沈んでいた意識が浮上するように、ゆっくりと目を覚ます。目に映るのは最近ようやく見慣れた白い天井、横になっている身体を起こして周りを見渡す。
壁も床も白で統一された真っ白な空間、白は清潔感ある色でもあるが、ここまで全てが白だと逆に不気味に思えてくる。
周りには大量のベッドが間隔を開けて配置され、ベッドの脇には点滴スタンド、よくわからない高そうな機械が置かれて、そこからチューブや配線がベッドに向かって伸びている。
その伸びた先には、眠っている人。ベッドが軋んだり、寝返りをする音、いびきなどまったく聞こえない、静かな寝息だけが聞こえる異様な空間。
自身の身体に視線を落とす。他の人たちと同じように衣服の下から多数の配線が伸び機械に接続され、腕には点滴スタンドからのチューブが伸びていた。
(ユグドラシルも、異世界転移も………アレは全部夢だったのか………そうだよね。そんな都合のいいことが起こるわけ………)
最後に唯一残った
周りに目を向ける。このまま目が覚めることはないであろう人達が羨ましかった。
こんな思いをするくらいなら意識なんて戻らないほうがよかった。こんな絶望的な奇跡なら起きないほうがよかった。
肉のあまりついてない皮と骨だけのような腕、そこに繋がるチューブを見つめる。
(………どうせ生きてても意味がないんだ。痛いのはイヤだから時間かかるけどこれなら………)
そう思いつくと、先端の針をもう片方の手で押さえてチューブを口に咥え、思い切り引っ張る。
何度か試すとチューブは分離して、残った針からはピュッ、ピュッ、と心臓の動きと一緒に自身の血が出てきてベッドを赤黒く染め上げていく。これで、時間はかかるだろうがいずれ………
(はぁ………最後に、夢の中でも会えないかなぁ)
あの時、優しく撫でてくれた骸骨の友人を思いながら目を瞑る………。
豪華なキングサイズのベッドから女性のうめき声ようなものが聞こえる。
「………んぅ………うぅ………っ!?」
何かよくないものを見たのか、ガバッと勢いよく起き上がり肩を上下に動かして苦しそうに呼吸するエール。
少し息を整え周りを確かめる。少し薄暗いが、ユグドラシルで使っていたいつもの寝室だ。
腕を触っても何もない、身体には何も繋がってない、現実の身体ではなくアバターの姿だが問題なくちゃんと動く。
「はぁ………イヤな夢」
目が冴えてしまった。近くのテーブルに置いてある〈
もう一眠りという気分でもないエールは、ちびちびと水を飲みながらどうしようか考える。
(0時ちょっとかぁ………モモンガさんもう寝ちゃったかな?………というかアンデッドって寝れるのかな?う~ん………寝てたら戻ってくればいっか。よし、行ってみよう)
モモンガの部屋に向かおうと寝室の扉を開ける。リビングには御付きのメイドが掃除中だったみたいで、手を止めて深く頭を下げてきた。
「ちょっとモモンガさんの部屋に行ってきます」
「では、お供いたします」
「一人で行けるから大丈……あぁ!?そんな顔しないでください!一緒に行きましょう!!ね!?案内お願いします」
一人で行くと言うと、メイドは青白い顔になって恐怖で表情を凍りつかせてしまった。そんな顔をさせるつもりはなかったエールは、慌てて今度はこちらからお願いする。
主人からお願いされて余程嬉しいのか、すぐに満面の笑みで扉を開けて、ご案内しますとエールを先導するメイド。
磨き上げられた大理石のような床から二人分の足音が響き渡る。
御付きのメイドに案内を任せエールは目だけで周りを見回す。高い天井、吊り下げられた豪華なシャンデリア、意匠の凝らされた壁面、ユグドラシルの時も作り込みが凄いと思っていたが、現実になったことで、その荘厳さと絢爛さに改めて圧倒される。
しばらくメイドの後に続くと目的の部屋に着いたようで、コンコンと扉をノックしていた。
扉から見えたメイドは、他のメイド達とは少しデザインの違う服を着ており、胸元には白の蝶ネクタイを着け濡れたような黒髪をポニーテールにし、髪と同じ黒い瞳の切れ長の眼をした美女。
「ナーベラル?」
