今回は若干のキャラ崩壊ありのため、読む際はお気をつけください。
4月某日。
遊撃士協会・クロスベル支部──。
この日、支部受付を務めるミシェルは支部の2階に所属する遊撃士を招集した。自治が不安定で都市内外から大量の依頼が入ってくるこのクロスベル支部において全員が集まることは極稀なのだが、最近注目されている《特務支援課》というクロスベル警察の新部署の活躍で“若干”仕事が減ったのと、後は色々な偶然と幸いが重なって珍しく、支部には全員が揃っていた。
「何ですかミシェルさん? わざわざ全員を呼び出して」
「緊急の依頼とかですか?」
最近この支部に転属して来た新人、エステル・ブライトとヨシュア・ブライトが単刀直入に問う。とある事情──ある少女を追ってこの地に来たというこの二人は本当に真面目だし優秀だ。まあ、かのカシウス・ブライトの子ならば当然だろうが。現に二人が支部に来てくれてからというもの、かなりの量の依頼を消化することが出来た。今回全員が集まれる時間を作れたのも彼らのおかげなところが大きい。流石は一昨年の《リベールの異変》を解決に導いた大型ルーキーといった所だが、事情が事情だけにあまり根を詰め過ぎないように気をつけて欲しいものだ。
「まあまあ落ち着いて二人とも。依頼とかじゃなくて、皆宛てに手紙が来てるのよ」
「手紙、ですか……一体誰からです?」
「皆もよく知っている者からだ」
リンの問い掛けに答えたのは、既に差出人を知っているA級遊撃士アリオス・マクレイン。普段無愛想な彼の表情も、この時だけはまるで娘のシズクに向けるかのように柔らかかった。
頭上に疑問符を浮かべる6人の遊撃士。彼らを見てミシェルは呆れたように息を吐いた。
「まったくもう。いくら忙しいからって約束を忘れちゃダメじゃない……特にエオリア、貴女はね」
「え?……私ですか?」
キョトンと目を点にしたエオリアに先程よりも大きな溜息を溢し、ミシェルは懐から取り出した一通の手紙をそっと机の上に置いた。その差出人を見て、6人の目がハッと開かれる。
『クロスベルの皆へ──レイド・ルクソード』
「これは……!」
「レイドからの手紙!? キャーッ!! そう言えば約束してたっけ! レイドは覚えてくれてたのね嬉しい!」
やはりと言うべきか、エオリアが暴走を始めた。彼女は驚くほど素早い動きでレイドからの手紙を手に取って、愛おしそうに頬擦りをしていた。
「あ、あはは……全然見えなかった」
「うん……アリオスさんの《疾風》にも匹敵する早業。レイドのことになるとホント凄いね、この人は」
エステルとヨシュアが引き攣った顔で苦笑した。それには他のメンバーも同意する。
エオリアのレイドに対する愛情は途轍もない。俗にいうブラコンというものだが、レイドが帝国に戻ってからというものそれに更に拍車がかかっている。最近は《特務支援課》に新たなお気に入りを見つけたようで沈静化してきていたのだが、この手紙で再燃してしまったようだ。
「それで、どんなことが書いてあったんだ?」
スコットの問いには、アリオスが答える。
「レイド自身の簡単な近況報告と我らに対して一言ずつ、といったところか」
「なるほど。まあ、詳しいことは実際に読んでみてということでしょうね。……エオリア、いつまでも頬擦りしてないで、私達にも読ませてくれない?」
リンに急かされてようやく我に返ったエオリアが封筒を開け、中の手紙が取り出された。枚数は3枚。一同はエオリアを囲むようにして手紙を覗き込んだ。
『皆、久し振り。といっても、まだ2週間くらいしか経ってないからなんか変な感じだ。
元気にしているか? 俺は元気だ。帝国の士官学校《トールズ士官学院》に入学して、そこで教官をやってるサラや他の教官たちに扱かれながら、慣れないけどそこそこ楽しい学生生活を送っているよ』
「そっかぁ、元気でやっているのね……」
「サラって……もしかして、サラ・バレスタイン!?」
「む、そう言えばエステル達は知らないのだったな。バレスタインはレイドの師匠にあたる人物だ。俺も帝国の支部にいた時に何度か仕事を共にしたことがある」
「そうなんだ~……あれ? でも数ヶ月前に私たちが帝国に行った時は見なかったけどな……」
「バレスタインは去年からトールズ士官学院で教官をしているそうだ。だから、今は遊撃士としては活動していない」
ほえ~、と驚嘆の声を漏らすエステル。彼女からの質問はこれ以上無さそうなので、そこで話を一度打ち切り、一同は意識を手紙に戻した。
続きには入学式の時のことが書かれていた。レイドを含めた数人が特別オリエンテーリングという企画に参加させられ、落とし穴に落とされたりダンジョンで
