魔法王国の軍門の家系に生まれた令嬢セレンには攻撃魔法が使えないというハンデがあった。役立たずと義絶された彼女は類稀な付与魔術と術式記号化の才能を生かし、魔導織工(マギカクローザー)として財を成し生家に「ざまぁ」と「もう遅い」する!……的ななろうにして十万文字程度の成功話のその後。お嬢様は唯一献身的に自分の味方でいてくれたメイドに贈り物がしたいみたいです。

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 ある警告タグを付けてない時点でオチはお察しください。

 たまには頭のネジ外して下ネタ書き散らしたくもなる日があるものでして。………え?お前執筆する時に頭のネジ締めてたことあんのか、って?うーん……。
 間違っても万人受けする話ではないと思うので、嫌な予感がしたら即ブラウザバック推奨。



廃令嬢が親愛なる従者に贈りたいもの

 

「それではお嬢様がた、ごゆっくり」

 

 艶やかな黒の長髪をなびかせつつも所作に一遍の乱れなく、エプロンドレスの裾を捌いてそのメイドは扉の前で一礼した。静かに、しかしこちらにはっきり通じる最低限の声量で発せられたこと一つ取っても無駄と粗を限界まで削ぎ落とされたと理解できる―――従者として完全に洗練された仕草にはある意味で似付かわしくない、咲きたての夏花を思わせる瑞々しさと初々しさを備えた容貌だが―――声は耳に涼やかに心地よく、しかし後味を残さないことが逆に未練になってしまいそうなほど。

 皺枯れた老人ですら腕を回して抱きしめたくなるだろう可憐な雰囲気を纏った後ろ姿を扉で隔て、やはり思わず未練を感じるほどの呆気なさで部屋を後にしたメイドは、そのまま廊下の主人と客人の話が聞こえない位置でじっと控えているのが容易に予測できた。その物静かに気品を示す立ち姿だけでも、絵描きの心得がある者ならば即座に筆を取りたくなってやまないに違いない。

 

 外形的な魅力と使用人としての実力を兼ね備えた珠玉、ヒナタ=サークリア。下手な貴人では傍に置いた時点で主人の方が見劣りしてしまいそうなのがある意味で欠陥か。

 そんなことを考えながら、瀬戸ユズカは招待されたセレン魔織工房の応接室で、給された淡く湯気を立てる紅茶を口に含む。器の白磁を赤み深く染める液体は瞬間に優しい香りで舌と鼻を満たし、過ぎる喉元を暖めた。

 

「うん、いつもどおりね」

 

 外海を股に掛ける瀬戸商運の総領娘であるユズカですら頻繁にはありつけない、ヒナタの完璧な仕事で淹れられたアフタヌーンティーに対してそんな贅沢な台詞を抜かすのは、編み込んだアッシュブロンドの髪の一部をルビーのあしらわれたバレッタで留めた少女。木製の丸テーブルの対面に座りダークレッドの瞳を蕩かせて上機嫌に紅茶を味わうその様からは、その有難さが十分以上に理解できているのを読み取れる。

 

 セレン=バーンツアッシュ。大陸特有の掘りの深い容貌は、近い将来花開くであろう妖艶さと幼い蕾の可憐さが絶妙なバランスで鬩ぎ合っており、パーティー会場に出れば同年代の羨望と嫉妬を男女問わずに一手に引き受けることは間違いない美少女。

 ヒナタの主人であるこの令嬢は、従者同様年不相応な落ち着いた所作も相まって、先ほど考えたような「従者に見劣りする下手な貴人」に当てはまらないのは認めざるを得ない。しかしながら同時に大陸特有の発育の良さは、ユズカの視点の高さがそのままシックな真白のブラウスの胸部を激しく押し上げる豊かさの乳房に当たっており、見下ろした時の平原との違いでどうしようもない格差をも思い知らされる。………大丈夫、『商売』柄殺意を相手に気取られないよう散らすのは慣れている。大丈夫だ。

 

 無為な感情に思考が流される為に視線を横に外すと、今まで訪れる度に見てきた応接室の内装が当然ながら視界に入る。家具などの調度品は通常の―――セレンの懐具合に見合った―――オーダーメイドの最高級品だが、特徴的なのは絵画や彫刻などの美術品が一切なく代わりに幾何学的な紋様と記号と文字を組み合わせて刺繍された布があちこちの壁に張られていることか。