現れたのはプレアデスの一人、ナーベラル・ガンマだった。
「これはエール・F・フィアー様!?モモンガ様に御用でしたら申し訳ございません。先程お出かけになり、今は居りません」
「出かけた?………いつ戻ってくるとか、どこに行ったかわかります?」
「そ、それが………極秘に行うことがあるそうで………供を許されずお一人で………」
「そうですか………いないならしょうがないです。部屋に戻りましょうか………ありがとうね、ナーベラル」
「わ、私ごとき僕に感謝などおやめください………ですが、勿体なきお言葉ありがとうございます」
訪れたのはいいが不在だと思わなかったエールは落胆して自室に戻ろうと、深々と頭を下げたナーベラルに手を振って、来た道をメイドと共に戻る。
部屋に戻ってきたエールは、先程中断させてしまった部屋の掃除をメイドにお願いしてから寝室にまた戻り、ベットに寝転がりながら出かけたモモンガの行き先が気になって考えを巡らせる。
(出かけた………ナザリックのことはアルベドとデミウルゴスに任せてるって言ってたから中を見回る必要ない………はず?護衛もメイドさん達も連れて行かないで一人で行くところってどこなんだろう………BARとか?………飲めるの?………あ!そういえば、周りは草原になってるって言ってたから外に見回りに行ったのかな?)
(………ずるいです。あのお骨さん、一人で異世界の景色満喫する気ですね。私も誘ってくれたっていいのに………こうなったら!)
一人置いてけぼりにされた気分のエールは何か思いついたのか、テーブルの上に紙とペンを用意して悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「よし!完璧です。これでどこに行ったかわかりますね。………でも、ちょっと気が引けますね………」
テーブルの向かって満足したように頷くエール。
そこには〈
『ちょっとモモンガさんと外見てきます』
思い付いたのは、書置きというやつだった。
メイドを心配させてしまう罪悪感よりも、外の景色を見てみたい好奇心が勝ったエールは左手の指に着けられた複数の指輪の内一つを指で撫でる。それはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンという、ギルドメンバーが一人一つは持っている指輪で、ナザリック内の名前のついていない部屋以外には回数無制限で転移できるというアイテムだ。
エールはその指輪を使い、地表部に一番近い第一階層の入り口近くに転移で移動する。
一瞬視界がブレてすぐに切り替わる。目の前には四、五人が並んで通れるような階段が現れる。ここを登れば外までもうすぐだ。
(ふふ~ん、どんな景色が見れるのかなー。ユグドラシルの草原っていうと、何も無いように見えて近づくと地中のモンスターが一気に襲ってくるとこや、歩くとダメージ受ける鋭い草が生えてるとことかあったっけ………ひぅ!?)
咄嗟に悲鳴が出ないように手で口を押え、隠れることができたエールは、登ってきた階段に身を屈め、目の前に見える三つの異形の影をもう一度見る。
一体は鬼のような顔つきに大きな二本の牙を生やし、鱗に覆われた肉体、蛇のような尻尾、翼には炎を纏ったモンスター。
もう一体は黒いボンテージファッションに身を包んだ女性の身体でカラスのような頭部をした女性型モンスター。
最後の一体はこめかみから上に向かって二本の角が伸びており、蝙蝠の翼と死神のような黒い鎌を持ったモンスター。
彼らの名前は
(な、な、なんでここに三魔将がいるのー!?七階層配置じゃなかったっけ!?………み、見つかったら絶対何か言われそうだし………そうだ!〈
透明になって見えなくする魔法を自身に掛ける。これで見つかることはないだろうと思い階段を静かに登っていく、姿は消せても足音や気配は消えないので、ふよふよ浮いて壁際に沿ってこっそりと地表部を目指す。
しかし、エールは忘れていた。この場には姿を消す程度で欺ける者が一人もいないことを………
(な、なんかこっち見てるような………き、気のせいだよね?)
