オーバーロード 死の支配者と不死鳥物語   作:リュウさん

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初めまして、御観覧ありがとうございます。


第01話

とあるアパートの一室前

共用廊下の蛍光灯に照らされた扉の前、玄関窓からは灯りの付いていないだろう真っ暗な部屋の前で車イスに乗った人物が扉の前でなにやらもぞもぞしている。

車イスという珍しい物に乗っている以外は、腰まで届くほど伸ばした黒のロングストレートで、あまり手入れがされていないのか艶がなくパサパサになっていた。

女性らしい膨らみと、髪の色と同じ黒いビジネススーツを着こなす様は、所謂OLという風貌だ。

彼女はごそごそと鞄の中身を探し、やっと目的の物を見つけて扉に近づき、カチャリとカギを開け家内に入っていく。

 

 

「ただいま~、や~っと帰ってきましたよ~……………誰もいないの~?どっか出掛けたのかな?」

 

 

返事は返ってこない。

時刻は夜の9時、まだ夜はこれからと言う時間にも関わらず、どの部屋も電気は一つも付いていなかった。

玄関には誰の靴もないことから、出掛けてるのだろうと判断し廊下の明かりを付けようとスイッチを入れるが………付かない。

何度かONOFFを繰り返すも明かりが付くことはなかった、さすがにおかしいと思いながら暗闇に慣れてきた目で回りを確認すると………言い様のない不安と嫌な予感がよぎる。

 

 

片付けられた靴箱の上

玄関マットもスリッパもない

開いた扉から入る光に反射して、フワフワと舞う埃………本当に出掛けてるだけ?こんな時間に?

 

 

嫌な予感がする。そんなはずない、そんな訳ない、きっと帰ってくるのが遅いだけ、とよぎる不安を払うように憶測をたてていく。

暗い廊下、その先に見えるリビングに続く扉を捉え慣れない車イスで暗闇をゆっくり進んでいく。

僅かな時間で扉の前に着く

ここを開ければすべてがわかる。だがドアノブに掛けた手が動かない。動かしたくなかった。開けてはいけない、まるでパンドラの箱を開けるよう気分だ。

この先には災厄(最悪)か一つの希望か………杞憂であってほしいと、一縷の望みに掛けて扉を開ける。

 

 

そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またどこかでお会いましょう……か、はぁ……いつどこで会えるのやら……」

 

 

巨大なテーブルが部屋の中央にありその回りを豪華な席で囲まれた部屋、そのうち一つの椅子に座る人物は哀愁を漂わせていた。

 

 

直前までそこに座っていた、今はログアウトして誰もいない空席を見つめながら先ほど言われた言葉を一人呟く。

豪奢な漆黒のアカデミックガウンを羽織り、フードから見える顔は白磁のように抜けるような白い肌…ではなく、肉も皮も付いていない骸骨の顔、その眼窩には赤黒い光が灯っている。

仲間に「お疲れ様でした」と上げていた腕を力なく下ろしてまた一つため息をこぼす。

身に纏うガウンや剥き出しの骸骨の顔が合わさりどこかの魔王のような風貌をしているが、見た目に反して寂しそうな雰囲気を出している人物はここを拠点としている、異形種のみで構成され僅か四一名が所属するギルド「アインズ・ウール・ゴウン」そのギルドマスターを勤めるプレイヤー「モモンガ」だ。

 

 

モモンガのいるそこはアインズ・ウール・ゴウンの本拠点、全一〇階層からなる巨大なダンジョン型ギルド拠点「ナザリック地下大墳墓」その神域と呼ばれる九階層と一〇階層、ロイヤルスイートと名付けられた九階層の一室。

円卓(ラウンドテーブル)と呼ばれる部屋でモモンガは同じギルドに所属する仲間たちを待っていた。

今日は12年という長い年月続いたYGGDRASIL(ユグドラシル)のサービスが終了する日、予めギルドメンバー全員に「サービス終了日にみんなで集まりませんか?」とメールを送ったのだが、先程ログアウトした仲間を合わせて僅か3名しか来てくれなかった。

その僅かに来てくれたメンバーも、日々の疲れで早々に落ちて(ログアウトして)しまい、また一人で待つ時間が訪れる。

 

 

長い沈黙が続き、誰もいなくなった部屋で今まで圧し殺していた思いが弾けた。

 

 

「………ふざけるな!」

 

 

怒号と共にテーブルに手を叩きつける。視界には叩きつけた手にダメージ判定の数字が表示される。

 