 ここがただの金持ちの家ではなく魔織工房(マギカクローゼット)であることを考えれば、そこらの美術品など鼻で笑う高級品である一枚一枚が『商品見本』であり、また見せ札としての『防犯装置』であるのは明白だった。

 

「それで?今日は何ぞウチに用立てて欲しいもんがあるんやって?」

「ええ。此処シーレザルの街で、私が最も頼れる商人である貴女に、ね」

 

 紅茶を飲み干し舌を十分に湿らせたところで、ユズカは仕事モードに精神のスイッチを入れる。とはいえ相手によって入れる深さはそれぞれで、儀礼的な前振りを色々挟まない程度には気安い“お得意さん”がセレンだった。

 

 魔織工房(マギカクローゼット)の名が示すとおり、セレン=バーンツアッシュは魔道織工(マギカクローザー)だ。

 

 生命体に満ちる目に見えない魔力を糧に、何もないところから火や水を出すなどの超常現象を発現させるのが魔法。本来才能と研鑽の両方が要求される個人技能であるそれを、その詠唱と魔力操作を図式化して刺繍に込めて素人が雑に魔力を流すだけでも発動できるようにするのが魔織布。

 糸の一本でも切れたりほつれたりするだけで動作不良を起こす繊細な代物であるのと、図式化の難度が跳ね上がる上級以上の魔法が込められた魔織布は作れる職人がそうそういない関係で、魔道師が本来のやり方で発動する魔法と比べどちらが優れているかを一概には断言できないが―――便利なことに違いはなく、庶民の日用品から王侯貴族の見栄の一品まで、様々な魔織布が社会に流通している。最近はユズカの故国を含めた東方諸国において指導者層の不審な衰弱死や錯乱、御家騒動などが相次いだことで情勢が一気に不穏になっており、軍需物資としての需要が高まっている中で瀬戸商運としても大分儲けさせてもらっているところ。

 

 作成過程においてか細く長い糸に対する長時間の繊細な魔力付与を行えること、また多分に感覚的な『詠唱と魔力操作』を理論的で目に見える形に図式化するというある意味で気色の悪いプロセスを実行できること、その二点において魔道織工(マギカクローザー)は魔道士と別方向の才能と研鑽が必要とされる技能職だ。そしてセレン=バーンツアッシュはその中でも超一級と称して差し支えない職人である。

 大陸の真っ当な魔道士なら誰もが籍を置く魔導協会において、誰一人使うことができない時期があることを以て指定される難度の『失伝級魔法』―――その魔織布を彼女は作成できると言えばその異才の程は伝わるだろうか。

 

 彼女の名声は作品の評判と共に瞬く間に拡散し、作品の一枚一枚が庶民が一生懸けて稼いでも前金にもならない金額でやり取りされている。それらを優先的に卸して利ざやにありつけるのが、商人・瀬戸ユズカの強みの一つであった。

 そんな最重要に近いほぼお抱え職人から「欲しい物がある」と手紙が届けば、こうして自ら工房に足を運ぶのも当然の話。……という理由付けだが、さて。

 

「んで、ご所望は何や?珍味……ドラゴンの卵か?妖精郷の果実酒か?宝石系なら、化石樹の琥珀でえーのが入っとるのと―――、」

「そういうのじゃないわ。というか相変わらず隙あらば売り込みしてくるわね?」

「ややわー。うちはセレンちゃんに良いお金の使い先を教えたろって親切心やのにー。

 ほれ、この幼気な少女の瞳の輝きに邪念が入っとるように見えるか?」

「輝きそのものが金貨のそれと酷似しているようには見えるわね。あと幼気な少女って言っても見た目だけでしょう貴女。ヒナタといい、東方の民にはエルフの血でも入ってるのかしら……女性としては、少し羨ましいわね」

「(その恵体で嫌味かおどれは………)こほん。まーまー。お金はただ貯めとるだけじゃつまらんで?特にあんたみたいに一回の仕事で一生遊んで暮らせるような銭稼ぐようなのがケチケチすんのは不健康やわ」

「言うわね……まあ大口の納品先は大体貴女のところだし、うちの経済事情なんて百も承知なのでしょうけど」

 

 お金を持っている人間に「これぐらいの額なら払ってもいいか」となる程度の商品を紹介するのは、ユズカのような商人にとってもはや本能だ。セレンも苦笑する程度で気分を害した様子はない。食いつく気配もないが。

