吉井明久の野望R   作:いくや

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 遠江優子Side。

 集中して執筆していたら4話分くらいの文量に!
 
 では、どうぞ♪




第20話 旅と幽霊と暗殺者

 「姫様もひどいことをなされる」

 「なにがですか~」

 「連れもない彼らに相模行きを任命するとは」

 「なんのことです~」

 「いっそのこと武田に殺されてしまいえばいいとか思ってませんよね?」

 「違いますよ~少人数のほうが動きやすいからです~」

 「それにしても……案内人の1人はつけたほうがよかったのでは?」

 「誰か相模を知ってるのですか~」

 「そ、それは……」

 「明久さんたちは任せておきましょう~大丈夫です~」 

 「わかりました」

 

 

 

    ☆

 

 

 「一応、地図とお金をもらったんだけど…」

 「そのあとの文句は言わない」

 申し訳程度で、ケチといえばケチだ。独立したばかりの大名家でそんなわがままなことは言っていられないけど……

 

 「今気づいたこと行っていいかな?」

 「…何かしら」

 「僕、地図くらいは読めるんだ」

 「へえ~」

 「浜松から小田原って徒歩で行ける距離じゃないよね」

 「道があるんだから行けるんじゃないかしら?」

 50里(約200km)はくらいです。って言われた言葉が今頃になって恐ろしい。

 だって、よく考えてみて。24時間マラソンって100kmくらいじゃん。全力で走って丸2日かかる計算だよ。休みながら行くと考えたらしかも歩きだし……何日歩かなければ……

 

 「優子さん、せめて遠江を抜けるまで馬でいかない?」

 「自由自在に操れるようになったのかしら?」

 「もう大丈夫だよ。馬くらいならくれるでしょ」

 今から出立する浜松城の門前で思いついてよかった。すぐに門番に話を掛け合ってもらう。パシリに使ってしまった……数分したら馬も引き連れて戻ってきてくれた。

 

 「姫様から駿河領内は徒歩で行くのがいいとの伝言を預かっております」

 「ありがとう」

 遠江と駿河の国境がいまいちわからないけど……今みたいに看板もないだろうし。危険を察知したら降りて徒歩で行こう。

 

 「握り飯もたくさん準備いたしました。重いですが、持っておいたほうがいいでしょう」

 「ありがとう」

 片道5日かかるとしても飯がなかったら生きていけないもんね。

 

 「優子さん、準備は?」

 「とっくに出来てるわ。あなた待ちよ」

 あ、そうでしたか……

 

 「行こう。僕たちの未来を切り開くために」

 「何カッコつけちゃってんのよ」

 「てへぺろ ー ごめんなさいごめんなさい。そのオーラをしまって」

 少しおちゃめになっただけじゃないか。殴りかかろうとしないでよ。

 

 

 

   ☆

 

 「ふ~疲れた……もう暗くなり始めたね」

 「ええ」

 近くで休む場所を探さないと。夜は行動できないからさ…寝る場所もあるところがいいな。

 

 「休むには近くの民家っていう手もあるけど」

 「やめたほうがいいでしょうね」

 「いくら遠江とはいえ寝首をかかれるかもしれないってこと?」

 「ええ。でも完全に安全な場所はないでしょうね」

 どうするんだよ……どこかの城かに避難できればいいんだけどね。あいにく松平家臣団はあまり知らないから。

 

 「よし。あそこにしよう」

 「洞窟?」

 「そう。一番まともじゃない?」

 「そうね。そこにしましょう」

 1日目の夜はラッキーなことに洞窟に巡り合えた。ここならば安全だろう。

 

 「うう~……これは想定してなかった」

 「…寒いわね」

 ひんやりするというレベルではない。僕たちがいた世界でいうならば11月の夜の寒さくらいだ。

 

 「おにぎりもらってたんだった。食べるでしょ」

 「1つでいいわ」

 「もっと食べなよ」

 「節約よ」

 先は長いし、僕も2個くらいにとどめておこう。

 

