一寸先すらおぼつかない闇の中。
風を切る音すら鳴らさず。
その《獣》は鈍く光る刃携え。
天を衝く白城目指す。
…しかしその心は、そこにはあらず。
〜金華城内〜
静まり返る城下と異なり、城内はにわかにざわめいていた。
光源は壁面に付けられた華美な燭台の炎のみだが、城主の趣味である金銀様々な壺や壁画の類に反射し、城内を明るく染めていた。
「しかしホントに来るのかなぁ」警備の足軽がぼやく。
「金とか宝石盗りに来るならまだしも、たった一人の、それも女を殺すために【鴉】がくるなんて」
「黙って警備を続けろ」共に警備をしていた足軽がたしなめる。
「だってよぉ、【鴉】っていえば、あの《不渡橋(わたれずのはし)の六鬼罪》の一人なんだぜ?しかも暗殺の情報源は匿名で、何の証拠もない」
「それでも城主様のご命令だ。」憮然とした態度で先輩足軽が返す。
「それにその暗殺対象はこの国最悪の怪物、《九尾》だという。この城の最上階に捕らわれ封印されているが、もし逃してしまえば例え女といえど災難じゃすまない。だから城主様も必死なんだろう」
そう言い、更に付け足す。
「第一に《不渡橋の六鬼罪》なんて、それこそ眉唾ものの伝説でしかないだろう」その言葉に態度の軽い足軽も頷く。
「ですよねぇ、そんなもんいたら今頃乱世も終わってるだろうしなぁ」あくびをしつつ警備を続ける。
「たった〈6人〉で、一国の総兵力を瞬く間に蹴散らしたなんて、確かに眉唾だもんなぁ…あれ?」異変に気づく。
…誰もいない
「あれ…?さっきまでいたのに…。それに、いやに周りが静かだ。」その時、足軽の耳に聞こえたのは、『耳鳴り』だった。
「なんだ…?何か違和感が…」ようやくその違和感の正体に気付く…が。
「周りの音が静かすぎる…!なんで…あ?」膝を曲げたわけでもないのに、傾く視界。
「…?…!?」声も出なくなっていた。当然のことだ、その足軽は足だけでなく、首から上も軽くなっていたからだ。
どこからともなく声が降る。
「恨むなら恨め…弔いも贖いもしないが、その命、奪った事を忘れはしない…」
そして、足軽の男の意識は消えた。
〜城内(無人)〜
影が姿を成したような黒衣の男は、微塵の音も立てずに階段を昇る。
いまや無人と化した城の中、男はただ前だけを見て歩く。
後ろに重なる死屍累々から、必死に、逃げるように。
城主さえもはやこの城にはいない。人身売買から成り上がり、非道の限りを私腹のために尽くした男は、犯した罪の数だけ、
【無極の間】で償いを受けるだろう。
そう思い、男はふと自嘲する。犯した罪ならば、己はどうであるか。万年地獄に堕ちても足りないであろう己の罪を。
〜最上階〜
平野を全方位地平まで見渡せるような天守の更に上、傍から見れば二重屋根のように見えるその場所こそ、【九尾】の封印の場所。
男は重い鉄扉を徐々に押し開ける。
まるで今の男の心を映すかのように
そして、出会う。
終わりの始まり、
救世の譚。
書いてみたかっただけなんです…