 

「ここは皆で作ったナザリック地下大墳墓だろ!なんでそんな簡単に………っ!」

 

 

思いの丈を吐き出す途中、突如視界の中央に表示されたメッセージを見て言葉を飲み込む。それは登録しているフレンドか所属してるギルドメンバーがユグドラシルをログアウト、もしくはログインしたときに表示されるお知らせメッセージ。

 

 

 

 

 

『エール・F・フィアー さんがログインしました』

 

 

 

 

 

モモンガは表示されたメッセージを読むと先程までの黒いどろどろとした感情はなくなり、まだ来てくれる仲間がいたと嬉しい気持ちが沸いてきた。

握りしめた手を開き、ログインしてきた仲間に笑顔の感情(エモーション)アイコンを出しながら挨拶をする。

 

 

「こんばんは、エールさん。お久しぶりですね………なんでその格好なんですか?」

 

 

 

そこには妙齢の女性が微笑みを浮かべ椅子に座っていた。背中まで伸ばした真っ赤な髪の上半分を纏め、半分はそのまま降ろすハーフアップスタイル。その毛先は少しオレンジになっていて炎を連想するような色合いだ。

 

 

眼も同様に燃えるように紅く、少しつり目がかっており、勝ち気そうな顔つきになっている。両肩を露出させた白のチューブトップを着ており、背中側が大きく空いて体を覆い隠せるほどの二対四枚のオレンジ色の翼が見え彼女が人ではないことがわかる。

 

 

エールと呼ばれた女性は、丁寧な言葉遣いと共に笑顔の感情(エモーション)アイコンを出して挨拶を返すと次に困った感情(エモーション)アイコンを出して質問に答えた。

 

 

「こんばんは~モモンガさん。これは………確かほしいデータクリスタル(素材)があって、それを探しに大きな街に行ってたんですよ。………なにを作ろうとしたのかは、忘れました………」

 

 

優しそうな声で話す彼女は、ギルド内で数少ない女性プレイヤーの一人で「アインズ・ウール・ゴウン」創設後ちょっとした騒動で加入した人物だ。

エールは最後にログインしていた時のことを思い出しながら、室内を見渡す。

 

 

「先程までのヘロヘロさんがいたんですけど、入れ違いになっちゃいましたね。他にも何人か来てくれたんですよ」

 

「そうでしたか………少しだけでもお話ししたかったです………」

 

 

部屋の空席を見渡していたエールに気付いたモモンガは先んじて今日来てくれた仲間たちの事を話していく。

さっきまでいたヘロヘロの事を話終えたモモンガはエールに気になったことを聞く。

 

 

「エールさんもメールを見て来てくれたんですか?」

 

「メール?」

 

「あれ?違うんですか?メール届きませんでした?」

 

「ご、ごめんなさい!………い、今諸事情あって携帯壊れてて………ユグドラシルも、今はネカフェから繋いでて………公式のお知らせを見て急いでインして………あははは………」

 

 

謝りながら捲し立てるように、最後の方はばつが悪そうに喋るエールを疑問に思い、リアル事情はあまり聞かない方がいいかなと話題を変える。

 

 

「た、大変なんですね?………と、ところでエールさん」

 

「はい?」

 

「も、もしよかったらなんですけど、今日でサービス終了じゃないですか?せ、せっかくですから、最後までいませんか………?」

 

 

先程ログアウトしたヘロヘロや、他の仲間にも言いたかった。日々過酷な毎日を送って疲れているのはわかっているが、最後くらいは一緒に過ごしたかった。もう時間的に彼女が最後だろう、モモンガは画面端に映る時間を確認しながら聞いてみる。

 

 

恐る恐るエールの方を向くと、笑顔の感情(エモーション)アイコンを連打していた。

 

 

「いいですよ!私、明日予定なくてフリーなんですよ!何します!?外で花火でも打ち上げます!?それともお祭り騒ぎに参加ですか!?あ!逆にそんな所でこれ使います!?」

 

「何言い出すんですか………時計見てください、あと15分で出来るんですか?」

 

 

誘われたことが嬉しいのか、興奮ぎみにとんでもないことを言い出し自分の翼を指差してテンションを上げるエールに戸惑いながらも、仲間と一緒に過ごせることを喜んだ。

 

時刻は11時45分、あと15分でユグドラシルのサービスが終了し強制的にログアウトされてしまう。なら最後はあそこで、悪名高いアインズ・ウール・ゴウンに相応しい場所で最後の瞬間を迎えようと思っていたモモンガは一つ提案する。