 「今日1日でどのくらい進んだんだろう」

 「分からないわ……でも」

 「でも?」

 「もしかしたら国境には関所があるかもしれないわよ」

 「関所か」

 「それを目印にしましょう」 

 わかってはいたけどまだ遠江。先は長い。

 

 「疲れた~眠たくなってきたよ…こっちに来てからゲームとかないからだんだん健康的なリズムになってる気がする」

 「いいことじゃないかしら」

 「体にとってわね」 

 「朝、日の出とともにスタートするのよね」

 「そうだよ」

 「アタシも寝ようかしら…………寒いけど」

 そう。しゃべっている間も風が結構入ってくるから寒かったんだ。

 

 「優子さん、これ着て。僕はいいから。おやすみ」

 「ちょ、待ちなさいよ。ただでさえ寒いのにあんたがこれ以上衣服減らしてどうすんの!」

 「優子さんがあったかくなる」

 「あんたは寒いでしょ!」

 「平気平気」

 「さっきまで寒いって言ってたでしょ!」

 「そうだっけ?」

 「もういいから着ておきなさい。アタシは大丈夫だから」

 「たき火する?」

 「密室に近い場所でしたらどうなるかわかるでしょ」

 そっか。優子さんがその提案もしなかったのはなんとか中毒になるかもしれないからか。

 

 「寝るわよ」

 「寒くならないようにね」

 「近づいて寝ればいいでしょ。嫌だけど」

 「嫌ってきっぱり言われると傷つくけど、それがいいかも。死なないためにも」

 「何もしないでよね!」

 「理性が保つ限り!」

 女の子がすぐ近くで寝ているのを何もしないでおくという理性のものすごい働きに期待するしかない。

 

 

 

    ☆

 

 

 「…………ん……日の出?」

 アタシは目の裏から光を感じて少しだけ目を開いた。案の定、日が出かかっていたころだった。夜が明けこれで出立出来る。

 

 「寝顔……気持ちよさそう」

 目の前には顔が。ここまで近くで寝ていたかしら。

 それにしても、寒かったはずなのに寝ているときはあったかかったわね……ちょっと息苦しいし。何で起き上がれないのかしら。

 

  その理由が分かった。

 

 風上から体全体でアタシを覆っていたのだ。誰が? 言うまでもない彼が。

 腕もアタシの背中へ回してきっちり抱き付いていた。

 

 「何やってんのよ!!」

 「ぷぎゃっ!!」

 いつまでたってもスースー寝息を立てる彼に鉄槌を食らわせた。

 

 「んにゃ~……優子さん寝ているときに殴るなんてひどいよ」

 「人が寝ているときに何してくれてんのよ」 

 「え?」

 何言ってんの? って顔してんじゃないわよ。

 あの行為わざとじゃなかったわけ? ま、ちょっとは優しいなと思ったけど……

 やっぱり勝手に抱き付くのは許せない!

 

 「さっさと起きる! すぐにでも出るわよ」

 「ちょっと待ってよ~今起きたばかり~」

 「アタシも今起きたわよ!」

 本人には言わないでおこう。アタシですら恥ずかしいし。真相は闇の中。

 

 

 

   ☆

 

 「あれか……」

 「みたいね」

 2日目の昼過ぎに見えた関所。あれが国境に違いないわ。

 

 「馬はこのあたりの木につないでおきましょう」

 「ねえ。やっぱり連れて行かない? この道で帰ってこれるとも限らないしさ」

 「…どうするってのよ」

 「堂々と関所を通る」

 関所を通るためには普通、通行手形がいるはずだけどアタシたちは持っていない。だから、アタシは関所の横の山道をどうにかして通ると思っていたのに。

 

 「下手に侵入して見つかるよりそっちのほうがよくない?」

 「どう通り抜けるつもりなのかしら」

 「真正面から失礼しますって言って」

 ここまでバカだとは思っていなかったわ。観察処分者の称号を持つだけあるわ。

 

