盲目の提督と艦娘の物語   作:Hetzer愛好家

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テスト勉強の合間に息抜きで書いてたら一話分出来たので投稿してみます()

ちなみに本作はYuzuremonさんの「提督はコックだった」に感銘を受けて自分も書いてみたいなあ……と思った結果生まれた作品です。至らない部分もありますがよろしくお願いします。


第一話

ごめんね。本当にごめんね。

 

 

貴方は目覚めさせるべきではなかった。

 

 

貴方に世界を見せなければ良かった。

 

 

貴方の目が治らなかったら良かった。

 

 

貴方の視力が戻らなければ良かった。

 

 

貴方が提督にならなければ良かった。

 

 

私たち艦娘が生まれなければ良かった。

 

 

貴方にはもう傷ついて欲しくない。

 

 

でも貴方は行くよね。だって優しいから。

 

 

誰よりも悲しみを知っているか行くんだよね。

 

 

世界で誰よりも優しい貴方。

 

 

世界で誰よりも男らしい貴方。

 

 

私を何時でも照らしてくれた貴方。

 

 

僕を何度も優しく抱き締めてくれた貴方。

 

 

貴方が行くなら私も行こう。

 

 

貴方が逝くなら僕も逝こう。

 

 

最後の時まで付き合うよ。

 

地獄の底まで付き合うよ。

 

 

この憎たらしいほどに永い命が果てる、その時が来るまで……。

 

───────────────────

 

ここは大湊鎮守府。日本国内でも有数の戦力が揃った鎮守府である。横須賀や呉、そして佐世保と比べると大きさは見劣りするが、保有されている戦力は一番と言っても過言ではない。

 

そんな大湊鎮守府で、一つの波が立とうとしていた。

 

「提督のハートを射止めるにはどうしたら良いのか皆で考えるネー!」

 

「提督LOVE勢作戦会議」と大々的に書かれた白板をベシベシ叩きながら金剛型戦艦のネームシップ“金剛”が声を張る。

 

この鎮守府に所属する全ての艦娘は、所謂「姉様LOVE勢」つまりシスコンであっても例外なく“提督”と呼ばれる八雲聖の事が大好きである。

 

短く切り揃えられた髪の毛に目元に付けられた大きな火傷跡。そして引き締まった身体と言った普通の女の子が気にするような見た目で判断している……訳ではない。むしろ見た目だけで判断するなら提督はまず問題外にされる可能性もある。

 

その理由は簡単だ。何故なら、提督は“盲目”だからである。

 

人間というのは何かしら障害を持っていると未知の恐怖から遠ざけがちだ。だから、艦娘からしても提督という男の第一印象は最悪であった。

 

それでは何故、彼女たちがこんなにも提督という男にご執心なのか。それもまた非常に分かりやすい理由なのだが、今は伏せておく。

 

「Heyボーノ! 何か良い作戦はありますカー?」

 

“ボーノ”と呼ばれた艦娘は、頬杖をついてフンッとため息をもらす。やや紫がかった髪の毛を掻き上げ、睨みつけるような目線で金剛を射抜いたのは綾波型駆逐艦8番艦の“曙”だ。

 

駆逐艦というのは基本的に純真で可愛がられるのだが、この曙は真反対で非常に口が悪く目つきも鋭い。更には提督の呼称も“クソ提督”である。もっとも、彼女の過去を見れば曙が捻くれてしまうのも仕方のないことなのだが……。

 

と、まあ表面上は提督の事はとても好きには見えない曙だが、実際は正反対で鎮守府内でも一二を争う提督LOVE勢である。ただし直線的なアプローチをかける戦艦や空母とは違って普段は前述の通りつっけんどんなので所謂ツンデレや隠れ提督LOVE勢と言えるだろう。

 

「そんな簡単に作戦が思い浮かぶなら苦労しないんだけどね」

「それもそうデース。でもこの中ならボーノが一番提督と付き合いが長いネ! だから何か提督の好みや弱点を知っていると思ったデース!!」

「はあ。悪いけど甘すぎよ。だってクソ提督と来たら……」

 

恋愛感情封印しているし。

 

曙の諦めた声音が響き渡るのだった。

 

───────────────────

 

執務室

 

「時雨。次の書類を取ってくれるか」

「えっと……はい、これだね」

 

点字で書かれた幾つかの書類を“時雨”と呼ばれた書類を提督に手渡す。それを受け取った提督は、左手で点字を読み取ると右手で判子を押す。そして次の書類に目……ではなく手を通しては判子をまた押していった。それを時雨はジッと眺める。

 

“時雨”。白露型駆逐艦の2番艦だ。呉の雪風と並ぶ佐世保の時雨と言われたり幸運艦と持て囃され、数々の武功を打ち出した史実を持つ。そんな史実とは裏腹に、彼女の性格は非常に大人しく一人称も“僕”とやや変わっている。ちなみに二段階の改装を終えていることもあって彼女の髪の毛には犬の耳のようなクセがある。

 

そんな彼女も提督のことが大好きだ。謙虚な性格なのもあってアプローチも控えめだが、それでも彼女はいつの日か思いが届くと信じて健気にアピールをする。

 

「よし。これで今日の分は終わりか。時間は……ヒトヨンサンマルだな」

「お疲れ様、提督。今日は早く終わったね」

「何処かの誰かさんが優秀な秘書官を選択したからだろう」

 

腰に提げた長刀を鞘から抜いて手入れを始めながら、さり気なく時雨のことを称賛する提督に彼女の彼に対する好感度が何時ものように上がっていく。

 

