盲目の提督と艦娘の物語   作:Hetzer愛好家

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よーやくテストが終わりました()
化学と家庭科は怪しいですが後は多分きっとmaybeで大丈夫です。皆さんは大丈夫でしたか?


第三話

「マッテ、ハナシヲキイテ!」

「何故聞く必要がある? 貴様らは私の敵。そして家族と友人の仇。対話をする必要性など微塵も感じないが?」

「アヤマリタイノ! アノヒノコト、アナタニシテシマッタコトスベテヲアヤマリタイノヨ!」

 

提督の歩みは止まらない。今更謝罪など、彼は受け付けていない。欲しいのは仇の死。それだけである。

 

彼の心中に宿される感情はシンプルなモノだ。

 

「殺せ」

 

ただそれだけである。

 

「謝罪したいと思うなら、何故あの時俺たちの事を襲った! 後ろめたいという気持ちがありながら、何故罪のない人間を襲う!」

「ワタシタチハメイジラレタダケナノ! ムリヤリメイレイサレテ、アノムラヲオソワサレテ、ソノセキニンヲスベテナスリツケラレタ!」

 

必死に声を張り上げるのは戦艦棲姫という深海棲艦だ。彼女もまた、提督の故郷を襲った深海棲艦の一人である。しかしその事を今では深く悔いており、ずっと提督の事を探していた。

 

……探し当てた結果、いきなり殺意をぶつけられて対話もほぼ不可能とかいう絶望的な状況に陥った戦艦棲姫は泣いても文句は言われないだろう。

 

「ワタシタチハヒトリノニンゲンノメイレイニハサカラエナイ! アノトキハトクニヒドイアンジヲカケラレテテイコウモデキナカッタ!」

「……それで? 今はこうして支配やら暗示やらから逃れられたからノコノコと現れて謝罪なのか? 貴様、ふざけるにも程があるぞ」

「チガウ、フザケテナンカナイ! オネガイ、ハナシヲスコシデモイイカラキイテ!」

「貴様らの話が本当なら、貴様らに俺の視力や家族を奪った罪の重さはある程度減るだろう。それは私でも理解できる。だが、許せるか如何かと聞かれるなら答えはNOだ。家族や友人の仇を許せるほど私は甘くない」

 

どんな事情があれど、「殺した」「奪った」という事実は変わりようがない。それ一つに執着してきた提督なだけに、無理やりやらされたと聞かされても表情一つ、眉一つ動かさない。

 

一メートル以内の射程圏内に入った提督に対し、漸く戦艦棲姫はやむを得ないとばかりに銃口を向けた。それに呼応する様に取り巻きの深海棲艦も銃口を向ける。聞いてくれないならば、少しばかり痛め付けて大人しくさせてから話を聞いてもらう心づもりである。

 

「ヤムヲエナイ、ワネ……!」

「はっ、漸くその気になったか?」

「ホントウナラキズツケタイウナカッタケドネ……アナタガワカラズヤナノガワルイノヨ」

 

獰猛な笑みを浮かべ、漸く仇を取れると歓喜する提督は嬉々として真っ直ぐ向かっていった。刀の切っ先が海中に没し、細い線を描きながら迫る提督の姿に幾分か気圧される深海棲艦たちであったが、すぐにその恐怖を振り払うと暴力装置のトリガーを引いた。

 

鳴り響く轟音と飛沫を上げる波間。それを合図に提督は一直線に海面を駆け出すのだった。

 

───────────────────

 

「早く! 間に合わなくなっても知らないわよ!」

「待つのデース、ボーノ! そんなに慌てて敵中に突っ込むのはBut moveネ!」

「そんなこと言ってられないわよ! このままだとクソ提督、死ぬわよ!」

「ダ、Dieデスカ? 提督に限ってそれはないデース!」

「楽観視している暇はないのよ! 楽観視して痛い目を見るのはもう沢山! 悪いけど先行くから!」

 

敵中の合間を縫ってあっという間に立ち去った曙を呆然と見送る金剛。そしてその脇をトップスピードから少し落とした速度で航行する時雨が通り過ぎた。

 

