オーバーロード 死の支配者と不死鳥物語   作:リュウさん

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第06話

太陽の暖かな陽射しを浴びながら風に髪をなびかせて、現実(リアル)では見たことのない大自然に囲まれながら、騎士の集団に襲われてる村を救うべくセバスを伴い林道を駆ける。

ここまでの道中に伏兵はいなかったが、これから先もいないとは限らない。いつでも対処できるよう周囲への警戒を怠らないように慎重に進む。

 

村に向かいながら先程の騎士を蹴り飛ばしたことを思い返す。

ナザリックにいたときは、この世界にユグドラシルのアバターのまま来たという実感がなく、ゲームの延長みたいなものだと思っていたが、あの姉妹を助けた時、少しの距離だがとても早く走れた。騎士を蹴り飛ばした時は何か柔らかい、ゴムボールを蹴ったような感触だった。

 

ユグドラシルではあまり筋力と素早さにステータスを振らなかったので、近接戦闘のダメージ貢献など期待できないものだったが、アバターのステータスが現実になるとあんなに速く走れて、人間一人を蹴り飛ばす膂力を発揮できるようになるとは思いもしなかった。

 

意識するとわかる自身の能力(ちから)。ギルドメンバーのペロロンチーノが言ってたように、この力があればゲームの主人公のように困ってる人を助けられる。あの姉妹と約束した、村の皆を助けることだって可能だ。

自身の力を再認識したエールが村の方に目を向けると、黒煙が上がり、金属同士がぶつかる甲高い音や悲鳴のような声が聞こえてきた。

 

異形の存在になったことで風に乗って運ばれてくる僅かな鉄の匂いと焦げ臭さを感じる。それは村に近づくにつれ強く、濃厚になっていく。

モモンガの作った死の騎士(デス・ナイト)がまだ戦っているのだろう、悲鳴は村人か、はたまた騎士のものか。

 

背の高い木や草がなくなり視界が開け、石造りの建物がちらほら見える。

周りを警戒し、建物の陰に隠れて移動する。

 

 

「隠密行動って私に向いてないからやりたくないんですよね………というか、騎士のレベルって一〇以下ないんでしたっけ?姿を消して空から様子見ても大丈夫なんじゃないでしょうか?」

 

「私も隠密を得意とする職業は有しておりませんのでお役に立てず申し訳ございません。ですが、万が一不可視化を看破されれば空中では遮蔽物もなく狙い撃ちにされてしまいます。ここはモモンガ様のお言葉通り慎重に、不可視化の魔法を使いつつ建物を陰にして行動されるべきかと申し上げます」

 

「なるほど、言われてみればそうですね………って、さっき言われたばかりなのにダメですね。油断大敵でした。じゃあ不可視化は私の魔法で、あとは~、え~っと………はい、手を出して」

 

 

建物の陰に隠れ少し愚痴を零すと、セバスからもっともなことを言われモモンガの言葉を思い出す。

虚空に手をかざしインベントリから布袋を取り出す。<無限の背負い袋(インフィニティ・ハウンザック)>と呼ばれる、総重量500Kgまでアイテムを収納できる鞄からいくつかのアイテムを取り出す。

 

飾り気のないシンプルなデザインの指輪、キーホルダーのような手乗りサイズの盾、音符に×印のイラストが描かれたバングル。

それらを二つずつ取り出し、一つは自身で装備し、もう一つはセバスに持たせる。

 

 

「エール・F・フィアー様、こちらのアイテムは?」

 

「え?………あ、ごめんなさい。ただ渡されたってわからないですよね。これが探知系の魔法や特殊技能(スキル)に引っかからなくなる指輪でしょ~、こっちは<静寂(サイレンス)>の魔法が付与されたバングルで、範囲以内の音を消してくれるんですよ。この盾は使い切りアイテムですけど、ダメージを一回だけ無効化してくれるんです。でも連続攻撃は最初の一回目だけだし、〇ダメージでも発動しちゃうんですよ。しかも次に使えるようになるまで五分も冷却時間(クールタイム)が必要なんです。微妙なアイテムですけど奇襲を受けたときにいいかなと思って」

 

 

手に持っているアイテムを一つずつ説明するが、アイテムを見つめたまま固まったように動かなくなるセバス。

 

 

「………やっぱりこれだけじゃ足りませんよね………ん~、隠密行動って言えば姿、音、気配を消すことだと思ったけど、弐式炎雷さんってあとどんなの持ってたっけ………部屋に戻れば何かあると思うけど、今から戻ってる暇ないし………」

 

 

何かを考えるように黙ってしまったセバスを見て、やはり隠密とはそう簡単なものじゃないかと、隠密行動に特化したギルドメンバーを思い出しながら、他に何が必要か考える。

 