 「なんとかなるさ!」

 そのなんとかがならなかったらアタシたちに待つのは死。

 

 「それ以外思いつかないわけ?」

 「優子さんは思いつくの?」

 と言われてもいい案は思いつかない。

 

 「ほら。これがいいんだって」

 「わかったわ。いざとなったら全力で来た道を戻りましょう」

 「うんうん。そうしよう!」

 そうならないと初めから分かってるように気楽に返事するわね。

 

 「じゃあ、行こう」

 「設定とか決めなくていいわけ?」

 「下手に設定決めても僕覚えられないし」

 ごもっとも。

 

 「早く行こう」

 「待ちなさいよ」

 気が早いんだから……

 向こうからアタシたちが見える場所にやってきたので、馬を下りて関所に近づく。松平方の関所はもちろん素通りをした。主君のお墨付きだからね。でも、武田方の関所はそうはいかない。

 

 「止まれ! 何者だ!」

 「旅人です。三河から奥州に行こうと」

 旅人という設定でいくのね。関所の門番は2人。どうにかなるかしら。

 

 「ほう。三河とな」

 「はい。奥州藤原氏が栄えたはどのような場所なのかと旅したくなりまして」

 とっさの言い訳が奥州藤原氏とはなかなかやるじゃない。

 

 「お、奥州藤原氏? 奥州と言えば伊達だぞ」

 「おいバカが露呈する。お前は何もしゃべるな。奥州藤原氏は源平の折の家柄じゃ」

 「そ、そうか。う、うむ……わかった。そちは博識じゃな」

 あなたがバカなだけよ。明久くんよりものを知らないなんて。

 

 「は、はあ……ですからこの駿河を治めておられる今川様の領内を横断させていただきたく」

 い、今川……賭けに出たわね。武田だと知っているはずなのに。

 

 「何を言っておる。今川はとうに滅びておる。今は武田信玄様が領内じゃ」

 「た、武田というと甲斐の?」

 「そうじゃ。ついこの間変わった」

 旅をしている間に今川から武田に変わったという設定。なかなか効果てきめんかも。

 

 

 「旅人じゃから知らぬのではないか?」

 「そうかもしれぬな。教えておいてやる。今は武田が領内じゃ」

 「ありがとうございます」

 「通ってよいぞ。お主ら頑張るのじゃ」

 「あなたたちも頑張ってください」

 満面の笑みを浮かべ、関所を通りぬける。

 

 「ふ~緊張した~」

 関所からだいぶ離れて声が聞こえない距離までやってきたときに、ようやく会話が。

 

 「アタシも緊張したわよ。まさかあんな嘘がつけるなんて」

 「僕じゃないのかも」

 「それはあり得るわね」

 「ひどい……でも、死ぬわけにはいかないと思うと勝手に言葉が出ていた」

 そういうこともあるのね。ひとまず第一関門クリアね。駿河には入れた。

 

 「でも、もう暗くなってきたね」

 「そういえばこの道1度だけ来たことがあるわ」

 「えっ?」

 「こちらの世界に来て、井伊谷に向かう時に通った道よ」

 亡霊の雪斎さんとかがいたはず ー 。

 

 「ゆ、優子さん……あれは!?」

 「ででで出た! あ……なんだ雪斎さん?」

 「お久しぶりじゃのうお嬢ちゃん。元気しておったか」

 「え、ええ…元気です」

 そちらはどうですか? と聞こうにも既に幽霊である。

 

 「隣にいるのが井伊谷の領主か。あのばあさんから家督を譲られたといわれる」

 「は、はい。井伊谷の吉井明久です」

 「わしは太原崇孚雪斎(たいげんそうふせっさい)じゃ」

 「雪斎さん! 今川家のご家老」 

 「よく知っておる」

 一度雪斎さんのお話はしたことあったよね。

 