「これはエール・F・フィアー様」
「………!?」
三魔将の影に隠れて姿は見えないが、聞き覚えのある女性の声。ゆっくりと姿を表したのは、僅かな微笑みを浮かべ、黒い天使の翼を腰から生やし、純白のドレスをまとった絶世の美女、守護者統括アルベドであった。
「お供も連れず、不可視化の魔法までかけてここにいらっしゃるなんて、何か非常事………ハッ!?もしかして!私がここに来ることをご存じで密かにお会いしに!?あぁ!やはり至高の御方々と私は共に運命の赤い糸で結ばれているのですね!!」
「えぇ!?どういうことですか!?」
どういう解釈でその答えを出したのか分からないが。下手な嘘をつけばもっと訳が分からなくなりそうだと思ったエールは正直にここに来た理由をアルベドに話す。
「いや、あの、そのぉ………じ、実は、モモンガさんがいると思って………その、黙ってきました………」
「まぁ!モモンガ様までお越しに!?どうしましょう、初めてが三人でなんて………できれば最初はお一人ずつが………逆に御二方を一回で美味しくいただけるチャンスなのかしら?………あなたたち、モモンガ様がどこにいらっしゃるかわかるかしら?」
もっとひどい解釈だった。エールは心の中でアルベドのことを半ば諦めて、問われた三魔将のほうを見る。
お互いに顔を見合い、先程の出来事を簡潔に説明してくれた。
「モモ………んん、ダークウォリアー様は、デミウルゴス様を供に連れられ、外に行かれました」
「ダークウォ………え?誰ですか?」
突然知らない名前が出てきて困惑するエール。なぜ三魔将は言い直したのだろうか?と考えてみるも何の情報もないのでわかるわけがなかった。
だが今一番知りたかったことがわかった。目的の人物に会える、自身の好奇心も満たせるで一石二鳥だと思い、早くこの場を去りたかった。
「まぁ、モモンガさんは外にいるんですね?じゃあちょっと行ってき「お待ちください」ま………」
「近衛も連れずにお一人で、というのは見過ごせません」
先程まで翼をパタパタさせながら虚空を見つめていたアルベドから鋭い声で止められる。
声の雰囲気からして、先程の舞い上がったような感じではなく、ナザリック地下大墳墓守護者統括として、主人を危険に晒すわけにはいかないという鋼のような意思を感じる。
「そ、外に行くだけですし一人でも………」
「いけません。御身を御守りするのは、僕として当然のこと。しかし、我ら僕の力が至高の御方の足元にも及ばないことにエール・F・フィアー様はご不満なご様子。ならばそのご不満を少しでも解消するべく、護ることに関してはナザリック随一!この守護者統括アルベドが全身全霊でお供いたします!!」
外に出るだけでぞろぞろと近衛兵を連れていかなくてもいいのではと少しだけ反抗してみるも、諫めるように言われてしまう。
「ふ、不満なんてないですけど………は、はい、わかりました………じゃあ、あの、アルベド、お供お願いします」
「くふふ、畏まりました。………あなたたちは私とデミウルゴスが戻るまで周辺警備に当たりなさい」
魔将たちの間を通り抜け、丸い柱が等間隔に並ぶ薄暗い石畳の通路を出口に向かって進むエール。その少し後ろには先程お供に連れていけと熱弁していたアルベドが歩調を合わせて付いてくる。
不気味な第一階層の雰囲気と黙って付いてくるアルベドの靴音が合わさり少しばかり恐怖心を煽ってきて、気が気でないエールは何か話しをして心を落ち着かせようと話題になることを考える。
「あ、あの、アルベド?前から思ってたんですけど、私の名前を呼ぶ時フルネームだと言い辛くない?モモンガさんみたいにエールって略して呼んでもいいんですよ?」
「僕風情が至高の御方を略称でお呼びするという不敬は行えません」
仲間たちからは呼び易いよう好きに呼んでもらっていたので、フルネームで呼ばれるとむず痒く感じる。
それにNPCともう少し距離を縮めたいと思っているエールは、まずは呼び方から親近感を覚えてもらおうと思っての提案だったのだが、どうやら不敬にあたるようで気軽に呼んでくれそうにない。
「全然不敬じゃないんだけど………じゃ、じゃあエールさんって呼んでってお願いしていいですか?」
「お願いなどと………ハッ!?そうまでして私にその尊い名を呼んでもらいたいのですね!くふー!至高の御方を愛することを許された私だけは特別に、ということなのですね!」
またもや翼をパタパタさせてトリップしそうになるアルベド。
