盲目の提督と艦娘の物語   作:Hetzer愛好家

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気が付けばUAやお気に入りがそこそこ伸びてた……。
本当にありがとうございます。


第十一話

提督が真珠湾に上陸する少し前。

 

一足先に上陸していた艦娘たちは飛行場や燃料タンクなどを守っていた深海棲艦相手に大立回りを見せていた。

 

近海での戦闘で凄まじい数の深海棲艦を海底に沈めたのも手伝って真珠湾を守っていた者の数は予想よりも少なかったのもあるが、艦娘は瞬く間に深海棲艦を全滅か撤退に追い込んで施設を徹底的に破壊していたのである。

 

提督が真珠湾に上陸する頃には主要施設は殆どが消し炭になり、深海棲艦は提督の手によって辛うじて生きていた者も動きを止めたため艦娘たちは勝利を確信していた。

 

「……雨が強くなってきたね」

 

空を見上げて言葉を零す時雨。自分の名と同じ空模様に、彼女は提督の無事を確信する。

 

時雨の近くで戦っていた曙も空模様を見て提督の無事を確信した。空がこうして泣き顔を晒しているということは、提督は鬼神の如く敵を斬って無双している十分な証拠になる。

 

もっとも、最初からこの二人含めて艦娘たちは提督の帰還を心から信じている。その思いが確信に変わったので彼女たちは歓声を上げた。

 

「アイツが帰ってきたら何する?」

「もちろん、今まで無視されてきた感情を受け止めてもらうさ。それは君も同じでしょ?」

「ふんっ。放置していたアイツが悪いのよ」

 

ちなみに漸く艦娘たちの姿を見ることが出来た提督は夏美の遺言通り、艦娘が望むなら永遠に共に生きる決意を固めている。例え何股になろうとも全員を受け入れると決めているため、曙や時雨が息巻かなくても大丈夫だったりする。

 

艦娘たちのあまりの美しさによって戦闘前だというのに提督の心中は穏やかではなかったのだが、それはここでは割愛する。

 

「あ、ほら。あの影は提督じゃない?」

「あら、本当ね。クソ提督じゃないの。迎えに行きましょうか」

「それじゃあ僕は一番に抱き着こうかな。ここは譲れない」

「あ、ちょっ!?」

 

全速力で駆け出した時雨を慌てて曙が追い、さらにその後ろを他の艦娘も追いかける。

 

天を仰ぎ見ながら歩く提督に、時雨は迷うことなく犬のように飛びついた。驚く提督に構うことなく時雨は彼に「お帰りなさい」と満面の笑顔で伝える。

 

少し遅れて曙が提督の真正面に立ち、顔を分かりやすく赤くしながら「お疲れ様」と口にして恐る恐るながらも右腕に抱き着いた。

 

やがて提督は瞬く間に美少女濡れとなり、彼がこれまで一度も見せたことがない魅力的な、心からの笑みを見せる。

 

その笑顔に魅了される艦娘の多くがバタリと倒れる中、曙は提督の左目が何となく白く濁ってきているように感じて即座に疑問を口にした。

 

「クソ提督。目が濁ってるような気がするんだけど」

「……やっぱりそう見えるか?」

「少し、だけどね。見えにくいとかあるの?」

「そうだな。陸に上がってからどうも視界がぼやけている。それに心なしか、辺りが白く見えるよ」

 

その理由を何となく察している提督は特に気にしてないが、理由を知らない曙は一抹の不安を覚えた。また提督が盲目に戻ってしまうのではないかと思っているのである。

 

提督の胸に顔を埋めていた時雨も顔を上げて提督の瞳を覗き込み、確かに白く濁って見えるので彼女も心配だと分かるような表情になった。

 

「そんな顔をするな。原因は分かってるから問題ない」

「原因って?」

「実はな、さっき全ての深海棲艦を操っていると思われる機械に付いていた『深海棲艦の機能停止スイッチ』を押してからそれを破壊したんだよ。恐らくそれが原因だ。なんたってこの目は深海棲艦ヲ級の物なんだからな」

「……それじゃあ提督はまた盲目に戻っちゃうの?」

「いや、分からない。それは明石に診察してもらってからだな」

 

後方で支援していた明石に診てもらわないと何とも言えない旨を提督が伝えると、艦娘は一転して暗い気持ちになる。

 

それを見た提督は立ち上がると、努めて冷静に指示を出した。

 

