緋の軌跡   作:もちごめ

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お久しぶりでございます。前回更新から半年以上空いてしまいましたが、執筆活動を再開しました。相変わらずペースは遅くなりますが、少しずつでも投稿していきたいと考えていますので、今後ともよろしくお願いします。




第5話『特科クラス《Ⅶ組》』

 

 

 ラウラたちと合流するためリィンたちと別れたレイドは、彼女らが進んでいった方向に歩みを進めていた。ラウラたちと別れてからそう時間が経たない内に後を追ったはずだが、未だ彼女たちの姿は見えない。相変わらず眼前には薄暗い通路と等間隔に備え付けられたほとんど周囲を照らさない導力灯の灯りが広がり、魔獣たちが暗闇を這う音が耳に届く。

 

「……というか、そもそもの話として民間人が出入りする学院の敷地内に魔獣の蔓延るダンジョンがあるってヤバくね?」

 

 教育機関などのその辺りに関する事情は知らないが、安全管理上あまり良しくないんじゃないだろうか。ましてやトールズ士官学院は大貴族の子女も多く通っているのだし、もし何かの手違いで地下の魔獣が外に出てしまい、彼らが怪我でもしようものなら大問題だろう。

 

「やっぱり、伝統校といっても“士官”学院だということが関係してるのか……?」

 

 貴族の子女や優秀な人材が集まる伝統校と言えど、その本質は『軍学校』である。現在でもトールズの卒業生の3割は正規軍、1割は領邦軍と半数近くが軍属の道へ進んでいる。そう考えると、存外このダンジョンもそうした生徒用の訓練施設としての一面を担っているのかもしれない。そうでなくとも、このダンジョンを使用するにあたってサラが事前調査をしていないはずがない。

それを確認するためにも、まずはさっさとこのダンジョンを抜けなければならないだろう。

 

「そのためにラウラたちと早く合流しないと………っ!」

 

 歩調を早めたレイドの耳に魔獣の咆哮と剣戟の音が微かに届き、その瞬間、レイドは音のした方向に全速力で駆け出した。しばらく進んでいくと、先刻ラウラたちと会った時のような少し広めの広場に出、魔獣の群れに囲まれたラウラたちの姿を捉えた。周囲には数体の魔獣の死体が転がっているが、ざっと見た限りでは敵の残りは10体以上。本来のラウラの実力であればこの程度の数はどうということはなかったかも知れないが、アリサやエマを守りながらでは戦い方は限られる。今日初めて会ったばかりの彼女たちでは連携もままならず、本来の実力を発揮できないまま徐々に劣勢に追い込まれているようだった。

 

「ラウラさん、危ない!!」

「──っ!?」

 

 すると、魔獣の一体がラウラの背後から飛び掛かった。アリサとエマの援護も間に合わず、ラウラもまた眼前の魔獣を斬り伏せたばかりだったため反応が遅れた。

 

「──『疾風紅蓮』!」

 

 腰に佩いた緋剣を抜き放ったレイドは、声と共に20アージュほどあった距離を()()で詰め、ラウラに飛び掛かった魔獣を真っ二つに斬り裂いた。魔獣は斬られたことにも気付かず牙を剥き出したまま、ラウラの両横を通り過ぎる。

 

「そ、そなたは!? なぜここに──」

「話は後だ! 今はこの場を切り抜けることに集中するぞ!」

 

 レイドの登場に驚いて構えを解いたラウラだったが、レイドに促されて剣を構え直す。後方にいたアリサとエマも合流し、それを確認したレイドは指示を飛ばした。

 

「俺とラウラで前に出る。アリサは援護をしながら俺たちが討ち漏らした魔獣を射抜いてくれ。エマも魔法(アーツ)で適宜サポートを頼む」

「はい!」

「分かったわ!」

 

 指示を受けたアリサとエマは力強く頷く。続いてレイドは横に立つラウラに目をやった。

 

「怪我は無いか、ラウラ?」

「うむ、そなたの助太刀に感謝を」

 