「えぇ!?あ、あの、みんなにもそう呼んでもらいたいからそういう訳じゃ………でも、今はアルベドにしかお願いしてないから特別、なのかな?」
「くふふふ、畏まりました。では、至高の御方のご意向に従いまして、エール様、とお呼びさせていただきます」
そんなやり取りをしているうちに地表への出口が見えてきた。出口から見える景色に、はやる気持ちを押さえられず小走りで向かう。
そして、そこに広がる光景に心奪われしばし眺めていた。
月と星の光が大地を照らし、穏やかな風が頬を撫で草花が揺れる。イメージビデオで見たことがある、かつて
「うっわぁ~………これは………六階層もすごいと思いましたけど、こっちもすごいですね~………モモンガさんはどこにいるんでしょう?」
「エール様、モモンガ様は上空にございます」
「空?それは………いい景色が見れそうですね!早くモモンガさんを探しに行きましょう!」
「え、エール様!?」
エールはアルベドの手を引きながら急かすように翼をはためかせ中空に飛び出す。慌ててアルベドも自身の翼を動かし追従するように飛行する。
小さくなっていくナザリック地表部を眺めながら上空を目指す、いつの間にか隣に並んだアルベドを横目にぐんぐん高度を上げて行く。雲を抜けてどれだけ上昇しただろうか、澄んだ空気を肺の中一杯に取り込み夜空の散歩を満喫する。
しかし目的があってここまで来たのを思い出したエールは周りをキョロキョロと探して見る。だが暗くて分かりづらい、夜目が利く種族ではないエールは、困ったようにアルベドの方を見ると、彼女は別の方向を向いていた。
そちらに眼を向けると、巨大な月をバックに黒い全身鎧を纏い、その上に羽織った深紅のマントが風に揺られた骸骨頭の人物と、カエルの頭部に丸メガネを掛け、濡れたような皮膜の翼、銀のプレートで覆われた尻尾をゆらゆらと揺らした異形の者を見つけた。
「ヒゥ!?………鎧の人は、モモンガさん………?」
赤いストライプ柄のスーツとお供に連れていくという話を聞いていたので、あのカエルが階層守護者のデミウルゴスだとすぐにわかったのだが、近づいて見るとゲームの時はわからなかった肌の質感などが現実になったことでよりリアルになったカエルの見た目に驚き、アルベドの影に隠れる。
そして全身鎧を装備して兜だけを取り、骸骨の頭部を晒しているモモンガ。月を見て、何か考えてるのかこちらに気づく気配はないが、その背中からは寂しさに似た雰囲気を漂わせていた。
こちらに気付いたデミウルゴスが胸に手を当て、静かに深々と頭を下げてきた。アルベドの後ろから顔だけだして手を振って答える。
(モモンガさん、なんだか元気なさそうですね。それに全然こっちに………ハッ!?これは、もしかしてチャンスというやつなのでは!元気づける意味も込めて………フッフッフ)
悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべ、アルベドとデミウルゴスに向かって人差し指を立て、口元に近づけて無言のゼスチャーをしてから、静かに前に進み出る。疑問に思いながらも主人の命に従い静かにする。
普段はやられる側のエールがこういった場面に遭遇するのは珍しいのだが、大抵は直前に気付かれるか、最初から気付かれてて逆にやられるパターンがほとんどなのだが、今回のターゲットは鈍感なのか、まったく気付く気配がない。
何をしてやろうかと考えている間に、手を伸ばせば届くような距離まで迫ってしまった。ここまで気付かれないのは初めてなので逆に何かあるんじゃないかと疑い始めてしまう。
(ど、どうしよう………いつもと違うパターンです。ほ、ホントにチャンスなんですか?実は幻術とかで、どこかに隠れて見てるとか?………そうですよ!じゃなきゃここまで気付かないわけないです!デミウルゴスが気付かないってことは高位の魔法を使ってるのかな?むぅ!なかなかに手の込んだ罠を仕掛けてきますね!!そっちがその気ならあえて乗ってあげましょう!)
疑問に思い始めると目の前に見える戦士風のモモンガは、幻術か何かで作られた偽物で、実際はどこかに潜んで笑われているのだと結論付けたエールは、わざと引っかかっり、モモンガの目論見を外してやろうと目の前の背中を見据える。
(低位の幻術だとすり抜けたりするけど、高位のはちゃんと当たり判定とかもあるんだっけ?どうしよ、忘れちゃいました………でも攻撃受けたりすると消えるはずだから、叩いてみたり?………いやいや!わざと引っかかるんだからもっと大袈裟にやらないと!!………よし、ここは体当たりで一気に!)