 

「いえ、そのようなことはございません。ただ………このアイテムはどうすればよいのでしょう?」

 

「………んん?これは指に着けてこれは腕で、こっちは自動で発動するからポッケにでも入れてください。ほらほら、早く着けてくださいね」

 

 

アイテムをどこに付けていいかわからないのかと思い丁寧に教えてあげると、いつもの獲物を狙うような眼が、驚愕に見開かれる。

 

 

「至高の御方であるエール・F・フィアー様の貴重なアイテムを、私ごとき僕が使うなど恐れ多いことです」

 

「え………でもさっき隠密得意じゃないって………」

 

「その通りございますが、しかし………」

 

 

二人とも隠密行動が得意じゃないので、その補助にでもなればと思ってアイテムを渡したのだが、まさか拒否されるとは思わなかった。

セバスの驚きの顔はアイテムの効果や使い方がわからなかったのではなく、まさか隠密行動が得意じゃないと言った自分にもこれらを使えと言われると思ってなかったのだろう。

 

しかしここまできて使えないと言われたも困る。なんとか説得できないかと頭を悩ませる。

 

 

「え~っと………セバスの気持ちもわかりますけど、遠慮してる場合じゃないです。今はモモンガさんの作ったアンデッドが騎士たちの相手をしてるから、私達は村人さんたちの元に向かうのを最優先に考えましょう。そのために不要な戦闘はなるべくなら避けたほうがいいと思うんです。」

 

「……………畏まりました。ですが、万が一敵に見つかってしまった時は私にお任せください」

 

「はい、その時は頼りにしてますからね!………じゃ行きますよ<不可視化(インヴィジビリティ)>」

 

 

納得してくれたのか、渡されたアイテムを装備していくセバス。

装備し終わったのを確認すると、不可視化の魔法を掛けてから村の中央を目指し建物の陰に隠れながら移動を始める。

 

隠れた建物から、村の中へと続く大きな道を覗くと、黒く変色した血溜まりの中に粗末な服を着た村人と思われる人間が所々に倒れている。

近くに倒れている男をよく見ると、肌の露出している部分は赤黒く腫れ上がり、どれが致命傷かわからないくらい剣で滅多刺しにされていた。

 

 

「ひどい………人間種同士なのに、こんなこと………」

 

 

嬲り殺された死体を見て思わず独り言を呟く。

視線を移せば女性、また別のところには子供や老人の死体が散乱していた。

 

無意識に握られていた拳に力が入る。理不尽な暴力に抗う術のない、見るからに非戦闘員な村人に対してこのような残虐な行為を行う騎士たちに怒りが込み上げてくる。

弱い相手を複数人で、遊ぶように殺す。まるでユグドラシルでPK現場を見たような気分だった。

 

かつてユグドラシルで横行していた集団PK、この世界でも似たようなことが行われていると思うと怒りの火がまた灯り始める。

今度は断末魔のような叫び声と甲高い金属音が聞こえ、遅れて角笛のような音が高らかに響き渡る。

 

 

「っ!?早く行かないと!」

 

 

死体から目を離し、人目につかないよう建物から建物へ移動する。

 

それほど大きくない村だったようで、すぐに村の中央と思われる場所が見えた。

そこには二、三メートルほどの高さがある質素な木製の櫓が建っており、周りには大人や老人が、櫓の下には子供達が集められ身を寄せあっていた。

 

少し視線を移すと、モモンガの作った死の騎士(デス・ナイト)はまだ健在で、その周囲には大地を赤黒く染め、倒れ伏す複数の騎士。

まだ数名ほど立っている騎士はいるが、剣先は震え、鎧からはカチャカチャと音を鳴らして明らかに怯えたような有り様だった。

 

出ていくタイミングを見計らっていると、死の騎士(デス・ナイト)がゆっくりとした足取りでまだ生きている騎士達に近付いていく。

一歩、また一歩と獲物が怯える姿を楽しむように距離を詰めるが、騎士達は逃げる気力もないのか、誰も動く気配がない。

 

地面に倒れてる騎士達の有り様を見れば逃げても意味がないことを悟っているのだろう。

 

 

(モモンガさんモモンガさん、村を襲っていた騎士達ですけど、死の騎士(デス・ナイト)がもう残り数人になるくらいまで倒しちゃったんですけど………全部倒させちゃっていいんですか?)