「ゴメンね。僕も行くからここは任せるよ」

 

主砲でイ級を薙ぎ倒しながら金剛に告げる時雨。主砲は鈍器ではない。多分、きっとそう。

 

立ち塞がる敵のみを押し退けて前進する曙を時雨が援護することでそれほど時間が経つことなく提督が居ると思われる最前線に辿り着いた二人は、驚きの光景を目の当たりにした。

 

一瞬の出来事だったのだろう。装甲の薄い駆逐艦と軽巡洋艦は何があったか分からないといった表情の首をプカプカと浮かべては沈んで行く。しかし、驚くべき場所はそこではない。

 

「クッハハハハ!」

「ウソッ!? スガタヲトラエキレナイ!?」

「……ヲッ」

「チッ、邪魔だけは一丁前だな!」

 

戦艦棲姫含め、どの深海棲艦も提督の動きを視認することすらできない状況だというのに。ただ一体、目が不自由なはずのヲ級だけはほぼ正確な位置に爆撃を落としている。間違いなく提督は本気で殺しに行っているはずなのに、その提督の動きを読んでいるかのように攻撃を仕掛けるヲ級に二人は驚愕した。

 

もっとも、提督も提督でヲ級の予測を一歩上回る機動を取って動き回るため攻撃の手を緩めないまま回避を続けている。

 

ちなみに曙と時雨は辛うじて提督の動きが確認できる程度でしか認識できない。それも完璧ではなく、所々で置いていかれるため提督と一対一で戦えば勝ち目はない。なんなら横須賀のケッコンカッコカリを済ませて限界練度まで達した艦娘数人を相手しても余裕を持って対処できるぐらいだ。提督に勝とうなんて愚の骨頂というのが定説なほどである。

 

「どうなってるのよ……!」

「提督の動きを見切れるなんて只者じゃないよ。とてもじゃないけど僕たちじゃ敵わない」

「なら、私たちに出来るのは精々クソ提督に邪魔が入らないように露払いをするぐらいね……歯痒いわ」

「だけど、あの場に飛び込んだらバーサーカーのような提督に殺されるだけだよ。頃合いを見て止めないとだけど、今はまだその時じゃない」

「そうね……仕方ない、か」

 

そんな話をしている間も提督は大型艦を翻弄する。時折急降下してきた艦載機に鞘を投げつけては狙いをずらすという神業を繰り返しながら遂には装甲の厚い重巡リ級や戦艦タ級エリートを連続かつ途切れ目のない剣打で難なく斬り伏せ、残すは戦艦棲姫と眼帯ヲ級の二体だけとなった。

 

敵中を突破するまでそれなりの数の敵を殺したことと、それ以前に提督が先制攻撃の混乱に乗じて半数近くの深海棲艦を沈めたこともあって残りはこの二体だけだ。

 

「何なんだろうなァ! 貴様らを殺していくたびにタガが外れていく様な、この爽快な気持ちはよォ!」

「ホントニワカラズヤ! スコシハミミヲカタムケテモイイジャナイ!」

「時雨、あれ不味くない?」

「……不味いよ。でも、手を出せない」

「手のかかるクソねほんと」

 

ポツリ、ポツリと雨が降り始める。提督の持つ長刀は、ヒトを斬ると雨が降る。それ故に遥か昔は生け贄を差し出すことで雨を降らせ、一つの農村を救ったという伝承がある。

 

その伝承が本当なのかはさておき、実際に提督が人型のナニカを斬れば必ず雨が降る。これだけは間違いない事実だ。

 

雨脚は少しずつ強くなり、本来なら空母が艦載機を出すには不釣り合いなほどの悪天候にまで空模様が変わる。

 

“時雨”という名の付くとおり、細くはない雨粒が天から降り注ぐ。気温は下がり、半袖では思わず身震いをするほどだ。時折雨脚がピタリと止むも、またすぐに降り出す。

 

艦隊戦において、雨は視界が悪くなるマイナス要素だ。しかし、提督に関しては別である。雨とは彼にとって最高の視界であり天候だ。雨が降る時、提督の聴覚と第六感、そして剣術は最高潮の能力を発揮するのである。

