今回はあのボスと戦います。
そうして、フォーサイドとランマで二つのパワースポットを見つけたネスは、そこで音を入手した。 残る音は、ブンブーンの遺言通りに行けば、あと二つのはずだ。
「よーし、この調子でがんがんいくぞー! 今のボク達は最強の少年達だ!」
「ちょっと! ここに一人、女子がいるんだけど!」
「細かいことは気にしない!」
「さすがにするわよっ!」
ここまでの旅があまりに順調なせいか、ネスはいま調子があがってきていた。 今の自分達には敵がない、どんな戦いにも楽勝だと本気で思っている。
「……」
「ジェフ、どうした?」
「プー」
そんなネスを見ているジェフに、プーが声をかけてきた。 ジェフは眉間にしわを寄せたままの顔で振り返ってプーの方をみたので、プーは思わずそのことを指摘する。
「すごい難しい顔になっているぞ」
「難しい顔、か……そうもなるよ」
プーの指摘を受けたことで、少しだけ表情は戻るものの、ジェフの顔には未だに不安の色が浮かんでいた。
「ここまでがあまりに順調すぎて、今のネスは調子に乗ってる。 なんでも自分の力だけで何でもできると思いこんでしまったいる。 このままじゃ、危険だとおもうんだ」
「……そうだな、自信を持つことと調子に乗ることは違うからな……。 しかし、そう思っているのなら、言えばいいじゃないか」
「言ったところで、今のネスがそれに耳を傾けてくれるとおもうかい?」
ジェフの問いかけに対し、プーは思わず黙った。 彼らとのつきあいはまだ短いプーならなおさら、今のネスにどう説明すればよいのか、その答えが出てこないのだ。 また、短い時間でもネスがどんな人物かを、行動をともにするうちに少しわかった気もする。
「あいつは、実際に強い。 あの自信に嘘がないくらいには……」
「そうだよ。 僕も昨日、遠回しに注意はしてみたんだけど……大丈夫だと満面の笑顔で言われてしまったよ」
「……」
ため息をつくジェフに、プーはこうアドバイスを送った。
「ああいう状態の人間は、痛い目に遭わないと自分の過失に気づけないものだ。 だからおれ達は、あいつが死なない程度に見守るだけにとどめ、しばし様子を見よう。 それで、あいつが自分の自意識過剰ぶりに気付き反省した時に、救いの手をさしのべればいい」
「……プー……」
「ネスならおそらく、問題はない。 きっと自分で気付いて反省できるのではないか? おれは、そう思うぞ」
「そう……かな……」
「そうだろう」
プーはまだ仲間としては新参だが、自分達より年上かつ王族出身というだけあって、かなり落ち着いており冷静な目で皆を見ることができる。 そんなプーのアドバイスに従った方が、このまま云々と悩むよりはいいかもしれないと思い直し、ジェフは頷いた。
「おーい、ジェフもプーもそんなところでなにやってんの? はやくいこうよー!」
「ああ、今いくよっ!」
とりあえず今はネスの言うとおりに、船の停まっている波止場へ向かう。 そこには、ネス達が前に会った船乗りがたたずんでいた。
「確か、マジックケーキを作ってるお姉さんがあの船長さんの奥さんだったよね」
「ええ。 奥さんをあのクラブから解放したから、あの人も安心しているはずよ。 早速彼の元へいってみましょう」
「うん!」
そう話し合った彼らは、早速船乗りの男に話しかけた。 するとその船乗りは妻がケーキ作りに復帰をしたことや、ストイッククラブを離れたおかげで明るさが戻ってきたことに喜び、安心して船乗りとしての仕事に専念できることを喜んでいた。
「話は聞いたぜ、あんたらのおかげだって! その礼として……今海は怖いものがいるが、ここはあんたらのために船を出すよ!」
「ほんとに!? やったぁ!」
ネスは喜びつつ、自分達はわけあってスカラビに行かなければならないと事情を説明した。 その話を聞いた船乗り…もとい、船長は、スカラビまでの船を出すと言ってくれたので、4人は喜んで彼の船に乗り込んでいく。
「よーそろー!」
そのかけ声とともに、ネス達の乗った船は動き出した。
ネス達の乗った船は、海を渡る。 青い空も海も透き通っていて、広い世界を彼らに教えてくれる。
「わぁー!」