 

(年頃の娘が珍品にも宝飾にも興味なし。贅沢の仕方なんか分からん、っちゅー顔やなぁ。けったくそ悪い)

 

 今でこそ富貴な令嬢を絵に描いたような風体のセレンだが、彼女の半生は順風満帆に程遠い。

 バーンツアッシュ……軍勢を消し炭と化す『滅炎伯』と“ひと昔前までは”異名を取った軍門の貴族家に生まれながら、家門の最たる誇りであるところの爆炎魔法の才が皆無だったこと。家系の特徴である燃えるような赤髪を持たず、灰褐色の髪であったことから母親の不貞が疑われたこと。

 彼女がどういう幼少期を送ったかは、『竈(かまど)住みの廃令嬢』―――住みと炭、廃と灰をかけた悪趣味なダブルミーニング―――などという異名を家族間で公然とあだ名されていた時点でお察しであろう。

 

「でも、そうね。今回はどうしても買いたいものがあるの。なんだったら蓄えの半分くらいはたいても構わないわ。全額は、流石にヒナタのお給金が払えなくなったら困るからだめだけど」

「……おっ?どういう風の吹き回しや?」

 

 

「ヒナタに、贈り物がしたいの」

「―――ははっ。それは、ええんやない?」

 

 

 そんなセレンを救ったのが、ヒナタ=サークリアだった。

 

 暖かいスープも、毛布も、令嬢としての教養も、魔道織工としての道も、それを学ぶ教材も、自分の灰髪を誇りに思えるようになった大切な記憶も、その証のバレッタと一緒にくれた言葉も、そして今従者として共に居てくれる毎日の幸せも。廃令嬢に与えられた全ては、当時は新人の家付きメイドとして働き始めたばかりでしかなかった、ヒナタからの贈り物。

 何の義理も縁もなく、炭焼き小屋に軟禁される程冷遇されていた小娘に優しくしてもリスクしかなかった筈なのに、なんてことないと言わんばかりの笑顔で世話を焼いてくれた。

 

 自分に家族と呼べる人が居るとすれば、それはヒナタだけだ―――家を追い出されて独立し、工房の経営が軌道に乗り始めたあたりで金を強請りに来た元家族にセレンはそう言って心の区切りをつけたという。

 ちなみにその場で逆上して攻撃魔法を使おうとした異母兄は、家付きメイドを辞して付いて来てくれた従者が指と腕を振るったと思った次の瞬間空中で閃いた鋼の糸で口を縫い合わせられ全身を捻じりながら縛られ転がされ、「おとといきやがりなさいませ」と一礼されたまま放置された。生家に居た頃は見下して侮蔑の言葉を何度も投げてきた男だったのでざまぁ見なさいと胸がすっとしたのと、こういった方面でも完璧だったメイドに改めて信頼を預け直すお嬢様なのであった。

 

………今にしてみれば焦りの裏返しだったのだろう。爆炎魔法が使えないセレンの存在はただ偉大な家祖の血統が時と共に薄まったことの結実に過ぎず、バーンツアッシュ家の軍部での活躍にも翳りが生まれて家の財政も傾きを増し、挙句禁制品を流通させる闇組織と通じて後ろ暗いことに手を染める有様になっていたのだ。

 そんな中金の卵を産む鶏であったセレンを追放した事に気付いてももう遅い。今更援助などという虫のいい話が通る筈もなく、武名もたかだか一メイドに嫡男が叩きのめされたことで地に落ち、結局闇組織の壊滅に連座してお家取り潰しの末路を辿ったという。セレンが未だにバーンツアッシュを名乗っているのは、そのことにあてつけた皮肉と意趣返しのようなもの。

 

 とはいえセレンにももしかしたら闇組織に奴隷として下げ渡されたりする結末があったのかもしれない。今の境遇はヒナタあってこそのものだというのは彼女自身しっかり認識できている。だから何をあげたって報いるのには足りないくらいなのだが、無欲な従者は「お嬢様が笑顔でいるならそれで満足です」と言うのでなかなか難しい。―――話を戻すが、そんな親愛なるメイドに贈り物をしたいという件だ。

 

