そろそろストックも危ういかな…。
タカのめを手に入れて、ピラミッドを越えたネス達は、一度プーと別々の道を歩むことになった。 彼を勧誘にきた仙人が言うには"星を落とす方法"というものを、今後の戦いのためにプーが修行で覚える必要があるというものだった。 それを聞いたプーは、その修行を行うことを決めたのである。
「きっとプーは、今までよりずっとずっと、強くなってわたし達の元にくるわ」
「今は彼のことを信じながら、僕達はできることをやろう。 それが、今僕達が彼にしてあげられることだよ」
「うん、わかってるよ」
彼が離れてしまうことに、不安と寂しさを覚えたネスだったが、ポーラとジェフの励ましと、プーの言葉を聞いて、その修行を後押しすることを決めたのである。 プーは、必ず修行を早めに終わらせてネス達と合流すると約束した。 だから彼らも、プーを信じている。
「よし、魔境へいく手段を探そう」
そう、今の目標を思い出したネス達は、魔境を探そうと周囲を調べる。 すると、視線の先に奇妙な、砂漠にあるのがおかしいものがおいてあるのに気づく。
「……なに、あれ……」
「え?」
「あれ?」
ネスが気づいて指し示していたのは、なにか土のようなものでできた巨大な建造物…のようなもの。 顔と手足があり、ずんぐりむっくりな体型のそれは、巨大な人型のようにもみえる。
「「「………………」」」
この砂漠にそびえ立つそれにたいし、ネス達は沈黙した。 そして、おそるおそる近づいてみると、背中の方に入り口のようなものがあり、上の方にはこれがなんなのかが書いてある。
「ダンジョンおとこ?」
「なんか、心当たりがあるようなないような……」
その名前に対しジェフは疑問を抱いて、やがて自分の中である答えにたどり着いた。 そして、この答えが正しいのかどうか確かめたいから、この中に入ってみないかという提案をすると、ネスもポーラもジェフの提案を受け入れて、3人でダンジョンおとこの中に入っていく。
「ブリック・ロードさん……やっぱりそうなのか……」
「あ、知ってる人?」
「知ってる人というか、なんというか」
ジェフは苦笑しつつ、自分がウィンターズにいた頃に遭遇した同じ名前の人物についての話をした。 そのときは洞窟の中に小さな迷路を作って、簡易ダンジョンを作っていたみたいだったこと。 いつかは巨大なダンジョンを作って、自分はダンジョン男になるのだと語っていたこと。
「じゃあ、この巨大な人形が……それってこと?」
「たぶん」
この巨大迷宮を上っていった先に、そのブリック・ロードという男はいるのだろうか。 その人に会えば、なにか魔境に行く手がかりが得られるかもしれない。 そんな予感を覚えつつ、ネス達はダンジョンの中を進んでいく。
「わ、なんだ?」
その中を歩いているとき、ネスは肩に何かが当たったのに気づきそちらをみた。 彼がぶつかったものは立て看板のようであり、そこにかかれた文章をネスは読み上げる。
「私の統計によれば、約70%の人はまず右を選ぶ。 ブリック・ロード」
「はぁ」
その看板の文章に対し、ネス達はそう返すしかなかった。 その看板に従って右に向かってみるとまた看板が立っていた。 さらにその先にも、看板が立っている。
「看板おおすぎっ!」
「もっと早くに言うべきツッコミだよね」
道中にはいくつもの、ほんとうにこれだけの数が筆世なのかわからないほどに多くの看板が立っていた。 ダンジョン男の内部を突き進んでいくと途中には動物園のようなフロアがあったり、ロープを上ったり降りたり、何故か備え付けてあるトイレに誰かが入っていたり、遠目になにか乗り物を展示してあるようなフロアもあった。
「ダンジョンというよりは、遊園地のようなアトラクションみたい」
「うん」
そう、ダンジョン男の内装に対する感想を口にしていき、だいぶ上まで来たときだった。
「あ、あーっ!!」
「どうしたのジェフ……って、ぎゃー!?」
「きゃー!?」
そこにあったものに、3人は絶叫をあげた。 なぜならそこには、土の壁にとけ込むようにして人間の顔が出ていたからである。 これがご対面というやつだろうか、とネスが感じていると、その顔の男にジェフが話しかけていた。 焦りを交えた声で。
「ぶ、ブリック・ロードさん!?」
「ええ、この人が!?」
