「さあて、仕切り直しだ」
そう言って隆彦はSAKUNAMIの照準を合わせた。当然その動きは距離を取ってしまった鳳にも見えており
『まずい、距離を取っちゃった。衝撃砲は効かないしダメージを与えるには双牙天月でも不十分。SEを削りきるのは諦めるしかないか………』
何せ自慢のブレードも弾かれてしまう始末。珍しい全身装甲を採用しているせいで装甲の無い部分を攻めることは出来ない。
『なら!』
双牙天月を合体させて思いっきりぶん投げる。飛んでいく双牙天月の影に隠れるように突進して距離を可能な限り詰める。一方の隆彦もやられっぱなしではない。
「させるか!ほれ!」
素早くタップ。さっきのような事故が起こらないように恐らく外れがないであろうジャンル、ガトリングキャノンを選択。背中に三本バレルが目立つガトリングキャノンが装備される。
「食らえや!」
ドガガガガガガガガ!
大口径ゆえに発射速度は普通のガトリングと比べて遅く、発射音は繋がっていない。しかし一発一発の破壊力は申し分ない。あっという間に発射煙で包まれる。
「やったか!?」
しかし人はそれをフラグという。その言葉への返事は
ズガンズガン!
何かが切断される音と急に軽くなった背中だった。誘爆も起きているがKAZAWAにダメージを与えるには至っていない。ふと振り返れば
「はぁい」
大層良い笑顔をした鳳がいた。ぶん投げたブレードをガトリングを発射する寸前で掴んで横へ緊急回避。乱射に夢中な隙を突いて切断という寸法だ。つまりぶん投げたブレードは威嚇目的で隆彦に攻撃させて隙を作るためのもの。
「さすがにこれなら効くでしょ!」
そして隙をさらした隆彦の後頭部へ零距離の衝撃砲。SEは削れずとも衝撃で気絶させれば判定勝ちになる。最も
「ところがどっこい、効いてないんだなぁ」
気絶させられれば、の話だが
「そい」
そして仕留めたと思って隙を見せた鳳のISの一部を掴んで
「捕まえた」
ドゴォォォォォォン!
大爆発が二人を包んだ。その瞬間
[甲龍、シールドエネルギーエンプティ。勝者、有澤隆彦]
勝負が決まった。ISが解除されて事件にへたりこんでいる鳳にキャリキャリとキャタピラを響かせながら近づく。
「流石は中国の代表候補生、良い戦いだった。ありがとうございました」
「こちらこそ。まさか負けるなんてね、でも次は負けないから!ところで………」
「ん?」
「最後のあれなに?一応あたしのSEほとんど残ってた筈なんだけど…………」
「あれは張り付かれてどうしようもなくなったときの最終手段、グレネードアーマー、と俺は呼んでいる。簡単に言うとISの回りにグレネードを展開しての自爆技さ、狙わなくていいから即座に使える。自爆だから自分もダメージを受けるけどな」
見ればあの頑丈極まりないKAZAWAのSEが半分にまで減っている。
「うそ………あたしのSEを一撃で吹っ飛ばした爆発を食らっても半分しか減ってないの…………うわぁ」
鳳は本気でドン引いていた。なお普通のISよりもかなりSEが豊富なKAZAWAの半分なので耐久に乏しい(それでも標準的な量だが)ラファールの8割程の量は残っていたりする。
「今回は負けたけど……次は勝つからね。待ってなさいよ!」
「当然だ。楽しみに待ってる!」
隆彦はそう言って自分のピットに戻るのだった。
★★★
ピットには担任の先生が待っていた。
「最高だよ、有澤君。とてもいい試合だった。やはり企業連の報告通りかなりの実力のようだ。後は慣れだけね。取り敢えず、おめでとう!」
「ありがとうございます」
そしてこのあとスイーツ食べ放題を勝ち取った隆彦はクラスでもみくちゃにされるのだった。そしてしばらくの間は体重計の設置してある辺りから悲鳴が聞こえることとなる。
★★★
表彰式等が全て終わり放課後。俺は勉強の合間にISのディスプレイを開いていた。武装の整理のためだ。
「今日は武装を選ぶのにかなりの時間を使ってしまった。俺の機体の強みは多種多様な武装を扱える点だからな。武器の名前も分かりやすいものに設定しておこう。覚えやすくすればタップしなくても口頭で呼び出し、更には無言で出せるようになる。まずはそこを目指すか」