 小さく笑んだ後、ラウラは息を吐いて剣を持つ手に力を込める。それを見てレイドも剣を構えた。

 

「よし──行くぞ!」

「承知!」「はい!」「ええっ!」

 

 掛け声と共に戦闘を開始する。ラウラが跳び上がり、着地と同時に大剣を振り下ろすと、着地点にいた魔獣もろとも地面を砕き、その衝撃波が一直線に伸びながら少し離れた場所を群れていた2匹を吹き飛ばした。

 

「『疾風紅蓮』!」

 

 レイドは先ほどラウラを助けた時にも使った戦技で一瞬で魔獣との間合いを詰め、すれ違いざまに真っ二つに斬り裂く。しかし今回はそれで終わらない。剣を逆手に持ち替えると、一回転しながら勢いをつけ、そのまま剣を振るって緋色の電気を纏った斬撃を飛ばした。

 

「『雷紅斬』!」

 

 放たれた斬撃は稲妻のように猛々しい轟音を轟かせて別の群れに迫り、その紅雷に貫かれた魔獣たちは成す術もなく消滅していった。

 

「見事な剣技だ、レイド!」

「そう言うラウラも、さすがは《アルゼイド流》だな!」

 

 お互いの戦技が魔獣を倒したのを確認し、レイドとラウラはお互いを褒め称える。そんな彼らに2体の魔獣が飛び掛かったが、その爪牙が届く前に、放たれた矢と火球が貫いた。アリサの矢とエマの魔法(アーツ)だ。

 

「へえ、アリサたちもやるな」

「うむ。ここまでの道中も2人の援護には助けられた」

 

 こうして体勢を立て直したレイドたちは瞬く間に劣勢を覆し、やがて全ての魔獣を討伐した。周囲の魔獣の死体を見渡し、隠れた魔獣の気配がないのを確認したレイドとラウラは静かに剣を収める。

 

「な、何とか倒せたわね」

「はい、危なかったです……」

 

 アリサとエマは大きく息を吐いた後、ぐったりと座り込んだ。傷は無いものの、群れとの戦いで大きく体力を消耗したようだ。

 

「…………アリサ、エマ、すまなかった」

 

 すると、そんな姿を見たラウラが2人の方に近づいていたと思えば、次の瞬間には姿勢を正して頭を下げた。

 

「ラ、ラウラっ!? 急にどうしたのよ!?」

「あ、頭を上げてください!」

 

「私はアルゼイドの人間として、己の道は己の手で斬り開くべきだと考えていた。だからレイドたちに会った時、共に進もうという彼らの提案を断った。だがそれは間違いだった。戦闘経験のないそなたたちを守りながら戦えるほどの力は、今の私には無かった」

 

 頭を下げたまま謝罪の言葉を口にするラウラに、アリサとエマは動揺を隠せず狼狽えたが、ラウラは構わずに続けた。

 

「私の下らぬ“矜持”のために、そなたたちを危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳なかった」

 

「ラウラさん……」

「ラウラ……」

 

 頭を下げたラウラの表情は分からない。しかし、彼女の拳がギュッと固く握り締められているのを見れば想像は難くない。

 仲間を危険に晒してしまった自身の考えの浅はかさと実力の至らなさに対する悔しさと怒り。

 

 レグラムという小さくとも一つの町を治める《アルゼイド家》の娘であるラウラにとって、領地の民は守るべき者である。父・ヴィクターにはそのように教えられたし、ラウラもまたその教えを胸に幼少から剣を振り続けてきた。アリサとエマは領地(レグラム)の民ではない。だが、共にある以上、ラウラにとっては等しく「守るべき者」なのだ。

 そんな「守るべき者」を守れなかった。レイドの助力がなければ、アリサもエマも大きな傷を負っていたかもしれない。その事実はラウラにとって耐えがたい屈辱であった。

 固く握った拳から血が滴り落ちる。爪が掌に食い込み、皮膚を切ったらしい。ポタポタと地面に落ちるその血を見て、アリサもエマも言葉を失っていた。

 

「それは違うんじゃないか、ラウラ?」

 