 

(こいつら下っ端なのか、あまり重要な情報は持ってないんですよね。この村だけじゃなく他の村も襲撃して回ってたようで、その理由が人類が団結するために必要な犠牲とか言ってたし………)

 

(そんな………そんな理由で力のない人達を切り捨てるなんて………)

 

(最初は生きて帰らせて、ここら辺で騒ぎを起こすなって釘指して置こうと思ったんですけど、予定変更してここで行方不明になってもらいます)

 

「オオォォォアァァァァ!!」

 

 

モモンガの言葉が終わると同時に死の騎士(デス・ナイト)から身も凍るような咆哮が発せられる。

まるで獲物に飛びかかる獣のように、その巨体に似合わぬ俊敏さで瞬く間に残りの騎士達の首を跳ねていく。頭部を失った身体はよろよろと揺れ動いた後、けたたましい音を立て、鮮血を撒き散らしながら地面に倒れ込む。

 

(もう戦う意思がなかったみたいだから何もそこまでしなくてもよかったんじゃ………)

 

(村の周りにいた伏兵からこいつらの国の情報を少し手に入れたんですけど、こいつらの仕えてる国っていうのが宗教国家みたいで、俺達の存在を知られるのは不味いと思ったんですよ)

 

(どんな国なんですか?)

 

(端折って言いますけど、人は神に選ばれた特別な存在、だから人以外の他種族は排除すべきって思想を掲げてるヤバイとこなんですよ。そんな国に俺達異形種ギルドの存在が知られたら?)

 

(………)

 

 

言葉が出てこなかった。ユグドラシルでは人間種同士で徒党を組むのは当たり前だし、たまに亜人種が混ざって仲良くしてるのだが、その国では人間〝種〟ではなく人間以外は排除という極端な考えを持っているようだ。

オーガやトロール等の亜人種すら排除の対象なら、嫌われ者の異形種なんてそもそも存在自体許さないのではないだろうか。

 

そこに異形種のみで構成されるアインズ・ウール・ゴウンの存在が知られれば、以前一度だけあった八ギルド連合とその関係ギルド、傭兵プレイヤーと傭兵NPC、合わせて一五〇〇人にもなる大軍が攻めてきた時のような大侵攻が起きるかもしれない。

まだこの世界のことがわからない状況で騎士達を無事に帰し自分達の情報を持ち帰らせるより、行方不明になったことにしてその国と関わることは避けたかったのだろう。

 

 

(それに、ちょっと興味深いことも知れましたしね)

 

(興味深いこと?)

 

(あとで教えます。それで、今不可視化して上空にいるんですけど一緒に村人達の前に出ますか?助けたこと含め、ギルドの代表として挨拶しようかと思ったんですけど)

 

 

上空に目を向ければ、風にはためかせローブは胸元までしっかり閉めて骸骨の身体を見えないよう隠され、腕には無骨な鉄製のガントレットを、顔には怒ってるのような泣いているような形容しがたい表情の装飾がされた顔全体を覆うタイプのマスクを着けたモモンガの姿があった。

如何にも邪悪そうな見た目だが、先程少女達が怯えていたことや、エールに言われたことで骸骨の姿そのままで村人達の前に出るのはよくないと思い変装したのだろう。

 

 

(うわぁ………如何にも怪しい感じですね)

 

(ぐ………しょうがないじゃないですか!顔隠せるのこれしかなかったんですから………)

 

(そんな怪しさ満点のモモンガさんが出てきたらもっと怖がられるかもしれないので私も一緒に出ます!)

 

 

騎士達を殲滅し終わり沈黙する死の騎士(デス・ナイト)を前に、村人達の顔色が恐怖に青ざめる。

次は自分達の番だ。ただの木の棒や農具を手に持って武器の代わりにしている者もいるが、恐怖に震えて落とさないように持っているのがやっとのようだ。

 

 

死の騎士(デス・ナイト)よ、そこまでだ」

 

 

静寂が支配する空間にモモンガの演技(ロールプレイ)を意識した威厳ある声が響く。

村人達が声の聞こえた方向を向けば、漆黒の騎士を伴い、ゆっくりと地上に降り立つ邪悪な存在がそこにいた。

 

モモンガ達が姿を現したのを見て、エール達も不可視化の魔法を解こうとして、声が聞こえないように着けた<静寂(サイレンス)>の魔法が付与されたバングルを外すようセバスにゼスチャーで指示をする。

外したバングルをわざわざハンカチの上に乗せて返してくるセバスに、持っててもいいのにと思いながらも、それを言えばまた全力で拒否されるだろうと、素直に受け取りインベントリに仕舞う。

 

降りてきたモモンガの隣に移動してから不可視化の魔法を解除すると、村人達から驚愕に息を飲む声が聞こえる。

 

 

「皆さん、驚かせてごめんなさい、騎士達は倒しました。もう安心してください」

 

 

