はじめてくるとやっぱこわいよね、ここ。
トンズラブラザーズのトラベリングバスに乗って、ノリノリなテンションでトンネルを越えたネスとポーラは、スリークの町に到着した。
「さて、ここがスリークの町だ!」
「とりあえずはここでお別れだ。 この町は暗いムードだけど、明るい気持ちでがんばれよ!」
「うん、ここまでありがとう! トンブラブラザーズのみなさん!」
「また会えるとええのう! 今度はフォーサイドの劇場で歌えるとええのう!」
「うん、またねー!」
そうしてトンブラに別れをつげたネスとポーラは、スリークの町を見つめ、そのままの感想を口にした。
「なんか不気味だな」
さっきトンブラのメンバーが言っていた。 この町は暗いムードに包まれていると。 確かに空は雲が重くのしかかっており、日の光をずっと浴びていないかのように植物はかれ、人の姿が見られない。 おまけに空気も冷たく、重苦しい。 時折悪寒もする。 この町の異様な空気を感じ、冷や汗を垂らすネスの横で、ポーラはネスの服にしがみついていた。
「ぽ、ポーラ?」
「……ごめんなさい、少しこうさせてっ」
「……っ」
ポーラもこの異様な空気を感じ取っているようだ。 顔を青ざめさせてふるえて、ネスにカラダをくっつけてくる。 恐怖を紛らわそうとしていることはネスにもわかったが、やはり女の子に身を寄せられるのは胸にくるものがあるらしい。 深く深呼吸をして自分を落ち着かせてから、ポーラに歩けるかどうかの確認をとる。
「大丈夫? いける?」
「……うん。 いけるというより、いかなくちゃ……。 もうトンブラさん達は行っちゃったし、第一ここまで乗せてほしいといったばかりだもの。 それ以上乗せてもらうのは、ワガママよ……」
「そうかな」
「そうよ」
ポーラは気丈にも、この恐怖を乗り越えねばと自分に呼びかけているようだ。 それには、自分の予感を的中させるためという強い思いがあった。
「新しい仲間と、ここで出会えるはずだもの。 怖いのを乗り越えて、なんとしてでも会わなくちゃ」
「そっか」
そう自分に言い聞かせるように宣言する一方で、やはり恐怖はなくならないらしい。 ネスの服をつかみつつ、彼に頼みごとをする。
「だけど、やっぱりちょっと怖いから……ネス、わたしから、離れないで」
「うん、それでポーラが歩けるなら、いいよ」
ポーラの願いに対しネスはそう答え、それにたいしポーラも安堵したようだ、少しだけ笑みを浮かべる。 そんなポーラの顔を見て、ネスも気を引き締め直す。
「ボクがしっかりしなきゃ。 ちゃんとポーラを守ってあげなくちゃ」
と。
「PK・キアイ!」
「PK・ファイアーッ!」
町の中には、不気味な町を演出するかのように、これまた不気味な敵が多く存在していた。 カボチャ頭の幽霊と動くあやつり人形が、その模範例である。 突然襲いかかってきたそれらの化け物を、2人は超能力を駆使して戦っていく。 今も、2人が繰り出した二つの超能力が、それらの化け物を倒したところである。
「やったか!」
「もう消えていなくなってるわ」
「ふぅ、突然飛びかかってくるからビックリしちゃったよ」
そういいつつ、ネスはさっき化け物と戦っていた場所を見つめた。 そのなかでポーラは、化け物と戦いながら町の中を調べているときに手に入れた情報を口にだす。
「でも、この町を歩いていたら、ある程度は今の状況がわかったわね」
「うん」
今スリークの町には、あのような化け物がうろついており、人々はそれに恐怖をしているのだという。 空も突然暗くなってしまい、太陽の光が全くささなくなったことで人々の心も暗くなり、暗い中で活発化する化け物が大量発生し、中には人が襲われたという話もある。 今までとは桁が違う話を聞いて、ネスもポーラも身震いを起こしていた。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
そして、今。 ネスとポーラに襲いかかってきたものがおり、それがスリークにすむ人々をもっとも苦しめている者だった。 爛れた変色した皮膚とうつろな眼球、腐敗臭を漂わせる人型のなにか。
「うげ、まさかこいつらが……ゾンビ!?」
「みたいね……」
それは、ゾンビだった。 ネスもポーラも、そして地球上にいる人々は、ゾンビは架空の生物という認識しか抱いていないだろう。 まさかそれが現れて、しかも襲いかかってくるなんて、恐怖以外の何でもないだろう。
「ウギィィッ!」
「うわぁぁ! ぴ、PKキアイッ!!」