「私の作品ならいくつもあげてるけど、流石にそれをカウントするのもね」

「あんたの作品、って……市場価値に直したらどんだけやねん」

「治癒、加速、幸運、魔力防壁、肉体強化、武装強化に、あと……対策したのは火炎、氷結、電撃、斬撃、衝撃、圧力、毒、酸、疫病、劣化、呪詛、精神干渉、まだあったかしら。思いつく限りの加護は施したつもりよ」

「歩く国宝で歩く要塞かいな、あのメイド服……」

「ヒナタに着せるんですもの、当然じゃない」

 

 本人的には贈り物とはカウントしていないらしいが、メイド服については職人根性と従者可愛さが悪魔合体して相当えげつないことになっているらしい。見た目は何の変哲もないエプロンドレスなのだが。

 

「んー、でもそれに見劣りせん品ってなると流石になー。うちに話持ってきてもどーにもならんって可能性は考えとる?」

「きっと大丈夫よ。奉公先としてバーンツアッシュ家にヒナタを紹介したのは貴女のところでしょう?だから私はあの子に巡り合えた。たとえ貴女にそのつもりがなかったとしても、それだけで私にとって一番信頼できる商人が貴女なのよ」

「(……あれは色々こっちの事情もあったんで、そう言われると後ろめたいんやけどな)ええやろ。あんたには大分儲けさせてもらっとるさかい、そこまで言われて芋引いたら女が廃る。言うてみいや、ヒナタちゃんに何を贈りたいんや?」

 

 穏やかに語る友人に、気合を入れなおした表情で問いかけるユズカ。

 セレンにとって本当に大事な案件に自分をかませてくれた信頼は嬉しいし、商人として自分の商品を買ってくれたことで相手が幸せになれるならそれ以上のことはない。

 そう思っていた。ここまでは、まだまともな話だった。そして―――、

 

 

「ふたなり薬が欲しいの」

「………ん、んん?もっかい言って?」

 

 

「だから、ふたなり薬。女の子におちん×んを生やして、別の女の子とぬちゃぬちゃずっぷずっぷできるようにする薬」

 

「――――」

 

 

 ユズカは、世界の知能指数が一気に下がった音を聴いた気がした。

 目をぱちぱちさせて目の前のお嬢様を観察するが、相変わらず気品を秘めた微笑みを浮かべ冗談を言っている気配はない。猶更救えない。

 

 できれば現実逃避したいが、固まっていても何も話が進まない。ユズカは嫌々掘り下げることにした。

 

「あんな、一応確認やけど……あんた自分におち×ちん生やしてヒナタちゃんをずっぷずっぷしたいんか?」

「そんな、ヒナタにそんな酷いことできる訳ないじゃない!勘違いしないで、ヒナタにおち×ちんを生やして私をずっぷずっぷして欲しいの!」

「大恩人なメイドに薬飲ませてふたなりにするんは酷いことじゃないんかい」

「大丈夫。私ならどんなヒナタだって受け入れられるわ」

「マッチポンプって言葉知っとるか?」

 

 おかしい、自分は商談に来た筈がなんで猥談をしているんだろう―――ユズカは自分の眼に光がなくなっていくのを自覚しながらも気力を振り絞って会話を続ける。別にお嬢様の秘められたというか拗らせた性癖なんぞ知りたくもなかったが、放り投げる訳にもいかないからだ。

 

「セレンちゃん、あんた同性愛者なん?この辺りの宗教じゃそういうの禁忌やったと思うんやけど」

「いいえ、私はノーマルな女性よ。だからおち×ちんでずっぷずっぷされたいんじゃない。そして出来れば孕みたいの!もちろんヒナタのじゃないと死んでも御免だけれど」

「のー、まる……?」

 

 のーまるってなんだっけ。

 答えのない問いが心に谺する―――もちろん詩的な意味ではなく。

 

(助けてひゅーくん……)

 

 つい脳内でユズカは小さい頃に結婚の約束をした愛しの幼馴染に助けを求めるが、こんなぶっとんだ話に答えが返る筈もなく。寧ろこんなんで心の聖域を汚すのは乙女的に絶対NGだ。

 

「その、やっぱり難しいかしら、ふたなり薬……?」

「全然違う意味でな……」

 

 商人の矜持にギリギリかすってでも無理と言いたいところなのだが、実際そういう馬鹿馬鹿しい薬を喜々として作る錬金術師も居るところには居る。そして得てしてそういうネジが外れた輩ほど能力が高く、効力も副作用も問題ないだろう。問題ないことが問題なのだが。

