緋の軌跡   作:もちごめ

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第8話『実技テスト』

 

 

 4月21日。この日の昼休み、トールズ士官学院のグラウンドには特科クラス《Ⅶ組》の姿があった。かねてよりサラから告げられていた《実技テスト》を実施するために招集されたのである。

 

「──さて、前もって言っておくけど、このテストは単純な戦闘力を測るものじゃないわ。『状況に応じた適切な行動』を取れるかを見るためのものよ。その意味で、何の工夫もしなかったら短時間で相手を倒せたとしても評点は辛くなるでしょうね」

 

 真面目な口調でサラが実技テストの目的を語り、「それじゃあ早速始めましょう」と彼女がパチンと指を鳴らすと、どこからともなく機械の人形を召喚した。突然現れた謎の機械に、レイド達は一様に面食らった。

 

「そいつは作り物の“動くカカシ”みたいなもんよ。そこそこ強めに設定してあるけど、決して勝てない相手じゃないわ。例えば──《ARCUS》の戦術リンクを活用すればね」

 

 そう言ってから、まず手始めとしてリィン、ガイウス、エリオットの3人が呼ばれ、実技テストが開始された。

 クラスの中で特によく一緒にいることの多い3人はどうやら先日の自由行動日に特別オリエンテーリングでも使用したあの旧校舎地下に再び潜っていたらしい。そこでの実戦経験を元に戦術リンクを上手く活用出来るようになっており、オリエンテーリングの時よりもはるかに息の合ったコンビネーションで大した苦戦もせずに機械人形を撃破した。

 

「うんうん、悪くないわね。それじゃあ次、アリサ、エマ、マキアス、ユーシス。前に出なさい!」

 

 リィン達の結果に満足そうに拍手をしたサラだったが、すぐに切り替えて次のグループを呼ぶ。次の人数は4人。リィン達の時よりも数は多いが、その内の3人が後衛タイプの上、唯一の前衛であるユーシスがマキアスと連携を取ることができず、リィン達よりも苦戦する結果となってしまった。

 

「う~ん……まあ予想はしてたけど、やっぱりマキアスとユーシスは連携が取れてないわね。あなた達はそこが課題よ」

「ぐっ……!」

「チッ……」

 

 マキアスは悔しそうに表情を歪め、ユーシスは舌打ちをした。ただでさえ険悪な仲の2人なのだから、こうなっても無理はないだろう。

 

「さて、それじゃあ最後は……レイド、ラウラ、フィー! 最後なんだから気持ち良く締めなさいよ〜」

 

 その発言がもう既に締まらないということに気づいて欲しい。レイド達は、小さく息を吐きつつ前に出た。

 

「サラ教官、3人で大丈夫なんですか? 俺たちは戦術リンクを使って倒すことができましたが、その後は4人掛かりで苦戦してましたし……」

 

 と、リィンが不安そうな表情でサラに訊ねた。リィンの言うとおり、今回の実技テストで使用されている機械人形は、まともな連携が取れなければ4人掛かりでも苦戦する強さに設定されている。最初にサラが告げたように《ARCUS》の戦術リンクを活用しなければ評価は得られない。しかし、そんなリィンの懸念をどこ吹く風とサラは笑顔を崩さないままに答える。

 

「それなら大丈夫よ。この3人なら上手く戦術リンクを繋ぐことができるわ。何なら、あなた達よりも良い成績を出すかもね」

 

 えっ……、とリィンは声を漏らした。 

 確かにレイドとラウラは新入生の中では最強格の実力者。フィーにしても年齢に見合わず身体能力は著しく高い。だから実力面で十二分にあの機械人形に渡り合えるのは理解できる。しかし、自分たちでさえ旧校舎地下での実戦でようやく使いこなせるようになった戦術リンクを何の訓練もしていない3人が繋げるというのは一体どういう意味か。

 

「見てれば分かるわ。それじゃあ、3人は準備してちょうだい」

「……何か勝手にハードル上げられたけど、二人は大丈夫か?」

「うむ、問題ない」

「いつでも行ける」

 