 「何をしておるのじゃ。ここは武田領になってしもたわい」

 「あ、知ってます。僕たち寝る場所を探しているんですよ」

 「ふむ。こちらについてまいれ」

 「どこか心当たりが?」

 「そこらじゅうに寺があるからのう」

 幽霊に寺へ案内されるってあまりいい気がしないわね。

 

 「ここがよかろう。明日何をするのじゃ?」

 「相模の小田原へ向かいます」

 「ほう。三相同盟を結ぶか」

 「よくお分かりで」

 「わしも協力しようではないか。駿河を抜けるまではわしがついて参ろう」

 幽霊について回られるらしい。逆に怖いわよ。

 

 「寝るときとかは違う場所にいてくださいね」

 「もちろんじゃ。お主らの邪魔はせぬ」

 「何か勘違いしてません?」

 「何をじゃ? 先に言っておくがこの寺は廃墟同然。雨風がしのげるだけじゃ」

 それでも昨日に比べたら充分。

 

 「部屋も2畳しかなかろう」

 狭……

 

 「いまだに朝晩冷えるから体を大事にのう。また明日日が昇ったら来るぞい」

 「あ、ありがとうございます」

 そういうとアタシたちの目の前から消えていった。

 

 「雪斎さん、面白いね」

 どこが!?

 

 「まあ今日も疲れたし、寝ようよ」

 「え、ええ……」

 2畳の狭さならば自然と体の位置は近くなる。

 

 「僕も我慢するから優子さんも我慢して」

 アタシの我慢とあなたの我慢は意味が違うでしょう。

 

 「おやすみ」

 今日は一段と疲れたわ……

 

 

 

    ☆

 

 

 「 ー こさん……おーい、優子さん起きて~」

 どこか遠い場所でアタシの名前が呼ばれている気がする。

 まだ眠たいがもう朝なのか日差しが目の裏から入ってくる。起きなければ。

 目を覚ましてみると目の前に顔が。

 

 「わっ!!」

 「ビックリした~」

 「こっちのセリフよ。何て場所に顔があるのよ」

 「えっと……優子さん。大胆です」

 ど、どういう意味かしら。アタシはいつもと違う感覚に気づき、焦った。

 

 「な、何でアタシが明久くんに抱き付いちゃってんの!? ち、違うからね。これは!!」

 「分かってるよ。寒かったんでしょ」

 「そ、そうよ!」

 「もうそろそろ限界が来そうだからまず手を離して」

 起きたばかりで頭が混乱して自分でも何してるのか分からなかった。

 

 「落ち着いた優子さん?」

 「え、ええ」

 数分して状況の整理が出来てようやく心が落ち着いた。

 

 「起きたらびっくりしたよ。優子さんが抱き付いてるんだもん」

 「そそその話はもういいから!」

 昨日はあんたがやってたからね!!

 

 「起きたかのう~」 

 「おはようございます」

 「雪斎さん、お願いします」

 「ついてくるのじゃ」

 世にも奇妙な幽霊に先導される旅が始まったのである。

 

 

 

   ☆

 

 「わしはここまでじゃな。後はあの関を越えると相模じゃな」

 「ありがとうございます」

 「もう1つだけ頼みがあるんですけど」

 明久くんが雪斎さんに告げた。

 

 「なんじゃ?」

 「もう夜になるので、今日の宿の案内を……」

 「そこの寺でどうじゃ? あれも廃墟じゃ」

 「ありがとうございます」

 気づいたら陽も西に沈みはじめていた。

 

 「お主らの成功を草葉の陰から見守っておる」

 この人、本当に幽霊なのかな……まだ生きているのではと思うくらいハッスルだよ。

 

 「さて、優子さんやっとここまでこれたね」

 「ええ。3日で駿河の東まで来たわ」

 「明日はいよいよ相模小田原に」

 「その前に体力を回復させておきましょう」

 朝はいろいろな意味で体力を使ったから、今日は長めに睡眠をとりたい。

 

 「相変わらずここもすごいね……」 

 「ええ。廃墟ですもの」

 この3日で安心して寝れるというのがどれだけありがたいことかわかったわ。

 

