制服に着替えた恵が再登場する。倫也も着替えていて舞台袖に立っている。
「一つ、確認していいかな?」
「ああ」
「もうこれで負け犬シリーズは終わりって、わたしに言った?」
「いや・・・」
「それって本当にいいの?わたしに黙って決めちゃっていいの?」
「なぁ・・・加藤・・・」
「加藤じゃない」
「なぁ・・・恵・・・、ものすごく・・・まさかと思って聞くけど・・・恵が今まで俺に対して怒ってたのってさ・・・もうこの負け犬シリーズが終わることに、いろいろ思うところがあったからだったりする・・・? そういう、同人小説の中でも特殊なちょっと痛い感じじゃないよな?」
ドクンっ ドクンッ ドクンっ ドクンッ・・・
「ナニイッテルノ アキクン?」
「だよな。だよな。」
「えっ、もしかして、わたしがこの負け犬シリーズのことが好きなんじゃないかって思ってた?自分がいままでわたしにどんなストーリーを押し付けたか棚にあげて?」
「だってほら・・・大した理由もないのに、いつのまにか作品に愛着もってたヒロインとかさ」
「それって、安芸くんみたいに同人小説キャラの気持ちがわかってない人が作ってるからじゃないかな?」
「ブーメラン投げないで、もう許して!」
「えーだって、そんなとんでもないこといわれてもさー」
「・・・ごめん恵」
「もういいよ。いままでのことはすべて記憶から消すから」
「ああそうだな・・・でもさ恵、お前・・・『メインヒロイン』演じることは好きじゃん!」
「はっ」
(美智留が優しい曲を奏でる)
「挫折してエタろうとする俺を許せなくなるぐらい、好きでいてくれたじゃん!それがもう・・・嬉しくて嬉しくて・・・だからこそ・・・申し訳なくて」
恵が涙ぐむ・・・
「ありがとうな恵」
「何を・・・何を・・・言ってるのか・・・なぁ。」
「ありがとう・・・ありがとうな恵。それからごめん・・・ひどい役ばかりさせてごめん・・・」
「思ったよりも同人が楽しかったんだよ・・・だから・・・もう終わるって思うと本当に寂しかったんだよ・・・」
「ごめんな」
「だから・・・リハーサルってことで、もう一回やりなおそ?」
「いや、やらない・・・もう終わりなんだよ・・・負け犬シリーズは7部作の作品で英梨々のものだから・・・」
「だからさ、こんなひどい話じゃなくてさー」
英梨々がたちが上がる。
「これでいいのよ恵。あたしがこれでいいと思っているんだからね」
「英梨々っ・・・でも・・・」
「それにね、恵・・・この負け犬シリーズは・・・あなたの呪い・・・「メインヒロイン」の呪いを解くことだけが真の目標だったの」
恵が目をぱちくりさせて驚いている。
「そう知らないのは加藤さん、あなただけだったのよ・・・」
詩羽が言った。
「そんな!・・・本当なの、安芸くん?」
「ああ・・・本当だよ恵。この負け犬シリーズはいわば土台作りだった」
「どういうことなの?霞ヶ丘先輩」
「澤村さん!さぁ加藤さんに見せてあげなさい!」
英梨々が指をパチリと弾く。
舞台に大きなタイトルが表示される。
『負け犬ヒロインの育て方(フィーネ) 』
「加藤さん・・・この負け犬シリーズはこの作品のための練習でもあり、前提条件でもあった」
「恵。冴えカノ劇場版には、たった一つ大きな悔いがあった。それは物語を最終的に盛り上げるために必要なものだったかもしれない。でも、何も恵の・・・」
紅坂朱音が立ち上がる。
「ちょっといいか?私から説明させてもらおう」
「紅坂さん・・・」
「私が一番迷惑かけたな。あの日・・・加藤さんの誕生日に倒れてしまって申し訳ない」
「あっ・・・」