『──とまあ、そんなこんなで俺は特科クラス《Ⅶ組》という特別クラスに所属することになった。どんなことをするクラスなのか、何が目的なのか、今のところ詳しいことはよく分かってないけれど、真実はいずれサラの口から語られると思うからあまり気にしないことにした。
クラスメイトもみんな個性的で面白い。元々トールズは身分や出身に応じたクラス分けになるそうなんだが、《Ⅶ組》には関係なく、色んな人物が集められた。貴族の息子や息女もいれば、普通に平民出身の人間もいる。他にも留学生やアリオスさんと同じ八葉一刀流の使い手、《西風の旅団》にいた元猟兵とか、本当に様々だ』
「特科クラスねぇ……どことなく《特務支援課》と似たような雰囲気を感じるわね」
「ほう、八葉の者もいるのか」
「いやいやいや! そんなことより、なんで猟兵が普通に同じクラスに所属してるんですか!? 危なくないですか!?」
「しかも《西風の旅団》……大陸最強の猟兵団だね」
「まあ、二人が言いたいことも分かるが、その人物に関してもおそらくバレスタインが手引きしているのだろう。だからそれほど心配するほどのことでもないと思うが」
例えアリオスの言葉でもエステルとヨシュアは不安を隠せなかったが、こればかりはこちらからではどうしようもない。手紙を見る限りでは大したこともなさそうなので、この話は一度終わらせ、続きを読む。
近況報告が終わり、話題がこちらに移った。
『そっちはどうかな? この2週間で何か大きく変わったことはあったかな? スコットはパールさんとはうまく行っているか? あまり寂しがらせるのは良くないと思うから、出来るだけ会うように』
「あ、あはは……まあ、なるべく時間を作れるように努力はしてるんだけどな~」
『ヴェンツェルはあまり人に『偉そう』って言われないよう気をつけること』
「む……そんなに俺は偉そうか? そんなつもりはないが」
「まあ、クール過ぎるという感じではあるわね」
『エオリアは物に執着しないのは良いけど、高価な物まで簡単に人にあげないように。もし悪い奴とかに狙われたら危ないからな。大丈夫だと思うけど、俺はやっぱり心配になるから。あと、手紙はやっぱり月に一度くらいにしておく』
「もうレイドってば心配だなんて嬉しいことを言ってくれるわねー! うん分かった! これから気をつける! あ、でも、手紙が月に一度になるのは辛いわ〜……」
「貴女、本当レイドが絡むとキャラが崩壊するわねぇ」
『リンはエオリアの手綱を握るのは大変だろうけど、頑張ってくれ。リンから教わった泰斗流の基礎もこっちで暇な時に鍛錬してるから』
「お、そうかそうか。ちゃんとやっているようで何よりだ。エオリアの方は今更といった感じだがな」
「どういうことかしら、リン?」
『ミシェルさんはあまり《特務支援課》をイジメないように。彼らだって頑張ってるんだから、そこは認めてやらなくちゃ』
「もうレイドったらやーねぇ。アタシだって悪意があってからかってるワケじゃないのよ?」
「でも、さすがに露骨な時もありますよ?」
「あらそう? だったら仕方ないわね。今度から自重するわ」
「(そう言いつつ何かしそうな顔してるなぁ……)」
『エステルとヨシュアは進展はあったか? 二人が“彼女”に会えること、俺もここから祈ってるよ。だから諦めずに頑張ってくれ』
「レイド……あはは、すっかり励まされちゃったなぁ」
「そうだね。そう言われたら、ますます諦めるわけにはいかなくなった」
「ま、元々諦めるつもりなんてさらさら無いけどね!」
『そして、最後にアリオスさんへ。こんなことを言うと生意気かもしれないけど、正直に言って、俺はアリオスさんが一番心配です。支部の中で一番依頼をこなしているのはアリオスさんだし、働きすぎなんじゃないかなって前々から思ってました。もしかしたら、シズクちゃんにもなかなか会えてないんじゃないですか? あの子は凄くいい子だから何も言わないだろうけど、本当はとても寂しがってます。だから、もっと時間にゆとりを作ってシズクちゃんと少しでも多く長く過ごしてあげてください。家族というものは、この世にたった一つしかない大切な『宝物』なんですから』
「……レイドに言われると、説得力があるな」
「そりゃあ、家族の大切さはあの子が一番分かっているものね。早速明日は休暇にしておいてあげるから、シズクちゃんに会ってきたら?」
「……そうだな、そうすることにしよう。頼む」
そう言ってアリオスは再び手紙に目を落とした。彼の柔らかい表情を見て、他のメンバーにも自然と笑みが溢れた。