「とりあえず撤収だ。今頃アメリカは大混乱に陥ってるから俺たちの存在を認知していないだろう。このままここに留まっていると厄介ごとになりそうだから早く家に帰ろう」

「……! 提督、一人称が……!」

「ん? ……ああ、もう他人行儀になる必要もないと思ってな。これが終わったら望む者全員と婚姻届けを出そうと思ってたのに、まだ他人行儀なのはおかしいだろ?」

 

悪戯っぽく笑って先を歩く提督。

 

彼がサラッと伝えた婚約に、艦娘は一瞬何を言われたのかをしっかりと吟味した。そして彼の発した言葉が間違いないと分かると、また空気は一転。

 

殺戮と破壊が起こった真珠湾にはおよそ相応しくない、喜びの声が地鳴りのようにどこまでも響き渡るのだった。

 

───────────────────

 

「えっと……これ、皆の前で伝えて大丈夫ですかね?」

「構わない。ていうか早く伝えてくれ」

「わ、分かりました」

 

荒れ狂う海を誰一人の落伍なく駆け抜けた真珠湾強襲艦隊は現在、鎮守府の会議室で明石と提督が前に立って何かを話そうとしている状況にあった。

 

会議室に集まっているのは所属している艦娘全員。前に立っているのが明石と提督の二人なことから、艦娘たちは自然と提督の目について話すのだろうと察して静かに待ち続けている。

 

「えっと、とりあえず提督の目なんだけど白内障みたいな状態になってるのよね」

 

覚悟したかのように明石が切り出した。明石の話が始まると、ガヤガヤしていた会議室がシンと静まり返る。

 

「白内障っていうのは目の中のレンズの役割をしている水晶体が白く濁ってくる病気なんだけど、提督の目は正にそんな状態なの。実際には白内障ではないんだけど、症状は完全に白内障のそれね。だから今の提督は目が見えてないの」

 

鎮守府に戻るまでの航海の間に提督の視力はどんどん失われていった。真珠湾に居た頃はぼやけ気味ながらも見えていた彼の左目だが、徐々に視力が以前に逆戻りするように利かなくなっっていった。

 

提督は現在、以前と同じように目が見えておらず白亜の世界だけが脳に行き届いている。

 

「ただ、そんなに悲観することもないぞ。確かに俺は目がまた見えなくなった。だが、深海棲艦は艦娘と似ていることを思い出してな。高速修復材を試しに目にぶっかけてみたら一時的にだが視力が戻ったんだ」

「クソ提督。それって……」

「普段は以前と同じく盲目だが、必要なら視力を取り戻せるってことだな。高速修復材で治しても数時間が経過すればまた戻るけどな」

 

つまり、提督の視力は中途半端な状態だが治すことも可能ということである。理論上は高速修復材を服用し続ければまた失明することはないということだ。

 

だが、世の中そう上手くいくものではない。

 

明石が盛り上がっているところ申し訳ないといった様子で再び口を開いた。

 

「でも、高速修復材を使うと激痛が走るんですよ。そう何度も服用できないですよ? それでもそんな簡単に……」

「知らん。この娘たちのためなら俺は痛みを受けようが四肢が捥げようが何でもするぞ」

「提督……」

 

バッサリである。かつて艦娘が覚悟を決めたように、提督も覚悟を決めたのだ。高速修復材を使用する時の痛みは群発頭痛と尿路結石の凄惨な痛みが同時にやって来るという割かしとんでもない物なのだが、それでも艦娘の笑顔のためなら何でもする。それが八雲聖という男である。

 

これまで何度も提督は壮絶な決意を固めてきているが、今回のは格別に重たい決意だ。視力を取り戻すためには意識こそ失わないがそのせいで凄惨な痛みを百パーセント感じなければならないため艦娘としては尻込みするところである。

 

だが、提督はそれでも「遠慮するな」と笑う。美しすぎる提督の自己犠牲の精神は、艦娘の心を打つには十分すぎた。

 

「まあ、目のことに関しては追々だな。まだ分からない事も多いからもう少し調べる必要がある。それよりも、深海棲艦が絶滅したことで変わるであろうこれからの世界について話しておきたい」

 

かつて提督が危惧した通り、深海棲艦が絶滅したことで各国は艦娘という最高の“兵器”を使って領土を拡大しようと企んでいる。

 

それを先に予言していた提督は既に手を打っている。そして領土拡大戦争が終結した後に何が起こるかをも予見しており、それに備えても対策を考えている。

 

「まず、深海棲艦に支配されていたアメリカだがあの国は暫くの間は大人しいだろう。そもそも以前まで持っていた全世界の覇権という物を失ったからな。今、特に警戒すべき国はロシアと中国。そして韓国だ」

