吉井明久の野望R   作:いくや

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 颯Side。

 清水寺攻防戦で重傷を負った颯と、疲れのあまり臥せってしまった半兵衛。織田軍の中では格としては高くないものの、主力として期待されていた2人の離脱は痛いものであった。
 それを象徴する出来事が……今起ころうとしている。

 では、どうぞ♪




第35話 留守と進撃と金ヶ崎

 秋の涼しさも通りこし、だいぶ昼間でも寒くなってきた今日この頃。

 オレは良晴めの策略で、清水寺の戦いの折に負った傷が完治するまで絶対安静となってしまった。意外に重症だったらしく、なかなか元の通り動くまでには時間がかかった。オレは意識がはっきりしているからいいものの、半兵衛ちゃんは数日間臥せたまま起き上がることもなかった。あの時は自分の怪我も心配だったがそれ以上に半兵衛ちゃんも心配してた。

 天下の名医の曲直瀬道三がやってくると、少しずつではあるが快方に向かっていってほっとしていた。オレも半兵衛ちゃんも共に回復している時のころの話だ。

 

 「2人ともだいぶよくなってきたな」

 「ああ、誰かさんのおかげでここから一歩も動けないからな」

 「当たり前だ。半兵衛ちゃんも顔色がよくなってきてよかったよ」 

 「曲直瀬様のおかげです。後は晴明神社からも気をもらいました」

 もうそろそろ戦線に復帰できるころだろう。オレたちも。

 

 「そういえばこの前の軍議で、若狭を討伐しにいくことに決まった」

 「若狭ね。早く日本海側にも港を確保しておいたほうがいいからな」

 「そういうことだろうな……俺は十兵衛ちゃんに代わって京都所司代を任された」

 「ほう。若狭征討の一員には含まれなかったというわけだな」

 少々残念な表情の良晴。まあ、十兵衛ちゃんは若狭・越前のほうのには浪人時代にさまよっていたはずだから地理感があるところを買われたのだろう。

 

 「でもな颯、俺はてっきり越前朝倉を狙うと思ったんだよ」

 「ああ」

 「だが、信奈が若狭といってちょっと安心した」

 良晴が言うのは、織田信長最大の危機と言われた金ヶ崎の退き口のことを言っているのだろう。深入りしすぎて同盟国のはずの浅井に裏切られる。

 

 「オレは嫌な予感がするな」

 「というと?」

 「若狭から東へ反転し越前をそのままつく可能性だってあるだろうが」

 「相良氏、知らなかったのでごじゃるか? 信奈殿は初めからそれをお考えに ー 」

 『なにいっ!?』

 屋根の隙間からオレたち3人がいる部屋を監視していた五右衛門が口を挟んできた。しかも衝撃の一言付きで。

 

 「どういうことだ五右衛門!?」

 「信奈殿は十兵衛殿との密談の際にそのようなことを ー 」

 「しまった! まずいぞ!」

 「どうかしましたか2人とも?」

 何も知らない半兵衛ちゃんが不思議そうにオレたちを見ている。どうかしたのレベルじゃねえよ。織田軍崩壊の危機だ。

 

 「颯、京都はお前に任せる。半兵衛ちゃんもよろしく頼むな」

 「お前はどうする気だ!?」

 「馬を飛ばして越前へ向かう!! 五右衛門ついてこい!!」

 「ちっ……死ぬなよ。待ってるからな」

 行くな、とはいうわけにもいかない。だからといってこの戦の過酷さを知っている人間からすると派遣をためらうような壮絶な戦が始まるのであった。

 

 「兄さまは突然走ってどこに行かれたのでしょう?」

 たったいま駆け出した良晴と五右衛門が出ていった扉から入れ違いのようにしてねねと堀尾吉晴がやってきた。

 

 「越前だ」

 「わたしを置いてですか~? 今から追いかけます!」

 「待て! お前はここに残れ。オレの仕事を手伝ってもらう」

 「良晴様がそうおっしゃってたのですね」

 厳密に言うと違うが、わざわざ訂正する必要もないのでそのままうなずく。

 

 「お前らよく聞いてくれ。おそらく織田家は壊滅の危機に追い込まれるであろう。何を言おう、当主の信奈をはじめ柴田勝家・丹羽長秀・前田犬千代・松永久秀・援軍の松平元康ら全員が討ち死にの危険性がある」

 「どういう?」

 「浅井が織田を裏切り、朝倉の援軍に向かう。そうなれば挟み撃ちにあって織田は身動きがとれなくなってしまうだろう」

 最悪の場合を想定して言っている。金ヶ崎の退き口。全員が無事に帰ってくることを祈るしかない。

 

 「浅井長政が裏切るのですか?」

 「ああ、正確に言うと長政が裏切るのではなく、父の久政だ」

 「長政さんは親孝行の人と聞きますから、お父上の決断には逆らえないということですか」

 「半兵衛ちゃんの言うとおりだ。だから、それを伝えに良晴は越前にいるであろう信奈のもとへ急行した。それがオレたちの勘違いで済むのならそれでいいがな」

 それだったら朝倉も滅ぼすことが出来、一気に天下取りに近づく。ただ…………

 

 「わたしは何故この京においていかれることに!?」

 「京でも大切な仕事が残っている。畿内には織田軍が数少ない。それを取りまとめ、もしも敗れて帰ってきた織田軍を迎え入れることが欠かせない。追撃してきた浅井・朝倉両軍と追い払う役目も担う」