 そして更なる問題がもう一つあるのだが―――。

 

「ご歓談中申し訳ございません。一度お茶菓子で休憩なさってはいかがでしょうか?」

「ありがとう、ヒナタ。入って」

 

 と、ただの商談にしては雰囲気がおかしいのを察して、出来るメイドがエントリー。決して子ウサギが自分から檻に入ってきたとかそういうアレではない、筈だ。

 あらかじめ焼いていたのだろうパウンドケーキを取り分けた皿をセレンとユズカの前に置きつつ、主人を心配しての一心なのだろうかこちらに探りを入れてくる。

 

 笑えば愛らしく、真剣な顔つきをすればクールな美しさが生まれる不思議なファニーフェイスが近い位置で見つめてくるのは本来なら眼福なのだが、今のユズカには無性に悲しさだけが呼び起こされる。

 

「ユズカ様。私はお嬢様が貴女に何か取り寄せて欲しいものがあるということしか伺っていません」

「そりゃなぁ……(あんたへのプレゼントやから……って、それだけなら良かったんやけど)」

「ですがお嬢様が仕事に関するもの以外で高価な品物を欲しがるなど滅多にないこと。それだけ何か真剣な理由があるのでしょう」

「真剣?真剣、うん……ある意味真剣か」

「ならばこのヒナタ=サークリア、従者として出来る限りのことはしたいのです」

(アレな薬を飲んでお嬢様のアレな欲望を満たすんは従者の仕事のうちなんやろか?)

 

「ユズカ様。私に手伝えることは何かありますでしょうか?」

「ヒナタ……!!」

 

 じゃあ後ろ向いてみて。声だけなら従者の忠義に感動している主風だが、実態は発情してお嬢様がしちゃいけない雌の顔してる子が一名居るから―――というのを言わない情けはユズカにもあった。

 その分場の空気のアレさは酷いものだったが。

 

(何なんこれ。ほんと何なんこれ。いつの間にうち、漫談の舞台に立ったんや?)

 

 しかもシュール系。

 

 というかいくらヒナタが身内には少し天然入るとはいえ、聡いこの従者に今まで一度も勘づかれなかったのだろうかお嬢様のこの残念な側面は。まさかとは思うが、多感な思春期に信頼できたのが美しいメイドただ一人という境遇のせいで拗らせきった性癖は、発現しても言動に違和感を生じないレベルで突き抜けたとでもいうのか。

 ユズカの戦慄は極限まで達し―――振り切れる。

 

 

(――――あかん。何おたついとんのや、瀬戸ユズカ。お前がそんなザマで、誰がひゅーくんを護れるんや?)

 

 

………セレンの性癖は確かに衝撃的だが、友人とはいえ所詮は他人事だ。対象であるヒナタも戸惑いはするし嫌がるかも知れないが、主人であるセレンが強く押せば折れるだろう。だがユズカはそれを認められないことは、考えるまでもなく自明であった。

 

 だって。

 

 

(これ、ヒナタ【ひゅーくん】がふたなり薬なんて飲まんでも元から生えとるって知っても、ばっちこいなんやろーなーもう。寧ろ積極的に食いに掛かる?)

 

 

 セレンは友人だが、そんな結末に突き落とすくらいなら取り上げてでも愛する幼馴染は自分で護る。『瀬戸ユズカ』の周辺に彼を置いておくのは、それはそれで故国から嗅ぎ付けられるリスクが高いのでなるべく避けたいが―――その為に女装メイドとして偽名で赤の他人の家に潜伏までさせたのだから―――最悪それも已む無しだ。その決意を固め、ユズカはこの状況から自分に出来ることをするべく動き出す。

 自分と幼馴染の間にのみ通じる符丁をいくつも発しながら。

 

「それじゃあヒナタちゃん。ちょっと例の場所でお話ええか?」

「………?(ゆーちゃん、どうしたの、緊急事態?)」

 

「(―――せや。とびっきりの、緊急事態や)」

「―――――ヒナタ?ユズカも、どうしたの?」

 

 

 かくして、ラブコメのよーなそーでもないよーな残念極まりない駆け引きが始まった。

 嘘も秘密も全てを受け入れるヒロインと言えば聞こえはいいお嬢様と、なんだかんだでこのイカれた話を軟着陸させようと頑張る世話焼きお人好し幼馴染と、事態を微妙にしか把握できない女装メイドを役者にして。繰り広げられるのは空中接触を起こしまくる駆け引きの嵐。