エールは村人達を安心させるように優しい口調で話しかける。

 

 

「あ、あなた様方は………」

 

 

身を寄せ合っていた村人達の代表と思われる人物が口を開く。まだ恐怖が抜けてないようで、エール達を見つめる目にはまだ怯えの色があった。

 

 

「この村が襲われてるのを見かけたので助けに来ました」

 

「おぉ………」

 

 

ここでようやく自分達は助けられたと理解でき、ざわめきが起こり安堵の色が浮かぶ。だが、こんな見た目様々な集団を前に村人達はまだ不安を隠せないでいた。

そのことを感じ取ったモモンガは選手交替とでも言うように、エールの肩に手を置き口を開く。

 

 

「とはいえ、ただと言うわけではない。生き残った村人の数にかけただけの金をもらいたいのだが?」

 

(ちょっとモモンガさん!?今さっき襲われたばっかりなのにそんなこと言わなくても!)

 

(よく言うでしょ?只より高いものはないって、無償で助けたって言うよりも金銭目的で助けたって言えば少しは安心してもらえますよ。まぁ、俺もこういうやり方はあんまり好きじゃないですけど)

 

 

その言葉を聞いた村人達はお互いの顔を見合わせる。小さな村だから金銭的に心許ないと言った表情だが、明らかに先程より不安の色は薄れたようだ。

 

 

「村は今このような状態で………」

 

 

モモンガは手を上げ、話を遮る。

 

 

「その話はあとでにしないかね?先程ここに来る途中姉妹を助けたのでね、連れてくるので少々時間をもらおう」

 

 

言うが早いか、エールも付いてくるようにと手招きをして、踵を返し歩き出すモモンガ。

 

 

(今からあの娘達に<記憶操作(コントロール・アムネジア)>の魔法を使います。あの騎士達で少し試したんですけど、本当に他人の記憶が見えたんですよ。まだ記憶の改竄とか消去は試してないですけど、俺の素顔に関する記憶を改竄してみようと思います)

 

(そんなことしなくても言い触らしたりしませんよ………たぶん………)

 

(俺も大丈夫だとは思いますけど、この世界でアンデッドは恐怖の対象です。どこで口が滑るかわかりませんから。あと記憶を覗かれてもいいように念のためです)

 

 

この世界でアンデッドが恐れられる存在ならモモンガの正体を知られるわけにはいかない。

口止めをお願いしても記憶を覗かれたらそれも意味がなくなってしまう。ならば最初からモモンガがアンデッドという記憶を書き換えてしまおうと言うことなのだろう。

 

 

(まぁ、そういうことなら………)

 

 

少女達の心配をしながら迎えに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この村──カルネ村というらしい──の村長の家で村長、エール、モモンガの三人でテーブルを囲みながら、これからの話をしていた。

初めての異世界人との交流が報酬の金銭というどうも卑しい話から始まってしまったが、モモンガからすれば少しでも信用してもらえれば話す切っ掛けは何でもよかったらしい。

 

あまりお金を使う生活をしていないのか、村長は申し訳なさそうな顔をして、村からかき集めた銅貨三〇〇〇枚を報酬として提示してきたが、それが高いのか安いのか全然わからない。今ほしいのは現地通貨ではない。

いらないわけではないが、今は物言わぬ通貨よりも周辺地理や主な主要都市などの情報がほしかった。

 

自分達は遠い所から魔法の暴走でこの地に来たという即興の設定を作り、常識としている知識などの情報を売ってもらうという形で報酬として話が纏まり、村長から色々教えてもらい一段落ついた頃。

 

 

「………やはり街に行ってみる必要があるな」

 

「そうですね。私達の知らないことが多すぎます」

 

 

この世界のことを知るにはやはり大きな街に行って、そこで情報収集をしなければならないかと二人で悩んでいると、扉をノックする音が響く。

村長が扉の方を見たあと視線を戻し二人を窺ってくる。

 

 

「出ていただいて構いませんよ。何か用があるんでしょうから」

 

「申し訳ありません」

 

 

エールの言葉を聞いて頭を下げて立ち上がり、扉の方に歩いていく村長。

扉を開けると村人が一人立っていた。村長に目を向け、次にモモンガ達に視線を移す。

 

 

「お話し中すみません。葬儀の準備が整ったので………」

 

「そうか………」

 

 

村長が許可を求めるようにこちらに視線を向ける。

葬儀という言葉に俯いてしまったエールに代わりモモンガが答える。

 

 

「私達のことはお気になさらず」

 

「ありがとうございます。すぐ行くと伝えてくれ」

 

 

 

 

 