生憎なことに提督は盲目。時雨が照れている姿どころか彼女がどんな容姿をしているのかすら知らない。しかし盲目になったことで磨かれた聴覚は確かに時雨のバクバク跳ねる心臓を捉えている。そんなことは露知らず、時雨は大いに照れた。

 

そして同時に、時雨は艦娘よりも大事に扱われているように見える長刀に嫉妬する。

 

「……ねえ、提督は女の子より剣が好きなの? 執務が終わったら絶対に手入れをしてるよね」

「好きというか、もう体の一部だ。君も知っているだろう? 私の実家は……」

「刀鍛冶の職人、だっけ? でも正直、みんな焦ってるよ。提督は女の子より刀が好きなんじゃないか? ってね」

「ふむ、それも強ち間違いではないかもしれないな。まあ、本当の所は姿形の分からない者の事を必要以上に好いてはいけないと思っているだけなんだが……」

 

悲しげに肩を竦める提督。

 

彼は過去に、故郷を深海棲艦に突如襲われて家族と友人を喪った。彼もまた爆撃による風を受けて視力が完全に失われてしまっている。その代わりに超人的な聴覚と第六感を手に入れ、両親が制作した刀を扱うための一環として覚えた剣術を駆使して何とか深海棲艦を追い払って命からがら生き残った。生き残ってしまった。

 

戦災孤児として大本営の元帥に拾われた彼は目のハンデと戦いながらも勉強を積み重ね、二十歳になった年に提督に着任した。

 

着任から既に二年。多くの艦娘は最高練度に達し、攻略していない海域も殆どなく今では日本を防衛する上での最重要鎮守府を仕切る提督として海軍からは一目置かれている。

 

しかし悲しい事に、彼は艦娘の皆がどのような容姿をしているのか全く知らない。抽象的な言葉で教えられた情報を基にして脳内で勝手にこんな姿だろうという想像をしているだけだ。

 

そんな体たらくなため、彼は練度を限界突破する“ケッコンカッコカリ”システムを他の鎮守府とは異なって使用していない。ケッコンカッコカリというバカらしい名前を変えたら使用を検討すると大本営に公言しているぐらいである。

 

そのため練度の面で見たら如何しても横須賀や呉に見劣りしてしまう。それなのに何故、攻略した海域が非常に多いのか。それは提督本人が出撃していること他ならない。戦術という垣根を超えた提督の乱舞は見る者を必ず魅力すると言う。

 

「新海域やイベント海域の情報はなかったな」

「僕たちとしてはその方がありがたいんだけどね。提督には出撃してほしくない」

「止めても私が出撃するのは君も分かっているだろう? 私が戦いを止めるのは、私の家族や同郷の友人たちを皆殺しにした深海棲艦共を殺した後だ。それまでは決して止まらないさ」

 

手入れの終わった愛刀“時雨”を鞘に戻し、グッと握り締める提督。そんな提督を、時雨は悲しい気持ちで見つめる。

 

普段は絶対に見せない提督の黒い部分が浮き彫りになるのは特に信頼している時雨か曙の前のみである。二人しか知らない秘密なのだが、その秘密が非常に悲しい物なだけに時雨も曙も複雑な気持ちで過ごしている。

 

愛する人の秘め事はもう少し明るい物が良いという年頃の少女らしい考えだ。しかし彼女たちの事を責めるのもまた野暮と言えるだろう。

 

何処となく苦しい空気が蔓延し、耐えきれなくなった時雨が席を立とうとする。その瞬間であった。

 

バタンッ!!!!

 

鎮守府に赴任している憲兵が慌てた様子で扉を開けたのである。

 

「て、提督殿。緊急入電になります! 深海棲艦の大群が日本海沖に侵攻中。現在、近場の鎮守府が応戦してますが劣勢とのこと!」

「大群、か。おおよその数は?」

「百は下らないと思われます!」

 

その言葉を聞いた提督は刀を腰に提げて立ち上がった。帽子を目深に被り直し、厳かな声で命令を下す。

 

「応戦中の鎮守府には全艦娘の撤退を要求。奴らの狙いは恐らくこの大湊鎮守府だ。お望み通り迎え撃つぞ。鎮守府より20kmの地点で航空隊の攻撃を、鎮守府の備え付けの高角砲が届く距離まで引き寄せたら砲雷撃を開始しろ」

 

時雨にも合図を出して戦闘準備をするように促した提督は、一拍置いてグッと刀を握り締めた。

 

「砲雷撃戦には私も出る。敵の戦力の内容が分からないから何とも言えないが、少なくとも三時間あれば鎮守府近海まで辿り着くだろう。それも見越して航空隊発進の三十分前には出撃ドックに集合するように。航空隊発進時刻はヒトロクマルマルだ」

「はっ! 確かに伝えます!」

 

最後に「総力戦になると伝えておけ」と付け足した提督は、そのまま憲兵に背を向けて備え付けのクローゼットに手を掛ける。

 

クローゼットの中に入っていたのは、戦闘服と数発の手榴弾。そして時を刻むのを止めた懐中時計だった。

 

戦闘服を身につけ、帽子を外した提督は手にした懐中時計に額を当てて数分過ごすと、クローゼットの扉を閉めて部屋を出るのだった。




次回は戦闘回です。
以下提督の戦闘時のステータス(艦これ基準)です。艦これやってる人なら彼がとんでもないことが分かるはずです。ちなみに彼の名前が出ることは少ない……と思います。多分()

No._____
人間 八雲 聖 Lv150
( 日本刀時雨 )
( モーターボート )
( 懐中時計 )
( 手榴弾 )
耐久 2 火力 3
装甲 0 雷装 0
回避 100 対空 5
搭載 0 対潜 0
速力 高速 索敵 100
射程 極短  運 30
特殊 異常聴覚
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