 

 

「最後は、玉座の間で迎えようと思いまして………どうでしょう?」

 

「あれですね?ラスボスはダンジョンの最奥で勇者が来るのを待っている!的なヤツですね?」

 

「まぁ、そんなところです」

 

 

モモンガはそう言いながら部屋の壁に飾られている(スタッフ)に向かって歩きだす。

そこには黄金色の蛇が複数絡み合うように杖の形を形成している。杖の登頂部には7匹の蛇がそれぞれ違った色の宝石を咥えており、杖を持つ握りの部分には青く輝く水晶が嵌め込まれている。

 

 

この杖こそ各ギルドに一つしかない、アインズ・ウール・ゴウンを象徴する最高峰の武器、ギルドメンバー全員で作り上げたギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

杖の所まで移動したモモンガがは、杖を眺めながら少しばかり思い出に浸っていると、脇からひょっこりと顔を出すエール。

 

 

「最後くらいはコイツを持っていっても大丈夫ですよね」

 

 

確認するように聞くが、持っていくのは決まっているような言い方で杖を手に取るモモンガ。

持った瞬間、黒く禍々しいオーラを発し、人の苦悶の表情を浮かべ手に絡み付いては消えていく。

 

 

「作り込み「ヒゥ!?」………すごいなぁ」

 

「…………ん?」

 

 

初めて杖を持ったモモンガは、飛び出すエフェクトにメンバーのこだわりを感じるも、すぐ横でビックリする声とガウンを引っ張られる感覚を感じて、喋りながら振り向く。

表情のない骸骨の顔をエールの方に向けると、見られた本人は杖から目を離し、モモンガと目を会わせ、なんですか?みたいに首を傾ける。

 

 

「ふふ、変わってないですね」

 

「び、ビビってないですからね!?アレですよアレ!」

 

「なんですかアレって………」

 

 

慌てて否定の言葉と怒った感情(エモーション)アイコンを出しながら抗議を上げるエールを治めつつ部屋を出ようとする。

 

 

「さ、行きましょうか。我らがギルドの証と共に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円卓(ラウンドテーブル)を出ると、そこは白亜の宮殿を思わせる様な廊下。天井は高く、豪華なシャンデリアが等間隔で吊り下げられている。

幅の広い通路は、磨かれた大理石に天井の光が反射して、キラキラと輝いていた。

 

 

通路にはモモンガの足音と、杖が床を突く硬質な音が交互に木霊する。その隣をふよふよ浮かびながら並んで移動するエール。

 

 

通路をしばらく進むと九階層の奥、大人数で通れるような巨大な階段が現れる。

二人は階段を降りた先にいる複数の人影に近づいていく。

 

 

「そういえば、ここにもNPC配置してましたね。え~と………」

 

「え~、モモンガさん忘れちゃったんですか?セバス・チャンですよ。久しぶり~、こっちの子たちは~」

 

 

こちらに向かってお辞儀をしているNPCたちに手を振っているエールを横目にコンソールを開きながらNPCの名前を確認する。

執事服を着ている白髪の老人セバス・チャン。

老人の見た目に反してその立ち姿には衰えを感じなく、踵を揃え背筋を伸ばしてお辞儀をする様は、まさに理想の執事と思わせるようだ。

その隣にはメイド服を模した様な金属鎧を身に纏い、腕には刺々しいガントレットを装備した者、聖印を象った様な戦斧を背負う者、アサルトライフルの様な近未来的な銃を腰に携える者と、全員が種類の違う武器を持ち、頭にはホワイトブリムを被っている。

 

 

唯一の共通点といえば、外装担当のギルドメンバーが丹精込めて作り込んだだけあって、全員が見目麗しい美女美少女という事くらいだろうか。

彼女たち6人はセバス直轄の部下、戦闘メイド「プレアデス」。

 

 

コンソールで名前を確認したモモンガは、頭を下げているセバスやプレアデスを見ながら思う。

侵入者が来る想定でここに配置したのだが、これまで幾度となく攻め込まれても八階層より先には侵入されることはなかった。

防衛を目的に作られたはずなのに、一度の戦闘どころか、ここから動いたことすらない、この先来ることのない敵を待ち続けるNPC。ただのデータでしかない彼らに今までの自分を重ねる。

 

 

待ってるだけなのは寂しいな、と………

 

 

「―です。最後にエントマ「エールさん」ヴァ?」

 

「彼らも、連れていっていいですか?」

 