そして今も、ゾンビはネスをターゲットとして見て、襲いかかってこようとしていた。 ネスはそれに驚きながらも、PKキアイを放って攻撃をくり出す。
「PK・ファイアー!」
そこにさらに、ポーラの放つ熱の超能力がゾンビに襲いかかり、ゾンビの体に炎をともらせてそのまま燃やした。 やはりその体は燃えやすいらしく、あっという間に炎に包まれて消滅した。 こうしてゾンビをなんとか倒すことに成功したネスは、ひとまず安心する。
「ひぇぇ~~……あぶなぁい……触られてたらどうなってたことやらだ……」
「ネス、大丈夫?」
「うん、あのときPKキアイを放っておいて、正解だったよ」
バットで対抗できるかわからなかったから、超能力を使って攻撃をして正解だったのだろう。 あんな危険性しか感じないような化け物までるのだなら、スリークの町の人々が恐怖に震え、それが町の空気に影響して暗くなるのもムリはない。 そうして、この町をおそうゾンビの存在を直に目の当たりにすることで改めて認識する。
「ポーラッ、あぶない!」
「きゃあ!?」
そんなとき、あのカボチャあたまのヤツがポーラに飛びかかろうとしていたことに気付いたネスは、ポーラの腕をひき自分の方に引き寄せ、バットを豪快にスイングしてカボチャを粉砕する。 別の方から同じ化け物が襲いかかってきても、ネスはそれに向かっていき、同じようにカボチャを粉砕した。
「ホント、ホラーゲームをやってる気分になるな……」
「油断できないわね」
ポーラの言葉にネスは、静かに頷いた。
とりあえず、ここにいるであろう3人目の仲間の手がかりを探そうと、町の中を歩いていく2人。 その中で2人は、ある大きなテントに吸い込まれるように入っていく人々を発見する。
「あのテントに人々が入っていくね」
「わたし達も行ってみましょう。 なにか、手かがりがあるかもしれないわ」
「うん」
ネスとポーラはさらなる手がかりを得るため、町の人々に続いてテントの中に入っていく。 その中では、町の人達は不安の声を互いに言い合っていた。
「ああ、どうしたらゾンビは倒せるのかしら!? どうすればいいの!?」
「どうやってこの状況を打破するべきなのか、全然答えが見つからない……! やはり、家の中にこもって助けがくるのを待つしかないのか!?」
「でも、仕事ができなきゃ家賃も払えないのよ!? 家にいたままじゃ、それもできなくなるわっ! その中で仕事先もこの状況で休みになるなんて……だけど、家賃や町のお金の請求はやまないし……このままじゃ悪循環よ!!」
「わしは家に家族を残して避難してきたんだ、だから助けてくれぇ!」
と、大人達がそれぞれで解決策がないことを訴えあっていた。
「よく解決策を持参することもしないのに、会議をしようとおもったねこの人達……」
「ネス」
その様子にあきれたネスが、ぼそっとそう言ったのでポーラはすぐに制止をかけようとした。 彼らも、ゾンビさえなんとかできればなんとか平静を取り戻せるだろうが、今ここで言い合っててもしょうがないのも事実。
「ボク達が全部倒す、しかないのだけど」
「ちょっとムリがあるわ。 わたし達2人じゃちょっと戦力不足よ。 全部相手してたらキリがないわ」
「だよなぁ」
と、ゾンビに対抗する手段を一応は持っているものの、数がどれほどかわからない以上、むやみにつっこんでいくのは愚策だ。 とりあえず今は手がかりを集めつつ、襲いかかってくるゾンビは超能力で相手をするしかない。 そう思いながらテントの中で話を聞いていくと、ある男が情報を持っているというので耳を傾けてみた。
「私はゾンビどもの手先をやっていて、早くも奴らを裏切った、正義のヒキョーものですが」
「それはそれでどうなんだろ」
「どうも、ゲップーってのが、ゾンビをあちこちからよみがえらせていて……さらに、ゲップーってのは、ギーグっておんなの、子分らしいんですよ」
ギーグという名前にたいし、ポーラは眉間にシワをよせた。 その名前は、いつか自分たちが相手をしなければならない巨悪だと、気付いたからだ。 その横で、ネスも呆然としていたので、ポーラは彼が自分と同じ気持ちなのだろうかと確認するため声をかける。
「ネス?」
「ギーグって……おんなだったのか……」
「え、そこ!?」
「いや、おんななのかどうかは、私の想像ですがね」
「「ズコーッ!!」」
予想の斜め上をいくネスの言葉にポーラがツッコみ、男の言葉には2人そろってずっこけた。 そんなショートコントみたいなやりとりをしながらも、ネスとポーラはある情報を入手することに成功したことを話し合う。
「ともかく、ゲップーとかいうのがゾンビの元締めみたい。 そいつをやっつけない限り、ゾンビは永遠にふえていくわ」