 

「もらったァ!」

「シマッ――」

「まずは友の仇、取らせてもらうぞ!」

 

──八雲流奥義 十刀一閃

 

古武術の奥義とされる“縮地”を使って滑るように移動し、遂に戦艦棲姫の反射神経を遥かに超えた剣術が彼女を襲った。

 

0.1秒という時の切れ目に放たれた必殺の十発は、半分で戦艦棲姫の固いガードを崩し、更に三発で両腕と主砲を切り落とし、最後の二発で首筋と心臓に一太刀ずつ浴びせた。

 

海面に崩れ落ちようとする戦艦棲姫を提督がわざわざ見逃すはずがなく、彼女の動力部をすれ違いざまに破壊して刀を鞘に収めた。

 

パチリと鞘に収まった刀の鍔が音を立てると同時に、戦艦棲姫は海面に崩れ落ちる。

 

「ダメ、ナノネ……」

「ヲッ……!」

「イイノヨ……イイノ。ソノカワリ、アナタノオモイヲ……アノヒト、ニ……」

「ヲーッ!!」

 

微笑みを浮かべて駆け寄ったヲ級の髪を撫で、そのままブクブクと海中に沈んでいく戦艦棲姫。無理やりヲ級は引き上げようとするが、如何せん彼女は軽空母だ。戦艦棲姫の事を持ち上げることは叶わない。

 

遂にはその姿が完全に海中に没し、ヲ級は海面に膝を下ろしてすすり泣く。

 

その姿に大多数の艦娘は同情にも似た感情を表に出しかける。だが、その感情は提督の能面のような顔によって消し飛んだ。

 

余り無表情。

 

余りに冷徹。

 

人間らしさをまるで感じさせなかった。

 

「……貴様にも。いや、深海棲艦にも泣くことは出来るのだな」

「ヲ……ウッ……」

「深海棲艦にも感情という物が存在すると見た。それなら尚更、貴様らは私の美しい故郷を破壊し尽くした? そして、何故無関係の人間を大勢殺した?」

 

ミシリ、ミシリと海面を踏みしめて提督がヲ級に近づく。対してヲ級は反応を示さず、下を俯いて何かをボソボソと呟いている。

 

提督の異常聴覚がそれを捉えていない訳がないが、逆上し復讐に燃える彼には一言一句とて届くことはない。

 

遂に射程圏内の1mまで接近し、互いに向き合う二人。提督が剣を抜けばヲ級は斬られるぐらいまで彼が近づくと、ヲ級は涙に濡れた顔を上げる。

 

「……分カラズヤ」

「なに?」

「コノ、分カラズヤァ!!」

 

鈴の鳴るような透き通った声で叫び、呆気に取られた提督に抱きつくヲ級。

 

突如のことに固まった提督に、ヲ級は叩き付けるように言葉を放つ。

 

「貴方ハイツモソウ! 頭ニ血ガ上ッタラスグニ目ノ前ガ見エナクナッテ!」

「ま、待て。君が何故、そんなことを?」

「忘レルハズガナイ! 私ハ、貴方ノ……ウグッ!?」

「……まさか、君は」

「ウグァ!? ガアッ! ……マダ、ダメ! 伝エラレテ、ナイ! ダカラマダ、ウア!?」

 

何かを必死に伝えようとする度に苦しそうに呻くヲ級に対して提督は何かに気がついたのか、信じられない物を見た表情だ。尚それは艦娘も同じなのだが、きっとベクトルが違うだろう。

 

「グウアアア! ガアッ! ダメ、ナノニッ!」

「君は、もしかして……」

「ウグゥアアアアアアアア! コロス! 人間コロス! コロスコロスコロス!」

「ダメ、なのかっ」

 

ヲ級を突き飛ばし、提督は剣を抜く。頭を抱えて訳の分からぬことを一通りわめき散らしたヲ級は最後は表情を元の無表情に戻し、提督のことを氷のような瞳で射抜いた。

 

