【FE封印】女の子は、誰でも【ロイ×リリーナSS】 作:いりぼう
原作:ファイアーエムブレム封印の剣
タグ:FE FE封印の剣 ファイアーエムブレム ファイアーエムブレム封印の剣 ロイ リリーナ ロイリリ SS 二次創作
ただ、貴方に見ててほしい。
貴方の側に、いさせてほしい。
女の子は、誰でも――――――――
好きな男の子の、一番でいたい。
※ニンテンドー発のSRPG【ファイアーエムブレム 封印の剣】の登場キャラクター
【ロイ】と【リリーナ】のカップリング二次創作小説です。
≪設定≫
・原作【ファイアーエムブレム封印の剣】本編中
・リリーナ視点
※注意
・原作ネタバレ注意!
・多少の解釈違いがあるかもしれません
――――――私が知っている貴方は、
正装しても、ボタンを一つ掛け違えるし、
ダンスのステップひとつ、上手く踏めない、
ちょっとボーッとした男の子。
【男子、三日会わざれば刮目してみよ】とは、よく言ったものだ。
そんな男の子だった彼が、いつの間にか、ひとまわりもふたまわりも大きく見える。
私が見てないところで、幾多もの経験を積んだんだ。
喜びも、悲しみも。
優しさも、痛みも。
一生のうちで得る経験値の何倍ものそれを、この戦争中に彼は得た。
だからなのかな。
背筋もしゃんとして、今まで以上にその背中が広く感じる。
一番近かったはずの、貴方の隣が――――――
今は、とっても遠く感じるの。
ただ、側にいたい。
それを思うことさえも、
烏滸がましいと、感じてしまうぐらいに。
「―――リリーナ?」
彼に呼ばれて、ハッとした。
「どうかした?少し、ボーッとしてたみたいだけど?」
「う、ううん、なんでもないの。ちょっと考え事してただけよ。」
「考え事?」
彼は真っ直ぐな瞳で、私を見つめてくる。
私は、その瞳に弱い。
その眼差しだけは、昔から変わらないのに…今はそれを向けられると、鼓動が速くなる。
「ロイさま~!!」
私がたじろいでいた所に、一人の女の子がやってくる。
そして近づくや否や、彼に抱き着いていく。
「うわぁ!ら、ララムさん!」
彼は急な少女からの抱擁に、驚きながらも赤面していた。
「急にどうしたの…!?視界の外から飛びついてくるからびっくりしたよ…。」
「えへへ~、ロイさまに見てほしいものがあるの!新作のおどり!」
「と、とりあえず一旦離れてくれないかな…。」
彼がそう言うと、彼女は離れて軽やかに舞を始める。
美しい装束と流麗な動きは、見る者の目を奪う。
頼まれて渋々、といったところだろうが、彼もまた彼女の舞を眺めている。
「ロイ…私、拠点に戻ってくるね。」
「え?あ、リリーナ…?」
いたたまれなくなった私は、その場を足早に去ってしまった。
やっぱり男の子って、ああいうのがいいのかしら…?
拠点に戻っても、軍の仕事を手伝っても、
心のどこかに引っ掛かる気持ちが、拭いきれない。
ララムは踊り子だ。
日々、舞の為の鍛錬は欠かしてないし、それゆえに身体の無駄は削ぎ落とされて洗練されている。
そして、舞をより美しく見せる為に、華やかで身体の線もしっかりと出た装束を身に纏う。
年頃の男性からしてみれば、注目してしまうのも無理はない。
引っ掛かるのは、決してララムのことだけじゃない。
ロイは、いまや一軍の将。
自然と軍の中の人間と積極的に顔を合わせ、言葉を交わし、お互いの意思疎通を行う場面も多い。
当然その中には女性もいて、恋愛感情かどうかはさておき、好意を向けている者も少なくないだろう。
仕方のないことなんだ。
彼は今、そういう立場なのだから。
もう、私が側にいないと何もできなかった彼じゃない。
だからこそ感じる、貴方との距離。
遠くなっていく隣。
――――――ねぇ、ロイ。
今の貴方の瞳に、
私は、どう映っているの?