 ラウラとフィーに目をやり、合図を確認してからレイドはサラに視線を戻す。それを見たサラは一度頷くと、パチンと指を鳴らして再び機械人形を召喚した。さっきまでの機械人形とはだいぶ雰囲気が違う。どうやら、こちらの実力に合わせて強度を調整したようだ。

 3人はそれぞれ武器を抜いて構える。サラの号令を待つ間の束の間の静寂。見守る《Ⅶ組》の誰かが固唾を飲んだ音が聞こえるほどの静けさの中、その時は訪れる。

 

「それでは──始め!」

 

 サラの号令が発せられると同時に、レイドとラウラが動き出した。そして、この後に起こる出来事に、リィンら《Ⅶ組》は全員、いや、教官であるサラでさえも驚愕に顔を染め上げることとなった。

 

まず先行したのはレイド、ラウラはわずかに遅れてレイドに続く。そしてレイドの足元には魔法陣のような光が発生していた。戦術リンクの発動時に出る光だ。その光はレイドの足元から真っ直ぐにフィーの足元に伸びて繋がっていた。

 フィーの双銃剣(ガンソード)による制圧射撃で機械人形は体勢を崩して動きを止める。戦術リンクで既にそれを()()()()()()レイドは一瞬で距離を詰め、緋色の剣を振り下ろした。しかし、ガキンという金属音が響き、攻撃が弾かれる。

 

「……硬いな」

「任せろ、レイド!」

 

 剣が弾かれるほどの硬さに舌打ちをしたレイドだったが、これも予想済みである。すぐ後ろを走っていたラウラが大きくジャンプして大剣を振り上げていた。彼女の足元には戦術リンクの光が発生している。そのリンク先はついさっきまでフィーと繋がっていたはずのレイドであった。

 

「砕け散れッ!!」

 

ジャンプによる重力も加算された豪撃を防ぎきれず、機械人形は外殻を粉微塵に砕かれるほどのダメージを受ける。

 

「──まだ」

 

 更に声。着地したラウラの肩を踏み越えて、今度はフィーが大きくジャンプした。そんなフィーの足元にはやはり戦術リンクの光が輝いている。そしてフィーが繋がっているのはレイドと繋がっていたはずのラウラだ。

 

「ダメ押し」

 

 ラウラを踏み越えて大きくジャンプしたフィーはそのまま宙空を蹴り、双銃剣を一閃、機械人形の両腕を切断した。

 

「今だレイド!」

「ああ!」

 

 ラウラが叫んだ時には既にレイドは動き始めていた。戦術リンクを結ばずとも、誰が行動を起こすべきかを3人ともとうに理解している。腰を低く落としたレイドは次の瞬間には機械人形の懐深くに入り込んでおり、そして──。

 

「『疾風紅蓮』」

 

 駆け抜けざまに機械人形を一刀両断し、一切の攻撃を許されずに両断された機械人形は、バチバチと音と火花を散らした後、小さな爆発を起こして機能を完全に停止した。

 

「そこまで!」

 

 終了を告げるサラの号令を受けてレイドは剣を腰に佩いた鞘に収める。後ろを振り向くと、目の前にはフィーの姿と、少し遅れてラウラも駆け寄ってきた。

 

「レイド、見事な剣だったぞ!」

「そういうラウラもな。フィーも、よく俺たちの動きに合わせてくれたな」

「まーね」

 

 フィーの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、少し煩わしそうに、でもほんのちょっと嬉しそうに目を細めてVサインを作った。そして3人はお互いの健闘を讃えて、3人同時にそれぞれ片手ずつでハイタッチをした。

 

 一方で、3人のテストを見た他の《Ⅶ組》メンバーは驚きのあまり声を出すことが出来ずにいた。おそらくリィンたちが戦った時よりも強く設定されていた人形に一切の行動を許さなかった3人の怒涛の攻撃。それが戦術リンクによる恩恵を受けて成し得た芸当ということは理解しているが。リィンたちが驚いたのはそのスピードだ。3人ともがほとんどタイムラグ無しに戦術リンクの()()切り替えを行ってみせた。