村はずれの少し小高くなった丘にある共同墓地に村人達が集まり葬儀が始まる。

簡素な柵で囲まれた墓地には、墓石となる丸石に名前が刻まれてポツポツと点在していた。

 

葬儀をしている村人達から離れたところでその様子を見ているエールとモモンガ。

葬儀に参加している村人の中に最初に助けた姉妹、エンリ・エモットとネム・エモットの姿を見かけると、エールは悲愴な面持ちになる。

 

 

「………モモンガさん」

 

「ダメです」

 

 

有無を言わさぬ否定の言葉がモモンガから出る。

 

 

「まだ何も言ってないじゃないですか………」

 

「言わなくても何をしたいのかわかりますからね」

 

「なんでなんですか………任せろって、助けるって約束したのに………今の私にはそれが出来るのに………」

 

 

エールの特殊技能(スキル)を使えば、亡くなった村人全員どころか今も墓石の下で眠っている者すら蘇生可能だ。だが、モモンガはそれをよしとしない。

村長の話では、この世界には死者を蘇らせる魔法はないらしい。そんな御伽話にでも出てくる奇跡のような魔法を自分は使える。

 

だが、その話を聞いた時モモンガに釘を刺されてしまい村人の蘇生を行うことは許されなかった。

 

 

「相手を殺すことと蘇らせること、今の俺達はどちらも簡単に行うことが出来ます。けどこの世界では死者の復活に関する魔法が………俺達が使えるから存在はするんでしょうけど、知られてないのかもしれない。そこで復活魔法が使えるなんて知られたら、間違いなく厄介ごとに巻き込まれるのは言わなくてもわかりますよね?」

 

「皆さんに口止めをお願いすれば言ったりしませんよ………」

 

「魔法のあるこの世界で、それが本当に守られる確信でもあるんですか?」

 

「それは………」

 

 

あるわけない。

口を割らせる方法などいくらでもあるだろう。魔法なら魅了(チャーム)支配(ドミネート)を掛けられれば間違いなく洗いざらい喋ることになる。

 

 

「今は色々な情報が不足しています。今回は村を救ったことで満足してもらいましょう」

 

 

自惚れていた。ユグドラシルのアバターの姿になったことでゲームの主人公のように困った人を助け、亡くなった人を蘇らせ、最後は皆でハッピーエンドなんて思っていたが、そんなのは漫画やゲームだけの話。

ここはゲームではなく現実の世界で、置かれた状況はエールが考えるより甘くはない。

 

 

「はい……………あの、ちょっと行ってきます」

 

 

祈りの儀式が終わり、葬儀も終盤に差し掛かったのだろう、頃合いを見計らいエールがふわりと地面から浮かび上がる。

 

村人達の後ろに降り立つと、気付いた数人が息を飲み、エールの正面から退けるように移動する。それが伝播して村人達が次々と退けていく。

するとエールの前には墓石までの道が出来上がっていた。その先には、両親の墓の前で座り込み、声を上げて泣き続けるエモット姉妹の姿があった。

 

ゆっくりとした足取りで近付く。

何て声を掛ければいいか悩んでいると、足音に気付いた姉のエンリが振り向くと、涙を浮かべた目を驚愕に見開く。

 

 

「ふぃ、フィアー様!?すみません、こんなところをお見せしてしまって………」

 

「気にしないでください。私の方こそ謝らないと………皆さんを、ご両親を助けるって約束したのに………助けられなくて………ごめんなさい………」

 

 

頭を下げて謝罪するエールに村人達からざわめきが起こる。

 

 

「あ、頭を上げてくださいフィアー様!!」

 

 

それを見たエンリが慌てて止めに入る。

自分の足元と地面しか見えていなかったエールの視界に別な足が映り込む。それに気付いて顔を上げると、妹のネムが涙でグシャグシャになった顔でエールの前に立っていた。

 

 

「ネム?」

 

「フィアー様は約束通りネム達を助けてくれました!だから約束破ってないです!!」

 

 

また泣き出しそうに涙を浮かべて、だがエールの目をしっかりと見据え言葉を紡ぐ。

 

 

「ネム………フィアー様、ネムの言う通りです。フィアー様達が来てくだされなければ私達は今ここにいなかったかもしれないんですから、謝ることなんて何一つありません」

 

「ネムちゃん………エンリちゃん………」

 

「フィアー様達にも助けられましたけど、私とネムはお父さんとお母さんにも守られたから今生きてるんです。二人が命を懸けて守ってくれたその分もネムと一緒に精一杯生きていかないと!」

 

 

後ろにいる村人達に視線を移せば、全員が穏やかな表情を携えエール達に助けてもらったことを感謝しているようであった。

 

 