「同人が始まったらさ、伊織に説得されてたんだよ、酒もたばこもやめるようにって・・・何を変なこといってるのかと問いただしたら、ずいぶんと小さな理由だったけどよ、それが切実で純粋な動機だったから・・・了承したんだ。ただな・・・わたしがその日に倒れなくても・・・加藤さんがメインヒロインである以上はさまざまな障害が絶対に起きる。嬢ちゃんが「普通」に誕生日デートをすることはかなわない」
「そういうことよ加藤さん、わたしのファーストキスを消すようなイベントでもあれだけのさわぎだったからね・・・劇場版を改変するとなれば・・・それなりの舞台が必要だったのよ」
「だからさ恵!負け犬シリーズの撮り直しなんてやらない。もう一度、もう一度だけ、俺の『メインヒロイン』になってくれ。俺たちの負け犬シリーズを背負って欲しんだよ!」
「恵先輩!わたしにも誕生日を祝わせてください」
「加藤ちゃん!」
恵がためらう。
そのあと決心したように顔をあげる。
「・・・うん。わかった。ありがとう。みんな」
拍手と歓声が起こる。
「じゃ、撤収したらプロット会議しようか」
「何いってんだ恵!?」
「なによー、また内緒で話つくって押し付ける気?」
「ちげーよ。もう物語は終わりだ。お前はお前のままでいい。加藤恵を演じて成長した『負け犬シリーズの加藤恵』のままでいいんだよ。初めてデートするのに細部まで企画に参加するのか?そうじゃないだろ?俺に任せろ」
「・・・それでさんざんな目にあったんですけど!?」
「ごめん。でも、大丈夫だ。絶対にハッピーエンドにする。ここまでついてきてくれたお前のファンにがっかりさせるようなことはしない。約束するよ」
「わたしのままでいいの?」
「ああ、そのままのお前でいてほしんだよ」
恵が顔を赤くしてもじもじする。
「しーらないよ?倫也くん・・・どーなってもしーらないよ・・・・・・・
・・・
・・・
・・・
・・・ギャラでる?(小声)」
英梨々が駆けてきて、ハリセンで恵の頭部をバシーンとひっぱたく。
みんなが笑って、ハッピーエンド・・・
※※※
詩羽がため息をつく。
「さっ、その前に『負け犬6』を作るわよ。まさか、みんな忘れてないでしょうね?」
出海が頭を傾けて考える。
「でも、もう必要なくないですか?この『負け犬7』を『負け犬6』にすれば・・・」
「そうだよー。センパイ。無理してやることないよー」
美智留が出海の考えを援護する。
「ラブコメヒロインがラブコメをやらずして、何が『冴えカノ』の同人よ。名前と容姿だけ借りてわけわからないことして・・・。下手は下手なりにラブコメをやってみせなさい!成長したみんなでがんばってみなさいよ!」
詩羽の強硬に主張する。
倫也と恵が目を見てうなずく。
「わかった。詩羽先輩。やろう。『負け犬6』を・・・俺たちの『ラブコメ』を」
「倫也くん・・・」
「もちろん、恵がOKを出してくれたらだけど」
「・・・わたしはいいよ。メインヒロインでもサブヒロインでもモブでもなんでもやってみる。物語のためだもんね?でもね・・・たぶん、倫也くん・・・」
「俺が?どうしたの」
「ハーレム型主人公できないんじゃないの?」
ヒロインのみんなが失笑する。
※※※
伊織がそれを見守りながら腕を組んで考えている。
それから出海を手招きして呼び寄せる。
出海は伊織から指示を受けた。
「・・・本当に、そんなことしていいの?」
伊織はうなずく。
※※※
こうして、『負け犬6』の制作が決まった。
成長したヒロインを・・・そして、さらに成長していくヒロインを・・・
もうしばらく見守っていただきたい。
(了)
評価・感想等あればよろしくお願いします。
『負け犬6』へ続きます。