 重い沈黙が場を支配する中、そんな言葉を投げかけたのはアリサでもエマでもなく、一歩離れた場所から彼女たちのやり取りを静かに見守っていたレイドだった。彼の発言にアリサもエマも、ラウラさえも思わず目を向ける。

 

「レイド? 違うとは、どういう……」

「俺はラウラとは今日知り合ったばかりだから、ラウラのことはよく知らない。けど、剣士の端くれとして《アルゼイド》のことは知っている」

 

 《ヴァンダール流》と並んで帝国の武の双璧として知られる《アルゼイド流》。

 

 《ヴァンダール流》が古くから皇族たるアルノール家に仕え、『皇族守護』の役目を担ってきた“護る剣”ならば、《アルゼイド流》は聖女リアンヌに仕えて眼前の敵を討ち祓い、主の道を作ってきた“斬り開く剣”。

アルゼイドはその“剣”を誇りとして今に至るまで守り続け、そして磨いてきた。

 

 そう──『誇り』だ。

 

 どんな人間でも持ち得るもの。その者をその者たらしめんとする“魂”とも言えるもの。

 

「ラウラは“下らない矜持”と言っていたが、矜持と誇りは同義。ならその“矜持”こそがアルゼイドの──ラウラの“魂”だ。それを『下らない』と否定することは、ラウラ自身のこれまでの努力や想いを無駄にすることと同じなんじゃないか?」

 

「……ぁ…」

 

 レイドの言葉を受けて、ラウラはハッと目を見開いた。

 そうだ、確かに先ほどの自分の発言は自らの人生を自らで否定したも同然だ。それはラウラにとって決して許せない愚行だ。

胸に手を当てて瞑目し、心の内でレイドの言葉を反芻させる。そして10秒ほどの沈黙の後、再び目を開いた彼女は柔らかい笑みを浮かべ、

 

「……ありがとう、レイド」

「──っ!?」

 

 今までの凛とした姿とはかけ離れた彼女のその笑みと言葉に不意をつかれ、レイドは思わず赤面した。

 勇猛で、戦闘でも力強さを見せていたラウラだが、その容姿はまごう事なき美少女である。その笑顔はまさに“美しい”の一言に尽きる。

 

 不意打ちを喰らってしばらく見惚れてしまっていたレイドは、少女たちが不思議そうに自分を見ていることに気づいて取り繕うように咳払いをした。

 

「そ、その……礼を言われるほどじゃないさ。むしろ悪かったな、今日会ったばかりなのに知ったような口をきいた」

「いや、そなたのおかげで私は大切なものを失わずに済んだ」

 

 眩しい。再び笑顔を見せられて赤面してしまうレイドとそんな彼を見て「顔が赤いぞ? まさか先ほどの戦闘で怪我を!?」と無自覚に迫ってトドメを刺しに行くラウラ。

 

「私たちは一体何を見せられてるの?」

「あ、あはは………何でしょう?」

 

 そして、置いてけぼりを喰らったアリサとエマは、白い目と苦笑を向けながら2人のやり取りを見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、レイドたちは共にダンジョンの攻略を再開した。その道中で再び何度か魔獣の群れと遭遇したが、戦力が増え戦術に余裕の出たレイドたちの敵ではなく、難なく魔獣を討伐していった。戦闘素人のアリサとエマも何度かの戦闘を通してコツを掴んできたのか、援護や支援(サポート)もスムーズに行えるようになっていき、そうして30分ほどダンジョンを進んでいると、4人はようやく出口である旧校舎の一階へと続く階段部屋に出ることができたのであった。

 

「やっと出口に出ることができたわ──って、な、何あれ!?」

 

 出口を見つけて喜んだのも束の間、眼前に繰り広げられた光景にアリサは驚愕を露わにした。

 そこにいたのはリィン、エリオット、ガイウス、マキアスの4人。レイドが途中まで行動を共にしていたメンバーである。しかし、彼らはレイドたちが追いついたことも、アリサが驚愕の声を上げたことにも気づいていない。その理由はすぐに分かった。

 

