勇者部部員は壊れている 作:岩切 蓮夜
それでもお役目は果たさないといけなくて。
戦わないと誰かが傷ついて。
戦わなきゃ私達の住む四国がなくなるから。
でも、やっぱり
私達も女の子だから。
誰かにとってのお姫様になりたかったのに。
■■ ■■
私は「三好 夏凛」。
大赦から直接、派遣された『完成形勇者』。
あいつらとは違う。
あいつら『勇者部』なんていなくたって、私一人で十分。
そう、思っていた。
でも、ひとりで戦ってる分、ひとりじゃ出来ないことも出てきた。
だから、あいつらの力をいい感じに利用して、あの忌々しい『バーテックス』を倒してる。
べ、別に心を許したとかそういうのじゃないから!
あいつらと一緒だと私もおかしくなりそうだし!
ひとりひとりは私より弱いくせに!!
でも、、あいつらみたいな馬鹿達と一緒にいても、意外と心地良いものなのね、
(にぼっしーも素直になればいいのに!)
そうね、私『勇者部
『今』はもう『言えない』けど
「友奈」「東郷」「風」「樹」。
私はあんた達の事、嫌い…じゃなかったわ。
ああもう!『好き』だったわよ!
え、違う!?あ、あぅ…もう一回?
はぁー、はいはい分かったわよ!
私は!『勇者部』の皆の事が!『今でも』大好きよ!!
(は、恥ずかしい…)
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「ぐふっっぁ!!」
「ね!分からない、和道くん?金ないから、くれっつってんだよ」
友奈のまわし蹴りが、顔面に炸裂する。
「殺しちゃだめよ、友奈ちゃん。そいつには、まだまだ私達のサンドバッ君になってもらうんだから。」
もはや東郷はこっちさえ見ず、パソコンを弄りながら適当な調子で友奈に注意する。
「はーい!わかってまーすよッッ!!と!」
「ごふぁぁっっ!!?」
後ろでくすくす笑っている樹の姿が見える。
「でも、なかなかお金借してくれないんだもん」
「だ、だから、今日財布持ってきてないんだって…」
「ほらほら、またそんな嘘つく〜悪い子にはお仕置きが必要だね!」
(人の話なんか、聞いちゃいねぇ)
「それじゃあ、いくよ〜!勇者ぱーんち!!」
3mほど飛んだ。
意識も飛ぶくらいのやつだ。
さすが勇者様、いいなぁ力のある奴は。
そうやって、弱者を力でねじ伏せる。
そして、その力は正義に使われる事は決してない。
いや、使ってるか。今、絶賛使用中だったな。
思考がネガティブへと化していく。
もう訳がわからない。
俺は、この四国の連中からしても、大赦からしても、勇者達からしても、
『バーテックス
…なんでだよ
俺がなんかしたって言うのかよ。
どうして、こんな苦しまなくちゃいけないんだよ。
俺のせいじゃない。『友奈
誰かが勝手に作った罪に、なんで俺達が償わなければならない!
「…くん!和道くん!ねぇ!生きてる?」
あぁ、もういっそ殺そうか。
多分、火を放っても死なないのかもしれないが。
こいつらが悪いわけじゃないのも、分かっているが。
四国なんてどうでもいい。大赦なんてどうでもいい。『勇者部』なんてどうでもいい。
俺でも反逆できるんだぞと、見せつけることさえ出来れば、それで…
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殺す。
ごめん、友奈。
でも、もうこれ以上傷つけられたくない。
友奈が悪いわけじゃないの、わかってるけど。
ごめんなさい、『私』は『勇者部部員』を全員殺す。
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扉が開く音がした。
同時に夏凛が鬼の形相で木刀を持って、友奈に襲いかかろうとする。
みんな、驚きの顔だ。誰一人笑うのをやめてしまった。
俺からしたら、
棚から牡丹餅な状況だ。
…でも、俺は
頭フラフラなのを押さえつけて、友奈を守る。
振り降ろした木刀が、俺の腕に直撃する。
直前に腕を頭の上に、持ってきていたからだ。
痛みがひどい。骨折しているかもしれない。
「くあッッッ……!!」
「!!?!!?」
床に倒れる。それから、すぐに先生達が来る事となる。
遠くなる意識の中で、かすかに強い
夏凛が泣き叫ぶ声が聞こえる。
それすらも、遠くなっていく。
その意識の隅で、他の勇者部の心配そうな顔が見える。
建前なんかじゃない、本気で心配してくれている。
あの顔は作り物なんかじゃないって事だけ、強く意識の中に残った。
でも、俺はその中に『一人足りない』ことに気づけなかった。
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目が覚めると、見知らぬ天井だった。
危ない、やめよう、著作権にかかりそうだ。
でも、マジで『見知らぬ天井』なんだけど…
記憶を辿れば、っても頭が痛い。
なんとなくぼんやり思い出してきた。
「勇者ぱーんち!」とかふざけたのをもろに食らって、頭ぶつけて、
そっから夏凛が入ってきて!