「ウーェルカム! お久しぶりでやんす、ジェフさん! ずっと前にウィンターズであいやした、ブリック・ロードでござんす!」
本人の調子が明るいのが、より奇妙さを増している気がする。 何故こうなったのかとジェフが引き続き慌てた様子で問いかけると、ブリック・ロードはこれまた明るい調子で、事情を語っていく。
「いやぁ、実はアンドーナッツ博士のおかげで、ついにダンジョン男になれたんでやす」
「博士の仕業かよ!!」
彼がこんな形になったのは、アンドーナッツ博士が原因だと知ったネスたちは、盛大にそうツッコミをいれ、ジェフはがっくりとうなだれた。
「さて、あんたがたさえよかったら」
「ん?」
「しばらく一緒についていきやす」
「……はい?」
ブリック・ロードの言葉に対しネスたちはすっとうきょんな返事をし、ブリック・ロードのすすめた帰り道から、ダンジョン男から脱出したのだった。
そうしてブリック・ロードに会えたネス達は、外に出て、再び魔境を目指して歩き出した。 背後にはダンジョン男が立っており、足が動きそうだった。 確かにブリック・ロードはネス達についていくとは言っていたが、それがいま、現実になろうとしているのだろうか。
「え、ついてくるの? マジで?」
おそるおそるといった調子で、前に歩いて行ってみると、ダンジョンおとこもそれについてくる形で動き出した。 ほんとうに着いてきた、と3人が驚き戸惑っていると、常にネス達を見かけてはおそってくるはずのこの砂漠にいた敵も、逆におびえて逃げていく。
「周りの敵も、これに恐れおののいているみたいよ……」
「そりゃこんなのが迫ったら怖いよ……」
「これを連れ歩いている僕達って、いったい……」
戦闘を避けられるのは助かることではあるが、この光景はシュールとしかいえない。 自分は何で、こんな巨大なものをつれて冒険しているのかすら、わからなくなる。 なんとも言えないこの道を、ネス達は突き進む。
「……と、これは、なんと……あ、ちょっとまって」
「え、どうしたの?」
だが、その途中。 突然ブリック・ロードの声が聞こえてきてネス達は立ち止まる。 ダンジョン男の周囲には、長い椰子の木。 なにがあったのだろうか、とネス達が不安を覚えているが、その次の瞬間に拍子抜けをする。
「き、椰子の木が、体に、うっく……引っかかっちゃって……動けない! そのせいで、そちらにいけなくなったでやす! ま、動けなきゃ動けないでアッシは別にかまわないでやんす。 なので名残惜しいですが、ここで別れやしょう!!」
「「「だぁぁぁぁぁっ!!」」」
ブリック・ロードの言葉に対しネス達は盛大にズッコけた。 まさか巨大な4人目の仲間が、木に引っかかるという何とも間の抜けた理由で離脱するなんて、思わなかった。 この男を連れていくことになった理由が、ほんとうにわからなくなった。
「ブリック・ロードさん、なんでついてきたの!!?」
「大きすぎるのも困りものね……」
「うぅむ……さらばでやんす」
「あー、はい……ここまで、ありがとうございました?」
ほんとうに短い時間だった。 ダンジョン男との短い冒険を終えたネス達は、川の向こうを見つめる民族の男に気づき、声をかけた。 男はネスに気付くと、川の向こうにあるなにかについて、語り始めた。
「この川の向こうは、魔境と呼ばれる恐ろしいところだ」
「魔境!」
「魔境は怪物が強いし、毒の沼は歩くだけで体力が減るぞ。 川を渡りたいのか?」
「うん!」
「沼は底なし。 泳いでいっても引きずりこまれちまうぜ。 サブマリンでもあれば、話は別だが。
魔境への道がわかり、ネス達はその方向を見つめる。
「この先が魔境!」
「でも、危険な川の中を進まなきゃ行けないなんて……私達には今、その手段がないわよ?」
「そこなんだよなぁ……あのダンジョン男が、サブマリンを持ってればいいんだけど」
「確かにあの内部には、乗り物を展示してある場所があったけど……そのなかに、サブマリンがあるのか?」
ネス達はまず、ブリック・ロードに確認をとる。
「サブマリンなら、体内の……倉庫のがらくたのなかにあったはずでやす」
「マジで!?」
「ちょっとあがってきて、おくんなせぇ。 すきにしてくれていいんで」
ダンジョン男がそういうので、ネス達は遠慮なくダンジョンの中に置いてあったところを発見したサブマリオンを持って行くことにした。 ちょっと古くてさびれているその黄色いサブマリンは、ジェフが修理できるようなので、そこをジェフにまかせることにした。
