ルイージマンション ~ オバケホテルと吸血鬼 作:アヤ・ノア
ある日、ルイージのもとに一通の招待状が届いた。
差出人は「パウダネス・コナー」。
山の中にある大きなホテルのオーナーだ。
喜んだルイージは、双子の兄のマリオやピーチ姫、ミロやユミルを誘ってホテルへ出発した。
とても美しいホテルへ着いたルイージ達は、パウダネス・コナーに喜んで迎えられ、
それぞれの部屋へ入っていった。
しかし……。
「……何ですか、これは」
一夜にして、美しかったホテルは一変した。
風船は怖い顔になり、飾りつけも恐ろしくなり、
ホテルの内装もおどろおどろしいものになっている。
さらに、ユミルは気付いてしまった――ミロが、大きな額縁に半分潰されている事を。
「……助けて、ユミル……」
「ミロさん!」
額縁の中には、苦しそうな様子のミロの下半身が描かれている。
内部では異次元空間が渦巻いており、別の世界に繋がっている事が分かる。
「今、ボクが助けます! ぐぬぬぬぬぬ……!」
ユミルは額縁に取り込まれようとしているミロを、非力ながらも必死で引っ張っていく。
額縁の魔力は強かったが、ユミルは主を助けるためにも踏ん張り続ける。
「未来を変えるためにも……ここで……負けるものですかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、ユミルが叫びながらミロを引っ張ると、ミロは額縁の中から脱出した。
その衝撃でミロがユミルに覆いかぶさり、同時に額縁は塵となって消えた。
「……潰さないでくださいよ……」
「あら、ごめんね」
ミロはユミルから離れて、辺りを見渡す。
一体何がどうなったのか、二人には全く分からなかった。
「みんな、どこに行っちゃったのかしら……」
「悪い未来にならなければいいのですが……」
このままでは、水晶玉で見た通りの未来になってしまう。
そう思ったミロとユミルは、急いで部屋から出た。
「兄さん……ピーチ姫……!」
ルイージも、怯えながら503号室から出る。
すると……。
「「「ぎゃああああああああああああ!!!」」」
同時に遭遇した、ルイージ、ミロ、ユミルの顔を見て三人は同時に叫んだ。
「な、なんだ。ミロとユミルだったのか」
「驚かさないでよ、ルイージ」
ぷんぷんと怒るミロ。
だが、今はそうしている暇はない。
美しかったホテルが、徐々に不気味になっていく。
いや、これこそが、ホテルの本当の姿なのだろう。
「一体どうしたの?」
「ピーチ姫の悲鳴が聞こえたから目が覚めたんだ。
気が付いたら、ホテルがこんなになってて……」
ルイージはこれまでの事情をミロとユミルに話す。
ミロとユミルは頷くと、真っ直ぐに前を向いた。
「なるほどね……なんかおかしいと思ったけど……」
「とにかく、みんながどこにいるのかを探しますよ」
「う、うん。兄さん、どこに行ったんだろう……」
ルイージ、ミロ、ユミルは、いなくなったみんなを探した。
暗視能力を持っているミロとユミルは、懐中電灯が無くてもまともに探索できる。
壁には大きな蜘蛛がいて、蝋燭や髑髏などの不気味なものが飾られている。
「まさにオバケホテル、といったところね」
「……怖いよ……」
初っ端から、ルイージはミロの後ろにぴったりくっついている。
ミロとユミルは真剣な表情をしていた。
「ここには……」
「誰もいないわ」
501号室――ピーチ姫の部屋には誰もいなかった。
中にあるのは、たくさんの荷物と、壊れた傘、そして散らばった食器だけだった。
紅茶が入っていたカップが床に落ちており、
恐らく、いなくなる前は紅茶を飲んでいたと思われる。
「いつからピーチはいなくなったの?」
「僕がピーチ姫の悲鳴を聞いた時……だったと思う」
何故、ピーチは消えてしまったのか。
ユミルは部屋にあるものを調べていった。
「この傘には指紋が残っていますね。多分、これで抵抗したんでしょうね……」
ユミルが折れた傘を調べてみると、柄の部分にピーチの指紋がついていた。
恐らく、ピーチはこの傘を使って応戦したが、抵抗空しく消えてしまったのだろう。
「うぅ、なんだか怖くなってきたぞ。……とにかく、兄さんを探さなきゃ」
「そうね」
ルイージ、ミロ、ユミルは、
Mの文字が描かれた赤いキャリーバッグが置いてある、502号室に入った。
だが、そこにも誰もおらず、食べかけのピザ、倒れた椅子、
中身が空のキャリーバッグが置いてあるだけだった。
「ここにも誰もいないわね」
「兄さん……? 兄さん!? どこに行っちゃったの!?
