あの村はマジで狂気だと思います、今も昔も。
ポーラが行方不明かつ誘拐の噂の真相を知るためにネスは、アップルキッドを助けつつ、情報が多く集まるというヌスット広場に向かったのだった。
「ここが、ヌスット広場……。 名前の割に普通の人もいっぱいいるし、にぎわってるんだなぁ……」
自分のイメージと違う、ヌスット広場のにぎわいと光景にネスは感心していた。 もっと薄暗く、悪人達の集う場所のイメージがあったようだ。 だが、そこはいろんな物がうっている、いわばバザーのようなことが行われている場所だったので、ネスはふつうに驚いていたようだ。
「さてっと……買い物も大事かもしれないけど、今はここのリーダーだというトンチキさんを探さないと」
「とぅ!」
「わぁぁ!?」
奥の方に進んだとき、屋根の上から奇妙な男が飛びかかってきたので、ネスは驚き思わずバットを振り回し、まるで男を野球ボールかの如く吹っ飛ばす。
「あーびっくりした……思わずバットで打ち返しちゃったよ……」
「ヌハハハハハ! まさかおれさまがボールのようにバットに打たれるなんておもわなかったぜ! この、トンチキ様がよぉ!」
「え、あなたがトンチキさん!?」
「いかにも、おれがヌスット広場のボス・トンチキだ!」
そう、トンチキは自分をぶっ飛ばしたネスを賞賛しつつ名前を確認する。
「いやぁお前のリアクションにはまいった! 大したぼうやだぜお前は! 名前は?」
「え、ね……ネスだけど……」
「ネスかぁ。 どうせ、行方不明のポーラって女の子のことを聞きたいんだろう?」
「!?」
自分の目的が知られていたことにネスは目を丸くする。 そんなネスのリアクションは想定内だと言うかのように、トンチキは自分の知っていることを彼に伝える。
「何故知ってるのか、て顔をしてるな。 お前があのこのことを聞いてまわってることぐらい、とっくにおれの耳に届いてるんだよ」
「……」
「警戒するな、それにおれは手を貸してない。 ただおれは、グレートフルデッドの谷にある秘密の小屋を、貸してやっただけだぜ」
「誰に貸したんだ?」
「デブの子どもと、青い服を着た怪しい奴らだ。 そいつらが、その子をさらっていって、そこに閉じこめているんだ」
「うん……うん?」
トンチキの証言に対しネスはどうも引っかかるものを感じつつ、ネスはポーラの行方に関する手がかりを得るため、引き続きトンチキの話に耳を傾ける。
「あいつら、ポーラって子をナントカ教の生け贄にするとかって、張り切ってたぜ」
「いけにえ!?」
まさかこの時代に、この現代に、そんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。 それに、大昔のことであり今は架空のモノであっても、生け贄の概念はネスには理解しがたいものであった。 誰かを犠牲に自分たちだけ生き残るなんて、バカバカしいにもほどがあるからだ。
そんなネスに、トンチキは残酷な可能性を告げてくる。
「もう殺されているかもしれねぇな」
「まだポーラは死んでない! 勝手に殺すなっ!!」
トンチキの発した言葉に本気で怒りを覚えたネスは、バットの先端でトンチキをどつく。 そんなネスの反応と一撃を受けたトンチキは、ネスがいかにポーラという存在を気にかけているのかを感じ取り、彼に激励を贈る。
「そうだな。 だから、はやくいってやれ。 本当に手遅れにならないうちに、な」
「……うん!」
その言葉をきいて、ネスは一転して明るい笑顔でうなずいた。 そして、トンチキの言葉をしっかりと受け止めて、ヌスット広場をあとにするのだった。 最後に、トンチキはネスの方に向かって、あることを伝える。
「そうだ! ポーラって子を救い出せたら、また必ずここにこい! いいな、必ずだぞ!」
「え? ああ、うん」
トンチキの言っていたことは少し気になったものの、ネスはそれに返事をとりあえずしたのだった。
そうしてツーソンのデパートで準備を整えたネスは、ポーラがとらわれているであろう、グレードフルデッド谷をわたっていくのであった。
「まさかアップルキッドが作ってくれた、このタコ消しマシンが役に立つなんてなぁ……。 いや、信じられないのは、あそこにタコの形のモノが道をふさぐように立ちふさがっていたことなんだけど……」
と、ネスはこの場所に来る前にアップルキッドにもらった機械を見つめ、そうつぶやいた。 最初はネスの資金で完成させたアイテムということで受け取っていたものの、タコを消すタコ消しマシンだというのを知ったときは、こんなものをなににつかうんだよ、とすら思った。 だが、出番は思ったより早くきた。 ネスの行く手を、鉄でできたタコの置物が不才でいるというなぞの現象におそわれたのだ。 そのタコの置物にたいし疑問は抱きながらもネスは、早速そのタコ消しマシンを使ってみた。 すると、マシンの光を浴びたタコの置物は消えてしまったのである。 その瞬間、ネスは一度自分の目を疑ってしまった。
「気にしたら負け、だよね……」