「あの威圧感……今まで遭遇した魔獣とは明らかに違うな」

「ええ、おそらく古代の伝承に出て来る石の守護者(ガーゴイル)でしょう」

 

 巨大な2本の角と禍々しい翼を生やし、皮膚でもなく鱗でもない、無機質な石の外殻を持つ凶暴な守護者。暗黒時代、魔導によって造られた“魔物”である。

 

 リィンたちがその外殻に攻撃を加えていくが、痛みを感じない石造りの魔物は意にも介さず、すぐに傷を再生させていく。ダメージの与えることのできない強敵に体力の限界も近づいていたリィンたちは徐々に押され始めていた。

 

「リィンたちが危ない! 俺たちも加勢するぞ!」

 

 レイドの言葉に頷き、4人は動き出した。今まさにリィンたちに襲い掛からんとしているガーゴイルにアリサとエマが弓とアーツで足止めし、その隙に距離を詰めたレイドとラウラが剣で攻撃を加える。

 

「レイド!?」

「リィン、遅くなってすまない!」

「いや、助かった……!」

 

 片膝をつくリィンに駆け寄り、携帯していた回復薬を渡す。リィンが受け取ったそれに口をつけると、淡い光が彼の体を包み、細かな傷を治していく。アリサとエマも魔法(アーツ)を用いてエリオットたちを回復させ、ラウラはその間、剣を構えてガーゴイルに注意を向けていた。

 

「我らの攻撃も意に介さぬか……」

 

 悔しそうな口調でラウラが呟く。レイドたちが与えたダメージは既に再生を始めており、突き刺さっていたアリサの矢が外殻に押し出されてカランと音を立てて地面に落ちる。

 この再生能力がある以上、外殻に傷をつける程度の攻撃ではダメージにはならず、再生ができない程の強力な攻撃をぶつけるしか勝つ見込みはない。

どうにかして勝機を見出さなければと、各々が武器を構えた時だった。

 

「──フン、結局こうなったか」

「まあ、仕方ないね」

 

 後方から声が聞こえると同時に、緑色の塊がガーゴイルの顔面に直撃し、その体躯を仰け反らせた。ユーシスが発動した風属性の魔法(アーツ)『エアストライク』だ。そして、ユーシスが魔法(アーツ)を放つと共にフィーが風のような速さでレイドたちの間を駆け抜け、仰け反ったガーゴイルに飛び越えざまに双銃剣(ダブルガンソード)による銃弾を撃ち込んだ。しかし、そこでフィーの攻撃は終わらない

 

「もういっちょ」

 

 着地と同時にフィーは再び加速し、今度はガーゴイルの下方を四肢を斬りつけながら駆け抜ける。小柄なフィーの攻撃力は決して高くはないが、彼女の磨き抜かれたスピードはガーゴイルの硬い外殻を砕き抉るほどの威力を生み出していた。四肢を破壊され、巨体を支えられなくなったガーゴイルは重い音を響かせながら崩れ落ちる。石でできた魔物に痛覚があるのかは知るよしもないが、痛みに喚くかのような方向が広場に木霊する。

 

 好機だ。誰もがそう考えたその瞬間、まるでその感情に呼応するかのように彼らの身体を淡い光が包み込んだ。

 

「今だ!」

『応っ!!』

 

 リィンの叫びに、全員が応えて動き出した。

 エリオットとエマの魔法(アーツ)が撃ち込まれ、アリサの矢が的確に急所を射抜く。

マキアスの散弾でガーゴイルの外殻が砕かれると、そこにガイウスの槍が追い討ちをかけた。

 フィーは空を飛ぶかのように跳躍しながら銃弾と斬撃の雨を降らせ、その攻撃によって脆くなった両翼をユーシスの騎士剣とリィンの太刀が斬り落とした。

 

 まるで洗練された部隊のように繋がっていく連携。先ほどまであれほど苦戦していたガーゴイルの再生能力は嘘のように障害にもならなくなっていた。

 

 全身を砕かれ、両翼を斬り落とされた石の魔物は最後の足掻きの如く激しくのたうち回り、頭を振り上げたことで首元を露わにした。その致命的な隙を見逃さず、2つの影が肉薄した。