『──まあ、生意気なことを長々と書いたけど、皆には感謝してる。俺が遊撃士として実力をつけられたのは皆のおかげだし、本当に色々と助けてもらった。2年間という短い間だったけど、まるで家族のように温かかった。
いつになるか分からないけど、時間があればクラスメイトも連れてそっちに遊びに行くよ。それじゃあ』
手紙はそこで終わった。手紙をテーブルの上に置き、顔を見合わせて笑い合う。
「はは、なんて言うか、レイドらしいな〜」
「こういうところはエステルとよく似てるね」
「あはは、そうかな?」
賑やかな笑い声が飛び交い、しかしその中でたった一人、会話に参加しない者がいた。
「………………」
「あー、え、ええと……エオリア、どうしたの? 正直、真っ先にあんたがはしゃぐと思ってたんだけど……」
引き攣った顔でリンがエオリアに問いかける。それでもエオリアは黙ったまま、神妙に目を閉じていた。
「……うん、決めたわ」
しばらく黙ったままだったエオリアが、ふと勢い良く立ち上がった。一同はエオリアに注目し、彼女は小さく息を吸ってからゆっくりと目を開けて……、
「──私、帝国に行く」
『……………え?』
「レイドに会いに行く!」
グッと握り拳を作り、うおーっ、とエオリアは高々と宣言した。
「いやいやいや! 何を言ってるのかしらこのブラコンは!?」
ミシェルが慌てて叫ぶが、しかしエオリアは聞いていない。「帝国行ったら何をしようかしら~? ショッピングデートなんかも良いわね~」などと早くもレイドに会った後のことを考え始めていた。
ミシェルは溜息を吐いた。彼女のブラコンはここまで来たらもはや病気である。しかも末期の。もはや手の施しようがない。医療先進国のレミフェリア公国から来た凄腕の医者でもある彼女が“不治の病“に侵されるとは、なんて皮肉な話だろうか。
「まあ、エオリアの言いたいことは分かるけどね。私も、この手紙を見たらなんだか久々にレイドに会いたくなってしまったよ」
「リンまで……」
ミシェルは手で顔を覆う。男勝りな彼女も、なんやかんやでエオリアと一緒にレイドを可愛がっていたから仕方ないと言えば仕方ないが、しかしそう言われて二つ返事で了承は出来ない。遊撃士というのは──特にこのクロスベル支部ではそんな簡単に時間は取れないのだ。
「会いたいのなら会いに行けば良い」
しかし、アリオスはいともあっさりと、軽々とした口調でそう言った。これには全員が──行くと豪語したエオリアですら「えっ?」と間の抜けた声を出した。
「いやいや、アリオス!? 貴方まで何を言ってるのかしら!? そんなの無理に決まっているでしょう!」
「今すぐにとは言わないさ。自分達の仕事を終わらせ、時間に余裕が出来たら行くと良い」
「時間に余裕が出来たらって……そんな簡単に行くかしら?」
「その辺りはミシェルに任せるさ。なるべく依頼は俺か他の者に回してくれ」
「別に構わないけど、他の皆は良いの?」
「モチのロンですよ! むしろどんと来いです! ね、ヨシュア!」
「そうだね。僕らの方は全然構いませんよ」
エステルとヨシュアは笑顔で答えた。
「……スコットとヴェンツェルは?」
「まあ、ちょっと面倒だけど、俺も構わないよ」
「俺も問題ない。少しくらい仕事が増えたところで、大して変わらないからな」
相変わらずヴェンツェルはたくましい。どうやら過度に思い悩んでいるのは自分だけらしいとミシェルは大きく息を吐いた。
「はあ~、分かったわよ。なるべく時間を作れるように調整してみるわ。でも、それでも行けるのは数ヶ月は先になるけど、それでも構わないかしら?」
「構いません! それでレイドに会えるなら! さあそうと決まれば今来てる依頼をさっさと片付けちゃいましょう! 行くわよリン!」
「え? あ、ああ、分かった! 分かったから引っ張らないでくれ!」
エオリアはリンの襟元を引っ張ってズルズルと階段を降りていった。痛い痛いというリンの悲鳴が聞こえてきたが、ドアが閉まる音と共にそれも聞こえなくなる。
その日以降、エオリアとリン(主にエオリア)はかつてないほどのやる気を発揮し、アリオスに勝るとも劣らない仕事量をこなしたという。
「待っててレイド! もうすぐ会いに行くからねっ!」
「レイド、きっとビックリするだろうなぁ……」
一方その頃、帝国では。
「──ひぇ!?」
「む、どうしたレイド?」
「いや、なんか寒気が……」
「?」
突然の悪寒に震える少年と、そんな少年を見て首を傾げる青髪の少女がいたという。
小説を書くにあたって、多少語彙が荒くともテンポ重視でいくか。
長くなっても表現力重視で行くか。悩む今日この頃。