 

 不思議な魔法の織布が飾る、平和な港湾都市の喧騒の一つ―――この時はまだ、それだけの話でしかなかったのだ。

 

 





 続きません。

 はい、今回もごめんなさい(いつも謝ってんなこの作者
 ちなみにヒナタを差す表現で「彼女」や「美少女」など女性であることを示す言葉は一度も使ってなかったりしますが、皆さんどの辺でオチに気づいたでしょうか。


※セレン=バーンツアッシュ
 お嬢様。とはいえ勘当されており生い立ちはあらすじと本文で触れたとおり。既にここまでの人生で従者への親愛値・信頼度ともにカンストしており、バレイベントが起きても険悪になったりすれ違ったりもしないで即ベッドシーンに突入する。そして桃色に爛れた人生を送ることになる。

※ヒナタ=サークリア
 女装潜入男の娘メイド。本名桜庭ヒュウガ。東国の将軍家の三男だが、妾腹の長男と嫡子な次男がギスったあおりで暗殺されそうになったため出奔。追跡を撒くために潜伏する必要があったとはいえ、何故か女装してメイドになるという手段を選択してしまう。兄二人に目を付けられて保身には寧ろマイナスだった文武百般の才は女装とメイド作法にも通じ、お約束のごとく大抵の女よりよっぽど可愛いのだが、完全に若気の至り。
 潜入先で爪弾きにされていたお嬢様に自身の生い立ちを重ねてしまい、完全に情が移って何くれと世話を焼きつつ彼女の成功への道筋をつけた。お嬢様に性別や正体を偽っていることは既に苦悩を超えて覚悟完了済で、生涯嘘を貫き通すつもりだが万が一バレた場合には指でも局部でも首でもお嬢様が望んだ部位を切り落とす所存。なお。
 ちなみに純情で健気な妹がいる。一番大好きな兄様が居なくなった家と国と世界に絶望し周辺諸国全てを戦乱に巻き込んで破滅しようとしている純情さと、ちらりとでも兄様が視界に入った瞬間に年月や女装の壁も超えて正体を看破し、歴史に忌み名を残すレベルの呪術使いの実力をフル稼働して即監禁洗脳エンドに突入する健気さを備えた妹が。

※瀬戸ユズカ
 共犯。似非関西弁和ゴス合法ロリ幼馴染。巨大海運商の娘で、『桜庭ヒュウガ』の元婚約者。「将軍の息子じゃのーなっても、ひゅーくんの許嫁やめたつもりはあらへん」と個人的に援助を惜しまなかった献身的な子。お嬢様の成功も彼女の後ろ盾あってのことだが、そもそも婚約者を女装メイドに仕立てて潜入させる計画を立案・手引きしたのも彼女なので、こいつはこいつで相当アレな業を抱えている気がしないでもない。
 とはいえ愛情深いのも確か。彼女と添い遂げた場合、似た者幼馴染から似た者夫婦になって互いにべったべたに甘やかしあう砂糖漬けの人生が待っている。



 とまあこんな感じで設定したあたりで連載を断念。何故って、バカネタはちょっとでも正気を取り戻した瞬間に続きが書けなくなるのは経験済だから……。たった一つのネタ発言をさせる為だけに張っている伏線や他にも色々練った設定をゴミ箱にシュートする阿呆の所業ともいう。
 「なろうにして十万文字程度のざまぁ・もう遅い」部分を詳細に書くこともできるが、「この一生懸命どん底から這い上がるために頑張るロリお嬢様が、唯一自分に優しくしてくれるメイドと心を少しずつ通わせ、そして将来あの発言をするんだよなぁ」とか思いながら物語が進むことになる。ある意味それはそれでおいしいかもしれない。


◇最後に一応
ハーメルン取扱説明書・必須タグの項より
○R-15
性・暴力・麻薬・いじめ・ホラーなどの描写が含まれる場合。
○R-18
R-15に加え、著しく性的感情を刺激する行動描写、著しく反社会的な行動や行為、麻薬・覚醒剤の使用を賛美するなど極めて刺激の強い表現など、いわゆる「18禁」的要素が含まれる場合。

 上記により、R-15分類としてタグを付けてます。



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