「そうなるね」
今自分たちが真になんとかしなければならない敵は、ゲップーという怪物のようだ。 そいつを倒す方法と居場所を捜し当てねばならない。 とりあえずスリークでの最終目的は、ゾンビを作りだし統括しているというゲップーを倒すことに決まった。 そんなネス達の視界に、ずっと同じ場所に立っている、2体のゾンビがいる。 こちらに気付いていないだけかもしれないが、おそってくる気配はなく、背後には地下へ続く道があることから、このゾンビ達はここに誰も通らないよう見張りをしていることがうかがえる。
「怪しい階段があるけど、あのゾンビが見張ってるな……」
「これじゃあ、あそこに行けないわ。 戦ってもいいかもしれないけど、下手に応援呼ばれたらマズイし……」
「なにか方法を考えなきゃ。 いったん安全なホテルに帰ろう」
「ええ」
ホテルは営業しているかもしれない、と思いつつ、休むためというのもあってホテルに向かう2人。 すると、ホテルの前に誰かが立っていることに気付く。
「あれ? ホテルの前に誰かいる?」
「ホテルで働いてる人かしら? あまりそれっぽい格好はしてないけど……」
そう話をしつつ、ネスとポーラはその女性を凝視していた。 すると女性はサングラスを動かし、それを光らせる。 直後、ネスの目から光が消え、独りでに動き始めた。
「ね、ネス?」
ポーラが声をかけても返事をせず、ただ歩いていく。 そんなうつろなネスに不安を覚えたポーラは、何度もネスに呼びかけながらついていく。
「……!?」
そして、ある部屋にネスとともに入ったとき。 視界は一瞬で真っ暗になった。
そうして2人が真っ暗闇に包まれ意識が遠のき、運命やいかにと思われていた数時間後。
「………う、うぅ……ん……?」
どこかの洞窟の中で、ネスは目を覚ました。 部屋の隅にかけられたたいまつで洞窟内の様子はぎりぎり分かる。 そうして徐々に意識を取り戻していき、視界が広がったネスは、自分の記憶をたどろうとする。
「………?」
だが、どうしても気絶する前のことを思い出せない。 最後の記憶は、ホテルの前でなぞの女性を発見したあの瞬間だけ。 それからこの洞窟で目を覚ますまでの記憶は、ネスにはない。
「ハッ!?」
記憶を巡る中でネスは、自分の隣で同じように気を失って横になっているポーラに気づき、そちらに意識を向ける。
「ポーラ、ポーラ!」
「………う、うぅん……」
ネスはすぐにポーラに気づき、彼女に駆け寄って名前を呼びながら彼女を揺する。 それに答えるように、ポーラは目を動かし声を漏らす。 そうしてゆっくりと目を開け、自分の視界を確認する。
「……ネ……ス……あれ、わたし、確か……」
「……ごめん、ボクのミスだ……ボクが、ポーラを巻き込んじゃった……」
記憶はないが、おそらく抜けている部分で自分が失態を犯した。 ネスはその自覚があり、ポーラに謝罪を告げる。 ポーラはネスの手を取り、静かに笑いながら彼に言う。
「あなたはわるくないわ、だから自分を責めなくていいのよ」
「……ポーラ……」
そのポーラの言葉と表情をみたネスは、今は自分を責めるよりも、ここを脱出することを考えることに決める。 そうして気持ちを切り替えたネスは、扉に手をかけるが、ガチャガチャとむなしい音を立てるだけであり、扉のひらく気配はない。
「まぁ、閉じこめるくらいだからカギかけて当然か……」
よくよく考えてみれば、人を閉じこめておいてその扉のカギをあけたままにしておくわけがない。 当然のことに気付いて崩れたネスに、ポーラは声をかける。
「わたしに任せて」
「ポーラ?」
ポーラはそうネスに声をかけた後、その場に座り込み、手を組んで目を閉じて呟き出す。
「まだ会ったことのない仲間に、呼びかけます……まだ会ったことのない、わたし達の仲間に呼びかけます!」
ポーラが今行っているもの。 それはネスが今まで何度か体感したものだ。 彼女は、祈ることで可能になるテレパシーを通して、遠くにいる別の人に援助を求めるのだ。 今は、これから合流しようとしていた仲間に声をかけている。
「……遠くにいる、わたし達の仲間……ジェフ……!」
やがてポーラは、その仲間の名前を口に出した。 そして、その祈りに願いの力をすべて込めて、よびかけ続ける。
「ジェフ、ジェフ! あなたの助けがほしい……わたしは、ポーラ。 そして、もうひとり、ネス。 あなたに呼びかけています……!」
ポーラの祈りは、遙か遠くに飛んでいった。
こうしてとわられたネスとポーラの運命はいかに。