盲目の提督と艦娘の物語   作:Hetzer愛好家

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地の文多めです。それと中二病表現にも注意です。


第九話

「行くぞ」

 

提督の静かな声が艦娘の心を引き締める。

 

鎮守府内に転がった血塗れの死体と夏美の破片の処理を一週間かけて終わらせた提督たちは今日、いよいよ深海棲艦の本拠地へ攻め込むことになった。

 

本拠地の場所は提督が特定済みだ。その場所はハワイの真珠湾。奇しくも太平洋戦争の引き金を引いたあの真珠湾である。

 

現在アメリカの過半数は深海棲艦によって実効支配されており、実質植民地状態だ。アメリカ産の艦娘も勿論存在しているのだが、日本ほどの多さではないため深海棲艦を押し返すには至らなかったのである。

 

「さて、この大湊鎮守府からハワイの真珠湾までは旅客機を使っておよそ十六時間だ。それより速度の劣る艦船となればさらに時間が必要になる。燃料や弾薬はクルーザーや明石、そして補給艦隊を使って運ぶが、それでもギリギリの戦いになることには違いないだろう」

 

提督も出撃するとはいえ、戦闘はかなりギリギリで苦しい物である。提督のモーターボートが壊れない間は何とかなるが、壊れてからは秒刻みで戦闘を管理しないと危ないのだ。幾ら提督が人間離れしていても体力には限界がある。

 

そもそも弾薬や燃料が切れてしまったらその時点で全滅確定だ。非常にシビアな戦いである。それでも、艦娘の決意はこれっぽっちも揺るがなかった。

 

代表して曙が前に出る。

 

「ギリギリとか関係ないわよ。アンタが行くならアタシたちは行く。それだけだから」

「……そうか。なら良い」

「で? アタシたちは真珠湾に到着したら何をすれば良いの?」

「君たちは真珠湾内にある補給基地や建造ドックを破壊し尽くしてほしい。本拠地は恐らく深海だが、外で騒ぎを起こせば無視はしないだろうからな」

「それで、アンタは本拠地に殴り込むと。了解したわ」

 

一も二もない。提督が指示した以上は従う。それだけ。他所の鎮守府ではおよそ見られない曙である。だが、それだけ提督の事を深く愛しているのである。

 

こうも固い決意を見せられたからには提督も応えるべきだ。それを分かっている彼は、曙には特に何も言わず頷くのみで留まる。

 

提督はクルーザーに乗り込むための梯子の前まで歩き、そこで一度立ち止まって振り返る。

 

「……蹂躙するぞ」

 

その言葉に、艦娘は黙って敬礼を返すのだった。

 

───────────────────

 

クルーザーと艦娘は海を駆ける。クルーザーの速度は30ノット。それに合わせて艦娘も航行する。平時では絶対にありえない速度での航行になったが、艦娘は特に問題もなく並走していく。

 

時折偵察の深海棲艦が現れるも、全て航空機による先制攻撃で呆気なく沈んでいく。必殺必中の航空爆撃と雷撃は情け容赦なく深海棲艦の弱点部に突き刺さっていた。それもこれも最高練度という単純な戦闘経験と提督への愛によって数値以上に高められた力が成す技であった。

 

艦載機を操る妖精さんも、提督に対する深い愛情から普段以上の力を発揮していた。

 

提督は確かに不幸の身であったが、同時に素晴らしい仲間を得ることが出来たようだ。

 

「敵艦見ゆ。前衛艦隊は戦闘準備。中衛艦隊と後衛艦隊は援護に徹しろ。補給艦隊は万が一に備えて待機だ」

 

クルーザー内から艦娘に指示を飛ばしながらも提督はクルーザーを操る妖精さんに「面舵一杯」と伝え、さらに砲塔の傍で待機する妖精さんには「一番二番敵艦隊に合わせろ」と伝達して彼自身は艦首に立った。ここからは目視で敵艦隊を捕捉するのである。

 

深海棲艦の目によって拡大された視覚はハッキリと艦隊の姿を捉えていた。どのような陣形なのか。艦種はどうなのか。全てが筒抜けだ。敵の艦種が分かったところで彼が下す命令は一つ。

 

「前衛艦隊、砲撃戦用意! 装填完了次第各個撃ち方始め!」

 

その言葉が発された直後。艦娘とクルーザーから耳を劈く轟音が鳴り響いた。

 