偽物のモモンガにわざとぶつかり、大袈裟に騙されたリアクションをしようと決め、少し助走距離を取る。相手は幻術、当たっても痛くないだろうと予想をつけ、全力でぶつかりに行く。
(行きますよー!………3、2、1、GO!)
「………ん?なん「えーい!」ぐほあっ!?」
「「モモンガ様!?」」
ちょうどよく気付き、振り向いたところに助走で加速をつけた全力タックルが炸裂するが、なんとか勢いを殺し受け止めたモモンガ。突然のエールの行動に驚愕し、モモンガの心配する守護者二人。
「うわー、偽物じゃないですかー。やってくれまし………た………ね?」
「おいこら焼鳥。やられたのは俺だ」
「………あれ!?偽物じゃないの!?ごごご、ごめんなさい!大丈夫でしたか!?」
何かを探すようにキョロキョロしていたエールの頭を鷲掴みして少し怒ったような声を出すモモンガ。幻術か何かだと思い込んでいたのがまさか本物だと思わず、慌てて謝罪しだす。
「大丈夫ですけど、偽物?なんのことかわかりませんが鳥頭だけじゃなく鳥目にもなったんですか?」
「ひどい言い様ですね!?目はしょうがないにしても頭はいいほうですー!ふん!」
自身に非があるとはいえ、まさかそこまで言われると思わなかったエールは頬を膨らませ怒ったように抗議する。
「すみません、言い過ぎましたね。それで?どうしたんですか?休んだって聞いたのでてっきり寝てると思ったんですけど」
「いやぁ、なんか目が冴えちゃって、寝れないから話し相手にモモンガさんを探してて………」
「そうだったん………あぁ、そういうことですか。お~よしよし」
そう言ってモモンガは鷲掴みしていた頭をちょっと揶揄うように撫で回す。
「なっ!?違いますからね!怖い夢見たとかそういうんじゃないですよ!?ただ寝れないなーって思っただけで………!!」
「もう答える言ってるようなものじゃないですか………」
「あぅ………」
揶揄われてるとわかって否定しようとするが、余計なことまで言ってバレて落ち込んでしまう。
骨の手に僅かに伝わる振動、それは小さく震えるエールのものだった。こんなに怯えるような性格だったか?と疑問に思うも、今度は慰めるように背中を優しく叩きながら頭を撫でる。
「どんな夢かわかりませんけど、俺が護るって言ったじゃないですか。それにナザリックのNPC達もいるんです。難攻不落の拠点にいるんですから安心してください。それに、エールさんは笑ってる方が似合いますよ」
「~~~~~!!そ、それより!ダークウォリアー様はデミウルゴスと何を話してたんですか!?」
エールは顔が真っ赤になっていくのを感じる。あの時は大泣きした後だから嬉しく思ったが、素面の状態で面と向かって言われるとかなり恥ずかしい。
本人はそんなこと思ってないのだろうが、本当にプロポーズされてるような気分だ。耳まで真っ赤にしたエールは無理矢理にでも話題を変える。
「うぐっ………どこでそれを………はぁ、実は………」
最初はエールにしか聞こえないように小声で、支配者ロールに疲れたことや一人の時間が欲しくて嘘をついて抜け出し、変装までしたのに結局バレて一人になれなかったことを話してくれた。
自分には出来なかったと早々にリタイアしてしまったことでモモンガに気の抜けない生活を強制させてしまっていたことに罪悪感を感じてしまう。
「すみません。私が役に立たないせいで………」
「そんなことないですよ。もしこの世界に一人で来てたら心細かったですし………だからエールさんが一緒に居てくれてよかった」
「………ふふ、骸骨さんは寂しいと死んじゃうのかな?」
「死んじゃうっていうかもう死んでますよね?」
満天の星空の下、笑い声が辺りに木霊する。支配者同士の楽しそうなやり取りを少し離れたところで眺めていた守護者二人は星々や月を指差しお互いに笑い合うその光景に思わず笑みが零れる。
普段は見られないであろう至高の御方々の尊い姿に、今日この場に居合わせられたことをお互いに感謝した。
