狂った猫は止められねぇ!
先ほどの一件をなんとか乗り越えた俺は椅子に座ったままこれからの方針を考える。
まずはやはり地盤を固めるのが優先だろうな。
この場合の地盤とは最低限でも会話を出来る状態という意味だ。
今現状、ここに来るまでの道中、愛宕や高雄、そしてあの時いたKAN-SEN達の様子等を見るに喋ることすらままならない状態なのは間違いない。
顔を見るだけで舌打ち、見るだけで怯え、威嚇までされる始末。もう最悪を通り越してる。
だが俺的にはまだ嫌悪感があるだけまだマシだと思ってる。一番最悪なのはもはや眼中にすら無い無関心だ。無関心になってしまえば喋りかけても無駄になり、どうしようもなくなるだろう。そこらの石と同列扱いだ。なのでまだ反応があるだけマシだ。
だがそれでもかなり厳しいのは間違いない。
「一つ目の壁が高すぎるな・・・」
でもそうだとしても動かないと何もならないのも事実。う~ん・・・どうするか。
俺は腕を組み、天井を見上げる。
「厳しいぞ、これは厳しい」
中立を保ってそうな突破口になる人はいないものか・・・・・・・・・あ
「居たじゃないか!」
居た! 居たよ! 中立を保ってくれそうな人!
俺は椅子から降りると急いでその目的の人物に会いに行く。
ここに来る前の基地内の説明会ちゃんと聞いていてよかったぜ!!
「着いた!」
目の前に建つ建物、明石の店。
そう、明石だ。俺の頭に浮かんだその人物とは。
俺が目を付けた理由は説明会で陣営問わずどこでも中立に位置し、押し売り販売し、儲ける変わった艦がいると聞いていた。ならもしかしたらここの明石もそうなんじゃないか?
俺はそう思いここに来たというわけだ!
「よし、行くぞ」
頼むぜ明石・・・お前が頼りなんだ!
俺は扉を開け、ゆっくりと入店した。
だが俺は愚かだった。
冷静に考えてみれば分かるだろ。この基地は『そういう事』をしていた場所なんだぜ・・・?
扉を開け、入店した俺はまず店内を見渡した。
豊富な品揃え、多数の広告、掃除の行き届いた清潔な床や壁、楽し気なBGM。
入店してまず感じたことは繁盛していそうな店というもの。
そしてそれを瞬時に上書きするほど濃厚に感じたのは・・・
「死んでんのか? この店・・・」
まるで人気を感じさせないほど重苦しい『何か』。
店内は確かに賑やかに見える。品揃え、広告、明るい店内。どれをとっても繁盛し、賑やかな店のそれだ。しかしそれを上書きするほどの重苦しい空気。
「なんだここ・・・」
思わず漏れる言葉。
俺は多少の警戒感を持ちつつ、ゆっくりと奥に進む。そして多少時間をかけたものの、いくつもの商品棚を通り過ぎ何事もなく無人のレジ前に到達。
「ふぅ・・・誰かいないのか?」
一度息を整え直すと正体不明の何かへの警戒を緩めずに声を掛ける。しかし返ってきたのは店内のBGMのみ。まるで誰もいないとでも言いたげなものだ。
仕方ない、もう一度声を掛けてみよう。
「お~い誰かいないのk―――」
「あ~、指揮官にゃ~」
俺はレジ台から即座に後ろに下がり、距離を取ると即座に構える。
「お前が明石だな?」
「そうにゃ~、あんたが新しい指揮官にゃ?」
俺の問いに軽く返してくる明石。
その姿は資料で見た通り、頭に猫耳を生やした小さく可愛らしい見た目の女の子だ。だが俺は警戒を解かずに明石を見る。
こいつはやばい。
「ふふ~、そんなに警戒しないでほしいにゃ~。何もしないにゃ~」
「・・・・・・」
人畜無害と言いたげに、緩く語りかけてくる明石。だが知ってるぞ。その目。
狂った人間の目だ。
俺はここに配属になる前は一般の軍人だった。当然人と人との争い、小規模ながらも戦争やいくつもの作戦に従事してきた。時には遠い所に行き、撃ち合いをして、死にかけて、助けて、失って・・・そして巻き込まれた人を見てきた。だから分かる。今の明石の目は・・・危険な目だ。
言葉、態度、仕草で隠すことが出来ないほどの負をその目に宿している。
「ほ~ら~、初来店と着任を記念して安くしてあげるにゃ~」
警戒する俺とは対称的に明石は表向き至って友好的に接してくる。今も袖をぶんぶんと振り回し、早く来いと催促してくる。
「それはどんなものだ? 是非とも知りたいな」
距離としては明石と俺の間約5m。左右に商品棚。動ける範囲は前か後ろ。
「それはね~・・・」
明石がレジ台の裏にある何かを取ろうとしゃがみ込み漁り始める。
俺は少し下がる。
「それは?」
「ふっふ~・・・それはね~」
十字路に出た。これでいつでもさk――
「鉛玉にゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちっ!!」
勢いよく取り出した小型のサブマシンガンを構え、レジ台の上から乱射してくる明石。俺は咄嗟に左に転がり込み、難を逃れる。
こんな事するまでキてるのかよ!