「潮風が気持ちいいわね」
「うん」
その船旅を、ネスもポーラも純粋に楽しんでいた。 ジェフもプーも、今はこのゆっくりした時間を過ごすことにしているようだ。 そうして船は順調にスカラビに向かって進んでいたのだが、突然船の動きがとまった。
「おっと、ちょっとストップさせてくれ!」
「ん、どうしたの?」
「ひ、久しぶりに……船を動かしたせいで、船酔いをしてしまった……」
「だぁーっ!?」
船長の言葉に対し、ネス達は盛大にズッコけた。 それでも船長かとツッコみたくもなったが、乗せてもらっている立場である以上キツくはいえない。
「……船長でも、酔うときは酔ってしまうのだよ。 ブランクがあるならなおさらな」
「ギクッ」
そう思われるのは想定のうちといわんばかりに、船長がそうつぶやいたので、ネスは硬直した。 一応船長もそれの自覚があったらしくネス達をとがめるまねはしなかった。 そうして少しの休憩の後で船はようやく動きだし、スカラビを目指してさらに南へと動いていく。
だが、やがて海の周囲の様子は徐々に変わっていく。
「ん? なんか雲行きが怪しくなってきた?」
「え、そう?」
「……そういえば、トトでみんなが噂をしているのを聞いたわ。 この海には……クラーケンというとんでもない化け物がでるって」
「穏やかじゃないな……まてよ、まさか……」
全員がこの怪しい空と空気、そして港で聞いた噂話のことを持ち上げると、船に大きな影が近づいてきた。 その姿を見た船長は、絶叫した。
「で……で……どぅぅうええぇぇたぁぁぁーーーーっ!!」
「ひぇぇぇ!?」
「こいつが、クラーケンかっ!」
大きな口と鋭い牙、長い胴体を持つその化け物こそが、クラーケンだった。 最初は今まで見たことのないほどの巨体とおぞましい外見から驚いたネス達であったが、すぐにネスは気を持ち直して、率先して前にでた。
「な、なぁに! ボクならこんなヤツ、簡単に蹴散らしちゃうよっ!」
「まて、ネス! 一人で前にでるのはっ」
「大丈夫だって!」
ネスは絶好調だからといってジェフの忠告に耳を貸すことなく前にでると、初っ端からPKキアイを放ってクラーケンに牽制した。 ジェフはその光景に頭を抱えつつ、バズーカを構えた後に放つ。
「PKサンダーッ!!」
そこでポーラが電撃のPSIを放ち、クラーケンを攻撃する。 クラーケンは反撃で炎をはいてきたが、それはプーが直前でクラーケンの顔を殴り飛ばして軌道がそれたおかげでネス達にダメージが届くことはなかった。
「そこだぁぁっ!!」
そこでネスは一気にクラーケンに接近すると、バットを豪快に振り回して、クラーケンに大きな一撃を食らわせる。 その一撃を受けてクラーケンはのけぞった。
「やったぁ!」
その光景に対しネスは、今ので確実にクラーケンを倒せたものだと思いこんだらしい。 大きな声を上げてガッツポーズを決める。 その様子を、高いところから見ていたプーは、彼らに告げる。
「いや、まだだっ!」
「えぇ!?」
あの一撃で倒れたんじゃないのか、と思ったネスの前にクラーケンは再び現れた。 自分が思っている以上に体力があるのだと気付いたネスは、戸惑ったが、クラーケンは彼にさらに追い打ちをかけるように電撃を放ち、ネス以外の3人にそれをヒットさせる。
「うわぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
「み、みんな……うわぁぁぁっ!」
ネスが仲間を気にかけている間にもクラーケンの攻撃が命中する。 その尾の一撃を受けたネスは船の甲板にたたきつけられた。
「クッ……!」
その一撃は思った以上に重く、ネスはすぐには立ち上がれなかった。 無論、クラーケンがこのままネスを見逃すわけもなく、ネスにさらなる攻撃を加えようと尾を大きく動かす。
「ネスッ!」
「えっ」
動けないネスに襲いかかるクラーケンのしっぽ。 あと少しで命中すると思われたその瞬間。 ネスとクラーケンの間にポーラが素早く割り込んできて、しっぽによる一撃をネスではなくポーラがその身に受け、船の壁にその体を強くたたきつけられる。
「きゃぁぁっ!」
「ポーラッ!」
