盲目の提督と艦娘の物語   作:Hetzer愛好家

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今後の構成が全くと言っていいほど思い浮かばなかったので予告通り今回で完結とさせていただきます。前半は地の分多め。後半からは会話文も増えます。纏めきれたかは正直不安ですが、大きな伏線は一通り回収したつもりです。

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最終話

『ありえないっ。こんな、バカなこと!』

『隊長! もうダメです! 止められません! “鬼神”が突っ込んで来ます!』

『バカなっ! 戦闘開始からまだ一時間も経過してないんだぞ! 先に突撃した艦娘共はどうなってるんだ!』

『そ、それが既に拿捕されてる模様! 残すは我らだけです!』

『そんなことが……!』

『た、隊長、あれです! もうすぐそこです!』

『何者なんだ、オオミナトの提督はっ! あれじゃあまるでバケ――』

『た、隊長おおおお!!!』

 

――提督の予想通り、北方領土から日本へ攻め込んだロシア軍は侵攻開始から僅か数時間で完全に沈黙した。

 

出撃したロシア産の艦娘は余すことなく大湊鎮守府所属の艦娘の手によって拿捕され、通常兵器を持って進軍した総勢三万の兵士はたった一人で突撃した提督によって皆殺しにされた。

 

戦闘が発生した網走市にちなんで、この歴史的快勝は“網走の電撃戦”と呼ばれた。

 

投入出来る艦娘全てを拿捕されたロシアは瞬く間に衰退し、北方領土からも手を引いて気がつけば中国によって本土の大部分を奪われていた。

 

逆に北方領土を取り戻した日本はオホーツク海からフィリピン海までの非常に広い範囲の制海権を完全に掌握した大国と変わり果てた。

 

最終的には八雲聖の計らいによって早期に同盟を結んだイギリスと、かつて同盟を結んでいたドイツ。そして日本の三国が実質的に世界を支配するという事態にまで発展した。

 

しかし、その天下も長くは続かなかった。

 

今度は戦いの根源である“艦娘”を一定数残した上で後は解体しろという世論が爆発的に広まり、それぞれの国内で内乱が次々と勃発したのである。

 

その際に多くの内戦が発生したのだが、皆までは語らない。しかし、それによってまた多くの優秀な提督と罪のない一般人があの世へと旅立ち、世界は混沌とした。

 

日本も例外ではなく、横須賀や舞鶴、呉といった主要鎮守府が日本国政府に対して徹底抗戦を行ったことによって事態が悪化。鎮守府に所属する憲兵や、艦娘に命を助けられた国民までも巻き込んだ大きな内戦へと発展した。

 

日本国内は太平洋戦争終結直後と同じようにそこかしこが荒廃し、主要都市はホームレスで溢れかえり極道といった犯罪者がのさばる世の中となった。

 

無論、大湊鎮守府にも艦娘の解体命令が届いた。だが、大湊鎮守府はこれに応じることなく無言を貫き通した。

 

業を煮やした日本国政府は国軍を作り、解体されずに残された艦娘を同行させて大湊鎮守府に攻めようとした。

 

しかし、提督がこの事態を早期に予見していたため青森県の県知事と北海道の道知事の了承を得て県境を封鎖していた。しかも封鎖のために置かれた壁には機関砲やマシンガンが山ほど接地されており、国軍は為す術もなく倒されていったのである。

 

疲弊した日本国政府に、提督はトドメとばかりに声明を発表した。

 

「青森県と北海道をこれからは日本国とは別の、一つの“国”として発展させていく。介入するなら容赦はしない」

 

当然、日本国政府内では反発の声が大きくすぐさま鎮圧に出ようとする者まで現れた。

 

しかし、これを提督の義父である元帥が止めさせた。息子同然に可愛がった提督なら、きっと日本国から別離しても問題なくやっていけるだろうと信じているが故の行動であった。

 

それに、元帥は提督と彼の元に集まる艦娘の強さを知っている。提督は人間を軽く超越した剣術を苦も無く操り、艦娘は練度という数値を遥かに超えた能力を発揮する。真正面から対立すれば滅ぶのは日本だと元帥は反発する政府関係者に解いて回った。

 

渋々と。本当に渋々とだが日本国政府の総理大臣は青森県と北海道の二つを“八雲国(やぐものくに)”として認める発表をした。

 

八雲国は日本国とは断交し、アメリカやイギリス、そしてドイツとの貿易によってかつての“黄金の国ジパング”と名乗れるかのような発展を見せた。

 

非常に小さい国である八雲国であるが、日本とロシア以外の世界各国からは深海棲艦を絶滅させ、全ての国の平和の懸け橋となるために独立した国として認識された。

 

八雲聖という男の名前は、この先数百年数千年と名を語り継がれていくことだろう。

 

“救世の英雄”として。

 

───────────────────

 

時は流れる。

 

人類の心が立ち止まっている間も、時だけは無情にも動いている。

 

時という物は残酷で、必ず“別れ”と“死”を運んでくる。

 

死というのはどんな生物にも存在する概念だ。例え八雲聖という深海棲艦と人間の中間に位置する特殊な存在であったとしてもその概念だけは捨てられない。

 

老いこそしなかったが、提督の命の灯火は確かに消えかけていた。

 

「曙。時雨」

「何よ。アタシたちならずっとここにいるわ」

「死ぬまでずっと一緒って約束したでしょ?」

「はは、それもそうだな」

 

何千年前、いや何万年前であったか。提督が曙と時雨に結婚指輪を渡した鎮守府の中庭に置いてあるベンチに三人は座っていた。

 