「ダンジョン男さん、最初はなんでついてくるのかわかんなかったけど、割と役に立つこともあるんだね!」
「ええ!」
このサブマリンで底なしの川を渡れる、ということで、ジェフが調整してそれが終わった頃に、3人でそれに乗り込んだ。
「よし、これに乗って魔境へゴー!」
「「おー!」」
その勢いのまま、サブマリンは川を越えていく。
そうして3人はブリック・ロードからサブマリンを受け取ると、それに乗り込んで海を渡り、その先へと向かった。 操縦士ながら外の様子をうかがっていたジェフは、あるものが視界に入り反応をする。
「……あれは……?」
「どうしたの、ジェフ?」
「一応、木々に覆われた陸地が見えてきたんだけど……どうする?」
「……ほかに陸地がないなら、そこにあがるしかないと思うよ」
「そうだよね。 じゃあ、その近くに停まるから、準備をしてくれ」
「オッケー」
仲間と声を掛け合い、ネス達はサブマリンを陸地の近くに停め、陸地にあがる。 そこは湿度が高くて暗くて、わずかに陸地は見えるものの周囲は沼に覆われていた。 人が住むにはまったく向いていない。 だからだろう、サルが多く生息していて、そのサルの数と相反して人間の姿が見あたらないのは。
「ここが、魔境?」
「……人の出入りがまったくなさそうだわ……こんなところに、敵が潜んでいるのかしら……」
奥の方がより暗いのをみると、まぁ隠れ蓑にはうってつけなのかもしれないが、ここに自分達がいかねばならない場所があるのだろうか。 それを越えた先に、自分たちが戦い倒さねばならぬ侵略者がいるのだろうか。 奥にある真っ暗な世界に対しては、ピラミッドで手に入れたタカのめが役に立つかもしれないが、そこまでいく道のりが、厳しい。
「しかも先に進むには、この沼の中を泳ぐようにして突き進まなきゃいけないわけだ。 いつかの下水道を、思い出すな」
「……」
ジェフとポーラは、沼の中を突き進むことに抵抗を覚えているようだ。 恐らくあの、下水道の思い出がよみがえってくるのだろう。
そんな中ネスだけは、じっとその沼を見つめていた。
「ネス? どうしたの?」
「……そりゃーっ!」
「えっ!?」
なんとネスはそのまま沼につっこんでいってしまったのだ。 全く行動が読めないネスに、ポーラもジェフも驚きを隠せない。 そんな二人に対し、ネスは大笑いをしながら言う。
「だいじょーぶだよ!」
「大丈夫なの!? そうなの!?」
「これくらい、下水道に比べれば全然マシ! なんかむかしに、どろんこ遊びをしていたようなカンジだよ!!」
「えぇ!?」
沼に入るのと泥で遊ぶのはまた違うんじゃないのか、とジェフはつっこみたかったが、言葉がうまくでなくなってしまった。 だが、ポーラは違うようだ。
「そうね、そういう意識でいけば私も、いけるかも!」
「そういうものなのか!?」
「そういうものなのかもしれないわよ、意外と! よし、私もいっちゃおうっと!」
ポーラも思ったよりも大胆だ。 こういうのは男の子よりも女の方がいやがるはずなのに、ポーラは度胸がある。 そんな姿を見せられたら自分の背が立たない、と思ったジェフも最終的にはヤケクソになる。
「ああもう、どうにでもなれ!」
「しにゆくわけじゃないんだから、大げさだよ」
そんな調子で、3人とも魔境の沼につっこむことになった。 人間というのは不思議なもので、もう一度踏み入れてしまえば開き直って、抵抗があったものでも自然ととけ込んで平気になったりしてしまうのだ。
「さてと、ネス。 わかってるよね?」
「うん、もちろんわかってるよ」
そういってネスは、バッグから素早くタカのめを取り出すと、掲げる。
「このタカのめの力を使って……先へ行こう!」
「ああ!」
「ええ!」
ネスがタカのめを暗闇に向けると、3人の視界は一気に広がり、暗闇だった魔境の世界も当たり前のように見えるようになった。
「ボク達、まだまだがんばるからね……プー!」
そのとき脳裏に浮かべるのはやはり、いまは別行動をする、4人目の仲間のことだった。
この魔境での戦いや冒険で、自分達はまた、4人で冒険ができるようになる気がするからだ。
というわけで魔境突入です。
実際にあの沼ってどういう感触なのだろう…。