 

プレアデスたちを指差しながら名前を一人一人言っていたエールの言葉を遮り、最後に一仕事させてあげたいと思い、一緒に玉座の間まで連れていこうとする。

 

 

「いいんじゃないですか?NPCとはいえ人数は多い方がいいですしね!」

 

「えぇ、じゃあ………付き従え」

 

 

NPCを動かす命令(コマンド)を言葉にすると、セバスとプレアデスたちはモモンガの後ろに付き従うように動き出した。

二人はそのままNPCたちを引き連れソロモンの小さな鍵(レメゲトン)と呼ばれる大きな半球ドームの部屋を通り過ぎ、玉座の間に通じる巨大な両開きの扉に到着する。 

 

 

今のも動き出しそうなほどリアルに作られた女神と悪魔の彫刻が施された扉をモモンガは眺める。

 

 

「………最終日だから襲いかかってきたりして?」

 

「………」

 

 

この彫刻を誰が作ったのかわかるモモンガは、横にいるエールをちらっと見てちょっとだけ揶揄ってみる。すると予想通り、小さく一歩引いて黙って明後日の方を向いてしまった。

 

 

「冗談ですよ………でも、あの人(るし★ふぁーさん)なら………大丈夫ですよね?」

 

「そこで不安になるのホントっぽいからやめてくださいよ!?」

 

「はいはい、相変わらず怖いもの苦手なんですね」

 

 

今度はモモンガの杖を持つ腕を掴みグイグイ引っ張りながら、表情は変わらないものの声音から本気で怖がっているようなので揶揄うのをやめる。

扉に手を触れると、彫刻ではなく扉全体が自動ドアのように動き出しゆっくりと、この部屋の主を迎え入れるように開いていく。

 

 

女神と悪魔が迎え入れた先は、見上げるほど高い天井と七色に光り輝く宝石を宿したシャンデリア。数百人入ってもなお余りそうなほどの広い空間。幅の広い赤い絨毯は金の刺繍が施された見事なもので、玉座の前まで続いていた。

壁には天井から床までの長さがある布にそれぞれ違った紋様が描かれた巨大な旗、それが合計で四一枚飾られている。

 

 

部屋の最奥にはクリスタルで作られたような背の高い巨大な玉座。その後ろには赤い布に黒の刺繍で、アインズ・ウール・ゴウンを表すギルドサインが描かれた大きな旗が掲げられていた。

ここが難攻不落と言われるナザリック地下大墳墓、その第一〇階層最奥部、玉座の間。

 

 

「わぁ……何度見ても感動しますね………」

 

 

モモンガも、声には出さないが同じことを考えていた。

少しの間、二人は部屋の前で雰囲気に浸り、示し合わせたかのように同時に入る。

 

 

玉座までたどり着くと、そこには一人の女性NPCが控えるように立っていた。

純白のドレスを身に纏い、肩から胸の部分にかけて蜘蛛の巣の様な金細工のアクセサリーを着け、艶のある黒髪は後ろに流し腰のところまで伸びている。

僅かに微笑む表情、金色の瞳には縦に割れた瞳孔が異様に映るが、それを含めても聖母や女神のように慈愛に満ちた顔をしている。

ただ、左右のこめかみからは、太い角が曲がりながら前に突き出し、後ろからは黒い翼が腰を覆うように広がっており、彼女が人ならざる者だというのがわかる。

 

 

彼女は玉座の間を護る最後のNPC、ナザリック地下大墳墓にいる七人の階層守護者を纏め上げる守護者統括。ナザリックにいる全NPCの最高位にいるキャラクターだ。

 

 

さすがにモモンガも、ここにいるNPCは忘れていなかった。

 

 

「アルベ………ド?」

 

「ん?どうしたん………あー!?」

 

「「真なる無(ギンヌンガガプ)!?」」

 

 

全長五〇センチ程の短仗(ワンド)で、先端部分には黒い玉がふわふわ浮いている形状の武器。

アルベドと呼ばれたNPCの腰にある短仗(ワンド)を見つけたモモンガは言葉を止め、エールは驚きの声を上げる。

それはギルドの共有財産、世界(ワールド)アイテムと呼ばれる超が付くほどのレアアイテム。

 

「タブラさんだな………はぁ、最後にこんなことしていくなんて………」

 

「まぁまぁ、最後くらい大目に見ましょうよ」

 

 

アルベドの製作者であるギルドメンバーに愚痴りつつ、エールに宥められ玉座に座ろうとして、連れてきたNPCたちのことを思い出す。

 