野暮なことを考えてしまった。
いけないいけない。
今は戦争中なんだ。
そんなことを考えている場合じゃない。
でも――――――
「リリーナ!」
ふと、呼び止められた。
彼の声だ。
「よかった…探したよ。」
息が上がっている。
必死になって私を探してくれていたみたいだ。
「どうしたの、ロイ?そんなに息を切らして…。何かあった?」
「いや、何かあった訳じゃないんだけど…心配になって。」
「心配?」
「うん…。リリーナ、最近考え事が多いみたいだし、ついさっきだって…。それに、急にいなくなっちゃうから、どうしたんだろう、って…。」
余計な心配をかけてしまった。
ただでさえ、一軍を率いて心労が耐えない彼に、私個人のことで。
忍びない気持ちでいっぱい。
――――――に、なってるはずなのに。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
嬉しい、と思ってしまう自分がいる。
悪い子だなぁ、と思いつつも、気持ちは正直だ。
ならば――――――
「ねぇ、ロイ。」
「なんだい?」
「今夜、少しお話できない?」
すっかり夜も更けた。
澄んだ空気は少し肌寒いが、風が肌をなでる感触が心地よい。
見上げれば、月が世界を照らしていて、
叙情的な詩でも聴こえてきそうな、そんな夜――――――
「ごめん、おまたせ!」
彼が小走りで近づいてくる。
遅くまで軍議だったみたい。
「ううん、私も今来たところ。」
微笑みながらそう返してみたけど、
本当は、気が逸って、落ち着かなくて、
少し前から、ひとりで待ってた。
でも、彼が来てくれたら、そんなことどうだっていい。
「なんだか久しぶりね、こうやって二人で話すのも。」
「そうだね。戦争が始まってからずっと忙しかったから、ゆっくりする時間なんて本当になかった。」
「色んな事が起きて、色んな人と出逢って、世界中を渡って…息をつく暇がないのも当然よね。」
「当たり前に過ごしてきた日常が、目まぐるしく変わっていく。戦乱の世の中というのは、今まで【当たり前】だと思っていたことがどれだけ尊いものなのかを、すごく痛感させられるね。」
彼は夜空を眺めながら、そう呟く。
世の中が変わっていく。
それに適応するように、彼も変わっていく。
それでも――――――
「変わってないことだってあるよ。」
「変わらないこと?」
「僕が、リリーナの側にいること。そして…リリーナが、僕の側にいること。これがどれだけ僕にとって、すごく心の拠り所だったか、とてもじゃないけど計り知れないよ。」
「ロイ…。」
変わらない、その瞳。
真っ直ぐで、澱みのない。
昔からずっと、彼はその瞳で私を見てくるんだ。
だから、私の気持ちも変わらない。
ごめんなさい、お父様。
今夜だけは、私――――――
少し、悪い娘になってしまいます。
私は、長椅子に腰掛けた彼の手に自分の手を重ねた。
「リリーナ…?」
戸惑う彼の声。
急な行動だから、困惑もするよね。
「…変わらないもの、他にもあるわ。」
私はそう言うと、しなだれかかるように身体を彼に預けた。
密着って、こういう事を言うのかな。
高まる彼の胸の鼓動が、すぐ側で聴こえてくる。
少しは、ドキドキしてくれてるのかな。
「私の、気持ち。」
言葉を続けた。
「リリーナの…気持ち?」
どぎまぎしながらも聞き返す彼を、私は見つめる。
感情が昂ぶって、瞳が潤んでいるのが自分でもわかる。
でも、見ててほしい。
今だけは、私の事だけを。
私だって、普通の女の子。
女の子は、誰でも、
好きな男の子に、ずっと見ててほしい。
好きな男の子を、独り占めしたい。
貴方の――――――
一番でありたい。
「…私は、ずっと前からロイの事…。」
見つめ合う顔が近づいていく。
「リリーナ…。」
彼の顔が真っ赤になっていく。
もう、止められない。
刹那のことだった。
「ロイ様!どちらへ!!ベルンに動きがあったようです!緊急軍議を!!」
突然の呼び声に、二人してビクッとなり、即座に距離を離した。
急に今までの一挙一動を思い出し、私も顔が熱い。
「ご、ごめん!行ってくる…!!」
「う、うん、いってらっしゃい…!」
彼は動揺を隠さないまま、そそくさと拠点に向かってしまった。
私もその場で、行き場なくこみ上げる感情に、必死に抵抗するしかなかった。
――――――翌日。
昨日は、どうかしちゃってたな。
今日から、どんな顔して彼に会えばいいのか。
「僕が、リリーナの側にいること。そして…リリーナが、僕の側にいること。」
そうハッキリ言ってくれた。
それなのに。
それだから。
私は溢れる感情が抑えきれなくなってしまった。
あれでもまた、側にいてくれるのだろうか。
あれでもまだ、側にいさせてくれるのだろうか。
そんな悶々とした心境だろうが、否が応でも彼とは顔を合わせることになる。
「おはよう、リリーナ。よく眠れた?」
いつもと変わらぬ、彼の姿。
私にかける言葉も、その瞳も、いつもと変わらない。
やっぱり意識してたのは私だけ?
あの鼓動の速さは、困惑によるものだったの?
そう思うと、少し残念な気持ちになる。
すると、彼は少し周囲を見渡してから、私の耳元でそっと呟いた。
「…僕もきっと同じ気持ちだよ。」
「え…?」
短くそう言った彼は、恥しそうに視線を反らし、
「だから言ったでしょ?側にいることは変わらない、って。」
…と、言うと、そそくさとその場を離れた。
鼓動が、速くなる。
体温も、上がっていく。
私は今日もまた――――――
行き場のない昂ぶる感情と、一日を過ごさなきゃいけないみたい。