この調子を保てたらどれだけいいか…。
イーグルランドより東の位置にある神秘の大陸、チョンモ。 そのチョンモに存在する大きな国・ランマには、王族が住む宮殿が存在していた。
その大きな宮殿の中庭には、一人の少年が井戸で水をくみその水を頭から浴びていた。
「……」
弁髪という、少し変わった髪型に切れ長の目、鍛え上げられた体の少年だった。 彼は今、思い詰めたような顔になっており、それを表すように独り言をもらす。
「……不思議な夢だな……」
彼がみたという夢は、自分が3人の少年少女とともに、陸地を歩いているという夢だった。 あの3人の顔を見たものの、少年はその少年たちに会ったことなどない。 だが、それでも彼らのことをずっと昔から知っている気もしていた。 そんな不思議な気持ちにさせる、彼らは一体何者なのだろうか。
「プー王子! いずこにおられますか!」
「今いく!」
そんな彼の思考を遮るように、どこからか聞こえてきた声にたいし、少年…プーはそう答えた。 そして顔を拭くと顔を上げて歩いていき、プーは宮殿の本殿に向かう。
「ただいま参った!」
「おお、プー王子様!」
そこにいたのは、壮年の男性だった。 彼はプーを王子と呼び、プーは冷静に彼に用件を尋ねる。
「いかなる用か、イースーチーよ」
「はっ……プー王子様。 いよいよ最後の試練に挑む時がきました。 なるべくムの修行に赴いてください」
「いよいよ、か」
「そして、最後の試練を見事乗り越えてくだされ。 かげながら、このイースーチーも、修行の成功をお祈りしておりまするぞ」
「承知した、これよりムの修行に赴いてみせよう」
この少年、プーはこのランマの王子として鍛えられてきたのである。 時代の王としての帝王学や礼節はもちろんのこと、人間を越える身体能力や精神力まで身につけられた。 また、彼は先天的に特殊な能力を持っており、それに気付いたランマ宮殿の人々は、彼にはさらに厳しい修行をさせていたのだ。
その修行も、残すところは後一つ…ムの修行と言われるもののみとなっている。 プーは全ての修行を完遂するため、それが行われるという霊峰に向かって歩き出した。
「まぁ、プー王子様よ」
「ほんとだわ……今日もステキッ!」
「でも近頃修行ばかりで、ぜんぜん相手にしてくれないのよね……さみしい!」
「いつ、わたしとイチャイチャしてくださるのかしら」
「いーえ、いちゃいちゃするのはわたしよ!」
このプーという王子は、ランマの女性たちにとっては憧れの的のようなものらしい。 彼を見てきゃあきゃあと黄色い声を上げている。 そのような声をあげられれば、プーの耳にも当然入ってくるわけで、プーは少し眉間にしわを寄せた。
「……皆の声援や期待の声はうれしいが……答えられないのが少々つらくもあるな……」
彼は昔から、修行や勉強にのみ打ち込む、まじめで硬派な男だった。 一応、男女の関係というものには理解はあるものの、彼はまだそういうのを考えたこともなければ、そのために行動を起こしたことも、興味を示したこともない。 …もとい、興味を示す方法がわからないし、余裕もなかったと言うべきだろう。
「……ん?」
そんな、あの黄色い声にたいし自分がどうしたらいいのだろうか、と考えていたプーの視界に、奇妙なものが入ってきた。
「……あんなもの、ランマにあったっけか……?」
洞窟をふさぐように立つ、3匹の黒いウサギだった。 てこでも動かないようなそのウサギにたいし、プーは首を傾げたのだった。
黒いウサギをどうすればいいのかを考えてはみたものの、自分一人ではどうしようもできないので、今はここは放っておくことにしたプーは、改めてムの修行をする場所へ向かった。
その場所へ向かってみると今度は、身をボロボロの布で包んだ老人が立っているのを発見する。
「今度は何だ?」
さっきの黒いウサギといい、あのような老人はこのランマでみたことがない、と思ったプーは、その老人に声をかけてみた。
「誰だ?」
「……ふむ……なかなかよい目をしておる……プー王子、だな」
「いかにも」
老人の言葉に対しプーは迷うことなくそう返事をすると、老人はうんうんとうなずいた。
「わしも一度は、ムの修行を成し遂げたもの。 さらに高度な知恵をおまえに伝えたいが……」
「なんだと?」
「まだ、わしとて修行中なのじゃ」
「え」
「いずれまたあおう! さらば!」
そう言い残して、老人は風とともに消えていった。 その様子を見ていたプーは、あきれたようにポツリとつぶやく。
「……なにしにきたんだ、結局……」
謎の遭遇劇に見回れつつも、プーは本来の目的に戻る。 綱をつたい上へ上へとのぼり、霊峰の一番上まで上り、そこで座禅を組み目を閉じる。 これが、ムの修行のやり方であると教わったので、それを実行する。
「……」
無言でピクリとも動かないプーは、まさに瞑想状態だった。 そんなプーに、対岸の崖ごしに、一人の女官が話しかけてきた。