「デミウルゴスとナザリックの防衛に関する相談の予定だったけど、至高の御方のこんなにも尊い御姿を拝見させていただけるなんて………今日はあなたに感謝しないといけないわね」
「私もさ、アルベド。まさかモモンガ様に続きエール・F・フィアー様までお越しいただけるとは。それにあんなにも仲睦まじいご様子………アルベド」
「えぇ、デミウルゴス」
(お世継ぎのご尊顔を見られる日も近いですね)
(お二方からご寵愛をいただける日も近いわね)
一言で意思疎通できてるようでできてない二人であった。
一頻り思い出話に花を咲かせ、モモンガは思い出したように先程のデミウルゴスとのやり取りを話す。
星が煌めく夜空を見て、自然について熱く語っていたギルドメンバーの
「あと世界征服とか面白そうだなって」
「モモンガさんって意外とロマンチストなんですね?それに………ウルベルトさんとるし★ふぁーさんと………あと誰でしたっけ?なんか似たようなこと言ってましたよね?」
「ばりあぶる・たりすまんさんとベルリバーさんですね」
「そーですそーです!………ホントにするんですか?」
「するわけないじゃないですか。デミウルゴスがこの世界を捧げたいですとかって言うから、悪の組織の親玉っぽい演技で「世界征服か……面白そうだな」って冗談で言っただけで、そもそもここがどんな世界かわからないんです。下手なことして敵作る必要ないじゃないですか」
心配そうに聞いてくるエールに呆れたように返すモモンガ。ただこの美しい世界を手に入れてみたいと思ったのは確かだ、そしてかつてギルドメンバーが「ユグドラシルの世界の一つくらい征服してみようぜ」と言ったことを思い出し、ノリで言った冗談話にそこまで心配しなくても大丈夫だと言い聞かせる。
「でも………もしかしたら俺たち以外にも他のギルドメンバーが来てるかもしれない。今は連絡が付かないからどうしようもないけど、この世界を当てもなく探すよりアインズ・ウール・ゴウンの名を広めて行けば、向こうから会いに来てくれるかもしれない。それなら、世界征服も有りかなって思ったんです」
「私も、皆に会えるなら会いたいです!」
自分たちがこんな異常事態に巻き込まれているのだ、もしかすれば引退していった他のギルドメンバーがこの世界に来ていて会えるかもしれないと明るい声で話す。
「えぇ、またあの頃のように馬鹿やって楽しく過ごしたいですね………よし、そろそろ戻りますか?お互い一人で抜け出してきたからメイド達が心配するかもですし」
「は~い」
「アルベド、デミウルゴス。私たちは九階層に戻る。何かやることがあったのだろう?付き合わせてすまなかったな」
「滅相もございません。私の我が儘を受け入れていただき供をご許可くださったモモンガ様の御慈悲には感謝しかございません」
「至高の御方々の貴重なお時間を私どもに割いていただき感謝しております。それに、エール様との夜間飛行、僅かな時間でしたが至福の一時でございました」
普段いるはずのない第一階層にナザリックの知恵者二人がいたことを考えれば、防衛に関することやシモベの配置変えでもしようとしていたのだろう。それを邪魔してしまったであろうモモンガは謝罪を口にするが、逆に供に連れてくれたことを感謝し深々と頭を下げる二人の守護者。
「アルベド、今日はありがとうございました。また今度、二人で夜空の散歩をしましょうね」
「………!?今度は………二人で………二人っきりで………くふ、くふふふ………」
「っ!?」
一瞬、エールの全身に言いようのない悪寒が走った。腕を抱え辺りを見渡すが不思議そうに首を傾げるモモンガと頭を下げて表情の窺い知れない守護者二人しかいない。
「寒いんですか?見たところ耐性か無効化の装備付けてないようですけど、風邪を引く前に早く戻りましょうか」
「そ、そうですね。じゃあ二人とも、先に戻ってますね」
両者に戻ることを告げ、モモンガの転移魔法で移動する。視界が移り変わり、ナザリック地表部に着いた二人は、指輪の力で九階層に戻ると、そこには怒れる竜を背後に幻視するほど怒っているであろう