この永い時が流れる間に、新しい艦娘が次々と誕生していった。絶倫とも言える提督の精力が功を奏し、大湊鎮守府に所属する艦娘は全員一人ずつ娘を産んだ。成長した新たな艦娘は母と代わって全世界の海を守っている。

 

大湊鎮守府で最初に生み出された艦娘たちは“原発の艦娘”として崇め称えられているが、別に死んではおらず全員が提督と共に生きてきた。長い年月を生きても艦娘の姿形は建造された時から変わっておらず、これもまた提督とお揃いだ。

 

 

それも、いよいよ今日で終わる。

 

 

「最後の景色がこの夕焼けか。悪くないな」

「こうして見ていると、アンタが本当に死ぬのか疑いたくなるわね」

「少なくとも見た目は老いてないし、声にも張りがあるからね。僕も信じられないよ」

「人間が死ぬ前ってな。どうも一時的にだが悪かった体調も中途半端にだが良くなるらしいんだ。俺にも同じ現象が起きているんだろうな」

 

最後の高速修復材を目に打ち、すっかり慣れた痛みに顔を歪めることもなく提督はただ静かに空を見つめる。

 

夕焼けに瞬く一番星。そして二番星。夜も近いこの時間に、提督はすっかり変わってしまった星空を思い浮かべては微笑を作る。

 

腰に提げていた愛刀を抜き放ち、夕焼け空に提督は翳す。

 

キラリと刃が夕焼けの寂しい光を受け取って輝く。

 

「漸く夏美と会えるな」

「そうねぇ。アタシたちも逝くけど、生前の姿で会いたいわね。でも会えるのかしら。ねえ。時雨はどう思っている?」

「会えるよ。絶対にね」

「時雨が言うなら間違いないだろうなぁ」

 

残り少ない提督の命を夕焼けが照らした。

 

何万年とかかったが、漸く頻繁には泣き顔を晒さなくなった大空に提督は「成長したな。俺もお前も」と零して、愛刀を鞘に納めながら目線を下げた。

 

両側に腰掛ける二人を抱き寄せ、提督はゆっくりと美しい曙と時雨の姿を目に焼き付けて切り出した。

 

「ありがとうな。こんなにも永い時を生きられたのは二人の御蔭だ」

「クソ提督……」

「曙。君のその呼び方、俺は好きだったぞ。なんかこう、特別な感じがあってな」

「そんなこと言うのもアンタぐらいよ……もう」

「時雨。君は乾いていた俺の心を優しく濡らしてくれたな。誰よりも優しくて思慮深い君の心に俺は何度救われたことか」

「それは提督もだよ。何度も僕の心を救ってくれた。世界で一番優しいあなたが僕は大好きだよ」

 

提督の瞼がゆっくりと閉じていく。

 

満足そうに微笑む提督に、曙と時雨もまた笑顔を向けた。

 

「永かった。けど、楽しかったし幸せだった。昔は辛い思い出が多かったが、今こうして思い返せば幸せな思い出が殆どだ」

 

カランと刀が地面に落ちた。

 

提督は力の入らなくなった体を受け入れる。スルスルと脱力していく提督の手を二人は取った。

 

「最後には何か言葉を残すのが多いらしいが、生憎なことに思いつかない。だから、何時もと変わらない言葉で一端旅立たせてくれないかな?」

「だと思ったわよ。それぐらい予想済みだから、好きに言いなさい」

「旅立ちの日に大層な言葉は求めてないよ。大層な言葉は人生で数回口にできれば十分さ」

 

笑みを深くした提督は瞼を閉じながら、まるで明日があるかのような口振りで最期の言葉を口にした。

 

 

「おやすみ。またあの世で」

 

 

……翌日、大湊鎮守府はその役目を完全に終えた。

 

鎮守府内には百人近い艦娘が眠るように機能停止した姿が確認された。

 

そして中庭の芝生には、朝日に照らされながら穏やかな顔で目を閉じる提督と、彼の腕を枕にするようにしてやはり穏やかな表情を浮かべて眠るように息を引き取った曙と時雨が見つかった。

 

 

英雄たちの死に全世界の人間は悲しみ嘆いた。しかし、すぐに上を向いて天に昇ったであろう提督たちの魂を見送る。

 

役目を終えた英雄の魂は天に還る。

 

天に還った英雄の魂は、一つの魂と再会した。

 

優しい瞳を持ち、全てを包み込むかのような母性に溢れる笑みを浮かべた魂は英雄の魂にたった一言告げた。

 

「おかえりなさい」

 

英雄の魂もまた、たった一言だけ返して迎えに来た魂と混じり合った。

 

「ただいま」

 

と。

 




これで完結です。終わり方に不満がある方には申し訳ないですが、これで終わりです。悲壮感を持った終わり方だけは避けようと頑張りました。
さて、盲目の提督という謳い文句でスタートしたこの小説ですが、終盤には完全な盲目ではなくなりタイトル詐欺になってしまうと思って高速修復材のくだりを入れたという裏話があったりします。
裏話を上げればキリがないのでここまでにしておきますが、この作品は元々は落ちていたモチベを回復させるために執筆を開始した物です。それがいつの間にかこっちがメインなのでは? と言わんばかりのペースで投稿してました。いやあ人間の心変わりって恐ろしい……。

最後になりますが、ここまで読んでくださった方には感謝感激でいっぱいです。また、このような駄作にも高評価をしてくださる読者様までいらっしゃり毎日楽しく執筆をすることが出来ました。本当にありがとうございます。
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