 

「あれ………どうやって、止めるんでしたっけ?」

 

「"待機"ですよ」

 

「………よく覚えてますね。待機」

 

 

命令(コマンド)を受諾したNPCは、玉座の下で一列に整列する。

玉座に座り、一息ついて改めてアルベドに視線を向けるモモンガ。どんな設定だったかとコンソールを操作して、設定欄を開く、そして興味本意で開いたことを少し後悔した。

 

 

「うわぁ………」

 

 

設定欄には膨大な量の文字、もうこの時点で読む気がなくなったモモンガは最後の部分だけでいいやとスクロールしていく、ようやく最後まで飛ばし見した先に待っていたアルベドの設定は………

 

 

 

『ちなみにビッチである』

 

 

 

「………え?」

 

 

見間違いかと思いもう一度スクロールし直してみるも、そこには変わらない文字が映っている。

もしかすると自分の知らない、何か別な意味で書いてあるのかもしれないとしばし思考を巡らせてみるが、モモンガには思いつかなかった。

 

 

モモンガが急に黙り込んでしまったことが気になったエールはこっそり玉座の裏に回り、モモンガが開いているコンソールを覗き見る。

 

 

「………へぇ~」

 

「うおっ!?急にびっくりするじゃないですか!………はぁ、タブラさんはギャップ萌えだったかな。アレですよ、全く存在感のない眼鏡女子が眼鏡を外したら実は超絶美人だったみたいなのです」

 

「いくらNPCとはいえ、女の子にビッチっていうのはちょっと………」

 

 

今はいない製作者のフォローはしてみるが、やはり女性にはウケが悪いようでエールは少し呆れていた。

微妙な空気になってしまった玉座の間。何かないかと頭を回転させると妙案を閃く。

 

 

「あ!じゃあこれならどうです?」

 

 

そう言うとモモンガは、ギルド長権限を使ってアルベドの設定欄から最後の一文を消して、新たに書き加えていく。

 

 

 

『ギルメンを愛している』

 

 

 

「ビッチより、みんなのことが大好きっていうのは?エールさんもこんな美人に好かれたら嬉しいでしょ?」

 

「気後れしそうですね………」

 

「というかそろそろ時間ヤバイので終了!」

 

 

腕を振って強制的にコンソールを閉じると、一息ついて玉座の間を見渡す。

天井から下がる旗を一枚一枚眺めながら、アインズ・ウール・ゴウンの最盛期、輝かしい黄金時代に思いを馳せる。

 

 

楽しかった。本当に楽しかった。円卓(ラウンドテーブル)の豪華な椅子は全員が座っており、どこにいくあそこにいくと皆で相談しながら決めたり、敵対ギルドとの凄絶なGvG。世界(ワールド)エネミーと呼ばれる強大なレイドボスに全滅させられそうになったこともあった。

 

 

「楽しかったですね」

 

 

一瞬、口に出していると思い隣にいる彼女見るが、同じことを思っているようだ。

 

 

「次は…ユグドラシルⅡとか出ますかね?」

 

「次回作の噂は聞いたことないですけど、そうだといいですね」

 

「モモンガさんは、何か他のゲームはやらないんですか?」

 

「わかりません………ユグドラシル以外やろうと思わなかったので………」

 

「そうですか………私も、これからどうしよう………」

 

 

エールの言葉に若干疑問を抱くが、あまり気にしないでいた。

だが、これを気に他のギルドメンバーに連絡を取って新しいゲームを一緒にやるのもいいのかもしれない。

今日でユグドラシルは終わってしまうが、現実(リアル)での繋がりが無くなってしまうわけではない、モモンガは前向きな気持ちで横にいる大切な仲間に声をかける。

 

 

「エールさん、今日は来てくれて本当にありがとうございます」

 

「当然じゃないですか!ホントはもっと早くこれればよかったんですけど………」

 

「気にしないでください。それに、最後に俺のわがままに付き合ってくれてありがとう」

 

 

時刻は11時59分、秒針は残り30秒を切ったところだ。

モモンガはちょいちょいで手招きをしてエールを正面に立たせ、杖を持ってない方の手を上げて握手のポーズを取る。

エールはそれに答えるように手を握り返し、もう片方の手でモモンガの手を包み込む。

感動したのか鼻を啜る様な音が聞こえ、顔を俯けてしまうエール。

 

 

「泣かないでくださいよ………こっちまで悲しくなるじゃないですか」

 