だがネスはもう、この状況はすでにふつうでないことを改めて感じざるをえなかった。 だからもう、タコのことは忘れることにした。 とにもかくにも、道を通れるようになったのだから、結果オーライだと自分に言い聞かせることで、この疑問を延々と引きずらないことを決めたのだった。
「ピピプププ」
「へっ?」
そうタコの置物とそれを消したマシンのことを後回しにしようとしたとき、奇妙な機械音がネスの耳に入ってきた。 その音の正体が気になったのでそちらをみてみると、そこには小さな円盤型の浮遊物体が飛んでいた。
「うわぁ! ゆゆゆ、ゆーふぉー!?」
「ピピピピピッ」
「ひぇい!?」
まさにUFOと呼べるであろうその存在に対し、ネスは驚く。 まさか実在したのかと考えているヒマもなく、ユーホーはビームのようなものを放ってネスを攻撃してきた。 ネスはそれを間一髪で回避すると、反撃としてさっき買っていたヨーヨーを勢いよく振り回し、ユーホーをたたき落とす。
「うーん……」
ツーソンの町で、もうひとつの武器として友好的に使えるかもしれないと思い購入していたヨーヨー。 さっきは運よくユーホーを倒すことはできたものの、これは使いどころを考えるべきだろうと思った。
「少し距離が離れているところとかにはヨーヨー、近いところにはバット……そして……」
ネスはもうひとつの武器を手に取り、つぶやいた。
「遠くから攻撃するのは、このスリングショットが一番いいのかな」
ねらい打ちにはコツがいるものの、スリングショットで石を遠くからとばすことさえできれば、攻撃の幅は広がるはずだ。 そう思いネスは、これらの武器をうまく使い分けていけば、うまく戦えると思いこんだ。
そんなことを考えていたら、自分に向かってあるくキノコの大群が歩み寄ってきていたので、ネスは驚きつつそれらに向かってPKキアイを放ったのであった。
「あいつらの胞子はやっかいだからなぁ……」
方向感覚を狂わせ、思考がおかしくなる効果のある不思議な胞子。 それを、あのあるくキノコはまき散らしてくる。 それは病院にいるヒーラーという役職の人がなんとかしてくれるものの、今はそこまで引き返している余裕はない。 自分は一刻でも早く、グレートフルデッドの谷を越えなければならないからだ。
「こんなところで胞子にかかって、たまるか!」
そう、ネスは自分に言い聞かせて谷をわたる。 途中の橋が切り落とされていて遠回しさせられたりしたものの、彼は谷を越えていくように先へ進んでいった。 例の小屋を探しながら。
そうして長い谷を越えようと歩き続けていたネスは、途中で小腹が空き、敵の気配のない場所に隠れるように身をよせ、そこで非常食として買っておいたハンバーガーとオレンジジュースを口にする。
「ふぅ、小休止はこんなんでいいよね」
その小休止が効いたようだ、ネスは少しだけ元気を取り戻して立ち上がる。 いくらもとより体力ややる気があったとしても一人で、長い峠を戦いながら突き進むのは大変なことであった。 そして、ネスは元気になって再び歩き出した。
「!」
そして、自分が歩いている崖の下。 そこに小さな小屋がたっていることに気付く。 ここはグレートフルデッドの谷、そしてそこにある小さな小屋。 そしてその裏には、小さな滝と細い川も流れいる。
「きっとあの小屋だ……」
トンチキやポーラが与えてくれたすべての情報、すべての条件が、あの小屋と合致する。 だから、あの小屋の中にポーラがいるはずだ。
「くそっ、崖が高すぎるし……降りるための道具もないっ……!」
本当ならすぐにでもこの崖を降りて、あの小屋に直接行きたい。 あの小屋に突撃してそのままポーラを助け出したい。 だが、ここで焦ったら負けだと、直感が伝えている。 いつも無鉄砲で後先考えないことの多いネスだが、ここはどうしようもないことが自分でもわかっていた。
先ほど自分でも言っていたとおり、この崖は非常に高く、あの小屋が非常に低い位置にあるような錯覚を起こすほどだった。 近くにはクッションになりそうな木もなく、降りるために使えそうなロープもない。 ネスは超能力は使えるが、浮遊する技を会得していない。
つまり、ここからあの小屋にいく方法を、ネスはもっていない。
「しょうがない、他の道を探そう……ここで悔しがったり、降りる方法を探すよりはマシだ!」
こうなれば遠回りになってでもあそこに直にたどり着くしかない。 今はまだ、小屋の存在とそことどこかをつなぐ洞窟の穴があることを確認できただけ良しとすることにし、ネスはあの小屋のなかにいるであろう少女に、誓いをたてる。
「必ず助けに行くからね、待ってて……ポーラ!」
まだあえていないのに、こうまで心を強く動かされる存在。 ネスは、彼女のことだけを必死に考えていたのだった。
「……ネス……?」
そのとき、その小屋の中で、赤いリボンをつけた金髪の少女が、ネスの名前を口にしながら顔を上げたのだった。