粉塵が空を舞い、硫黄の匂いが辺りに充満する。前衛艦隊の艦娘は急いで再装填を開始し、中衛と後衛艦隊の艦娘は粉塵で霞んだ視界であろうとも構う事なく連撃を開始した。

 

徹甲連撃。血も涙もない、敵を必ず殺すためだけの、超高速の連続波状攻撃。

 

「……殺ったな。このまま進むぞ」

 

視界が悪くても、提督には地獄耳がある。深海棲艦の刻む忌まわしき心音が消えたことを確認すると、彼はすぐにクルーザーの進路を真珠湾に合わせて再出発した。

 

立ち止まっている時間はない。提督は耳と目を使った索敵を再開し、全速力で真珠湾に向かう。

 

 

先に飛ばしている航空隊が早期に敵艦隊を見つけては全滅させ、航空隊という鷹の眼を潜り抜けられても提督の索敵によって敵が気が付く前に先制攻撃を仕掛けることで彼と随伴する艦隊は傷一つ負うことなく進撃を続けた。

 

提督自身が海上に降りて戦うという事態は艦娘が必死に防いだこともあり、一行は一度も提督を消耗させることなく、しかも艦船による航行にしては凄まじい早さで真珠湾近海に辿り着いた。

 

真珠湾から飛来すると思われる航空機の数が劇的に多くなるが、加賀率いる空母機動部隊が搭載する烈風改で制空権を確保し、攻撃機と爆撃機を寄せ付けない。それでも数機は突破されるが、輪形陣を組んだ前衛艦隊の対空砲撃によってあっという間に全滅する。

 

流石に真珠湾から数キロ圏内の超近海では前衛とか後衛とか関係なしに戦闘開始せざるを得ないぐらいの数の深海棲艦が襲ってきた。

 

提督はクルーザーからモーターボートを降ろして飛び乗り、遂に出撃した。

 

「指示はしない! 思う存分撃鉄を起こせ! そして蹂躙しろ! 一匹たりとも生きて返すな!」

 

愛刀を抜いてモーターボートのスロットルを全開にして敵中に突撃した提督の後を艦娘が続く。補給艦隊ですらも貧弱な武装でありながら引き金を引き、前衛艦隊は攪乱するように魚雷をばら撒いたり連続集中斉射で確実に深海棲艦を沈めていく。

 

提督も景色がゆっくりに見える灰色の世界の中に飛び込んで一閃の間に数体の深海棲艦を海底に還していった。これまでは勘と音だけで戦ってきた提督だが、そこへ視力までもが加わったため以前の数割増しで剣術が上達している。

 

……いや、むしろ往年の力を取り戻したというのが正しいのかもしれない。

 

勘では分からない故に何発も当てて見つけ出していた弱点の位置も、視力が戻ったことで少ない手数で見つけては攻撃して沈めるため手の付けようがない。

 

無論、手を付けられないのは提督だけではない。深海棲艦からすれば、提督と同じぐらい艦娘の動きが恐ろしかった。

 

超至近距離で動き回る駆逐艦は韋駄天の如く攪乱し、敵の足を確実に削ぐために閃光の如き雷滅の斉射を躊躇なく執り行う。

 

近距離で敵を絶つ軽巡洋艦は無数の雷牙を休む間もなく正確な位置に発射し逃れた者も追撃の双牙によって必殺の心意気の元に敵の数を減らす。

 

中距離で榴弾と徹甲弾を切り替えながら撃ちまくる重巡洋艦は時を得るごとに速く、そして正確に乱撃の弾雨を降らせる。

 

遠距離で鬼神の如き鉛を吐き続ける戦艦は敵を必ず海滅させるべく黒炎が吹きあがるまで砲を唸らせ、攻撃を受けても持ち前の装甲で大胆不敵に受け止め、逆に迎撃粉砕射撃で主力艦を潰していく。

 

超遠距離で弓をつがえて睨みを利かせる空母は暁の地平線に勝利を刻むため蒼天を覆うほどの爆雷撃機を繰り出して乱爆と神助の雷撃で絶望を運ぶ。

 

誰からも見えない深海からは潜水艦が無音で連撃し、悪夢は終わらないとばかりに雷鳴によって深海を明るく、そして冷たく灯す。

 

 

まるで付け入る隙のない提督と艦娘たちに、無謀とも言える特攻を繰り返しても深海棲艦は遂に進撃を止められなくなった。無表情がデフォルトのはずの深海棲艦の顔は面白いように歪む、