兄さーーーーーーーん!!」
不安になったルイージは必死で叫ぶが、部屋には誰もおらず、当然何も反応しない。
彼の声が、空しくマリオの部屋に響くだけだった。
「もしかして、マリオは……」
ユミルが調べていると、ある事に気づく。
ピーチの部屋と同じように荒らされていて、気がつけば失踪してしまった。
ミロも、あの時半分だけ額縁の中に吸い込まれた。
これらから推測したユミルは、マリオもミロと同じ目に遭った、と理解してしまった。
「ミロさんみたいに、額縁に……」
「ちょ、ちょっと待ってユミル! そんなに怖い事言わないでよ!」
ルイージは慌ててユミルにこれ以上推測を言わないように頼む。
ユミルは「分かりましたよ」と言った後、マリオの部屋を出るのだった。
「もう! 一体みんな、どこに行っちゃったのよ!」
「ミロ、そんなにかっかしないで……」
怯えるルイージと怒ったミロが話していると、音と共にエレベーターのドアが開く。
エレベーターの中にいたのは、あのパウダネス・コナーだった。
サングラスは外れ、金色の目が光っており、透けた身体からはドアが見えている。
「……! こいつ……幽霊!?」
ミロは、コナーがこの世のものではない存在である事を理解してしまった。
コナーは宙に浮くと、不気味に笑いながらルイージ、ミロ、ユミルにこう言った。
「あら、VIPのお客様……。今ちょうど、お伺いしようと思っていたところですのよ?
お部屋はいかがだったかしら? 素敵すぎて、叫び声を上げてしまうほどでしょう?」
「ええ、ある意味、ね」
「う、うん、怖かった、よ……」
ルイージは相変わらず怯えていたが、ミロとユミルは毅然とした表情だった。
「お客様、わたくしはね……本当に、
あなたのことを招待したくてたまらなかったんでございますわよ?」
「え、どうして?」
「うふふ、それはね……わたくしが、それはそれはもう憧れて仕方がなくって……
とーっても大大大ファンの素敵な素敵なこのお方の前に!」
「このお方の前に?」
「あんたを! ルイージを!!
もう一度引きずり出してやるためだよ!!!」
「あたし達は無視ーーーーーー!?」
コナーは本性をむき出しにし、マントを広げる。
ミロのツッコミが部屋中に響くと――
「「「出たーーーーーーーーーーーーー!!」」」
コナーが憧れる「このお方」――テレサ達の王、キングテレサが姿を現した。
「グワッハッハッハッ! 驚いたか、ルイージ! 俺だよ! キングテレサ様だよ!!」
「ま、またお前か!」
キングテレサは、どこかで聞いた事があるような口上でルイージ達に名を名乗る。
「また」というのは、以前もそれ以前もルイージはキングテレサとやり合ったからだ。
「いやー、しばらくメガネジジイの研究所に閉じ込められちまってたけどよ……。
このオーナー、俺様に会いたかったらしくてよ、俺様を解放したのよ! ラッキーだぜ!」
キングテレサは以前のルイージの冒険*1でオヤ・マー博士に封印されていたが、
オーナーのおかげで抜け出す事が出来て、笑う。
ルイージとユミルは、このホテルがキングテレサの仕掛けた罠である事を理解してしまった。
「しかしお前ら、まんまとこのホテルにやってくるとはな。
なんだか、復讐もあっさり終わっちまいそうだぜ」
「復讐……?」
「決まってんだろ! お前らを一人残らず額縁の中に収めてやるんだよ!!」
「そ、そんな……!」
「これは、あたしにとっては拷問だわ!」
「でも、ボク達は絶対に屈しません!」
元の世界では不老不死であるミロとユミル。
だが、額縁の中に入るという事は、動く事も話す事もできないので、
ずっと生き続ける二人にとっては拷問なのだ。
「そう怯えることはないぜ、ルイージ。銀髪の女と金髪の女も、なかなかの威勢だな。
ほら、お前らの仲間も首を長くしてお待ちかねだぜ?」
「ボク男なんですけど……というか、まさか……」
キングテレサはユミルのツッコミをスルーして、
ルイージ、ミロ、ユミルの目の前に「あるもの」を見せる。
それは、驚いた表情のマリオ、ピーチ姫、キノピオが描かれた絵画――
いや、絵画にされた彼らだった。
全員、閉じ込められる前の体勢と表情だ。