「あなた達は………強いんですね。私は、一人じゃ何もできなかったから………その強さが羨ましいです………」

 

 

エンリ達の前に来るまでどう謝ろうとか、なんて慰めの言葉を掛ければいいのだろうと考えていた自分が恥ずかしい。

この村の人たちは現実(リアル)の自分と比べるのが失礼なほど強い心を持っていた。

 

逆に慰められた気分のエールは、ネムの頭に優しく手を伸ばす。

 

 

「ふふ、ありがとう。私もお祈りしていい?」

 

「はい!ネムも一緒にやります!!」

 

「両親もきっと喜ぶと思います」

 

 

エールは墓石の前でしゃがみ、手を合わせて祈る。

エモット夫妻だけでなく、今回亡くなってしまった人達に、この村をいつまでも見守ってあげてください、と………

 

姉妹とのお祈りを終えモモンガの元に戻ると、隣にはセバスと黒い甲冑姿のアルベド、そして黒い忍者服を着た蜘蛛のようなモンスターが見えた。

 

 

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)?」

 

「エール・F・フィアー様、ご機嫌麗しゅうございます。では至高の御方々、御前失礼いたします」

 

 

頭を下げ、足早に森の中へと入っていく八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を見送りモモンガに何かあったんですかと言うように視線を戻す。

 

 

「何でもないですよ。ただ伝言ゲームがうまく伝わらなかっただけです」

 

「伝言ゲーム?」

 

 

誰とそんなことをしていたのだろうと頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「それより、何か言われました?」

 

「はい、この村の人たちはとても強い人達です。こんな状態なのに………ふふ、逆に元気をもらっちゃいました」

 

 

嬉しそうにそう話すエールの顔はとてもいい笑顔だった。

先程まで悲愴な面持ちだったのが、村人達との交流でだいぶ機嫌が良くなったエールにモモンガも満足そうに答える。

 

 

「よかったですね。いい関係が築けたようで」

 

「はい!」

 

「じゃ村長の家で待ってましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長から周辺地理やこの辺りの常識を学び終わる頃には、結構な時間が経過していたようで、家を出ると夕日が空を茜色に染め上げていた。

綺麗な夕日に心奪われ、しばらく眺めていると、目の前を木材や石材等を運んだ村人が通り過ぎる。

 

村人が来た方向に目を向けると、踏み荒らされた畑を直している人達や焼き討ちにあった家屋の瓦礫の撤去作業をしていた。

手伝った方がいいのだろうかとエールが考えているとモモンガが口を開く。

 

 

「はぁ………今日はもう帰りますか。いろんなこと頭に詰め込みすぎて疲れましたよ」

 

「手伝わなくていいんでしょうか?」

 

「………今度ゴーレムでも連れてきて来ましょうか?せっかく友好関係が築けたんですから贔屓しておきましょう」

 

 

次に来る時のことを話していると、隣に控えていたアルベドからあまり気にしないようにしていたピリピリとした殺気にも似た空気が強くなったのが伝わってくる。

モモンガは内心でため息を吐きながら声を低くしてアルベドに問いかける。

 

 

「………人間が嫌いか?」

 

「好きではありません。脆弱な生き物、下等生物。虫のように踏み潰したらどれだけ綺麗になるか」

 

 

優しそうな声色でずいぶんと苛烈なこと言うアルベドにそこまで人間が嫌いなのかと思いながら、エールは隣にいるセバスにあまり期待しないように同じことを聞いてみる。

 

 

「セバスも人間は嫌いなんですか?」

 

 

エールの言葉を聞き、しばし考えるような表情をすると、モモンガとアルベドの手前気を使っているのか、言葉を発しない代わりに首を横に振り、エールの質問に否定の意を示す。

騎士を躊躇なく粉砕したセバスの行動を見て、先程のアルベドと似たような答えが返ってくると思ったエールは軽く目を見開いてしまう。

 

 

「ホントに?」

 

 

思わず聞き返してしまうと、今度は胸に手を当て紳士的な礼で返してくる。

その答えに聞いたエールは、ほっと胸を撫で下ろす。アルベドのようにナザリックのNPC全員が人間嫌いだったのなら、その人間を助けたエールの行動にあまりいい感情を抱かないのではと内心ドキドキしていたからだ。

 

後先考えず行動してからそんなことを思っても遅いのだが、セバスのように人間が嫌いじゃないNPCもいることを知れたのは結果的によかったかもしれない。

 

 

「そうか………お前の気持ちはわかった。ただ、ここでは冷静に優しく振る舞え。演技と言うのは重要だぞ」

 

「そうですよ。それにアルベドは女の子なんですからそんな言葉遣いはダメですよ?」

 

 