 

それを好機と受け取った提督は最後に数十体を斬り伏せると刀を鞘に納めた。

 

カチンと刀の鍔と鞘がぶつかり合う音を聞いた艦娘はそれを合図として一転攻勢に出た。戦速から全開に切り替えて速度を上げると一気に真珠湾に近づく。

 

そして艦娘が動き出したと同時に提督はブーツを脱ぎ捨てると潜水艦のように深海に潜り始めた。

 

深海棲艦の目を手に入れた事による恩恵なのか、提督は何の道具もなしにマリアナ海溝最深部まで潜れるのではと思われる驚異の身体となっていた。普通に海中でも呼吸が可能であり、また水を得た魚のようにスイスイと泳ぐことまで出来る。

 

それに驚いたのは潜水艦型の深海棲艦だ。見た目は普通の人間が平然と海中を進んでいくことに驚きを隠せず、ハッとした時にはもう提督の手によって首をねじ切られていた。

 

「……そこか」

 

光の届かぬ深海。しかし夏美から受け継いだ提督の左目は暗闇の中でもハッキリと本拠地への入り口を映していた。

 

真っ直ぐ向かい、提督はザル警備の本拠地に正面の入り口から堂々と侵入した。

 

本拠地内までは流石に水はなく、提督は地面に足を付けてコツコツと足音を鳴らして歩く。時折警備の深海棲艦とすれ違うが、深海に居るからなのか彼の左目は蒼く輝いており何故か敵意を持たれることがなかった。それを良いことに提督は本能が指し示す道をひたすら歩く。

 

数十分歩くと、彼の耳に人間の怒鳴り声が入ってくる。場所は本能が指し示す場所だ。

 

鳴らしていた足音を消し殺気を断ち切り、さらには気配も薄くして数十歩足を運ぶと、提督の目の前に荘厳な扉が現れた。

 

それをわざわざノックして丁寧に開けるほど提督は心の余裕を持っていない。ヤクザのような蹴り姿勢で扉をぶち破ると、困惑から身動きを取らない深海棲艦を無視して一番奥で先ほどまで怒鳴り散らしていたであろう男の元へ真っ直ぐ向かった。

 

「お、お前は誰だ!? そもそも、どうやってこの基地に入って来たんだ!? おい護衛兵! 何をボヤボヤとしているんだ!」

「護衛兵というのはあそこで困惑している奴らの事か?」

 

冷めに冷めた提督の声。その声一つで深海棲艦は動きを止めてしまう。百戦錬磨の剣士とも言える提督の威圧感は計り知れない物がある。

 

深海棲艦が一体も動かないためか、男は焦った表情で無謀にも逃げようとする。無論、提督の足の速さに敵うはずがなく一瞬で男は地面に組み伏せられた。

 

「貴様が深海棲艦を生み出したという人間か?」

「は、離せ! この俺にそんな真似をしても良いと思って『答えろ屑野郎』うぐっ……そ、そうだ! この俺が深海棲艦をこの世の中に生み出したんだ!」

「……深海棲艦を生み出した理由を聞かせろ」

「わわ分かった! 分かったからゲホッ、襟を締めるのは止めてくれっ。呼吸がぁ!」

 

提督が襟から手を放し、しかし油断なく刀を突き付ける。すると男は顔を青ざめさせ、大急ぎで深海棲艦を生み出した理由を語り始めた。

 

話を要約するとこんな感じだ。

 

深海棲艦は、元は日本国を他国の脅威から守るために天皇自らが技術者らに頼み込んで生み出したものだという。様々な技術者が色々な案を提示したが、その中で天皇の目に留まったのが「艦娘」と「深海棲艦」だったのである。

 

艦娘は人間の感情を細胞に覚えさせ、そこから生まれた資材を人型に変えたものベースとして艦船の記憶を艤装に埋め込み、ベースと一体化させて完成するものであることに対し、深海棲艦はその辺の魚や人間をベースとして艤装に負の感情を埋め込み、艦娘と同じようにベースと一体化させるというものだ。

 

深海棲艦は艦娘と違って特別な資材を必要とせず、適当な素材があれば簡単に生み出せるというお手軽な物だと認知されていた。しかも深海棲艦の個々の力は艦娘より強いため、コストパフォーマンスが非常に良い。

 

しかし、深海棲艦には大きな欠点も存在した。

 