そして物も言わず、手にした杖を振り上げて提督に襲いかかる。風切り音で位置を把握するも、かなりの速度で突進したヲ級によって後方へ軽く飛ばされる。

 

提督はヲ級を倒すべきか悩んでいた。ついさっきまでは殺すこと一辺倒でしか考えていなかったが、その後の短いやり取りで彼は何かを悟ったのである。その事実が真であるなら。そう考えると悩んで攻撃することが出来ない。

 

防御に徹せる提督を良いことにヲ級は杖を剣のように振り回して迫り、それを持ち前の反応速度と長年の勘だけで受け流し続ける提督はこの状況を打破する方法を思案しようとする。

 

(アレは間違いなくアイツだ)

(俺はどうしたら良い?)

(殺すべきなのは百も承知している)

(提督としても当たり前の事だ)

(だが、アイツは別だ)

(アレは……)

 

「ヤメ、テ! アバレナイデッ……ニクイ! 人間ニクイ! コロシタイ!」

「……本当に、そうなのか。君は、本当に?」

「ヒジリ、くん。私、ハ……!」

「……最近の研究で、深海棲艦は沈んだ艦娘に負の感情をタップリ練り込んだ“深海因子”を注入し、その因子に適合する特殊艤装を身につけることで姿形が変わって誕生すると判明している。そして深海因子は、普通の人間にも有効であると証明されている。もっとも、人間に注入すると力が暴発して自壊するのが殆どらしいが」

 

再び苦しみ始めたヲ級を光の宿らない目で一瞥してから提督は鞘に刀を収め、淡々と語り出した。

 

突然始まった提督の話に、これまでただ傍観していた艦娘たちの顔が引き攣った。今さっきまで沈めた深海棲艦は同族であり、しかもその中にはもしかしたら守るべき人間も入ってるかもしれない。そんなことを知って平常で居られる年頃の女の子は誰一人として存在しない。

 

「て、提督。それって……」

「……少し話は変わるが、私の生まれ故郷は田舎だ。隣人同士で幼い頃から許嫁を作ることもある。それは私も例外ではない」

「……まさかクソ提督にも許嫁が?」

「ああ。とても可憐な子だったが、同時に私と同等レベルの剣術を扱えた。聡明かつ力も心も強い、完璧とも言えた女性だ」

 

戦場にはおよそ相応しくない提督の惚気話である。それ相応に艦娘たちも「ええ~!?」と口々に叫んだ。ついさっきまでの殺伐とした空気は何処かへ消し飛んでしまった。

 

特に提督へ深い愛情を持つ曙と時雨、そして金剛たち提督VERY LOVE勢の反応は凄まじい。「HEY提督! ちゃんと説明するデース!」とか「頭にきました」とやいのやいの大騒ぎだ。

 

しかし、すぐに曙と時雨は提督の様子がおかしいことに気がついた。

 

「……だがあの子は私が十五の時、突如行方不明になった。それ以来、私は彼女の姿を見ていない。いや、見ることが出来ない。何故なら、その翌日に深海棲艦たちが故郷を踏み荒らしたからだ。そして、私の家の近くに居たのはあのヲ級だった。後に知ったが、あのヲ級が攻撃したのは私の家だけだった」

「それって……」

「あのヲ級は、もしかしたら深海因子を注入されて生き残った私の許嫁なのかもしれないということだ。これは一つの予測だから正解かは分からない。だが、この仮説が当たりなら私の剣術と互角なこと、そして先ほどの言動にも説明が付く」

 

苦虫を百匹ぐらいはかみつぶしたような表情を浮かべた提督を見て艦娘が押し黙る。提督の話はあくまで仮説である。正しいとは限らない。しかし、仮説と口にはしてるが提督の口調は何処か確信めいていたため、艦娘は黙るしかなかったのだ。

 

尚も苦しんで叫び散らすヲ級を見やった時雨は、静かな声で提督に尋ねる。

 