 そして、驚いているのはリィン達だけでなく、教官であるサラも同様だった。編成を心配したリィンにはああ言ったが、正直言ってここまで完璧に戦術リンクを使いこなすとは思ってもいなかったのだ。レイドとフィーならまだ分かる。二人は遊撃士と猟兵として何度も顔を合わせては戦った仲であるため、お互いの手の内を知り尽くしている。故に戦術リンクの相性は《Ⅶ組》随一といっても良い。

問題はラウラだ。サラが知る限り、レイド、フィー、ラウラの3人が知り合ったのは入学式が初めてである。この2週間でレイドとラウラがよく一緒に行動していることはサラも把握はしているが、戦術リンクをこのレベルで使いこなすほど親密かと問われれば否と答える。

 

「(とすれば、天性の才能と、あとは意地といったところかしら?……いやはや、恐ろしい娘だこと)」

 

サラは戦術リンクのディスアドバンテージを才能と根性で覆した少女に畏怖すると同時に将来有望な教え子に小さく笑みを溢した。

 

「ふむ……しかしサラ教官、先ほどの傀儡めいた物は一体何だったのだ?」

 

 と、そんなサラの思いも知らずにラウラがサラに訊ねた。彼女の言葉を聞いて、他のメンバーも一様に頷く。

 

「んー、“とある筋”から押し付けられちゃった物でね。あんまり使いたくないんだけど、色々設定ができて便利なのよねー」

 

 とある筋、か……。レイドは小さく呟いた。正直、心当たりがあり過ぎて逆に分からない。サラも取り立てて話す気は無いらしく、ぱったりと話題を終わらせてしまった。

 

「さて、実技テストはここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。──君たち《Ⅶ組》ならではの、特別なカリキュラムに関するね」

 

 と、その言葉を聞いた瞬間、場の空気が一気に引き締まった。全員が黙ってサラの言葉に耳を傾ける。

 

「君たちに課せられた特別なカリキュラム……それはズバリ──《特別実習》よ!」

 

「《特別実習》……?」

 

 随分もったいぶって告げられた割にはいまいちピンと来ず、レイド達は頭上に疑問符を浮かび上がらせた。しかし、どうやら予想済みの反応だったらしく、サラは構わず説明を続けた。

 

「君達にはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらう事になる。まさに、特別(スペシャル)な実習ってわけね♪」

 

 そう言ってサラは、全員に一枚の紙を配った。それには班分けされた《Ⅶ組》メンバーの名前と、彼らが赴く手筈となっている実習先が記されていた。

 

 

【4月特別実習】

 

A班:リィン、レイド、アリサ、ラウラ、エリオット

(実習地:交易地ケルディック)

 

B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス

(実習地:紡績町パルム)

 

 

 ケルディックは帝国東部・クロイツェン州にある交易が盛んな小さな町で、パルムは南部にある紡績で有名な町だ。どちらも静かな田舎町というイメージだから、最初の《特別実習》にはうってつけだろう。

 しかし、問題は班分けにあった。

 

「ど、どうして僕がこの男と……!」

「……あり得んな」

 

 言うまでもなく、マキアスとユーシスの二人である。ただでさえ仲の悪い彼らを同じ班にするとは、サラもだいぶ性格(タチ)が悪い。

 

「日時は今週末。実習期間は2日間くらいになるわ。各自、それまでに準備を整えて英気を養っておきなさい」

 

 その言葉を最後に実技テストは終了、同時に昼休みの終わりを告げる鐘楼が鳴った。午後の授業の準備のために他の者達が教室に戻っていく中、レイドは独り空を仰ぐ。

 

「(なぁんか、ただで終わりそうにない気がしてきた)」

 

 単にB班の顔ぶれを見てそう思ったのか、それとも遊撃士としての勘がこの《特別実習》自体を警戒しているのか……。

 

 どちらにせよ何かが起こるだろうと、レイドは胸中の不安を拭うことができなかった。

 

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