颯Side。
京にて留守居していた良晴が後のことを颯に任せて自分は金ヶ崎へと向かい、しんがり軍を買って出た。その良晴が朝倉の追撃を食い止めてる間、信奈をはじめとする織田軍は全速力で琵琶湖西を退却していた。
ただ、一度悪い流れになると断ち切らない限り、悪いままなのだ。
では、どうぞ♪
京の本能寺に場所を移した織田の京都留守居役。
本来ならば良晴がこの任を担当していたのだが、浅井の裏切りを伝えるために京はオレと半兵衛ちゃんの2人に任せられている。正確に言うと病人・けが人は戦争に連れていけないのでおとなしくじっとしてろということでもある。
良晴が急いで近江を抜け若狭・越前に行った後でも、オレらは絶えず状況をつかむためにたくさんの物見を派遣している。次々とくる報告は、どれも予想通りだ。金ヶ崎で良晴をしんがりにして織田軍全軍撤退。琵琶湖西を帰ってきている。朽木谷が敵にまわるかと思いきや、松永久秀の説得でなんとか無事だったということまで。
ただ…オレが予想していなかったことがある。
「嘘だろおい」
「信奈さんが、種子島で撃たれたんですか?」
あの不死身の信奈が撃たれたという。そこまで壮絶な撤退戦だったというのか。
「はっ。朽木谷を抜け、また京に向かおうとした矢先のことです。狙撃手は
「承知した。この本能寺に案内を頼む。曲直瀬先生やらを呼んでおく」
「わかりました」
それだけ言うとすぐに使いは出ていった。
「半兵衛ちゃん」
「ええ。曲直瀬先生ですね」
2人のかかりつけの医者を呼びつけ、信奈が帰ってくるのを待つ。いくら良晴がしんがりで善戦しても大将がやられれば意味ないぞ……くそっ。オレはなまっていたというのか。普通、暗殺を考えるだろうよ………なさけねえ。
☆
「佐々木、織田信奈が戻ってきたみたいだ」
しばらくして久保がオレのもとに報告に来てくれた。新入りの久保と清水には織田家中の顔を覚えてもらうために門番などの仕事についてもらってる。
「今から向かう」
もう違和感なく歩けるようになったオレは急いで帰ってきているであろう織田軍を迎えに行く。半兵衛ちゃんは完治してなかったのにもかかわらず、働きすぎたのかまた体調を壊して臥せっていた。こちらは曲直瀬先生曰く、安静にしていれば何も心配がいらない状態だそうだから安心した。
1人で門前に向かうと、ものすごいスピードでこちらに迫ってくる馬群が。あれだろうな。先頭にいるは柴田・丹羽両家老そして瀕死状態の信奈。みんなの顔色が悪すぎる。それもそうだ。オレだって平然としていられるわけではない。
「颯さん。姫様が ー 」
「急いでこちらへ。曲直瀬先生を呼んでいます」
「長秀。行こう!!」
オレが案内するまでもなく、信奈を抱えた2人は本能寺内部に入っていく。オレは見送った後、統率乱れている織田軍をまとめる仕事にかかる。
「よくぞ帰って来られました。姫様はわたしたちがなんとしてでも助けます。みなさんも姫様が元気になられた後に、元気な姿をお見せください。休む場所を用意しています。あの2人に従っていってください!」
気落ちしている兵の士気を戻すことが重要だ。久保と清水をして休憩所へ行かせることにした。信奈なら大丈夫だ。あの腕のたつ曲直瀬道三が手術してくれるんだからな。
「颯さん!!」
織田軍本隊のしんがりを務めていた明智十兵衛・前田犬千代・松平元康が帰ってきた。これでひとまず収容完了か。後は良晴らしんがり隊。
「3人ともついてきてくれ」
これから大事な軍議をしようではないか。織田軍の命運を握る。オレは織田両家老と半兵衛ちゃんを病室(信奈が臥せっている部屋)に迎えに行き、信奈を医者に任せ別室で軍議を取り仕切ることにした。
「曲直瀬先生のことだ。姫様は大丈夫だ。ただ、一向に良晴の安否が知れない」
「先輩のことです。ちゃっかり生き残ってるですよ!」
きんかんの十兵衛が言うことも正しい。オレだってそう思っている。ただ、このまま京にじっとしているっていうわけにもいくまい。
「それに浅井・朝倉は余勢を駆ってこの京に侵入してくるだろう」
「どどどどうするんだよ! 姫様が出陣できない今、わたしたちは!?」
「落ち着くのです勝家さん。10点です」
そうなだめる長秀さんにも動揺の色が見られる。他のみんなも同様だ。
「颯さん、何をお考えです?」
「良晴を助けに行ってくる」
「…颯は怪我が完治してない」
「そうですね。私も違和感感じました~」
オレが? それはないぜ。もうこんなに歩けるんだからな。それに完治してなかろうと、友人を見殺しにすることが出来ると? しかも何でそんなこと犬千代や元康が分かるんだよ。
「颯。わたしに斬りかかって来い」
「何を言っているんだ勝家は?」
「いいから来い。わたしを誰だと思っている」
どういう意味だ? 意味わかんねえよ。
「お前、わたしに剣を向ける勇気もないのに、サルを救いに行こうとするとは逆に足手まといだろう」
「何を言っている。そこまで言うのなら!!」
オレは腰にさしていた剣を抜き、偉そうな口利いてた勝家に斬りかかる。あそこまで挑発されていて黙っていられるわけねえよ。そうやって斬りかかったのはいいが……
「ぐっ……」
やられたのはオレのほうだった。何が起こったのかさっぱりわからん。
「お前は自分が気づいていないところで怪我が治っていないんだ」
「颯さんは、この京で療養しててください。そんなので戦場にむかおうなど0点です」
なん、だと……? 良晴を助けに行けないとはどういうことだ。お前らそこまでして良晴を見捨てる気かよ!!
「…わたしが行く」
「わわわたしも行きますです!!」
名乗りを上げたのは前田犬千代と明智十兵衛だった。2人とも日頃から良晴と仲良かったもんな。
「敵地である近江へ乗り込むのはなりません。隠密行動なら乱破を派遣すべきです」
長秀さんの冷静沈着さには一目置いているけど、こういう時にもそれを発揮するというのはなかなかのものだ。どうすればいいんだよ。
結局その話に結論は出ず……数日が経過していた。
毎日交代で信奈の見舞いに行くオレたち。次第に家臣同士での話も減ってきた。織田軍は本当に信奈だけで持っているもんだったんだなと改めてわかる一連である。
オレは信奈の見舞いと共に、いまだ臥せっている半兵衛ちゃんのお見舞いもする。早く回復してくれよな、2人とも。このままじゃ ー 。
「信奈様の意識が戻りましたわ」
清水寺の戦い以降、仲間に加わった松永久秀がわざわざ報告に来てくれた。ちょうど交代制の見張りが彼女の時だったからだろう。オレだけ別の部屋にいて、他の人は既に信奈のもとに向かっているとも聞いた。だから急いで向かう。この時まさか信奈があんな状態で意識が戻っているとは思わなかった。
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