「……ぅ……」
打ち所が悪かったらしい。 がっくりと、ポーラはそのまま意識を失ってしまった。
その光景を見たネスは、呆然と立ち尽くした。
「……あ……そ、んな……」
そんなネスにクラーケンが、無情にも再び襲いかかろうとしていた。
「ペンシルロケット5!」
そんなときだった。 どこからか鉛筆型のロケットが5発とんできて、クラーケンの顔面に命中した。 それによりネスにクラーケンの攻撃は届くことはなく、そこにプーが飛び込んで、彼の前でクラーケンに向かってPKサンダーを放った。 ペンシルロケットとPKサンダーのダブルアタックによりひるんでいる隙に、プーはネスの方を向いて怒鳴った。
「なにをボサッとしている! まだ相手は倒れていないぞ!」
「で、でも……いま、ぽ、ポーラが、ポーラがボクをかばって……!」
「今彼女は気を失ってるだけだ! それよりも、おれ達が戦わないでどうする!! このままクラーケンにやられて、船を沈没させておれもお前も皆も! 海の藻屑にするつもりか!! 助かる余地さえなくすつもりか!!」
「そんなのやだよっ!」
「だったらたて! おれ達に、うつむく余裕など与えられていない!」
そうプーはネスに対し怒号をとばし、海から再び現れたクラーケンの電撃を間一髪で回避する。 ジェフもその電撃をガードし、再びペンシル路けっを放つ体制に入り、それを発射する。
「ペンシルロケット!」
そのペンシルロケットはクラーケンの大きな口にヒットし、口の中で大爆発が起きたことでクラーケンはもがき苦しんだ。 そこに、プーはPKフリーズを放ってクラーケンの動きを鈍らせる。
「ネス、今だ!」
「あ、うん……!」
ジェフに言われて、ネスは体制を立て直しながら、PSI攻撃を放つ。
「PKキアイ!」
強力なその念波は、クラーケンの急所に当たりさえすれば倒せるものだった。 今はクラーケンがPKフリーズの影響で動けなくなっているので急所をねらいやすかったはずだが、集中力がとぎれているネスは、急所をはずしふつうにクラーケンにPKキアイを命中させるだけに終わってしまった。
「ご……ごめん、プー! 少しそれちゃった!」
「いや、かまわない! おれがとどめをさす!」
少なくともPKキアイは確実に命中したことで、クラーケンは弱っている。 その隙を逃すまいと、プーは神経を集中させてとどめの一撃である、かかと落としを食らわせた。
「でぇぇぇぇあぁぁっ!!」
プーのかかとおとしがちょうどトドメとなったらしい。 クラーケンはそのまま海の藻屑となって沈んでいった。 その姿に対しプーは息をもらし、ネスは呆然としていた。
「ふぅ……!」
「…………」
そんな彼らに、船長が声をかけてきた。 なぜか、片足だけ裸足の状態になりながら。
「いやぁ……あんたら強いんだね! 感心したよ! 実を言うとわしもスリッパを投げて援護したつもりなんだが……ぜんぜん役に立たなかったなぁ。 あんたらの方がずっと強いよ」
「……ぜんぜん気付かなかった」
「だろうね」
率直な感想を口に出すプーにたいし船長は苦笑しつつ、再び船長としての役目に戻るため、気を持ち直して舵を取った。
「さてと、もうクラーケンが倒れた以上海で恐れるものはなにもないことだし! 再びスカラビを目指して船をうごかそう!」
「はい、よろしくお願いします」
船長が再び船を動かしている間にネスはジェフの元へ向かい、今のポーラの容態について尋ねる。 今のところポーラはふつうに眠っているだけのようだが、ネスは彼女のことが心配でたまらなかった。
「……ジェフ、ポーラは……?」
「今、いのちのつのぶえを使ったよ。 あとは安静にしておけば大丈夫だ」
「………」
ネスは、いすの上で横たわるポーラをみて、悔しげに拳を握りしめた。 そんなネスの姿を見て、ジェフもプーも、思ったことをつぶやいた。
「これで、ネスも自分が天狗だったことに気付いたかな」
「……ああ、おそらくは、気付くだろう……」
「……」
そのつぶやきは、ネスにも聞こえてきた。 そこで、ネスは自分が有頂天だったことを自覚し、悔しい気持ちで胸がいっぱいになる。