「おお……おいたわしや、プー王子様。 イースーチー老師の使いの者でございます。 たった今、老師様が……すぐに瞑想をやめるように、と伝えるよう、わたしを差し向けました」
「……」
「こんなところにいないで、参りましょう。 老師様が、嘆きます! さぁおたちください! さぁ!」
必死に懇願でもするかのように、女官はプーに語りかけ続ける。 だがプーはいっさい反応することなく、動かず目も開けない。
「プー王子様! 試練は一度中止です。 本当です」
そう女官は言い残して去っていった。 そうしてその場は再び静寂に包まれていき、冷たい空気が彼を包み込む。 やがてプーの意識は暗闇の中に落ちていき、そこに白いものが浮かび上がってきた。
「さてさて、プー王子。 わたしはおまえの先祖の霊じゃ」
正直その見た目としては、よくある幽霊の形に老人の顔が浮かび上がってて頭に弁髪がついている…老人になったプーみたいな感じの霊だった。 その霊は自分がプーの先祖であると答えつつ、彼にあるとことを告げてく。
「試練の仕上げにおまえの足を折るがよいな。 足を失うがよいな」
先祖の霊がプーにそういうと、プーは自分の体から足の感覚が消えるのを感じた。 痛みは感じるが、プーはいっさい動じない。 そんなプーにたいし先祖の霊はさらに要求を重ねてくる。
「さてもさても、プー王子。 足をなくして歩けぬか。 次はおまえの腕をちぎる。 腕をちぎってカラスどもにくわせるが、よいのだな?」
先祖の霊がそういうと今度は、腕の感覚がなくなる。 痛みはあるが、それでもプーはなにもしない。 なにもできない、というのが正解なのかもしれないが。
「はてさてプー王子。 足も腕もなくここに転がり続けるか。 しかればおまえの耳をそぐ。 耳をそいでもよいな?
これはこれはプー王子。 足も腕もなく音もなし。 空に言葉を浮かばせて……わたしはおまえに問いかけてみようぞ。 おまえのまなこをつぶすが……それもよしとするのか? 暗闇の中にいきることを、おまえは望むのか?」
立て続けの要求に、プーはなにもいわない。 そうして五感をなくしたプーに、先祖の霊はまだ語りかけてくる。
「もう……プー王子! おまえの心に直に問いかけることしか、できなくなってしまった。 もはやおまえには、心しか残っておらぬ。 最後に心を奪い取るが、それだけはおまえにも許せまい? はて、返事も出来ぬ? 動くことも出来ぬのか?
悲しいか。 寂しいか。 つらいか。 切ないか。 心を奪われたら、悲しみさえも失うのだぞ。
よいのか!? 心を奪い取るぞ! プー! 心をとるぞ!!」
そう先祖の霊はプーに告げてくる。
「先祖であろうと不可能だ、おそるるに足らん!」
先祖の霊に対し、プーは心の中で、そう言い切った。
心で言い切った瞬間、プーはなにかに叩かれたかのように、またはじかれるように目を開けた。
「……ハァッ……」
さっきまでの痛覚はまだ体に記憶されていることから、あの先祖の霊との関わりは夢ではないことがわかる。 自分の体を見てみるが、腕も足も、目も耳も確かに残っており、心臓も鼓動をならしている。 なによりも、自分の意志がハッキリと、ここにある。
「おれは、やったのか?」
自分は果たして、ムの修行を完遂できたのだろうか。 そう疑問を抱くプーに対し、対岸の崖から従者の男が声をかけてきた。
「おお、プー王子様! 見事に修行を終えられましたな!」
「……!」
「さぞかし、イースーチー老師も大喜びでございましょう。 ささ、すぐに、すぐに宮殿へお帰りくださいませ!」
「ああ!」
その言葉を聞いたプーは、自分は確かにやり遂げたのだという実感を得たらしい。 達成感に満ちた声で返事をし、表情を浮かべていた。 そうしてプーは霊峰を降り、ランマ宮殿に向かっていく。
「ただいま、戻って参ったぞ!」
「おお、プー王子!」
宮殿に戻ってきたイースーチーは、プーの帰還を心から喜んだ。 イースーチーはその喜びのまま、プーに語る。
「ムの修行に、よく耐えてくれました。 これで、このイースーチーめがあなたにお教えすることは、なにもなくなりました」
「ああ……だが、俺だけでは到底かなわなかっただろう。 全て、皆の指導や期待のおかげだ。 決して忘れはせん」
「おぉ……!」
プーの言葉を聞いたイースーチー達は歓喜に満ちあふれていた。 中には涙を流す者もおり、そんな彼らに対し大げさだと、プーは苦笑する。
「プー王子様」
「ん?」
「選ばれしランマの王子の貴方に、天のお告げを伝えまする」
「……心して聞こう」
突然真面目になったイースーチーは、天から授かったというお告げを、プーにも話聞かせることにした。 話を聞く体制になったプーに、イースーチーはお告げの内容を伝える。
「全ての邪悪なる者を動かし、支配する神が……歴史上最大の戦いを挑んでおりまする。 これを受けて立つ者は、たった4人の少年たち。 ネスというものが、そのかしらとなりまする」