「提督。どうするの?」

「………拿捕しよう。聞きたいことが山ほど有るし、何より真実を確かめたい」

「拿捕するって、相手は深海棲艦よ? 何か勝算はあるわけ?」

「あの苦しみ様を見るに、きっと中に押し込められた彼女の人格と深海棲艦としての人格が絶えずせめぎ合ってると見た。彼女にはこのまま頑張ってもらうとして、私は深海因子が加速させる負の感情を断ち切る」

 

サラリとだがとんでもない事を言いだした提督に曙は目を見開く。

 

提督の剣術がどのような物かを知っているのは曙と時雨だけだ。提督の剣術は既に極致に達しており、その気になれば対象の体を傷付けることなく魂のみを斬り捨てることも可能である。

 

これも第六感をフル活用した結果可能になった絶技だ。死にかけたことにより、彼は霊的な物を見ることは出来ないが耳で“視る”ことは出来る。当然だが、普通の人間ではまず不可能だ。

 

そして今回は、魂ではなく感情のみを斬って提督の許嫁を解放してやるという割ととんでもない作業だ。

 

「あんたねえ。簡単に言うけど出来るの?」

「出来る出来ないじゃない。やるかやらないかだ。ここで何もせず後から悔やむよりは今、行動した方が良い」

「曙。これ、僕たちには……」

「分かってるわよ! 分かってるけど……!」

「曳航の準備だけしておいてくれ。あと、私を誰が運ぶかも決めてくれ」

 

問答は不要とばかりに提督は曙に背を向け、黙って未だ苦しむヲ級に近づいた。

 

ヲ級は苦しみに濡れた顔と、深海棲艦としての冷徹な顔を交互に出す。その表情を提督は知らないが、ヲ級の荒い呼吸と嗚咽音で察したのか、柄をギリリと握り締めた。

 

「聞こえているなら聞いてくれ。今から、君のことを蝕む負の感情を私が断ち切る。私と同門だった君なら何をするか理解できるはずだ」

「ヲッ……」

「聞きたいことが山ほど有るんだ。まだ、飲み込まれてしまっては困る。だから、君も頑張ってくれ。私も最善を尽くそう」

 

抜刀術の構えを取り、体中の酸素という酸素を抜き取る勢いで提督は息を吐いた。酸素が抜けて顔面蒼白となり、唇もカタカタと震えだしても尚息を吐き続け、とうとう歯までもがカチカチと互いに叩き合って喧しく鳴る。

 

それでも柄を握る手だけは一切力を抜かず、提督は風のような細い声で呟くと、フラリと木の葉のように倒れ込みながら目にも留まらぬ速度で刀を抜いてヲ級の心臓近くを撫でるように斬った。

 

――八雲流秘奥義 崩情

 

致死量ではないが多くの酸素を失った提督はそのまま倒れる。そして靴以外の部位がそのまま沈もうとしていく。残念ながら、提督は艦娘のように海面に叩き付けられてバウンドするということはない。浮いていられるのは明石の渡したブーツを履いている間だけだ。

 

慌てて時雨が引き上げ、提督を背負って今さっき斬られたヲ級を注視する。

 

「私ハ、私……貴方ハ違ウッ! 出テ、イッテ! 私ヲ……私ヲ返して!」

 

最後の一声。ただそれだけだが、ほんの一瞬だけ深海棲艦ヲ級としての声ではなく“ヒト”としての高く澄んだ声が戦場に響き渡った。

 

そしてそれで最後の力を使い果たしたのか、ヲ級も提督と同じようにフラリと海面に倒れ込もうとする。それを曙が大急ぎで抱えた。

 

曙は、ヲ級の足下からドス黒い何かが流れ落ちたのを見た気がしたが、それを確認する余裕はない。愛する提督は現在、酸欠によって意識を失っている。それが気が気でないのだ。

 

曙と時雨の合図で戦場に出た艦娘が一斉に撤収する。迅速に撤収した御蔭か、撤収開始から三十分も経過した頃には戦いなど無かったかのように鎮守府近海は静けさを取り戻すのだった。




一度「大自然が遣わしたry」の執筆に戻るので少し投稿が遅れます。余裕があればこっちも同時進行で執筆します()
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