深海棲艦は確かに強くコストもかからないのだが、如何せん負の感情を多く使用しているため常に暴走の危険が付きまとい、また我が強いため統率も困難であった。

 

一方、艦娘には人間らしい感情を持つため意思の疎通が図りやすく、個々の力は弱くても集団行動が深海棲艦よりも高いレベルで取れた。それに深海棲艦のような暴走の危険も低く、長い目で見れば艦娘の方が兵器として長持ちする。

 

深海棲艦は確かに強力な国の守護神となり得る存在であったが、結局天皇と軍のトップが選んだのは艦娘であった。常に起爆寸前の爆弾を持つよりは、鞘に納まってくれる刀を選んだという事だ。

 

しかし、深海棲艦を作ってきた技術者は納得がいかなかったのである。何度も天皇に直訴をしようと計画し、多少強引な方法であっても躊躇なく実行したのだ。

 

そしてその中心に居たのがこの男なのである。

 

だが、国は男ら深海棲艦を生み出すグループを危険視して国外追放する旨を軍で話し始めたのである。それを偶然耳にしてしまった男たちは激怒し、深海棲艦の数を増やすと特殊な薬を使って自分たちの支配下に置き、様々な国に侵攻を始めた。

 

その時期が、丁度提督が両目の視力を失った時期より少し前である。

 

真珠湾を占拠した深海棲艦と男たちは深海に本拠地を、地上に偽装の基地を設置。アメリカの過半数の土地とヨーロッパ諸国の制海権を確保すると、男たちは深海棲艦に日本への進撃を命令した。

 

「初めのうちは深海棲艦が圧倒的に有利だった。だが、またしても艦娘の手によって俺たちの計画が邪魔された! 小さな村や町こそ壊滅させられたのに、気が付けば押し返されて……! 忌々しい艦娘と、お前ら提督のせいでぇ!」

「……待て。貴様、村や町を壊滅させたのか。私の生まれ故郷は、貴様の命令した深海棲艦が襲ったのか。そして、その村や町から人を攫っては深海棲艦にしていたのか!」

「襲った村や町の名前なんざ知るか! ああ、だがとある村から連れて来た女二人、というか母子は別格だったなぁ。いきなり空母ヲ級flagshipと戦艦棲姫とかいう強力な艦種に変化したんだ。子供の方は元来住んでいた家や大切にしていた者の家を爆撃させてグエア!?」

「貴様だったのか! 貴様が、みんなを……!」

 

喉元に容赦なく足を降ろして憎悪に満ち溢れた瞳で男を射貫き、刀を鞘から抜いて声を張り上げる提督。怒りに呼応するかのように瞳の放つ輝きは増す。深海のように暗く冷たい輝きになっていることに提督は気が付かない。

 

提督の怒りは成層圏まで届くかもしれないと言わんばかりに爆発していた。

 

男の言葉から、彼は自分が犯した罪にも気が付かされてしまったのである。ヲ級flagshipもとい夏美を拿捕した際、提督は多くの深海棲艦を手に掛けている。その時に彼は多くの姫級や鬼級をも沈めているのだが、その中に自我を持っていたと思われる戦艦棲姫が居たのである。

 

男の言う通りならば、あの戦艦棲姫は夏美の母親だ。提督は、許嫁の母親を自分の手で殺めたという事になるのだ。

 

この状況で嘘を男が吐いたとは考えにくい。言葉の端々から嘘か真かが分かってしまう提督は、残酷な現実を嫌というほど知ることになった。

 

「貴様が……貴様がぁ!!」

「グウオ!? 鳩尾を蹴るなんて、何て人間だ……!」

「ふざけるなぁ! 貴様、どれだけ重い罪を犯したのか分かっているのか!?」

「全ては我が祖国が深海棲艦を選ばなかったのが悪い! 俺は何も!」

「この外道が……! 貴様だけは楽に殺さんぞ!」

 

オーラが立ち込めた訳ではない。突風が駆け抜けた訳でもない。しかし、まるで風に押されたかのように男は後退る。

 

提督の左目が人間のような瞳孔から、深海棲艦のような蒼一色に変わり果てる。荒い提督の息遣いは何故かエコーがかかったかのように響く。

 

提督が明確に人間を止めた瞬間であった……。

 




途中の変わった表現は「蒼焔の艦隊」というゲームから一部を引っ張ってはそれっぽい形にした物です。痛い表現なのはご容赦願います。

次回は一端の決着です。
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