 

「「はああああああっ!!!」」

 

 レイドとラウラ──お互いに声を掛け合ったわけでも、合図を出したわけでもなく。

 

 まるで2人の思考が一つとなったかのように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「はああああっっ!!」」

 

 四肢に力を込めて飛び掛かり、渾身の一撃を同時に放つ。狙いは振り上げられて露わになった魔物の首元。2人の斬撃はガーゴイルの硬いを外殻をものともせず、その首を胴から断ち切り、首を失い力無く地面に崩れ落ちたガーゴイルは、今度こそ元の石の姿に戻って消滅したのだった。

 

「や、やった……!」

「よかった……」

 

 ガーゴイルが消滅したのを確認した後、何人かからは歓喜の声が漏れた。特にアリサ、エマ、エリオットの3人は今まで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまい、大きく息を吐いてペタリと地面に座り込む。

 

「それにしても……最後の“あれ”、何だったのかな?」

 

 そして、投げ掛けられたエリオットの言葉に全員が「うーん……」と首を傾げて黙り込んだ。

 ガーゴイルとの戦いで勝機を見出すと同時にレイドたちを包んだ光。次の瞬間には、お互いの行動や考えをまるで数十年来の戦友と肩を並べて戦っているかのように理解した。言葉を発さずとも、意思の疎通を測ることができたのだ。

 

「(あんなにも高度に洗練された連携、クロスベルの遊撃士だって出来やしない……!)」

 

 レイドにとっても初めての経験に動揺が隠せなかった。戦闘の高揚とも違う、魔法(アーツ)の力とも違う未知の体験。

 唯一分かっているのは、あの時レイドたちを包んだ光が《ARCUS》から発せられたものだったということだ。

 

「……もしかしたら、さっきのような力が──」

「そう、《ARCUS》の真価ってワケ」

 

 考え込んでいたリィンの言葉に続くように、頭上から聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。声の方に目を向けてみれば、旧校舎一階に続く階段、その途中の踊り場で満足そうな笑顔を浮かべたサラがいた。

 

「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね! うんうん、お姉さん感動しちゃったわっ!」

 

 パチパチと拍手をしながらサラは階段を降り、呆気に取られているレイドたちの前に立つ。

 

「さて、これにて入学式の特別オリエンテーリングは終了なんだけど……なによ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

 

『喜べるわけないでしょう!』

 

 再び心が一つとなった全員の叫びが響き渡る。これは恐らく先ほどのとは関係ない。

 

「あらら? これは予想外の反応ねえ」

「単刀直入に問おう。特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」

 

 目を点にしながらポリポリと後頭部を掻くサラのおどけるような態度を無視して、ユーシスがズバリと切り込む。

 身分や出身に関係なく集められたというのは充分理解したが、結局なぜ自分たちが選ばれたのかを教えてもらっていないのだ。

 サラは「そうね〜」と呟いて、レイドたちが集められた理由を語った。

 

「君たちが《Ⅶ組》に選ばれた理由は色々あるんだけど、一番判りやすい理由はその《ARCUS》にあるわ」

 

 サラはそう言ってレイドたちが手に持っていた《ARCUS》を指差す。

 

「なるほど……既に《ENIGMA》を持っている俺にも《ARCUS》を支給したのはそういう意図だったのか」

「そっ、さすが我が弟子!」

 

 サラはグッとサムズアップしたが、レイドは無視することにした。しかしサラは慣れてるのか何なのか、気にせず説明を続けた。

 

「エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した最新鋭の戦術オーブメント《ARCUS》。様々なアーツが使えたり、通信機能を持っていたりと多彩な機能を秘めているけど、その真価は《戦術リンク》──先ほど君たちが体験した不思議な現象にある」

 