モモンガが諭すようにアルベドに語りかけると、それに乗っかるようにエールも援護射撃を送る。

深く頭を下げて了解の意を示すアルベドからモモンガに視線を移す。

 

 

「じゃあ村長さんに一言挨拶してから帰りましょう」

 

 

社会人の礼儀として挨拶は欠かせない。モモンガもわかっていたようで、一緒に村長を捜す。

村の広場の一角、数人の村人達と話し合っている村長を見つけ近付いていく。だがそこにいる人達の顔には怯えのような感情を含んだ真剣な表情で、村の相談事というにはあまりにも緊迫感ある空気に包まれていた。

 

 

「厄介ごとか………」

 

 

モモンガから呟かれた言葉にエールの身体が強張る。

村長達の怯えようからすると、また昼間の騎士達のような存在かもしれない。

 

 

「村長さん、どうしたんですか?」

 

 

エールに話し掛けられた村長の顔に僅かな安堵の色が浮かびあがる。

 

 

「フィアー様、魔法詠唱者(マジック・キャスター)様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者達が近付いているようで………」

 

「戦士風………騎士じゃないのが気になりますけど………増援部隊でしょうか?」

 

「まだなんとも言えませんね」

 

 

憶測を建ててみるも、情報不足な現状では何もわからない。

村長と村人達から怯えるような眼差しを向けられる。その視線を受け、何を言いたいか感じ取ったモモンガは安心させるように答える。

 

 

「任せてください。村長殿の家に村人達を至急集めておいてください。村長殿は私達と共に広場に」

 

 

モモンガの指示を受けた村人は、鐘を鳴らし住民を一ヶ所に集め始める。死の騎士(デス・ナイト)を村長の家の近くに、アルベドとセバスを後ろに配置して広場に待機する。

 

 

「安心してください。村長さんも皆さんも絶対………守ってみせます」

 

 

怯える村長にエールは優しく言葉をかける。

先程まで身体が震えていた村長は、エールの言葉を聞いて覚悟を決めたのか震えが弱まり、真剣な眼差しになる。

 

やがて村の中央を走る道の先に隊列を組んだ騎兵の姿が見えてくる。

徐々に近付いてくる騎兵を観察していると、武装に統一性がなくそれぞれが使いやすいよう何かしらのアレンジを施されているのに気付く。

 

 

「正規軍じゃない?傭兵団か?」

 

「人のこと言えませんけど、纏まりの無い集団ですね………」

 

 

しばらく眺めていると騎兵一行は馬に乗ったまま広場に入り込み、エール達の姿を見て驚愕し、奥にいる死の騎士(デス・ナイト)を見つけると、腰に下げた剣の柄に手を掛けて警戒しつつ、エール達の前に見事な隊列をみせる。

その中から馬に乗ったまま、一人の屈強な男が進み出てくる。

 

その男の視線は村長を軽く見て、続いて隣のエール達を観察するように見つめた後、奥にいる死の騎士(デス・ナイト)に移り、今度は鋭く射抜くような眼をエール達に向けて口を開く。

 

 

「私は、リ・エスティーゼ王国。王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らし回っている帝国の騎士を討伐するために王の御命令を受け、村を回っているものである」

 

 

静かで深い声が広場に響き渡ると村長の家に集めた村人達からざわめきが起こった。

村長も王国戦士長という人物のことを知っているようで、驚愕の色を浮かべる。

 

 

「………どのような人物で?」

 

 

村長から教えてもらったことに王国戦士長という人物の情報はなかった。情報に抜けがあったことでモモンガから軽い苛立ちを含んだ声が掛かる。

 

 

「御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士達を指揮する方だとか」

 

 

騎兵達の着ている鎧をよく見ると皆、胸に同じ紋章を刻み込んでいた。村長に教えてもらった王国の紋章のようにも見えるが、信じるには情報が少なすぎる。先程の帝国兵に偽装した部隊の後詰めとして、王国の兵士に偽装した法国の人間という可能性すらある。

自国の兵士なら救援に来たとでも言えば安全に近付き後ろから刺すことだって容易だろう。

 

 

「この村の村長だな。横にいる方々は誰なのか、教えてもらいたい」

 

 

モモンガが様々な可能性を考慮していると、ガゼフはエール達に向けていた射抜くような眼をやめ、その視線は村長に向かう。

 

 

「それには及びません。初めまして、王国戦士長殿。私達は旅の途中で偶然通り掛かったこの村が騎士達に襲われていたところを助けた者です」

 

 

村長が口を開く前にモモンガはそれを押し止め、代表として自己紹介を始める。

 

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

 