「夏凛!」
思わず叫ぶ。
まぁ、もちろん返事は…
「ふぇ!な、何よ!」
いたんかい。
「ん?ここは…」
「病院よ、ずっと眠ってて起きなかったらどうしようと思ってたとこよ。」
カーテンを少し捲って、覗く。
「外真っ暗じゃねえか!帰んなくていいのか?」
「一人暮らしだから、心配はない。それより頭は大丈夫?」
今更、滅茶苦茶、包帯が巻いてあるのに気付く。
「こんな…大げさだってえの。心配ねえよ。少しズキズキするけど。」
「そっか、ならいいの。あの…じゃあ腕は…?」
「腕?」
下を見れば、右腕も包帯ぐるぐる巻にされている。
「はぁーん、骨折しちゃってたか」
申し訳無さそうに上目遣いで、こちらを見る。
「心配ねえよ。むしろ、頭より痛くねえ。」
「そっか…ねぇ、一つ聞いていい?」
「ん?」
「なんであの時、友奈を庇ったの?」
「あん?そりゃ言ったろ、友奈も今はああだけど大切な友達だからな」
「…違う。多分、それだけじゃない。」
「は?」
「綺麗事を並べたって、心の底じゃ恨んでたはず。わかるわ、それくらい。毎日放課後、話を聞いてるんだから!あの時、あんたは頭から血を流すくらい重症だった。立てないくらい、フラフラしてたはず。そのまま、身を委ねていれば…いえ、たとえ動けるとしても周りから見たら動けないくらいボロボロだから、動けない間に勝手に夏凛がやったと言ったほうが、楽なハズなのに。すごい痛いのを我慢してまで、あんたは友奈を庇った。…分からない、なんで!?なんで、友奈を庇ったの!?」
急に長いな…頭が追いつかないがなんとなくわかった。
「……ふーむ、確かに」
夏凛が(実際にはしてないが)ズッコケるのが見えた。
「でも、あの時友奈を殺してやろうか、とまでは思った。」
「!?じゃあなんで!」
夏凛は恐らく、俺が「友奈を殺そうと思った」という所に驚いたのだろう。
意外そうな目で見てくる。
「ま、どうせ勝てないしな。あ、ところで夏凛。ここは何病院だ?」
「?何って、そりゃ羽波病院しかないでしょ。」
「そりゃ都合がいいや。」
「ちょ、ちょっと!何動こうとしてんのよ!医者は安静にしてろって…」
「ははっ、構わねえさ。あとで一緒に怒られようぜ。それより、知りたいだろ?俺が友奈を庇った理由。」
「わ、私も共犯!?」
うーん、と30秒くらいうねると
「分かったわよ!もう!行けばいいんでしょ、行けば!」
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私が和道に連れて来られた場所は、多分病院のなかで一番大きい病室だと思う。
そこで眠っていたのは…
「…友奈?いや…」
「ふっ、遺伝子レベルで似てるよな」
友奈とよく似た少女が眠っていた。
でも、一目で「結城 友奈」とは別人だと分かったのは体の大きさが違ったからだ。
「和田 ユウナ、俺の妹だ。」
「前に言ってた、病弱なあんたの妹さん…」
「めっちゃ似てるだろ?名前と顔だけじゃなくて、中身も似てるんだな、これが。」
「『友奈』と『ユウナ』…やっかいね」
「やっぱこいつら似てるからさ、どうしても守ってやりたくなるんだわ」
彼は『ユウナ』の顔を撫でる。
「…他の奴らもそう、俺にとっては『風先輩』も『樹』も『東郷』も『夏凛
わざと気持ち悪そうな顔をする。
やめろよこわいよ、と言われて笑った。
「背負ってるもんが、多いからさ」
なんて、カッコつけながら心配そうに『ユウナ』を見つめる和道の横顔を
初めて格好いいと感じた。
今まで同情しかして来なかったから。
それなのに、
私は、勇者なのに、、
私は他の『勇者部部員』とは違う。
私は大赦から派遣された『完成形勇者』だ。
だから、助ける。
友奈達含めてみんなを。
誰も苦しまない、そんな四国
これは宣告だ。
私の望む世界のための。
そして今、話す。
「和道、私覚悟を決めたわ。」
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急に大声を張り上げたと思ったら、
何やら宣言し始めた。
ちょっとうるさいですよー、の注意が入る。
あっ、と言って顔を赤らめる夏凛。
でもしっかり思いを受け止めた。
照れてる顔を横目に、ユウナを見つめる。
兄ちゃんも頑張るから、早く目覚ませよ。
こっちは心配すんな。
もう「一人」じゃない。
心強い「勇者」がいる。
だからもう、怖くない。
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「今日はありがとな」
「こ、これくらい当然よ!悩んだら相談!」
お互いに笑いあって、夏凛は俺の病室をあとにした。
俺が最後まで見つめた夏凛の背中はまさに、
「完成形勇者」と名乗り出てもいいくらい
心強かった。
どうも、岩切 蓮夜です。
今回は思春期らしい反抗と闘う理由について深く描いてみました。(深く?)
夏凛ちゃんのツンデレを描きたい!という気持ちは大きいのですが、なかなか女の子の気持ちは書きづらい…(笑)
人間の汚い部分も描いて見たいと思ってるので、救いのある『今』の場面を印象深く綺麗に描く事が目標です。
終盤あたりに夏凛ちゃんの『宣言』の内容ですが、、、
実は内容を考えていません。
二人がまた一歩近づく要素にしたかったのですが、、、
でもこの先、この宣言については深く触れないのでわすれてください。
またのちのち考えて付け加えておきます。
では、また次回でお会いできる事を願って、、
アリーブェデルチ!(間違ってる気がする)
追伸
最期の「ありーぶぇでるち」で思い出したのですが、本文に出てくる「見知らぬ天井」は元ネタ(?)はエヴァンゲリヲンです。
いや、でもパクる気とかはさらさらなくて
たまたま書いてたのを、読み返したら「エヴァやん!」となり、消すのもまた考えるのも面倒だったので、そのままパロディにしてみました。
許してちょ!