ネスはポーラのいる小屋に続く道を探すため、目の前にあった洞窟を越えていった。 その先には小さな家がいくつも並んでいる、いわゆる村の形をしていた。 普通なら洞窟の奥に村が存在しているのか、と思うところであるが、問題はその村の異質さにあった。
「な、なんじゃこりゃあ……?」
看板にはこの村の名前が書いてあり、そこにはハッピーハッピー村とかいてあった。 明るい名前の村だが、ネスは今のこの村の異質さと釣り合わないと感じていた。
なぜならこの村は今、全体的に青く染まっているからだ。 家の屋根や壁やドア、柵、置物、ついには木や牛まで真っ青に染まってしまっている。
「全部青い……どうなってるの?」
「すいません、旅の方」
「はい?」
村全体が青に染まっているこの光景に対し、ネスが呆然としていると、突然声をかけられた。 彼に声をかけてきたのは、その手に募金箱のような箱をもった女性だった。
「世界をケガレないものにするために、寄付を求めています。 いくらでもいいからしなさい」
その言葉にネスは恐怖を覚えた。 寄付として行われる募金は強制的に他人にさせるものではなく、あくまで他人の意志にまかせるもの。 そのように強制的に請求してまで得るものに、幸福や価値などあるものか。
直感でこの寄付募金はよからぬものであると感じたネスは、勇気を持って断った。
「え、今持ち合わせがないからまたの機会にさせてよ」
「……」
「お、おばさん?」
ネスがお金を出すことを断ったからか、はたまたネスにおばさん呼ばわりをされたことが気に入らないのか。 女性の空気は一気に冷たくなり、その目をカッと開かせて、ネスに言う。
「つきまとってやるぞ」
「うわぁぁぁぁ!!?」
その言葉に一気に恐怖を覚えたネスは、走って逃げた。 時折後ろを振り返ると、さっきの女性がつけまわしており、ネスはとっさにポケットから小型の懐中電灯を取り出してその光を女性に向けた。
「ま、まぶしい!」
「今のうちに!」
その光に目をくらませている間に、ネスは一気に女性と距離をとり、離れることに成功した。 ちまちまと確認しながら村を調べていき、本当に女性から離れられたことに安堵しつつも、やはり村の異質さが気になってくる。
「ここはどうなってるんだ?」
ネスはギモンを抱きつつ、一カ所に集まって会話をしている村人達の話に耳を傾ける。
「おれ、あちこちをブルーに塗らないやつらって、幸せの敵だとおもうんだ。 そういうヤツは、ぶっとばしてでも言うことを聞かせてやろうと思うね」
「ブルーブルー! 世界中がブルーになりますように」
「カーペインター様に従わないものは皆、雷に打たれてしんでしまえばいいのよ」
「……」
話している内容の意味がわからない。 この村は青色の何かにとりつかれているのか。 重要人物の話が聞こえたりもしたが、小屋の手がかりは見つからない。 どうしたものかとネスが考えていると、正面から青いなにかがつっこんできた。
「うわっ!?」
ネスに向かってつっこんできたのは、青いずきんとスーツのようなモノをきた人間…このブルーブルー教の信者だった。 その手には青いペンキのついたハケが握られており、彼らが村を青く染めているのだろうと気付く。
「ちょっと、せっかくの一張羅にペンキが付いちゃうところだったじゃないか! 危ないぞ!」
ネスは信者に向かってそう怒鳴るが、相手はお構いなしにペンキのハケを振り回してきた。 そんな彼に向かってネスは距離をとり、スリングショットで攻撃し、それにひるんだところでバットで殴って相手を気絶させる。
「なんだってんだよー……」
あきれつつ、ネスは村の中を歩く。 そんなとき、一人の女の子がネスに気づき、彼にある話をしてきた。
「カーペインター様ってご存じ?」
「あ、いや」
「知らないのね。 じゃあ教えてあげる……。 カーペインター様は、ある日突然、神様の啓示を受けたのよ。 だから、あの方の言葉は神の言葉よ……あの方の話は、人の心を動かす力があるわ……」
そううっとりとした表情で語る少女の目は、どこか虚ろだった。 心なしか、目が青色に染まっているようにも見えた。 そんな少女の話を聞いたネスは、カーペインターなる人物の情報に対し、ある感想を口に出す。
「まるで催眠術だな……」
カーペインターなる人物はかなり危険なようだ、いつか戦うかもしれない。 そう思いつつネスは、この村にきた本来の目的を思い出した。
「今はそんなことはどうでもいい、早くポーラを探さないと!」
さっき仮面を付けた男がこそこそと話をしているのを、こっそりと聞いていた。 あるデブの少年と信者が、ポーラという少女を誘拐して小屋に閉じこめていると。 そして、村の北側にあるあの洞窟が、その小屋へ続く道であることを。
「……まさかな……」
デブの少年、という言葉にひっかかるものを覚えつつ、ネスはポーラが待っているであろう小屋に向かって走っていったのだった。
好きな色は青ですが、あの状態の中にはいたくない。
それほどまでにハッピーハッピー村の狂気は、精神的な怖さがありました。
次回はいよいよ、ヒロインが本格登場です。