 「おやすみ」

 「おやすみなさい」

 ようやく3日目が終わるかと思いきやそうではなかった。

 

 

 

    ☆

 

 

 「優子さん、起きて!!」 

 明久君に起こされて目を覚ますものの、まだ外は真っ暗だった。

 

 「静かにしてて……」

 「何どうしたの?」

 「耳を澄ませて」

 言うとおりにしてみると確かに人の気配がするのだ。こそこそ話も聞こえる。

 

 『 ー の馬だ。ちょうどいいな』

 『やっと見つけたぜ武田の馬』

 『これでわれらも』

 どうやらアタシたちの馬を奪いに来た物盗りらしかった。

 

 「優子さんはここにいて。僕が行く」

 「そのまま逃げるわよ。奪い返して。居場所が分かってるのにそこに居座るわけにはいかないわ」

 「そうだね。分かった」

 2人で外に出てみる。こちらに気づいたのか声が聞こえてきた。

 

 『起きたぞ』

 『急げ』

 『相手は俺に任せておけ』

 「ねえねえ何してるの人の馬に」

 『おとなしく俺たちに馬をよこせ』

 意味が分からないくらい不条理ね。泥棒とは思えないわ。

 

 「何言ってんのさ。そっちは3人いるみたいだね」

 『早くしろ! 何やってんだよ!』

 「悪いことした人はお仕置きしないとダメって知ってる?」

 『何言ってんだ?』

 夜とはいえ、月明かりに照らされているため少しは見える。

 

 「僕が怒る前に早く帰りなよ」

 『バカじゃねえか? 気が変わった。お前らを殺して無理やり奪う』

 「へえ……久しぶりに僕怒ったよ。いつ以来かな……」

 そういうと、明久くんは突然相手のほうに向かって走り拳を繰り出していた。

 

 『ぐっ……危ない。なかなかやるようだ。俺はこれを使わせてもらおう』

 「丸腰の相手に刀とは器の小さい男だ」

 『ほえろ。死ねば一緒だ』

 「雄二とは違うな。あいつはそこだけは絶対に曲げなかった!」

 刀を持っている相手になおも徒手空拳で向かう。やめてよ……死ぬわよ。

 

 『馬を奪うのは後だ』

 『俺たちも参戦するぜ』

 「3対1たあ卑怯の上塗りだな」

 『さっさと殺すぞ』

 「やめて!!」

 アタシは思わず間に入って仲を取り持とうとした。

 

 「優子さん危ない!!」

 それが刀を振られた後だとも気づかないまま。

 

 「っ痛!!」 

 「優子さん!!」

 どうやら刀で斬られたらしい。かすっただけだけど……

 

 「貴様ら~優子さんに傷つけたな!!」

 1度のパンチと1度のキックで2人の大の男をノックアウトした明久くん。

 

 『死ねぇー!!』

 残りの1人が気づかないうちにアタシの背後に回って刀をアタシに向かっ振り落としていた。アタシはここで死ぬ運命だったのか……まだやり残したことがたくさんあったのにな。

 

 「殺させるかよ!!」

 『なっ!?』

 「優子さんはな僕の大事な人なんだよ!!」 

 『腕を犠牲にするか!』

 「こんなもの痛くないね。召喚獣のフィードバックに比べれば!!」

 『ぐばあっ!!』

 左手で刀を受け止め、右手で相手の顔面めがけて拳を繰り出した。

 

 『ず、ずらかるぞ!!』

 『おう!』

 『覚えていやがれ!』

 明久くんの強さに恐れをなしたか逃げていった馬泥棒。アタシたちに大きな傷を残して。

 

 「だ、大丈夫明久くん!!」

 「心配ないさ。優子さんこそ大丈夫なの?」

 「アタシは足を少し斬られただけだから大丈夫。でも明久君は腕を思いっきり!」

 「はは……さっきも言ったけどフィードバックよりかは全然……くっ……」

 「ほら痛いんじゃないの!! 動かないで。血を止めるから!」

 アタシは着ていた服をちぎって明久くんの腕を止血する。結構ダラダラ流れているけど、これが痛くないなんてウソでしょ。泣き言ひとつ言わないなんて……

 