「兄さん、ピーチ姫、キノピオ!」
「みんな絵になっちゃってます……!」
この額縁には、対象を絵として封じ込める恐ろしい魔法がかかっている。
ミロとユミルは、額縁から逃れられなかったらこうなっていただろう……と唾を呑む。
「グワッハッハッハッ! どうだ、いい眺めだろ!」
「どこがいい眺めよ、キングテレサ! 悪趣味よ!」
他人を絵画の中に閉じ込め、自らの所有物にする。
ミロにとって、それは許せない事だった。
「もちろん、額縁はもう1枚……いや、もう3枚、ちゃーんと用意してあるぜ?」
「ま、まさか!」
「そう、お前らの分だよ。さあ、大人しく観念するんだな! ルイージ、銀髪の女、金髪の女!」
キングテレサは魔法で額縁を生み出し、内部に異次元空間を作り出した。
ミロがアデルの水晶玉で見たものと、全く同じだ。
ミロとユミルは急いで、クラウチングスタートの体勢を取って逃走の準備をする。
「ルイージ、早く逃げないとあいつの物になるわ!」
「脇目も振らず、真っ直ぐ走ってください!」
「うん、怖いけど……」
ミロはルイージが魔法の額縁に収まる未来を見た。
それを変えるために、ミロとユミルはこの世界にやって来たのである。
ここで追いつかれるのは、本末転倒だ。
「二人とも速いよ!」
ミロとユミルは脇目も振らずに走り出した。
ルイージも彼女達の後を追って走っていく。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「あたし達についていって!」
部屋がのろい玉で次々と消えていく中、ミロは的確にルイージに指示を出す。
三人は障害物をかわしながら、キングテレサの追跡から逃れる。
「上に障害物があるわ!」
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
キングテレサは荷物や食器を飛ばして三人の行く手を阻む。
それでも、ミロの指示があってそれらをかわしながら走る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「次は下に行って、そのまま真っ直ぐ!」
ピーチ姫の部屋も消えていく。
それでも、キングテレサは追跡を続ける。
やがて、三人が辿り着いた先は――行き止まりだ。
「どうしよう、行き止まりだ……」
「早くこの中に入って!」
「え、でも……」
この先はゴミを投げ入れるダストシュートだ。
ルイージは行くのを躊躇うが、徐々にキングテレサは近付いていく。
三人の目の前には、あの魔法の額縁がある。
「そこまでだな、ルイージ、銀髪の女、金髪の女。お前らはこれで終わりだ。さあ、入れ」
「誰が、入るものですか。その中に入るくらいなら……こっちに入る方がマシよ!」
「だからボクは男ですってば!」
ミロは意を決して、ダストシュートの入り口を開ける。
そして「ついてこい」とでも言うように手を振る。
「早く入って!」
「ちょっと待ってミロ、ここは五階だよ? ここから落ちたら怪我しちゃうかもよ?」
「つべこべ言わない! 額縁の中に入るの!?」
躊躇うルイージを、ミロは強く叱責する。
「そ……それは……」
「いいから、入れ!」
「わ、わ、わ……うわああああああああ!!」
ミロは、ルイージとユミルをダストシュートの中に押していく。
そして、三人はその中に転落していった。
三人が飛び込むのを見たキングテレサは舌打ちし、三人を収める(予定の)額縁を消した。
「ちっ……どこまでも悪運は強い奴だぜ。しかも、イレギュラーまでいやがる。
あいつらさえいなければ、今頃ルイージは額縁の中にいたのに……。
……今に見ていろよ、ルイージ。
必ず、お前の最高に怯えた顔を、額縁の中に収めてやるからな……!」
――こうして、緑の人気もの、銀の真祖、金の吸血鬼の三人は、
キングテレサに囚われた仲間を救うため、このオバケホテルでの冒険を始めるのであった。
オリキャラが登場する都合上、展開は変わっています。
キングテレサの復讐の内容に対し「しょぼい」と言わせなかったのは、
こういう相手には舐めてかからない方がいいと判断したからです。
それに、不老不死に対する実質的な死ですしね?