「しかもご丁寧にサプレッサーまで付けて・・・!」
乱射する明石。
良くも悪くも懐かしい跳弾音、弾音、壊れる音が辺り構わず聞こえる限り、相当広くばらまいてる様子だ。
「おいおい、こんな事するためにここに来たんじゃないんだけどな・・・!」
「にゃはははははは! 早く受け取るにゃぁぁぁぁ!!」
狂ったように笑い、鉛玉をバーゲンセールのようにばらまき続ける明石。
止んでは再開、止んでは再開を繰り返し、下手に動けない。
ちっ、なら弾が切れるまで待てb――
「弾ならいくらでもあるにゃ~!」
「ここでそれは聞きたくなかったな!」
ガシャンという音と共に何かが置かれる音。間違いない、あれのマガジンの入った箱だ。
僅かの希望も明石の言葉に消された俺は再び銃弾が一方的に飛び交う中、頭を冷静にして考える。
前に出れない。後ろにも出れない。下手に動けばハチの巣。
「初日でここまで問題が起きるのも、まぁないだろうなちきしょうっ!」
さてさてどうするよ! 飛び掛かるにはこの距離はきついぜ! 下がるってのもなし! フラッシュでもあれば良いんだけどそんなもんねえよな!
「さぁさぁどうする、このままだと確実に俺死ぬぞ?」
何か、何かないか!
俺は商品棚や辺りを見る。
お菓子袋、段ボール、広告、何かの模型・・・野菜に・・・小麦粉袋?
「あ、それだ!」
丁度隣の棚の一番下にあったそれ、小麦粉。
俺は小さく喜ぶ。
となればそれを取るためにどう動くかだが・・・幸いトチ狂ったかのように辺り一面乱射し、精密に狙ってくる意思は今の所感じられない。だがそれでも時折近い所に着弾したり通り抜けたりと油断はできない。
考えが浮かんでも即座に実行しない。これは鉄則だ。籠り過ぎても、逆に出過ぎてもダメ。
俺は近くに落ちていたプラステックのプレートを手に取ると真上に放り投げる。そして棚より高く宙を舞った瞬間それは容易く撃ち抜かれた。
「適当に撃ってるわけではないんだな・・・」
「明石の対空能力、舐めてはいけないにゃぁ!」
適当ならラッキーショット以外当たることはしないだろうからな。しかし瞬時にぶち抜く当たり、こちらを撃ち殺す気はあれば対空能力もあるらしい。
だが今回は都合が良いぜ。
俺は目的の物がある棚を見る。貫通した後はあるが床に跳弾した形跡はない。だが精密に狙ったわけではないのか、貫通個所はバラバラだ。
俺は足元に落ちていた別のプレートを掴むとその列に放り投げる。
結果は何もなし。
なるほど、射線は通ってないってことだな。
俺はそれを確認すると待つ。
「次にゃ次にゃ~!」
チャンス!
俺は一瞬だけ止むその瞬間を狙い、手を伸ばし、それを取る。
「おっし!」
無事小麦粉袋を獲得した俺は軽くガッツポーズをすると再び止むタイミングを見計らい、再び左に転がる。
そして一番端に来れた。これで明石からは完全な死角になったということだ。だが死角と言っても壁というには薄すぎる。油断すれば貫通して俺は体に穴を空けて即床に倒れることになるだろう。
「そろそろ終わらせるにゃ~!」
そしてシビレを切らしたのか、先ほどと打って変わって集中的に撃ち始めた。まずは反対の棚から。
「次はここかにゃ~?」
次にその隣。
「ここかにゃ~?」
そして真ん中。
「しぶといにゃ~」
そして先ほどまでいた所。
「次はここになるな」
使い切ったのか、嵐が止む。
「ふふ~ん、次で最後にゃ~」
床にマガジンが落ちる音。
一瞬だ。それでしくじればデッドエンド。
「装填完了~! とどめにゃ~!」
「ここだ!」
俺は棚から左半分体を晒し、装填した直後の明石に向かってそれを投げる。
「にゃっ!?」
明石は咄嗟の事に焦ったのか、その小麦粉を反射的に撃ってしまった。
「ぶにゃぁ!?」
撃たれたそれは空中で中身を飛散しながら明石に向かって飛んでいき、目くらましの役目を果たしつつ、明石にぶつかる。
「チャンス!」
即座に棚から飛び出すと、レジの上の明石に向かって飛び込みタックルを仕掛け・・・
「しゃぁぁ!! トライだぜ!!」
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
豪快な音と主に棚に明石ごとトライを決めた。
「にゃぁぁぁぁ・・・」
体を起こし、明石と銃の確認。
銃は・・・OK、飛んでいったな。明石は・・・目を回してやがる。
「・・・はぁぁぁぁぁ」
ようやく落ち着いたせいか、俺はクソなが溜息を漏らし、床に倒れこむ。
いや、着任初日で襲撃されるわ銃撃されるわって・・・何よそれ。世紀末すぎんでしょ。
「あ~、帰りてぇぇ・・・」
額に手を当て、愚痴をこぼす。もうヤダここ。
瞬く間に紛争地域になり荒らされた明石の店。BGMは止み、広告には穴が空きまくり、壁には弾痕、商品は粉砕。割れた電球は落ちて木っ端になるし・・・
「・・・これどうしよ」
先の事を考え、即座に思考を放棄した俺は生きていることを実感しつつ、しばらくそこでじっとすることにした・・・。