モモンガからの自己紹介と事の顛末を聞き終えたガゼフは、乗っていた馬から軽やかに飛び降り、改めてモモンガを見据え重々しく頭を下げる。

それを見たエール達以外の人間が動揺する。

 

辺境に住む村人ですら知っている王国戦士長という高い地位に就く人物が、身分もわからない旅人に敬意を示す。

身分の違いが明らかなこの世界において地位の高い者が下の者に頭を下げるという行為はそれほど驚愕に値するのだろう。

 

どこの誰ともわからないただの旅人に対しわざわざ馬を降り頭を下げる。その行動にガゼフの人柄を感じ取ったモモンガは、王国戦士長というのも嘘ではないのだろうと判断する。

 

 

「………いえいえ、私達も旅の路銀目当てですから、お気になさらず」

 

「なるほど、旅は何かと入り用だ。どこの国から来られたのかな?」

 

「ここより遠い………地続きでは来れない所です」

 

「そのような遠いところから………よろしければ国と、貴殿の名をお聞きしても?」

 

「いえ、もう終わってしまったところなので………私の名は、申し訳ありませんが伏せさせていただきます。言えば私が………死んでしまいますから」

 

 

モモンガ達の事を探ろうとするガゼフからの質問に対し、嘘は言ってないが曖昧な表現で答えるモモンガ。

事実自分達はユグドラシルからこちらの世界に来てサービスも終了してユグドラシルは終わってしまった。

 

モモンガの名前に関しても、本人は恥ずか死するから偽名を考えると言っているが、ネーミングセンスが壊滅的すぎて今まで出してきた案は全部エールから却下されている。

モモンガから死ぬという言葉を聞いたガゼフは、申し訳なさそうな顔をする。

 

 

「呪いか………知らなかったとはいえ、失礼なことを聞いてしまったな。申し訳ない、魔法詠唱者(マジック・キャスター)殿………で、よろしいのかな?」

 

「はい、構いません。私は無理ですが仲間を紹介しましょう。彼女が友人のエール・F・フィアーと言い「………でも………んです」………エールさん?」

 

「私達のことなんかどうでもいいんです!」

 

 

突然の怒声に場が静寂に包まれる。

 

 

「あなた方はこの村を救いに来たんでしょう?だったら私達の事なんかより村の人達のことを知るのが先じゃないんですか!?」

 

「ちょ………落ち着いて………」

 

「あんなに辛い思いをしたのに………何もできなかった私を逆に気遣ってくれて………助けに来たよって一言くらい……っ!?」

 

 

村人達に対しての言葉が何も出てこなかったガゼフと騎兵達に向けて怒りをぶつけるエールの前にモモンガが割り込む。

 

 

「それぐらいにして、一旦落ち着きましょう?」

 

 

エールの肩に手を置き、子供を宥めるように頭を優しく撫でる。

 

 

「落ち着きましたか?じゃあ彼らをよく見てください」

 

「……………っ!?」

 

 

モモンガに言われた通り、ガゼフ達騎兵一行をもう一度観察する。

よく見れば鎧のあちこちに泥や煤、土埃で汚れているのがわかった。顔には疲労の色が濃く映り、目に隈ができている者もいる。

 

 

「わかりましたか?彼らだって急いで来たのでしょう。その気持ちは汲んであげましょう」

 

「はい………あの、皆さんの事情も知らずに偉そうなこと言ってごめんなさい………」

 

「仲間が失礼しました、戦士長殿」

 

「………いや、彼女の言う通り、配慮が足りなかった。これでは弱き者を助ける強き者にはまだまだ遠いな………見た目通り天使のような慈愛に満ちておられるのだな、フィアー殿は………村長、遅くなってすまなかった」

 

 

エールの言葉にガゼフは思うところがあったのか、村長に向き直り頭を下げる。

 

 

「あ、頭を上げてください王国戦士長様!村には少なくない被害が出ましたが、魔法詠唱者(マジック・キャスター)様達のおかげで全滅は免れました。ご心配していただきありがとうございます」

 

「そうか………さて、旅の方々のお時間を奪うのは申し訳なく思うが、色々と詳しく聞かせてもらえないだろうか?」

 

「わかりました。私の家でお話しさせていただければ──」

 

「戦士長!」

 

 

村長の言葉を遮り、一人の騎兵が大声と共に広場に駆け込んでくる。

全員がそちらを向くと、息を乱し緊張した面持ちで持ってきた情報を知らせる。

 

 

「周囲に複数の人影!村を囲むような形で接近しつつあります!!」

 

 

それは、新たな来訪者を告げるものだった。




ご観覧ありがとうございました。

やはりキリのいいここで区切らせてもらいました。

次回こそニグン戦です!
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