見慣れた有澤製品はともかく、特にGAの武装名はおんなじようなアルファベットと数字の組み合わせ。名前を変えて、間違ってもドーザーを使わないようにするのだった。
★★★
ところ変わってここは企業連、マッドサイエンティストの巣窟、トーラス社。ここで一人の博士が今後の世界を揺るがすとんでもない発見をした。
「やったぞこれが新物質、名付けてコジマ粒子だぁぁぁぁ!これなら攻撃と防御を両立できる。レーザーなんざ目じゃねぇ。しかもエネルギー問題も全て解決だ!ああ、ここまで長かった。隕石から漏れでた謎の緑色の粒子を持ち帰って研究すること数年。今では粒子の増産まで可能になった。ふぅ………ゲホッゴホッ!?なんじゃこりゃ、こいつは………血?なんだ!?全身が痛い!そして謎の倦怠感…………これは………やべぇぇぇぇ!!」
児島博士の新発見に大騒ぎだった。なお研究者は博士一人だったため彼以外に被害者は出なかったのが救いである。
★★★
企業連side
「報告によるとこの企業連のメインサーバーにハッキングの形跡があったとのことだったな」
「はい。ですが形跡だけでファイアウォール等は突破されていません。ギリギリでしたが」
「うちの技術者はみな優秀だ。一つの事しかできん代わりにその分野においては世界一を誇る。そんな彼らが作ったファイアウォールを破壊一歩手前までいくとは。まあ誰がやったかは察しがつくがな」
「やはりあの博士でしょうか?」
「他に誰がいる。大方今回のクラス対抗戦で目をつけられたのだろう。どうやら乱入を企てていたらしいがうちの誇るアリーナの天井が破れず撤退したらしい。有澤さんのところとインテリオルが手を組むとああなるとはな。重すぎてISには採用できないのが悔しいな。タンクにすら載せられないのならば施設防衛にしか使えん。」
「アリーナは無事でしたが今後は大丈夫ですかね?相手は天才もとい天災博士ですよ?一回防がれた程度で諦めるとは思えません。いつか直接ここへ乗り込んで来るかも」
「こちらには全てに秀でる天才はいないが一つの事に秀でる技術者を全ての分野に持っている。もし乗り込んで来たのならば、その時は盛大に歓迎しよう」
そう話していた時だった。突然ノックも無しに部屋の扉が開かれる。息を切らした社員が
ガチャ!
「大変です!トーラスの連中が、、、」
「またか………取り敢えずは博士のことは保留でいいだろう。まずやるべきは奴ら、トーラスの変態技術者どもの説教だな。あいつらは加減を知らん」
「ですね。行きたくないなぁ」
そう言うと彼らは説教のためにトーラス社に電話をかけるのだった。
★★★
そして舞台はトーラス社へ戻る。そこには会議室で正座させられている児島博士とそれを睨み付けている企業連の重役。何せ発見が発見だ。
「で、この惨事をどうするのかね?」
「これは所謂コラテラルダメージというものに過ぎない。目標達成のための、致し方ない犠牲DA」
「ほほう、で、トーラス社の研究棟全てが緊急閉鎖されて業務が滞っている事に対しては?」
「反省も後悔もしておりません!ええ、決して粗方研究が終わったからと増殖装置を暴走させたりなんて決して!」
「加減しろ馬鹿!安全が確保されるまではあの粒子は封印だ!で、毒性は?」
「体験した限りですと………吐血、倦怠感、寒気、その他体調不良のオンパレードでした。助けに来た者は数分でぶっ倒れてましたが」
「ずっと触れあっていて慣れたのか………ともかく、封印だ。他にはないか?」
「毒性………といって良いのか分かりませんが無機物を急速に劣化させる効果も見られます。あの粒子に鉄の塊を触れさせ続けたところ数週間で鉄がポロポロと崩れて………」
「研究棟から必要なものを全て運び出せ!引っ越しだ!コンクリートで何重にも固めるぞ!」
発見したのはいいが、性質がとんでもない粒子。幸いなのは放射線のように物質を貫通する事が無いため密閉さえしていれば汚染が広がることはない。
「小瓶一本だけ粒子の持ち出しを認める。とにかく研究を続けてこれらを解決しろ。何をやらかすか分からんからその小瓶には常に監視を複数人付ける。いいな?」
「……はい」
不本意そうな博士。この粒子が未来で世界を揺るがすことになろうとはこの時誰も予想だにしていなかった。