 「ありがと優子さん。今度は優子さんの番だよ。足の止血しないと」

 そういって器用に片手で服をちぎって止血してくれた。

 

 「ありがとう。助けてくれて……」

 「当然だよ。言ったでしょ。絶対に守り抜くって。けがさせたのは僕が悪いけど」

 「これだけのけがを負ってかばってくれたもの。生きているだけでいいわ」

 「いっとき左手は使えそうにないや」

 どうしてそんなに笑顔でいられるわけ。あなたも傷ついてるのよ。

 

 「それだけのけがをしているのにどうして……痛いとか言わないの?」

 「………そりゃあ痛いよ。でも優子さんだってけがしてる。僕が泣き言言うわけにはいかないさ」

 「アタシはいいの! 自分の命を捨ててまで……」

 気づいたら泣いていた。人前で泣くなんて子どもの時以来かしら。

 

 「存分に泣いていいよ。すっきりしたら行こ」

 「ううっ……明久くんも泣きなさいよ~!」

 「僕はいいや。そんなの性に合わない」

 「無理言っちゃって……」

 少ししてすっきりした。悔しい。守られてばっかりで。でも……彼は優しい……

 

 「そういえば、さっき言ってたアタシが明久君の大切な人ってどういう意味?」

 「あ、そ、それはその……えっとなんというか流れというか勝手に出てきたっていうか」

 「ふふ。嬉しい。そんな風に思われてたなんて」

 今までアタシに言い寄ってくる男はみな秀吉目当てだった。彼もそうだったに違いない。でも、この世界では…………アタシもちゃんと大切だと言ってくれた。

 

 「もう朝になっちゃったね」

 「ちょっと眠たいけど行きましょうか」

 「そうだね。早く相模に入ろうよ」

 「痛っ!!」

 立ち上がろうとしたら、左足に力が入らない。

 

 「歩けない?」

 「片足使えそうにないわ」

 「そう……」 

 そんなに悲しそうな目をしないで。アタシだって気にしないようにするから。

 

 「じゃあ、おんぶするよ。僕は足は大丈夫だから」

 「えっ?」

 「ほらほら。馬に乗ったら操縦は出来るでしょ」

 「え、ええ」 

 明久くんに馬に乗せてもらった。でも……

 

 「明久くんは片手で大丈夫なわけ?」

 「う~ん……曳いていくよ」

 「わかったわ」

 「じゃあ、行こう」

 廃墟の寺を出発して4日目がスタートした。

 

 

 

 「止まれ」

 すぐに関所に到着した。昨日、ぎりぎりまで送ってもらっていたからね。

 

 「アタシは足をけがしているので馬から降りれません」

 「すいません……」

 「何者だ」

 「僕たち、旅人なんですけど、昨夜物盗りに襲われましてこのように」

 今度は同情を誘うらしい。

 

 「なんだと!? 我が武田領内にそのようなものがいるというのか!?」

 「は、はあ……馬を盗られそうになったため応戦したのですが逃げられました」

 「お主らは無事か」

 「なんとか」

 「気を付けてな。お主らのような者を出さないように警備は強化する」

 「すいません……」

 武田方の関所(駿河~相模間)通過。多少なりとも代償はあるけれども、無事に命があって相模に入ったわね。

 

 「次は、北条方の関所があるのか」

 「最後の難所ね」

 「場所もすぐそこにあるでしょ」

 「見えてきたわよ」

 武田と北条、緊迫した緊張感が流れているわね。

 

 「優子さん行こう!」

 「ええ」

 今まで通りに関所に向かうのだった。

 





 やっと2人の距離が縮まったかな。
 多分。

 みなさんお待ちかねの新キャラは次話登場となります。

 相模ですよ。
 誰だと思いますかね?

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