そうして船は無事にスカラビに到着し、そのときにはポーラの意識が少しだけ戻った。 だが、彼女の体を心配して彼らは、今日はもうスカラビのホテルでポーラ含め全員安静することになり、今後の計画を練ることにしたのだった。
「とりあえず、ライフアップのおかげもあって、ポーラは今日一晩休めば、すぐに元気になれるよ。 今はここで僕達も、ゆっくり鋭気を養おう」
「そうだな」
「……」
ホテルの部屋でそう話し合ったあと、ジェフとプーは今後の計画を練ったり買い出しをするために、ホテルを出ていった。 その部屋に残ったのは、ベッドで寝ているポーラと、イスに座り込むネスだけだ。
「……ボクは……浅かったなぁ……」
ネスは、非常に深く落ち込んでいた。 このクラーケンとの戦いで、思い知ったのだ。 自分はどんな敵にもラクに勝てるものだと、思いこんでいた。 だが、クラーケンはあまりに強く、自分だけでは勝てなかった。
「……そういえば、ジェフもそれっぽいことを、言ってたっけ……」
トトを旅立つ前にジェフが自分に、油断は禁物だと忠告をしていたのを、ネスは覚えていた。 もちろん、自分はそれを軽く流したことも。 さっきだって、ジェフとプーには、自分が有頂天だったことを指摘してきたのだ。 ネスはそれにたいし、ぐうの音もでなかった。
「……ネス……?」
「……ポーラ……!」
そんなとき、ポーラの意識が戻った。 彼女はベッドの上で穏やかに目を開けてネスの存在を認識すると、ほっとした笑みを浮かべる。
「無事でよかった。 ネスもみんなも、無事だったわ」
「無事なもんかよっ!」
「ね、ネス?」
ポーラの言葉に対し、ネスは自分自身に対する怒りを露わにした。
「ボクはぜんぜん、強くなんかなかったんだよ! なにが地球を救う存在だ、なにがリーダーだ……! ただ調子に乗って、自分が何でもできる最強の存在だと思いこんで、それでどんな相手でも楽勝だと思いこんでて! その結果……キミに、あんなケガ……させて……キミが傷ついたのも、ボクのせいだ! もしかしたら、ジェフもプーも、ボクのせいで傷ついたかもしれない……!」
「……」
「ボクは……なにもできない……結局弱いままだったんだよ!!」
そう自分を責め立てるネスに対し、ポーラは首を横に振った。
「……そんなことはないわ。 貴方が調子に乗っていたことに気づいていながら、それを注意しなかった私にも責任はあるもの。 だから、自分だけが悪いみたいに言わないで」
「……」
「あのね、ネス。 本当にダメな人って、人から言われないとダメなことに気づけない人のことじゃないの。 ダメっていわれて、それを受け止めて……なにがダメだったのかを、考えることができない人のことなのよ」
ポーラはネスの手を握り、さらに語りかけてくる。
「ネスが調子に乗っちゃったのは、ちょっといけないことかもしれないけど……でも、ネスは今それを深く反省しているでしょう? だったら、ネスはなにもダメじゃないわ」
「……」
「だから、大丈夫よ。 みんなで守りあって、そして強くなりましょう。 これからも……ねっ!」
そう、ポーラはネスに笑顔を向けて言った。 その笑顔を見てネスは顔をうつむかせて体をふるわせる。
「ネスッ?」
「……今度こそ……今度こそ、ポーラにあんなケガはさせない。 絶対にボクが守る。 ポーラもジェフもプーも……そして、今までであった人も、みんなボクが守るからっ……!」
ネスは、さっきのクラーケンの戦いで彼女を守れなかったことを悔いつつ、もうそんな思いをさせないと、心から誓った。 その思いは、うつむきながらでもでる、強い声からも伝わってくる。
「もう、自分の力に酔いしれたりして、大事なものを見失ったりなんかしないから!」
「……うん。 私も、貴方を守って助けるからね。 みんなで、この冒険を乗り越えましょう」
「うんっ」
ネスはその目に涙を浮かべつつも口元に力強い笑みをうかべ、微笑みかけるポーラを見つめ返しながら、彼女との手を強く握り返した。
今回ネスが調子に乗って痛い目を見るという展開は、こういう物語をかくうえでやっといたほうがいいかなと思いかきました。
ここからさらに強くなることでしょう。
次回は砂漠を攻略します。