「韓国ですって? あの小国の何処を警戒するのよ、クソ提督」

「韓国は中国の傀儡なんだよ。もっとも、その中国もロシアの傀儡人形だけどな。そう考えると、日本に近い韓国を通じてロシアや中国が攻撃を仕掛けてくる可能性が高い」

 

中国や韓国は自国製の艦娘を保持していない。艦娘を保持していない国は基本的に自衛が不可能なため、大国の傀儡になるしかないのである。

 

現在、艦娘を保持している国は日本、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアだ。それ以外の国は殆どがロシアの傀儡国と見て良い。

 

中国や韓国の通常兵器も使えるとなれば、ロシアは相当な軍事力を保有する国だ。艦娘の数が少ないため、替えがすぐに出てこないのが弱点だが……。

 

「北方領土に近いこの大湊にもロシア軍勢は押し寄せてくるだろうな」

「それじゃあどうするの? 僕たちは艦娘同士で戦うってこと?」

「いや、そんな事態は俺が許さない。同士討ちを容認するほど俺もバカじゃないさ」

「じゃあ……」

「この大湊を渡すつもりも毛頭ない。だから、仮に攻めてきたら艦娘は艤装を破壊して捕虜にする。そして通常兵器類は破壊だ」

 

サラッととんでもない事を言い出す始末だ。しかし、提督の性格を鑑みれば彼の考えが出るのは当然の結果である。

 

さらに提督は、侵攻してきたロシア兵士は躊躇なく殺害して構わないとまで付け足した。折角だから軍勢を全滅させた後に北方領土も取り返してしまおうとも言った。

 

「元々あの島々は日本の物だ。アイツらが不法占拠する理由はない。それに、この領土拡大戦争が終わったら次にやって来るのは艦娘の総解体だ。そのうち日本その物も敵になるだろうし、今のうちに近くの領土を増やすに越したことはない」

「クソ提督がそう言うならアタシは従うけど……本当に良いの? 日本その物と敵対するって……」

「構わん。俺が守るのは君たち。すなわち家族だ。それを奪おうとするなら故郷すら捨てる覚悟だってあるさ」

 

もう提督は迷わない。手に入れたい物は手に入れるために全力を尽くす。守るべき者は全力で守る。その際に衝突が発生しようとも止まることはない。

 

艦娘もそれは同じだ。愛する人のためなら何でもするだろう。

 

「……僕は、いや僕たちは提督のために動くよ。もう絶対、提督が不自由しないようにね」

「心強いな、時雨。君たちにこんなにも愛されて俺は幸せ者だ」

 

見えない目で辺りを見渡す提督。その目には白亜しか映っていないが、それでも彼には確かに艦娘たちの心強い笑顔が脳に届いた。

 

提督もまた、心強いと感じさせる笑みを返す。そしてパシッと掌に拳を打ち付け、声高らかに宣言した。

 

「守るぞ。この家を。家族を!」

 

───────────────────

 

目に高速修復材の入った目薬を打ち、一通り悶絶してから視力を戻した提督は夜空を見上げていた。

 

出撃前のあの日と同じく、彼は変わらない空を仰ぎ見る。今夜は月が出ていないからか、何時もより多くの星が見える。彼はそんな気がした。

 

煌めく流れ星。そして瞬く星々。冬の夜空は圧巻の星空だ。都会なら中々見えない天の川もここではよく映える。

 

何時の日か、同じ場所に立って空を見上げたときは何も見えなかったが、今はこうして夜空を堪能できる幸せに提督は感謝する。

 

あの日は見れなかった夕焼けを、願わくば自分も見てみたいと願いながら提督は星を眺める。

 

そして今は、心がしっかりと留まっている。提督は自分に近付く二人の気配に気がついた。

 

「曙。時雨。見ろ、空が綺麗だぞ」

「あら、今回は気が付いたのね」

「本当だ。冬の夜空はやっぱり綺麗だけど、提督と一緒だからかもっと綺麗に見えるよ」

 

夏美が死んでしまった日に集まった時と同じ顔触れだ。ただしあの日とは違って三人は悲壮な面持ちではない。晴々とした、それこそ今宵の夜空のように澄んだ表情を浮かべている。

 

「あの時と同じメンバーだね」

「だな。あの日も空が綺麗だったな」

 

オリオン座を指でなぞる時雨に提督は微笑みかける。それに嫉妬したのか、曙は提督の右腕に抱き着いた。どうやら彼女は提督の右腕ポジションが気に入ったらしい。

 

いじらしい曙の頭を優しい手つきで撫で回す提督。全国の提督はトライしては脛や金的を蹴り飛ばされる中、この八雲聖だけは曙の頭を触っても特に何もされない。それどころか止めようとする「もっと」という目線まで送ってくる。

