場合の話であり、戦えない者、あるいは戦闘経験が乏しい者(今の場合はエリオット)を気にかけながら戦うことは中々に骨が折れる。そして、こちらと同じような状況に彼女たちが陥ってしまった場合、まともに戦える者がラウラしかいないならば、こちら以上に危機的な状況になる可能性が高い。しかも相手は人ではなく魔獣。魔獣は手加減などしない。学生向けのオリエンテーリングだから命の危険は少ないかもしれないが、万が一が起こらないとも限らない。サラの目的が何であれ死人や重傷者を出すことは望んでいないだろう。
ならば……。
「俺が行こう」
やはり彼女たちを放ってはおけない。それは、サラの弟子として、未来のクラスメイトとして、何より“
「そうだな。ここはレイドが適任だろう。任せていいか?」
一方、リィンはレイドの言葉に頷きながらそう返した。
リィンはレイドのことを知らない。今日初めて会ったばかりの「赤の他人」だ。だが、まるでレイドのことを知っているかのように「適任」と表現した。もう一度言うが、リィンはレイドを知らない。しかし、知らないながらも、ここまで行動を共にして分かったことがある。
レイドは強い。おそらくラウラと同等か、それ以上に。
先ほどリィンがラウラを「新入生最強」と決めつけず「最強クラス」と表現したのは、その前にレイドの戦いを、その剣を目の当たりにしていたからだ。
レイドは以前《八葉一刀流》の使い手に世話になったと言っていた。「世話になった」というのがどういう意味の「世話になった」かは分からないが、きっと《八葉一刀流》の指南を受けたのだろうとリィンは判断している。何故なら、実際にレイドの一部の剣技に《八葉》の特色が見てとれたからだ。リィン自身も教わった二の型《疾風》の特色が。
その他にも、彼の剣は一言で表すならば「多彩」に尽きた。《八葉》の型を使ったと思えば格闘術を彷彿とさせる構えで剣を振るったり、力強く真っ直ぐな剣かと思えば、今度は弧を描くような柔軟な剣を見せてくる。構え方もそうだ。普通に片手持ちで構えているかと思えば両手持ちで正眼に構えたり、逆手に持ち替えてナイフのように振るったりと、沢山のスタイルを持っていた。
《八葉》だけではない。レイド・ルクソードの剣の根幹にあるのは、幾つもの流派の型であり、何人もの使い手たちの戦闘スタイルだ。それらをレイドは自身の剣に取り入れ、技に昇華させているのだ。
そして、リィンのこの予想が正しければ、まず間違いなくレイドは新入生の中で、いや、もしかしたらトールズ士官学院全体でも「最強」と言える存在かもしれない。
「それじゃあ、
リィンが頷いた後、他の3人も同意したのを確認したレイドはリィンたちと別れ、ラウラたち女子組が歩いていった道に歩みを進めたのだった。
ちなみに、作者の主人公レイドのキャライメージが「場数をふんでいるため他の人よりも大人だが、年相応に子供らしい部分がある」と言った感じだったので、イメージCVは内田雄馬氏でした。しかし最新作の新キャラで内田雄馬氏が出ちゃいましたね。一応、第2候補が逢坂良太氏です。
執筆している時、オリキャラに声当てるなら誰がいいかなって考えたり、セリフ書く時に脳内でキャラボイス再生させながら書くと楽しいやべえオタクな作者の今日この頃。