「ご、ごめんなさい………でもね………あの………私ね………」

 

「ほらほら、最後くらいは元気に絞めましょう。万歳ですよ?せーの………」

 

 

残り5秒、二人は息を合わせ叫ぶ。

 

 

「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!!」」

 

「さよならです。モモンガさん」

 

「…え?」

 

 

サーバーが強制ダウンする瞬間を狙って別れの言葉を告げる彼女の顔は笑いながら涙を流していた(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

0時00分01、02、03…

 

 

 

 

 

サーバーダウンによる強制ログアウト受けたはずの視界には、見慣れた殺風景な自室ではなく、先程までいたナザリック地下大墳墓の玉座の間が映っていた。

 

 

「(ロスタイムか?………それともサーバーダウンが延期になった?)」

 

 

目の前にいるエールも困惑の表情(・・・・・)を浮かべている。

 

 

何が起きているのかわからなかった。延期になったのならば運営からお知らせがあるはずだがそれもない。

画面にあるはずのMAP情報、HPとMPを示すゲージ、チャット欄、そして時計までも見えなくなっている。

ユーザーからクソ運営とまで言われるあの運営ならサーバーダウンに伴うバグの可能性も少なくはない。

 

 

モモンガはそこまで考えて、まだロスタイムがあるならとエールに意識を向ける。

 

 

「エールさん、さっきのはどういう意味で言ったんですか?場合によっては、さすがに俺も怒りますよ?」

 

「ち、違います!わ、私は………っ!?も、モモンガさん痛い!痛いです!!」

 

「え!?」

 

 

先の言葉を訂正しようとしたエールだが、急に苦痛の表情を浮かべ、モモンガと握手している自分の腕を掴み激痛を訴えてきた。

ちょっとだけ怒ったとはいえ強く掴みすぎたかと思い慌てて掴んでいた手を離す。

 

 

「す、すみません。大丈夫ですか?」

 

「は、はい………すごくピリピリして痛かったけど大丈夫です…」

 

 

手を摩りながらも大丈夫と返してくれたが、ここでモモンガは気付く。

痛み。仮想現実(ゲーム)で痛覚があると、そんなものを本当に感じるようになってしまったらゲームがゲームでなくなってしまう。プログラムのバグで痛みを感じるようになるなんて、いくらなんでも異常だった。

そして痛みの発生源であるモモンガは自身の手に目を向ける。

すぐ思い出したそれは、自分のアバターの種族、死の支配者(オーバーロード)の持つスキル「負の接触(ネガティブ・タッチ)

接触した相手に負のダメージを与えるスキル。だが本来はパーティメンバーやギルドメンバーにはダメージを与えるどころか攻撃スキルを使うことすらできないはずだ。

FF(フレンドリーファイア)が解禁されるバグ?

 

 

訳が分からない。いったい何が起こっているのか、ログアウトすらされない状況で混乱する中、更なる混乱の種が舞い降りる。

 

 

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様、エール・F・フィアー様」

 

 

 

聞いたことのない第三者の声。

声音からは女性だということがわかるが、誰が発したものなのかわからない。二人は一度顔を合わせ声の聞こえた方に恐る恐る顔を向ける。

 

 

「何か問題でもございましたか?」

 

 

そこには玉座の近くで控えていたNPC、アルベドが心配そうな表情でこちらの様子を窺っていた。

訳の分からない状況でモモンガの思考はフリーズしていた。誰も言葉を発しない中、先に口火を切ったのはエールだった。

 

 

「アルベド………?」

 

「はい!階層守護者統括、アルベドでございます。エール・F・フィアー様!」

 

 

名前を呼ばれた事が嬉しいのか、頬をほんのり染めて笑顔満点で返事をするアルベドにエールは以前味わったユグドラシル最大の恐怖を思い出した。

 

 

「アルベ………第五………ニグレ………」

 

 

アルベドの製作者、タブラ・スマラグディナが作った三体のNPCの内の一体。アインズ・ウール・ゴウンのメンバー全員が泣き叫ぶほど恐怖したNPC、それを体験したエールは………

 

 

「ちょ!?エールさん!?」

 

「エール・F・フィアー様!?」

 

 

後ろに向かって、早すぎず、遅すぎず、ゆっくり倒れていく。

自己の保存、気絶である。

 

 

「エールさん!?エールさん!?こんな状況で気絶(ログアウト)しないで!?」




書いては消して書いては消してでやっと書けた第1話。
ぶっちゃけ9割原作なぞってるだけって思われs(
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