 《戦術リンク》?。

 聞き慣れない単語に全員が首を傾げる。先ほどの戦闘でお互いの行動や考えを瞬時に理解できたのは、どうやらその《戦術リンク》という現象によるものらしい。

もしサラの話が本当なら《ARCUS》がもたらす恩恵は絶大だ。例えば戦場でこれを用いれば、極論あらゆる作戦行動を可能とする精鋭部隊が運用できてしまうということだ。そんなことが出来れば、それはまさに戦場における『革命』と言っても過言ではない。

 

「──だけど、現時点で《ARCUS》は個人的な適性に差があって、新入生の中で君たちは特に高い適性を示した。それが、身分や出身に関わらずあなたたちが《Ⅶ組》に選ばれた理由よ。他に質問のある子はいる?」

 

 サラの説明を受け、想像以上にスケールの大きな話にこれ以上誰も何も言うことができなかった。この沈黙をもって、サラは最後の締め括りを行うべく再び口を開く。

 

「トールズ士官学院は、この《ARCUS》の適合者として君たち10名を見出した。でも、この《Ⅶ組》が ”特科クラス“ と銘打ってある以上、本来各々が所属するはずだったクラスよりもハードなカリキュラムをこなしてもらうことになる。だから、やる気のない者や気の進まない者が参加できるほど気楽ではないし、予算にも余裕はない。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか……改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

 全員の顔を一人ひとり見ながら、サラは問う。なお、辞退した場合は本来所属するはずだったクラスに行くことになるとサラは補足した。貴族出身ならばⅠ組かⅡ組、それ以外ならⅢ~Ⅴ組の所属である。制服も各クラスの色のものが後日支給される。今日が入学初日であることも幸いし、ここで辞退してもそのままクラスに馴染むことができるだろう。

 冷たい風音が響き渡り、迷宮を抜けて頬を撫でる。時間にして1分ほど、無言が広場の空気を支配していた。

 

 そして──。

 

「リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」

 

 最初にリィンが前に出た。

 

「一番乗りは君か。何か事情があるみたいね?」

「いえ……我侭を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであれば、どんなクラスでも構いません」

 

 リィンの行動を皮切りに、空気が変わっていく。

 

「ふむ……そういうことならば、私も参加させてもらおう」

 

 次に前に出たのはラウラ。修行中の身である自分にとって今回のような試練は望むところだ、と彼女は語った。こうして2人が名乗りを上げた後、他のメンバーも続々と名乗っていき(約1名面倒くさそうではあったが)、最終的にレイド以外の9人全員が参加を表明した。

 

「さて、残るはレイドだけだけど……あなたはどうするの?」

 

 そう訊ねるサラであったが、彼女の顔には既に答えは分かっていると言うかのような笑みが浮かんでいた。

 

「どうするも何も、俺をこの学院に呼んだのはサラなんだから答えるまでもないだろう?」

「まあね。けど、こればっかりはあなたの口から聞きたいわ」

「はあ……分かったよ」

 

 小さく息を吐きながら、レイドも皆と同じように前に出る。

 

「ま、何だかんだで楽しめそうだし、俺も《Ⅶ組》に参加させてもらうよ」

 

 人によっては適当だと思われかねない参加理由ではあるが、実際レイドはクロスベルを去る際、アリオスにも言われている。

 

彼女(バレスタイン)の真意が何であれ、折角の学院生活だ。楽しんでくると良い』

 

 彼の言葉と、更に同時期にクロスベル支部に応援に来たリベール王国出身の2人の男女にも、学園生活の楽しさを散々教えられたこともあり、レイドは遊撃士であることは一度忘れてこの学院生活を楽しもうと決めていた。

 

「これで10名。全員参加ってことね!」

 

 レイドの参加を受けて、「うんうん」と大変満足そうに頷いたサラだったが、ここで一度大きく咳払いをして、表情をキリと引き締めた。

 

「それでは、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する! ビシバシしごいてあげるから、楽しみにしてなさい♪」

 

 こうして、ライノの花が咲き誇る3月31日。トールズ士官学院にて特科クラス《Ⅶ組》が発足。

 

 動乱の影が渦巻く旧き大国エレボニアで、いずれ“光”となり得る彼らが小さく輝き始めた瞬間であった。

 

 

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