 「わかりました。良晴様がそうお考えならば」

 あいつは何も言っていない。オレが勝手に考えたことだが。

 

 「せめて良晴さんには援軍を送りたいものですが」

 「こっちからは一兵たりとも出せねえだろう」

 「前鬼さん、お願いします」

 式神を召喚し、そいつは良晴のもとに向かった。彼ならうまくやってくれるだろう。

 

 「堀尾吉晴よ、腕利きの伝令を出来るだけ探してくれないか?」

 「と申しますと?」

 「今オレたちが必要なのは情報だ。それには腕のいい人がいたほうがいい」

 「わたしが選んでよいのですか」

 それはもちろんだ。オレはあんたに頼んだんだからな。そういうと嬉しそうな顔をしてこの部屋を出ていった。

 

 「ねねはなにをするですぞ!」

 「半兵衛ちゃんにお水を持ってきてくれるかな」

 「わかりましたですぞ!!」

 これでオレと半兵衛ちゃんの2人きりになった。やましいことをするつもりではない。大切な軍議のお時間だ。

 

 「颯さんがおっしゃったことが全て起こってしまうとなれば、織田軍は壊滅の危機」

 「ああ。良晴がどれくらい早くあっちにたどり着けるかだな」

 「逃げ帰ってくる道ですが…浅井の追撃より早く琵琶湖畔にたどり着き、小谷の城がある東ではなく、西を通って帰ってくれば京に」

 「それでも最大の難所は朽木谷。松永久秀がやってくれるかだな」

 史実ではそう。こっちの世界では知らんが。ともかく、そのルートしかないのは明らかだ。

 

 「颯さん、すぐそこで変な服を来た人たちがいましたから捕まえてきました」

 さっき送り出した堀尾吉晴が戻ってきてこう言った。しかし、変な服というのはなんだよ。半兵衛ちゃんは意味が分かったように表情はさえていたけど。

 

 「ちょっと放しなさいよ!! 何突然捕まえて!?」

 「まあまあ落ち着くんだ。僕たちはおそらくこの制服がこの世界とマッチしてないから捕まったんだよ」

 「どうしてそう冷静でいられるわけ!? 死にたくないですよ!!」

 どうやら声の質からして彼女が捕まえたのは2人のようだった。

 

 「半兵衛ちゃん、ここに入れてもいいかな」

 「構いませんよ」

 「じゃあ、連れてきてくれる?」

 「わかりました」

 連れてきて、というより既に向こうからやってきた。あいている扉の向こうには制服、つまり文月学園の生徒がそこにはいた。

 

 「久保………お前か」

 「佐々木ではないか。知り合いが他にもいるとは。安心したよ」

 「で、そっちのは?」

 「そっちのとはどういうことですか!! Dクラスの清水美春です!!」

 オレはよく面識はないが……あの時あの場所にいたのは間違いない。

 

 「えーっと、オレの知り合いだ。こっちはいいから探してきてくれないか」

 「わかりました!!」

 堀尾吉晴を再び仕事に戻して、オレらはこの2人と話を進める。

 

 「佐々木はこんなところで何をしているのだ」

 「それはこっちのセリフだ。お前らこそどうしてここらに」

 「僕はあの光の後、この京に何故かいて、そこからは京をふらついていたさ」

 「美春は大和とやらにいましたが、歩いていると久保君と遭遇いたしましたので」

 ほう。山城と大和か。この2人特定の大名に仕えていたというわけではなさそうだな。

 

 「まあ、ここでゆっくりしていってくれ。というかここからは出さん」

 「僕はそれで構わないけど清水さんがどうかな」

 「なぜです?」

 「危ないから。出来るだけ文月生は一緒にいたほうがいい。武器もないだろ」

 戦乱の世。大変なことになるからな。オレはあえて良晴ら他のメンバーの話をしない。

 

 「で、佐々木君と言いましたかね。あなたはその可愛げな少女をどうするつもりですか」

 「佐々木、君はもう少し理性のある人だとは思っていたが」

 「お前ら勘違いも甚だしいな……オレの主だよ」

 「「主!?」」 

 半兵衛ちゃんは2人の大声にちょびっとびくってなったが、自己紹介をしてくれた。

 

 「た、竹中半兵衛です。颯さんにはお世話になっています」

 「オレも十分お世話になってるから気にしないでよ」

 「佐々木よ、竹中半兵衛というとあの豊臣秀吉の軍師と呼ばれた」

 「ああ、そうだ。流石は久保。少しは戦国を知っているようだ」

 オレ的にはメジャー中のメジャーな竹中半兵衛だが、一般的にはマイナーらしい。でも、その半兵衛を久保が知っていたというのはいささか嬉しいことだ。

 

 「で、お前らには悪いけど、オレと彼女は一時ここを動けないから、手足となって働いてもらいたい」

 「お断りいたします」

 「理由を尋ねていいか?」

 「オレ怪我をしてて満足に動けねえ。彼女は重病人。以上」

 あんまりこの事実を把握したくはないが、客観的に見てそうだからな。諦めるしかない。それよりも今は危機が迫った織田。オレの知り合いが2人も増えたというのは黙ってみてられる状況でもない。動かずして出来ることもあるだろうからそれを2人に手伝ってもらう。

 

 「わかった。手伝おう。ただ歩くだけはもうさんざんだからね」

 「仕方ないですね。早くあちらの世界に戻れるためには文月生と一緒にいたほうがいいでしょう。美春も手伝います」

 よかった。そうしてくれて。オレは早速、2人に仕事をしてもらうことにした。

 

 





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