そして、イースーチーは王子が生まれつき、普通の人間ではない力を持っている理由について語り始めた。
「そして、4人の少年のうちの一人が、プー王子……貴方です」
「……そうか……」
「最後の試練に打ち勝った今! すぐにネス殿のもとへ飛んでくだされ!」
「ああ、そうするとしよう!」
自分が何故、このような才を持って、王子として生まれてきたのか。 その理由を知ったプーは力強くうなずき、旅立ちを決意して行動を起こそうとしていた。 あらかじめ用意されていたという旅支度を受け取ったプーは、飛び立つ体制にはいる。
「多くの人々のために、この世の平和のために……大きな力となってくだされませい!」
「もちろんだ! では、いってまいる!」
そう言い残し、プーはPKテレポートを発動させ、ランマから消えた。 自分の使命のために、ともに戦う者の元へ向かったのである。
一方そのころ、サマーズでは。
「ネス、大丈夫?」
「うん、もう平気。 ピンピンしてるよ!!」
サマーズでマジックケーキを食べたネスは、突然めまいに襲われ意識を失い、寝てしまったのである。 熱中症の疑いがあると思っていた彼らは、浜辺の影がかかったリゾートベンチへ彼を連れていき、そこで休ませたのだ。 後にジェフの解析で判明したのだが、あのマジックケーキにはサイコパワーを増幅させる不思議な力があったらしく、ネスはその影響をうけたとのこと。
「たぶん、影響を受けるのはわたしやネスみたいに、超能力が使える人限定で、他の人には普通においしいケーキなのね……。 だけど、そんなものを作っちゃう、あの奥さんって何者かしら……天然?」
「かもね。 味は全然美味しかったけど」
そう味の感想をノンキにいいつつ、ネスは意識のない時に感じたことを伝える。
「……ただ……」
「ただ?」
「マジックケーキを食べた後、不思議な夢を見たんだ。 他人の景色をそのままみる夢……」
「そうなんだ」
ネスがその夢の内容を語ろうとしたとき、目の前をものすごいスピードでなにかが横切っていった。
「うわぁ、なんだ!?」
驚く3人の前に、白い胴着を着た、変わった髪型の少年が立っていた。 その姿に対しネスは少し目を丸くさせつつ、その少年の名前を問いかける。
「……キミ……は……?」
「おれの名前は、プー。 君達と共に戦うものだ」
「プー……」
その名前にネスは聞き覚えがあった。 前に砂漠の中の洞窟で、タライジャブという仙人みたいな老人が、その名前を口にしていたのだ。 そんなネスに対し、プーは唐突な話をそのまま続けていく。
「おれは、ネスに従う……ネスのしもべなのだ」
「し、しもべ……? えーとつまり、ボクと一緒に旅をして、ギーグ達と戦ってくれるってことでいいよね?」
「そうだ。 ネス! おれの命を預けたぞ!」
「わ、わかった!」
突然のしもべ発言に戸惑いつつも、ネスはプーが仲間になることを受け入れた。 そうしてともに行動をすることになった4人。 ポーラとジェフも、プーに自己紹介をする。
「わたしはポーラよ」
「僕はジェフだ」
その2人の顔を見て、プーは何故か鳩が豆鉄砲をくったような顔になった。 少し態度が違う気がした2人は、プーになにかあったのかとおもい、問いかける。
「ん? どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない。 ポーラにジェフだな、よろしくたのむ」
「ええ!」
だがすんなりそう返事をし、挨拶を返したプーをみて、自分達の心配は杞憂だったと悟ったジェフとポーラは笑顔でそう返した。 そんなプーに対し、ネスは気になっていたことを直接問いかける。
「ちなみに変わった格好だけど、どこからいたの?」
「ランマという国だ」
「ランマ……っていうと、チョンモの方だな! あんな遠くから……しかも、僕達の前に突然現れるなんて……まるで、出会う前から僕達のことを知ってたみたいじゃないか」
「……それがな……」
プーは、イースーチーが語り聞かせた、天のお告げというものを彼らに話し聞かせた。 その内容は、自分達が知るギーグの存在やブンブーンらの話と一致しており、やはり自分達がこの地球を、ギーグを倒すことで救う存在なのだと改めて認識するものだった。 自分達が感じ取ったものと、聞いていた話を照合させて、彼らは納得する。
「じゃあ、ここからが本番ってことになるよね!」
「そうだな」
「みたいね」
「……話がまとまったのであれば……ネス、おれもともに戦うぞ……いいな」
プーの言葉に対し、ネスはうなずいた。
「うん、わかった! いいよ! 一緒に力を合わせて、ギーグを倒そう!」
「ああ!」
こうして、この地で、運命を背負った4人の少年少女が集ったのである。 彼らは、ともに力を合わせて、巨悪ギーグに立ち向かっていくのだ。 さらなる世界を、4人でともに旅をすることで。
というわけで、ようやくメインとなる4人の少年少女がそろいました。
これから彼らがどう動くのか、こうご期待。