 

「なにこの可愛い生物」というのが提督の意見だ。

 

無論、その意見は時雨に対しても変わらない。どこか儚い雰囲気な時雨だが、提督の前では犬のようにじゃれてくる。その姿は非常に愛くるしく、あの提督をして「可愛い」と初見で呟いたぐらいだ。

 

他の艦娘に対しても大方似たような感情を持っている提督だが、それでもこの二人に対して向ける感情は特別なものがある。

 

「なあ、二人とも。君たちはこれからの永い人生、本当に俺の傍に付くつもりか?」

「何を今さら言ってるのよ」

「だね。僕たちは提督が生きる限り一緒だよ。急にどうしたのさ?」

「いや、ちょっと確認したかっただけだ。君たちの気持ちが本当なのかをね」

 

ポケットに手を突っ込みながらそんなことを言う提督に、二人は顔を見合わせて「何だろう」という表情を同時に浮かべる。

 

提督がポケットから手を出すと、そこには二つの黒い小箱が現れた。

 

両手に持ち、片膝を付いた提督は器用にも二つの小箱を同時に開ける。

 

小箱に入っていたのは……。

 

「これって……まさかケッコンカッコカリの指輪?」

「ウソ……本当に?」

「いや、ケッコンカッコカリの指輪ではないな。こいつは……」

 

──結婚指輪だよ

 

カッコカリではない指輪である。軍が支給する仮初の物ではない。提督個人が用意した、本物の絆の証だ。

 

「カッコカリの指輪は所属している艦娘全員に渡すつもりだ。だが、君たち二人には何か別の物をプレゼントしたかったんだ。俺の心を繋ぎ止めてくれたくれた、君たち二人にね」

「それって……アンタ、まさかっ」

「そのまさか、だよ曙。本来なら一人を選ぶべきだろう。だが、俺は欲張りなんだ。大切な人は全員傍に置きたいんだよ。だから……」

 

苦笑を浮かべていた提督の表情が引き締まる。

 

「曙」

「ひゃ、ひゃい!」

「時雨」

「……はい」

「俺と……結婚してくれ。この憎らしいぐらいに永い命が尽き果てるその日まで。そして死んでから行くであろうあの世まで。あの世を過ぎて更に進むであろう来世でも。ずっと俺と共に道を歩んでくれ」

 

提督の声は夜空に吸い込まれる。その声は夏美に届いたのだろうか。それは誰も知らない。

 

だが、誰も知らなくてもきっと彼と彼女のことを知る人なら届いたと言うだろう。

 

その証拠に心地よい風が一つ吹き、曙と時雨の背中を一歩押したのだから。

 

 

曙はそっぽを向きながら、しかし涙を零しながら自分の左手を差し出した。

 

時雨は提督の左手を包み込むように握った。

 

二人の回答が異なるという未来はありえない。提督のために命をも燃やし尽くすと決意した二人の回答が別々な確率は0%だ。

 

「ありえない、から。二人同時になんて。でもアンタらしい、かな。そのプロポーズ、アタシは受けるわよ」

「提督。僕は……ずっと傍に居たい。曙と、提督と、そして僕。三人ならきっと、どこまでも行ける」

 

二人の言葉に満足したのか、提督は大きく首を縦に振りながら曙と時雨の左薬指に指輪を通した。

 

指輪は星々が優しく照らす。曙と時雨が流した銀色の雫は、流れ星が落ちるように地面に吸い込まれていった。

 

 

提督は二人の事を優しく、そして固く抱きしめる。

 

もう二度と、この手から離れないように。固く抱き締めた。

 

 

そんな三人を祝福するように、空を流星が埋め尽くした。

 

天文学者が予見していなかった流星嵐は、きっと提督がかつて失った大切な人たちからのプレゼントだったのだろう。

 

両手一杯に愛する人を抱き締めながら、提督は夜空を駆ける星々に感謝の言葉を心の中で発するのだった。

 

──結婚カッコガチ

  艦娘たちと特別な絆で結ばれました

 




後数話、早ければこの次の回で完結します。今後必ず起こる露助との戦いや日本での内乱を描くことは出来なくもないですが、そうするとグダグダと何時までもまとまらない可能性が高いのです。深海棲艦よりも弱い人類との戦いとなれば呆気なさ過ぎて正直描く気にもならない……。
それも踏まえての今回です。最悪今回で伏線投げっぱなしだけど終わらせられるような描き方をしています。
もう少し考えますが、一応次回辺りで完結する物と思っていただけると幸いです。
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