久しぶりの明久Side。
京では織田軍があんなことになっているなんて知らない明久らは、今は内政を進めるのが先と言わんばかりに戦とは無縁の存在であった。
では、どうぞ♪
新しい領地をもらい、そこに雄二たちを派遣してから数日が経った。
まさしく平和そのものであり、井伊谷は穏やかであった。
「相変わらず仲がよろしいことで」
「わしらもお2人のお子を見とうございます」
「何を言ってるんだみんな!」
「なななんでアタシがこんな ー 」
平和だと思う。うん。文月学園のころに比べたら……あんな殺伐とした空間に僕もよくいたな。これが平和ボケってやつなのかもしれないな。
雄二と秀吉とムッツリーニは新しくもらった領地のほうの整備にいってもらってる。雄二に命じられた(といっても僕のほうが位が上とかいうことは言わない)のはもとからあるこの井伊谷周辺の領民とさらに仲良くなったり、仲良くなったり………うん。仲良くするんだよ。とにかくここを住みやすい空間にするんだよ。
その代償として……
「優子さん?」
「何」
優子さんの機嫌は悪くなる一方だ。毎回おちょくられるからだろうなあ。僕は優子さんとなら ー いやいやそれはいいとして。優子さんが僕とだなんて釣り合わないよ。傷ついているのだから僕がしっかりと言わなくちゃいけないんだけど。ここの領民を説得するって難しいんだよ~何回挑戦して返り討ちにあったことか。
「なんか毎回ごめんね。僕のせいで」
「気にしてないから」
「ホントに?」
気にしていないなら、出来るだけ機嫌をよくしてもらいたいんだよな~いまだにムスッとしている優子さんのほうを見る。せっかくの美人さんなのにそんな顔してたらもった ー 。
「明久くん。人の顔をじろじろ見ないで」
「あっ、えっ、あ、これは、その、あの、えっと、なんていうか、それは」
「ふふっ……慌てふためきすぎ。取り乱さないの。主としてしっかりとしてないと」
「あ、うん。わかった」
機嫌……戻ったのかな? ならいいんだけど。なんといっても僕だけじゃどうしようもできないからね。優子さんの協力なしではここの領地を治めるだなんて難しいことやっていけるわけないし、やりたくもない。
「秀吉はちゃんとやってるかしら……」
「心配?」
「それは心配よ。あの愚弟がアタシを演じ切っているか。あいつにはあれしか取り柄がないから、少しは期待しているんだけどね」
「自分の弟を愚弟とか言わないほうがいいよ。秀吉はあんなに素晴らしいじゃないか。僕なんかと違って一芸に秀でてるし。僕の姉が僕を愚弟っていうなら仕方ないかなって思うけどさ」
あの姉は超人。僕なんか凡人とは比べ物にならない。客観的に見ても僕が何もできないバカの能無しだということは一目瞭然じゃないか。
「明久くん。あなたのお姉さんがどのような人かは知らないけれど、アタシが秀吉のことを思う気持ちと、あなたのお姉さんがあんたを思う気持ちは変わらないと思うわよ」
っていうことは、優子さんは秀吉を社会的に抹殺したいのか!! 秀吉は優子さんに女装させられて、それを写真で撮られ、ネットにアップされ ー あれ? 秀吉でしょ。全然OKじゃん。
「多分違うんじゃないかな……僕と秀吉じゃ元が違いすぎるよ」
秀吉は女の子。女装しても全然OK。というか女装がデフォ。男装している今の姿がおかしいんだ。それに対して僕はどうだ。生粋の男の子なのに……あの姉といったら。
「何を想像したのかは全く見当もつかないけれど……アタシもあなたのお姉さんも弟には期待しているの」
「きたい?」
あの姉が? 僕に? 何の期待を?
「普段は厳しいこと言っているかもしれないけれど、弟にはしっかりとやっていってもらいたいのよ。秀吉だってそう。演劇に力入れすぎているという点は否めない。やるべきことを放り出してまで一つに打ち込むなんてことアタシには理解できないわ。それでも、アタシはあいつの演劇に対する姿勢を評価しているの。でも自信がある演劇でミスでも犯したら、あいつは自分自身を信じることが出来なくなるのではないかと不安になるの」
秀吉うらやましいなあ。お姉さんにここまで愛されているよ。
「あなただってそうよ」
「僕も?」
「ええ。姉が弟を嫌う理由なんてないもの」
ハーバード大を卒業した姉と、バカの弟。嫌われて当然の理由があるはずだけどなあ。というか、あの行動が嫌われていないとしたら逆になんなの? 何が何だかわかんないよ優子さん。
「明久くん。もっと自分に自信を持ちなさい。あなたが勉強できないというのはそれもあなたの特徴よ。だからといって悔やむ必要はない。それ以上のものを持ってるから」
「それ以上のもの?」
「ええ。それ以上のもの」
僕を見てニッコリ笑う優子さん。でも僕の表情は晴れなかった。優子さんの言葉を理解するだけの容量が僕には不足しているのか。
「坂本君がなぜあなたを離さないのか。それがカギとなるわね」
「雄二が僕を離さない?」
想像するだけで吐き気がするよ。どういった状況に僕は陥っているの!? 僕が雄二の専有物? そんなものになった覚えはない!! というか突然雄二の話持ち出してどうしたの?
「中学のころは悪鬼羅刹と呼ばれ不良の道を進んでいた坂本君。アタシの学校にもその噂は聞こえていたわ。そんな坂本君があなたのような不良の道とは程遠かったであろう人と一緒にいる。不思議でたまらないわ。でも。代表に坂本君の過去のことを聞いたり、こちらの世界に来てあなたのことを先入観だけでなく本当の姿を見たりして、ようやくわかったの」
陽が落ちてきて、風も涼しくなってきた。
でも、構わず優子さんは僕のほうを見て話を続けた。
「かつての神童と呼ばれた坂本君。とある事件をきっかけに悪鬼羅刹と呼ばれる不良にまで落ちてしまった彼。彼は、あるものを手に入れたかったのよ」
「あるもの?」
「そのあるものというのが、明久くんあなたが持っているものよ」
「僕が持っているもの?」
う~んなんだろう。ゲーム? マンガ? そんなのをきっかけに不良になるとは思えないし。僕が持っているものってなんだろう……料理の腕? といっても雄二も普通に僕並に料理できるよね。考えてみてもわかんないや。空に向けていた視線を優子さんに戻す。
「それがあなたの最大の特徴よ」
「教えてくれないの?」
そこまで言っておいてケチだよね。優子さんはそんな僕の視線を感づいたのか、視線を外した。
「下手に意識しないでもあなたが持ち得ているものよ。普通誰もが持つことは出来ないわ。坂本君はそれをあなたが持っていると見抜いて今でも、そのあるものを追い求めているのよ」
だからあるものって? それを問い詰めようとしたら、優子さんが再び視線を僕に戻して話を続けた。
「分かる? 明久くん、あなたはそれほどまでに大切なものを持っているの。だから自分自身がバカだからとかそういう理由で卑下するのはよくないわ」
これは褒められていると取っていいのかな。よくわかんないけど丸め込まれた感じがする……
(アタシだってそんな明久くんの一面に ー )
「なんか言った優子さん?」
「い、いえ…なにもないわ」
「そう?」
「とにかく、あなたはバカでも立派なの! 分かった? 返事は?」
「は、はい!」
「全く……アタシにここまで言わせて……」
ふてくされたように横を向いた優子さん。ちょびっと頬が赤いのは夕焼けのせいなのか。いつも以上にかわいく美しく見えた。
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